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シスターズアルカディアSideB-Brand new Sisters-  作者: 藤本零二
第2章~Extra Number of Sisters~
22/58

第5話「暗躍する“新人類教”」

*


 5月4日、世間的にはゴールデンウィークという長期休暇の終盤の日にあたる今日、オレ達はアスカさんからの最初の任務ということで、モジ港エリアの海岸沿い、いわゆるレトロ地区として観光地化されているエリアに来ていた。



「うーみーだーーーっ!!」


「ヒナ、海を見てテンション上がるのは分かりますが、

 他の人が見てますから、あまり恥ずかしい行為はしないで下さいね?」



 海を見てテンションが上がるヒナと、そんなヒナをたしなめるユエ。

 今回、オレ達がアスカさんから与えられた任務は一つ。



『せっかくの休日だ、せっかくこの世界に転生してきた君達に、この世界のことをもっと知って欲しい。

 だから残りのゴールデンウィークを君達三人で存分に楽しんできてくれたまえ』



 オレ個人としては、今すぐにでもフォルスの居所を突き止めて、サティス達を助け出したいところだったが、「焦っても仕方がないさ、まずは心にゆとりを持たなくてはね」とアスカさんに言われて、オレ達はゴールデンウィークの残り数日をとりあえず楽しむことにしたのだ。


 それでやって来たのがモジ港エリアなわけだが、理由はテレビのローカル番組を見ていた時に、ヒナが「このバナナの叩き売りってやつ!実際に見てみたい!!」と、そう言ったのでバナナの叩き売り発祥の地であるモジ港エリアにやって来たのである。

 ちなみに、全く関係ないが焼きカレーなんかもモジ港エリア発祥のものである。



「ま、アスカさんから楽しめって言われてるからな、羽目は外しすぎるなよ?」


「はーい!!」



 そんなこんなでモジ港エリアを散策するオレ達三人。

 世界や時代は違うが、この辺りの風景や雰囲気は、オレの知ってる“門司港”地区と何ら代わりはなかった。

 大きく違うのは、ここからでも見える“キュウシュウの壁”くらいか。

 キュウシュウ大陸とその周囲のいくつかの島々と海域を囲うようにそびえ立つ巨大な壁。

 それはかつてヨウ博士が二人の妹を大陸の人間達から守るためだけに一晩で作り上げたという。

 大好きな妹を守るためだけに、大陸の帝国を壊滅させ、こんな非常識な壁まで作り上げたという話は、普通の人からすると突拍子が無さ過ぎて信じ難い話に聞こえるが、アイツのシスコンっぷりを知ってるオレからすればさもありなんと納得してしまえる。

 それは、ユエとヒナにしても同じようで、その話を聞いた時は「さすがはヨウ様、理想の兄うえ様です」「やっぱ兄ちゃはシスコンのスケールが違うな~」とそれぞれの感想を抱いていた。



 とりあえずオレ達は目的もなく(残念ながら今日は肝心のバナナの叩き売りはやっていないらしい)ぶらぶらと海岸沿いを歩くことにした。

 オレからすると百数年ぶり(意識としては死んで数日ぶりという感じなのだが)の世界だが、ヒナやユエからすると約千年ぶりの世界ということらしいので、その世界の変わりぶり(勿論そもそもの“世界”が違うというのもあるが)に驚いていた。



「うはー!!あれが自動車かー!!

 DLダウンロードされた知識としては知ってたけど、本当に少し浮いて走ってるんだねー!!」


「この世界は特に機械技術が発達しているということですが、

 移動は徒歩が基本だった我らからすると、本当にとんでもない進歩です…」


「オレから見てもあの浮いてる車は近未来って感じだもんな…」


「あ!レイ姉ちゃ!!あそこのお店、焼きカレーやってるって!!焼きカレー食べたいっ!!」


「姉上様、どうでしょう?まだお昼には早いですが、あそこで食事をしていきませんか?

 我も焼きカレーというものには興味を惹かれます」


「焼きカレーも門司港、この世界じゃモジ港エリアか、発祥だもんな。

 …というか、今更だけど二人ともオレのこと“姉ちゃ”や“姉上様”って呼ぶの止めないか?

 生まれた時代的には二人の方が圧倒的にオレより先なんだし…」


「えー!?でもレイ姉ちゃはレイ姉ちゃだし!」


「いや、意味が分からん」


「確かに前世としては我らの方が千年近く早く生まれておりますが、

 死亡時の年齢などにはほぼ違いがなく、魂年齢的には我らはほぼ同い年です。

 であれば、クローンとして転生した順が早いレイ様が、我らの姉上様となるのは必然では?

 それに、我も妹だけではなく姉が欲しいのです」


「ユエのは最後のが本音だろ!

 …まぁ、二人がそれ()でいいってなら別に構わないが…」



 そんな話をしながら、オレ達はヒナの見つけた焼きカレーをやっているという店に入り、少し早い昼食をとった。

 焼きカレーそのものは前世の頃に食べたことがあった(“第二次妖魔大戦”が終わって十年くらいしてから出来たんだったかな)が、世界や時代が変わっても変わらぬ味で、なんとなく安心したような心地になった。

 ユエとヒナは初めて食べるその味に舌鼓を打っていた。

 そもそも二人のいた時代にはカレーそのものがなかったのでは?と思ったが、



「確かに“カレー”という食べ物は我らのいた時代にはありませんでしたね」


「だけど、世界各地を旅してた時に、似たような感じの食べ物は食べたことあるよ!

 香辛料がいっぱい入ってて、オイラの口には合わなかったけど!」



 そういや二人は“竜の涙(ドラゴンズクライ)”という宝を求めて世界各地を旅してたんだったか。

 いつかじっくりその辺りの話も聞きたいもんだな…




*


 ちょっと早めの昼食を終えたオレ達は、店を出て再びぶらぶらと港エリアの散策をしていた。

 この辺りはレトロ地区として観光地化されているように、昔ながらの建物がそのまま保全されて観光の目玉となっていたり、実際にまだ使われていたりする。


 その最たるがモジ港駅で、何度か改修されてはいるものの、開業当時の面影を残す駅として、キュウシュウ国は元より、王国側(所謂、オレ達の世界なんかでは“本州”と呼ばれている部分だな)からも観光客が訪れるという。

 ちなみに、この世界のモジ港駅は王国と唯一繋がっている関所としての役割も果たしており、海底トンネル経由で入ってきた王国の人達は一旦ここで入国審査を受けて、キュウシュウ国入りが認められる形になっている(所謂、空港みたいなもんだな)。

 なので、この世界のモジ港駅はオレの知る門司港駅とは少し違い、地下と地上にそれぞれ改札があり、王国側から海底トンネルを通って来た電車は地下の改札で止まり、降車した人々は入国ゲートで審査を受けた後に地上へ上がって来る、という感じになっているらしい。



 そんなモジ港駅を遠目に眺めていると、ユエが右手を右耳に当てて、何かを聞き取ろうとする仕草をしてみせた。



「ん?何か気になる音でも聞こえたのか?」


「…ええ、何やら駅構内が少し騒がしいようでしたので“聴力強化”を使用したところ、爆弾がどうの、と」



 ユエのサイボーグとしての能力として、“視覚強化”と“聴力強化”、そして“危険感知”がある。

 “危険感知”は、意識していなくとも周囲10メートル程度で起こりうる危険を感知し、それに合わせて自動で“視覚強化”や“聴力強化”が発動するようになっている。

 言わば第六感的なものだ。


 今回の場合、ユエはモジ港駅構内で、何者かが爆弾を用いて何かをしようとしているのを感知したことで“聴力強化”が発動した、という流れだ。



「ばっ、爆弾って、まさか!?冗談で言ってるとかじゃなくて!?」


「…ええ、今はその男が駅員に取り押さえられているところみたいだけれど……、あ、駅員を押し退けて人の集まってる駅前広場に向かってきてますっ!」



 すると、にわかに駅前広場が騒がしくなってきた。

 どうやら、騒ぎに気付いた人達が我先にと逃げ出してきているようだ。



「さすがに黙って見過ごすわけにはいかないな、ユエとヒナは万が一の時に周りの人達を頼む、オレがちょっと行って、その爆弾野郎を取っ捕まえてくる」


「りょーかい!」


「お気を付けて、姉上様」



 ちょうどそのタイミングで、爆弾野郎と思しき男が駅構内から広場に現れたのが見えた。

 その手に握られたライターと、薄手のコート(5月のこの時期に着るにしてはちょっと暑苦しそうだ)の下から爆弾らしき物体がチラリと見えたので、ほぼ間違いないだろう。


 オレは『テレポート』を使い、一瞬でその男の背後に回り込むと、その男が何かを叫びかけた直前でそのうなじ付近、より正確にはぼんくぼへ手刀を叩き込んだ。



「“新人類教”ばんざっ…、がっ…!?」



 男は一瞬呼吸困難に陥り、そのまま前のめりに倒れ込み、そのまま白目を向いて気絶した。

 ふむ、少しやり過ぎたかな…?



「さすがは姉上様」


「レイ姉ちゃカッコいい!!」



 そこへユエとヒナがやって来た。

 二人とほぼ同時に駅員もやって来たので、状況を説明し、警察を呼んでもらった。

 オレ達も犯人を気絶させた立場として警察に事情説明せねばならないらしく、その場に残ってしばらく待っていると、パトカー数台と一緒に見たことのある車がやって来るのが見えた。



「あれ?あの車は…、」


「アスカさんの使用されている車、ですね」



 その車から降りてきたアスカさんと目が合うと、アスカさんは真っ直ぐにこちらへと向かってきた。



「いやはや、まさか現場を抑えたのが君達だとはね」


「それより、何故アスカさんが現場に?」


「自爆テロ未遂事件ということだったんでね、念のため“レジスタス”との関わりがないかなんかの調査をしに来たんだ」



 アスカさんは『相手の嘘を見抜く』という超能力を持っている。

 だからこういった事件捜査に適した人物といえる。


 それにアスカさんは表向きにも裏向きにも、このキュウシュウ国を守る立場の人間だ。

 故に、“レジスタス”といった反国主義者達の活動を取り締まり、殲滅する権限を与えられている。


 今回の犯人は、自らを“新人類教”と名乗っているが、裏に“レジスタス”が関わっていないとも限らない。

 特に国の玄関口であるモジ港駅で起こった事件ともなれば、国防上慎重にならざるを得ず、アスカさんが動くのもやむ無しというところだろう。



 結論から言うと、今回自爆テロ未遂を起こした男は“レジスタス”とは何ら関係はなく、“新人類教”の人間であることが判明した。

 男は、“ポーション”という大陸由来の植物から作られた麻薬を飲み、多くの人間の命を巻き込んで自殺することで、その魂に眠る超能力が覚醒し、覚醒した魂を教祖様によって別の肉体に転生させてもらうことで超能力者として生まれ変われる、と教えられたらしい。

 

 俄には信じ難い話だが、男は間違いなく(自分が真実だと思っている)真実を語っていることがアスカさんによって証明されている。

 男が騙されているのでない限りは、かつて世間を騒がせた“新人類教”が再び活動を再開したということになる。



「しかし、謎な部分も多い。

 本当にあの“新人類教”が活動を再開したのか、“ポーション”とは何なのか、

 それが大陸由来の麻薬ということだが、彼らはどのようにして密輸しているのか?」



 アスカさんの疑問の答えが分かるのは、それから数日後のこととなる。




*


 その後数日、オレ達は特にすることもなかったため、目的の一つであった“タキオン粒子”を入手して(材料となる“黒い岩”はクルセイド第2研究所(仮)の裏にある山の中で見つけた)ユエとヒナの体内に注射し、“加速装置”起動用のバングルを装着して二人が“加速装置”を使用できるようにしたり、クルセイド第2研究所(仮)の地上部分となっている居住区をリフォームする計画を立てたりして過ごした(完成予想図を書くだけで、実際には行動に移していない)。


 その間、アスカさんは独自ルートを使って、“新人類教”や“ポーション”に関わる情報を集めていた。

 オレ達もアスカさんを手伝えることはないかと聞いたのだが、「こういうのは適材適所だからね、君達にはいざという時のために力を温存しておいてくれたまえ」とそう言われてしまった。


 とは言え、この世界にコネなど何もないオレ達に情報の調査などは確かに出来そうにないので、アスカさんの言う通り、その時が来るまで待つことにした。



 その間に再び“新人類教”によるテロ未遂事件が起こった。

 コクラの市街地にあるカラオケ店で起こった事件で、オレ達クローン姉妹の弟(製造順では先だが、肉体年齢や精神年齢的には年下なので“弟”と呼ぶ)であるゼッツ(サイボーグNo.6)こと、ムツキもその現場にいたらしい。


 そのことをオレ達に話してくれたアスカさんは、



「どうにも君達家族(きょうだい)は厄介事に巻き込まれる運命にあるようだね」



 と冗談めかして言っていたが、今になって(“新人類教”の新教祖がフォルスだと分かって)考えてみると、オレ達が事件に巻き込まれたのは必然だったとも言えるのかもしれない。




*


 カラオケ店でのテロ未遂事件があった週の週末、つまりは5月10日の金曜日、再びアスカさんがクルセイド第2研究所(仮)を訪れた。



「“ポーション”の出所が分かったかもしれない」



 単刀直入にそう切り出したアスカさん。



「それは、大陸からの密輸ルートが分かった、ということですか?」



 改めて説明するが、この世界における九州は、キュウシュウ国として完全に独立した一つの国となっており、その周囲の海域を含めたキュウシュウ国全体を囲むように“キュウシュウの壁”という巨大な壁がそびえ立っている。

 この“キュウシュウの壁”は防衛機能も備えており、予め認可された人や飛行機や船、潜水艇などがその壁に近づくことを許されておらず、無許可でその壁に近付くものがあれば、容赦なく攻撃が加えられ、捕縛されるという仕組みになっているため、密入国はもちろん密出国も理論上不可能となっている。


 キュウシュウ国に入るには、一般の旅行客は電車を使って海底トンネル経由で、あとは貿易用に認可された飛行機や船などが定められた経路から入ってくるのみ、となっている。

 当然、その飛行機や船も国内に入る、出る際には厳しく人員や荷物の確認がされるため、予め届け出られたもの以外の人や物は入国出来ないし、出国も出来ないよう厳しくチェックがされている。



 だが、例えばオレのような超能力者、『テレポート』を使える者であれば、“キュウシュウの壁”に関係なく国内外を移動出来てしまうため、もしそういうルートでの密輸入なのであれば、防ぎようがないということになるが…



「確かにそういった手段で国内外に行き来されていればどうしようもないが、

 “新人類教”の使用している“ポーション”、その元となる植物は国内で生産されている可能性がある」


「国内で…!?」


「ああ。

 というのも、“新人類教”の最初の教祖であるジョウゴ氏は、元々大陸出身者だったらしい」


「ジョウゴが大陸出身者…!」


「ああ。

 大陸出身者であるジョウゴ氏と、大陸由来の麻薬である“ポーション”、そして“新人類教”。

 この三つの状況証拠から、“新人類教”の者達が使っている“ポーション”は、かつてジョウゴ氏が国内に持ち込んだものが秘かに何処かで栽培されているのではないかと考え、

 その線で様々な情報網を辿ってみると、かつてジョウゴ氏の所有していた土地の八割を所有している組織、“ハットリ組”が浮上してきた」


「“ハットリ組”?」


「ああ、“ハットリ組”は簡単に言うとヤクザ組だ」


「じゃあ、アスカさんはその“ハットリ組”が“ポーション”の元となる大陸由来の薬草を栽培していて、

 それを“新人類教”に横流ししていると考えているわけですね?」


「そこに関してはまだ推測の域を出ないがな、しかし“ハットリ組”を捜査してみる価値はある。

 奴らは過去に市民を巻き込んだ抗争を起こしたこともあり、我々にとっても目の上のたんこぶな存在だ、

 この機に乗じて組織ごと潰してしまうのも手かもしれないな」



 アスカさんがこれまでに見せたこともない腹黒い顔をしている。



「そこで、君達に新たな任務を与えたいのだが、いいかな?」



 というわけで、オレ達に課せられた新たな任務は、“ポーション”の出所を突き止めるべく“ハットリ組”に潜入し、あわよくば“ハットリ組”を潰してこい、というものだった。

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