第3話「名前」
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「…それで、気付いたらオレ達は廃墟となった竜眼島の研究所に『テレポート』していた、というわけだ」
ボク達が兄さま達に助けられた後で、レイちゃん達に何があったのかを大体知ることが出来た。
でも、まだ色々と知らなきゃいけないことがある。
「えっと、今の話だと、レイちゃん達が『テレポート』で脱出した後に、
フォルスちゃんがサティスちゃんとフォティスちゃんを起動させた、ということなのかな?」
「ああ、恐らくはそうだろうな。
あの二人、それにゼクスティーナを助けられなかったのは正直悔しかったが、
あの時のオレ達は満身創痍で、どうしようもなかったからな…」
レイちゃんが唇を噛み締めながら悔しがる。
「それはレイちゃんが悪いわけじゃないよ…
それより、そのゼクスティーナちゃんのことなんだけど、話には出てきてなかったみたいなんだけど?」
「ゼクスティーナはまだ未完成の状態だったから、カプセル室ではなく、データ室を挟んでカプセル室の向かい側、実験室の中の培養カプセルの中にいたんだ」
「なるほどね」
「ただ、これまではそこまで深く考えてこなかったことなんだが、ゼクスティーナにしてもサティスとフォティスにしても、そしてここにいるオレとユエとヒナにしても、魂無きアンドロイド型サイボーグだったハズなんだ。
それが、立て続けに魂が宿って普通のサイボーグとして覚醒したという点が、どうにも腑に落ちない…」
「それは…、」
確かに偶然にしては出来すぎてる気もする。
ボクやマイカ姉さま達は、運良く覚醒と同時に魂が宿った、クローン生命体としては所謂成功個体と言える(ただ、マイカ姉さまを除いて、生命活動を維持し続けるには“バイオヴァリアブルメタル”を用いた人工臓器などを埋め込んでサイボーグ化する必要があったが)。
しかしそれ以外のクローン個体は、魂が宿ることがなく、その身体を動かすのに、AIチップによる擬似人格を与えて機械的に動かすしかなかったアンドロイド型サイボーグとして、強引に起動させられた。
ナナカ姉さまはまさにその状態だ。
そんなアンドロイド型サイボーグの中で、フォルスちゃんはシロック氏より電気ショックなどの所謂SMプレイ的な被虐趣味によって、偶然心臓が蘇生し、そこに魂が宿ったという。
魂が宿ったから心臓が蘇生したのかもしれないが、その辺りのニワトリが先かタマゴが先かのような話は今は置いておく。
そして、レイちゃんは“ゼロ”としての意識と記憶を持ったアンドロイド型サイボーグとして覚醒したが、フォルスちゃんに攻撃されたショックによるものなのか、心臓が蘇生して“ツキヨ”ちゃんの魂が転生した。
何かしらのショックが引き金となって魂が転生してる…?
「ミライ姉上様の推測が正しいのなら、
我とヒナもまた、フォルスに傷付けられ、瀕死の重体…、という表現が魂無き肉体に対して適切な表現かどうかは分かりませんが、ともかくそういう状態になったことで前世の魂が宿った、ということでしょうか?」
「オレや二人に関してはそれで正しいのかもしれないが、
だとして、サティスやフォティス、それにゼクスティーナに宿った魂はどう説明する?
まぁ、フォルスが何かしら彼女らに刺激を与えたという可能性もあるが、
それで運良くオレ達の前世に関係する魂が、ピンポイントで三人に宿るものなのか?」
「それに、カリナ姉ちゃは間違いなく前世の魂があるハズなのに、オイラ達のことを忘れてた…」
そう、そのことも不可解だった。
フォティスちゃんの身体は、前世の魂によって“バイオヴァリアブルメタル”が変化を起こして前世の姿である魔人と“鬼人”のハーフの姿になっていた。
なのに、その前世の記憶が無いということはあり得るのか?
「誰かが…、意図的にサティス達に、レイやユエ達に近しい魂を、定着させた…?」
モモコちゃんがそんなことを言った。
「意図的にってそんなこと、」
「ううん、モモコちゃんの言う通りかもしれない」
マイカ姉さまが続けた。
「そう考えれば、今日の事件、ムツミちゃん達が誘拐された事件の犯人のことも説明がつく」
「なるほど、カラオケ店での事件の後、自殺した男の魂を何らかの方法で別の身体に定着させたように、
イザヨイさん達の魂を何らかの方法でクローンの身体に転生、定着させたというわけですね」
ナナカ姉さまが説明を補足してくれた。
それに対してメイコちゃんが疑問を呈した。
「でも、そんなこと出来るやつなんているの?」
「それに関しては、一人だけ心当りがあるな」
「アスカさん、それは誰なんですか?」
ボクは心当りがあると言ったアスカさんに尋ねた。
「“新人類教”の開祖であるジョウゴ氏だよ」
“新人類教”の開祖、ジョウゴ…!
彼は、かつて“魂転生論”を唱え、死者の魂を転生させ続けることで超能力者を生み出し、最強の軍事兵士集団を作り上げて国力の増強を提案したが、ヨウ博士の死者を出さないやり方である“バイオヴァリアブルメタル”によるクローンサイボーグ技術に負け、表舞台から消された科学者だ。
その後、“新人類教”を作り上げ、自らの手で生み出した超能力者集団を率いてクーデターを起こしたが、それも鎮圧され、ジョウゴ氏は殺された、という風に歴史では語られているのだが…
「実際にはジョウゴ氏は殺されていない」
「え、そうなんですか!?」
「ああ。というのも、彼は殺してしまえばその魂を別の人間に転生させることが可能なため、殺してはいけない存在だったんだ」
「じゃあ…、ジョウゴ氏は今も生きてる…?」
「ああ、生きたままとある施設にて氷付けにして封印してある、ハズなんだがな…」
「アスカさん、今その封印を確かめられますか?」
「ああ、確認してみよう。
ただ、私ですら彼が何処に封印されているのか分からないため、いくつもの段階を踏んでの確認となるため、多少時間がかかるから、それまでは他の話でもしていてくれ」
そう言ってアスカさんが席を立ち、何処かに連絡をし始めた。
ジョウゴ氏のことが分かるまでしばらく時間がかかるだろう。
その間に、ボク達はレイちゃんに続きの話を促した。
「それじゃあ、今の内にさっきの続きの話聞いてもいいかな?
レイちゃん達が竜眼島の研究所に『テレポート』した後の話」
「ん?ああ、と言っても、その後はアスカさんに出会うくらいで大した話は、」
「ええ、せいぜい我とヒナと姉上様の三人であんなことやこんなことをしたくらいです」
「あんなことやこんなこと!?」
「ちょっ、ユエ、お前何をっ、」
「レイ姉ちゃはおっぱいだけじゃなくて、アソコも凄く反応が良くて、あの夜だけで何回も、」
「ヒナッ!!」
レイちゃんが顔を真っ赤にしながらヒナちゃんの口を押さえた。
うーむ、何があったのかとても気になるが、その辺りの姉妹の“営み”についてはスルーしてあげた方がいいかな。
「えっと…、そ、そうだ!
三人ともかなり怪我してたんだよね、その辺は大丈夫だったの!?」
「え?あ、ああ、そうだな、オレはともかく、二人は本当に出血が酷かったからな、
なんとか手当てしてやりたかったんだが、研究所は何もかもが吹っ飛んでたから、どうしようもなくてな」
「それを言うなら姉上様の方が重傷だったではないですか!」
「そうだよー!オイラ達はそもそも自己修復機能に加えて魔人や“鬼人”としての再生力も加わってたから、すぐに回復出来たけど、レイ姉ちゃは生身の人間のままだったから…!」
「二人は大袈裟なんだよ。
人間、片目失ったくらいじゃ死なないっての…
それにすぐ回復したって言うけど、『テレポート』してからすぐ二人とも気を失うし、オレはもう心配で心配で仕方がなかったんだぞ」
「ええ、そうでしたね…
ですが、その間我らの体温が下がらぬよう、ずっと一肌で我らを温め続けてくれていたおかげで、我らは通常よりも早く傷が回復し、姉上様の目の手当てをすることが出来ました」
「改めて、ありがとね!レイ姉ちゃ!」
「べ、別に…、妹たちを助けるのは、姉として当然だからな…」
そう言って照れて顔を真っ赤にするレイちゃんがメチャクチャ可愛いかった。
ユエちゃんとヒナちゃんの話によれば、二人が動けるようになると、まだ安静にしているように言うレイちゃんを振り切って、二人で島中を探して薬草となるものと眼帯の代わりになるような葉を見つけてレイちゃんの目の手当てをしたそうだ。
それから、夜が明けるまで三人で温めあいながら(三人とも裸のままだったからね)、研究所の隅で体力の回復を待っていたという。
「その時に、いつまでも二人を番号で呼ぶのは悪いなと思ったから名前を付けたんだ」
「我は前世の名前でも良かったのですが、せっかく姉上様が付けてくださるというのでお言葉に甘えさせていただきました」
「と言っても、トゥエニ→トゥエ→ウエ→ユエ、フィフティーナ→フィーナ→ヒナ、てな感じで番号を少し変えただけの名前なんだけどな。
嫌だったら別の名前を考えるとは言ったんだけど…、」
「オイラはヒナって名前気に入ったよ!
すっごくカワイイ名前だもん!!」
「我もユエという名前はとても良い名前だと思っています」
「まあ、気に入ってくれたならいいけどな」
「なるほどね、ちなみに三人とも漢字表記は考えてるの?」
マイカ姉さまの質問に、三人は頭に疑問符を浮かべていた。
それでボク達は、三人に兄さまの世界での名前は漢字(ボクの前世の世界ではフラウ文字と呼ばれており、ユエちゃん達のいた“ワールドブラディ”では日本文字と呼ばれていたようだが、レイちゃんの前世の“ワールドアイラン”ではそのまま漢字と呼ばれていたみたい)で表すということを説明した。
そして、ボク達姉妹の名前の漢字には“陽(日)”か“月”の字が入っているということも。
「へー、そんな事になってたのか」
「ちなみに、皆さんはどのように書くのですか?」
「私は舞香」
「菜々香です」
「ボクが心望で、」
「望心…」
「んで、わたしが明子だよ!」
「ちなみに、ムツキ君は睦月って書くの」
「じゃあ、じゃあ、オイラの名前はヒナだから、“日奈”って感じかな?」
「では我の名前は…?」
「ユエちゃんか~…」
こういう時、カズヒちゃんだったらすんなりと漢字を当てられるんだろうけど、“陽(日)”か“月”かを使わなきゃいけないとなると意外と思いつかないものだな…
ボク達が頭を悩ませていたら、メイコちゃんが何かを思い出したという風に手をポンと叩いた。
「あ、そう言えば!」
「何、メイコちゃん、何か思い付いたの?」
「うん、えっとね、確か麻雀の役に“ハイテイラオユエ”っていうのがあるんだけど、
それを漢字で書くと、“海底撈月”になるんだよね」
「それが何か…、あ、そういうことか!」
「なるほど、大陸側では月を“ユエ”と読むんだったわね」
「そうそう!」
なるほど、それは盲点だったな。
というかメイコちゃん、何で麻雀の役なんか知ってるの…?
「前世でよくアニ君達とやってたから」
「ま、まぁ、子供が麻雀しちゃいけないなんて決まりはないしね…
お金賭けたりしなければ、ただの遊戯だしね」
「それはともかく、ユエちゃんの名前だけど、“月恵”でどうかしら?」
「月恵…、はい、我はこれでいいと思います。
マイカ姉上様、メイコちゃん、ありがとうございます」
さて、後はレイちゃんだけど、
「オレは“零”でいいよ」
「え、でもそれだと“陽(日)”も“月”も入ってないし、それに零って、ゼロってことでしょ?」
「まぁ、ゼロのことを思い出すかもしれないけど、
ヨウイチを漢字で書くと陽一、なんだろ?
だからまぁ、一と零で、その…、」
「隣同士の数字で、並んでいるから…?」
「ああ、まぁ、そんな感じ、かな…」
そう言うレイちゃんの顔は少し赤くなっていた。
要するに、兄さまと並び立つ存在、隣同士の関係になりたい、みたいなことなのかな?
だったらいっそ、
「だったら…、いっそ“零陽”って名前にしたら、どう…?」
あ、ボクが考えてたのと同じ事をモモコちゃんに言われた。
「れ、零陽…!?」
「うん…、陽一と零陽、いい感じだと思うけど…」
「あ、ああ、そう…、だな!
うん、せっかくモモコに考えてもらった名前だしな、うん、それを否定するわけにはいかないよな!」
「レイ姉ちゃ、めちゃくちゃ嬉しそう!」
「姉上様、素直に嬉しいと言ってはどうですか?」
「う、うるせぇ…!」
というわけで、レイちゃん改めレイヤちゃんの漢字表記も決まったところで、アスカさんが帰って来た。
「やぁ、待たせたね」
「いえ。それより、ジョウゴ氏はどうだったんですか?」
「ああ、結論から言って、ジョウゴ氏の封印自体は続いているそうだ」
「じゃあ、」
「…ただし」
そこでアスカさんが一呼吸おいて続けた。
「つい最近、ほんの数秒だけ施設が停電したことがあったそうだ」
「施設の停電?」
「ああ。
ジョウゴ氏はきちんと温度管理された冷凍保存カプセルの中で封印されている。
わずかでも温度が上下したら中の人間が死んでしまうおそれがある、かなりデリケートな封印なわけだ。
…賢明な君達なら、ここまで説明すれば分かるだろう?」
「まさか、その停電した間にジョウゴ氏を封印していた氷の温度が上がって、中のジョウゴ氏の肉体が死を迎えた…?」
ジョウゴ氏はその死をもって別の肉体に転生するという超能力者だ。
であれば、今封印されているジョウゴ氏はすでにもぬけの殻である可能性がある。
「それは分からん。確認しようにも、冷凍保存を解除するわけにもいかないからな…
ただ一つ言えるのは、その停電があった日はレイ君、ああ、今はもうレイヤ君だったか?
レイヤ君達とフォルス達が戦った日、ということらしい。
そしてその日以降、“新人類教”による活動が活発化し始めている…」
フォルスちゃん達の背後にジョウゴ氏の存在がある…?
また厄介な問題が一つ追加されてしまったようだ。
と、そう言えばまだ肝心なことを聞けていないことを思い出す。
同じ事を思ったのか、マイカ姉さまが口を開いた。
「とりあえず、ジョウゴ氏の件は今は置いておきましょう。
それよりも、レイヤちゃん達がどうやってアスカちゃんと知り合ったのか、
それに何故今まで私達に黙って活動していたのか、その辺を聞いてもいいかしら?」
「ん?ああ、そうだな…、」
「その話ももちろんだが、今日はもう遅い。
続きは明日にでもしないかい?」
アスカさんの一言で、ボク達は今がもう深夜に差し掛かろうかという時間帯であることに気付いた。
結局、その日はアスカさんの言う通りにこれでお開きとなり、ボク達はこのクルセイド第2研究所(仮)の地下2階の空いている部屋を借りて眠ることにした。




