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シスターズアルカディアSideB-Brand new Sisters-  作者: 藤本零二
第2章~Extra Number of Sisters~
19/58

第2話「レイブンとフォルス」

*


 ヨウイチによってゼロが倒され、竜眼島りゅうがんじまにあったゼロの研究所は自爆した。



 だが、ゼロの記憶は消えたわけではなかった。

 ゼロは万が一の時のためにと、関門海峡の海底に秘密研究所を作っていた。

 そこには、魂無きクローンサイボーグ、番外個体姉妹エキストラナンバークローン達の肉体が保管されていた。


 その中の一体、クローンNo.11、レイブンの肉体だけは特別だった。

 それはクローンNo.1、アインス(マイカ)と同様に“バイオヴァリアブルメタル”等による改造を一切施していない純粋なクローンとして完成した個体であるという点。

 ただ、アインスが完全なクローン人間としての成功例であるのに対し、レイブンは魂が定着しなかったという点だけが不完全であった。


 だが、だからこそゼロはレイブンを気に入った。

 ゼロは当初、その美しき不完全体をアインスと同じように鑑賞品として研究所に展示することも考えたが、それよりも有用な利用方法として、自身の第2の肉体として使用することを決めた。

 即ち、その脳に自身の知識と記憶をダウンロードしておき、自身の身に何かあった時、新たにレイブンとして復活出来るようにしておいたのだ。


 そのために他のクローン個体などを利用して様々な実験を繰り返した。

 魂が無くとも心臓を動かし、活動出来る方法を見つける方法を。

 脳にAIチップを埋め込むことで、アンドロイドとして身体を動かす方法だと、せっかくの未改造という美しい肉体を汚してしまうことになる。

 そこで、外付けのデバイスから電気信号を定期的に心臓に送り込み、心臓を動かす方法を完成させた。

 そのデバイスをチョーカー型にまで小型化し、レイブンの首に取り付けた。

 その後、レイブンの肉体を特殊なカプセルに保存した。

 ゼロが死に、竜眼島りゅうがんじまの研究所が自爆すると、そのカプセルに信号が送られ、チョーカー型デバイスが起動すると、レイブンの心臓が鼓動を始め、ゼロは魂無き肉体として復活する手筈となっていた。



 だが、ゼロにとって不測の事態が三つ起きていた。


 一つは、レイブンの起動が遅れてしまったこと。

 予定では研究所の自爆直後、数分後に目覚める計算であったが、何かしらの不具合で自爆後の信号伝達が遅れ、目覚めるのに数時間かかってしまった。


 二つ目は、ゼロに資金援助を行っていたシロック氏がヨウイチ達からの追及を逃れて、レイブンが目覚めるのとほぼ同時刻に海底研究所に向かっていたこと。


 そしてもう一つは、フォルスの肉体に魂が宿っていて、ゼロやシロック氏の意思とは無関係に動き始めていたことだった。




*


 海底研究所は、まず入口から入ってすぐにデータ室がある。

 入口を背にして右手側に実験室があり、左手側にレイブン達の肉体が保存されたカプセル室が3つある。

 奥からA室にレイブン、B室にトゥエニとフィフティーナ、そして入口側に近いC室にサティスとフォティスの肉体が眠っていた。



 竜眼島りゅうがんじまの研究所が自爆して数時間後、海底研究所の一番奥のA室で、“レイブン”は目覚めた。

 カプセルの中から出てきた“レイブン”は、一糸纏わぬ姿だった。



「…やれやれ、まさかオリジナル(ヨウイチ)られるとはね」



 肉体は魂無き“レイブン”だが、中に入っている意識と記憶はゼロのものだ。



「ふむ、どうやら無事に“レイブン”の身体に転送出来たようだな」



 そう言いながら自身レイブンの身体の感触を確かめるゼロ。



「ふふ、それにしてもやはりこの身体は美しいな…」



 自身レイブンの身体に陶酔するゼロ。



「おっと、いつまでもこの身体を鑑賞しているわけにはいかないな。

 他のクローン達も起こすとするか」



 ゼロは自らの兵器として、トゥエニ以降のクローン姉妹達を準備していた。

 トゥエニ以降の肉体は人工心臓と脳に埋め込まれたAIチップで動くアンドロイド型サイボーグとして改造されており、マイカ達と同様にボンテージ衣装と首輪が着せられていた。


 A室を出たゼロは、まず隣のB室に向かった。

 B室にはトゥエニとフィフティーナが眠っている。

 大事なところが完全に見えてしまっているボンテージ衣装以外は何も着せられていない、ほぼ裸同然の姿で、二人はカプセルの中に入っている。

 ゼロが二人を起動させるべくカプセル横の機械を操作していた時、室内に「ビーッ!ビーッ!」という警報が鳴り響いた。



「…ん?侵入者?

 いや、この音は正規の手順で入ってきた者があったことを示す警報…

 となるとシロックの奴か。

 大方竜眼島(りゅうがんじま)基地の自爆を知って逃げてきたのだろうな」



 面倒だとは思いつつ、一応“協力者”としての立場にあるシロック氏を無下には出来ないと、ゼロは二人が完全に目覚める前に一度B室を出て、データ室へと向かった。


 ゼロがデータ室に入る直前、データ室の中から「ダダダダダッ!」という銃声が聞こえてきた。



「何っ!?」



 ゼロがデータ室に入ると、そこには予想だにしていなかった光景が広がっていた。

 胸から血を吹き出しながら倒れていくシロック元国防長官と、そのシロック氏に右手の五本の指を向けて立つボンテージ衣装の少女。

 その五本の指からは硝煙が立ち上っていたことから、シロック氏は彼女の“フィンガーミサイル”によって胸を撃ち抜かれたのだろうと思われた。

 シロック氏を撃ち殺した少女は不敵な笑顔を浮かべながら、データ室に入ってきたばかりのゼロに視線を送り、口を開いた。



「やぁ、久し振り、と言えばいいのかな、ゼロ、いや、今は“レイブン”と呼ぶべきかな?」


「貴様…っ、フォルス!?」



 その少女の名はクローンサイボーグNo.4、フォルス。

 全身武器に改造された“死神”の異名を持つ、本来は魂を持たないアンドロイド型サイボーグ兵器、のハズだった…




*

 

「フォルス、何故お前がシロックを…!?

 いや、それよりも何故お前に魂があるんだ!?」



 フォルスは魂無きアンドロイド型サイボーグ兵器として、ゼロがシロック氏に提供した個体だった。

 その時と明らかな外見的な違いとして、彼女の頭からは魔人の角とお尻からは何故か先端が千切れたようになっている魔人の尻尾が生えていた。

 その事実が、彼女の中に魂が宿り、その魂が“バイオヴァリアブルメタル”に影響を与えて、魔人の角と尻尾が生えたのだと告げていた。



「シロックの悪趣味とストレス発散のために、この身体は色々とイジメられててね、

 ある日、長時間の電流拷問を受けていた時、この“フォルス”の身体の心臓が自発的に動き始め、それでアタイの魂が転生出来たのさ。

 それから、アタイは魂が宿ったことを隠すために、ずっと角と尻尾を隠し続け、奴に従ってるフリをし続けていたのさ」


「何のために?」


「アンタと同じさ、ゼロ。

 アタイの目的は、アタイの手でサウ、今はヨウイチと名乗ってるあの男を殺すことさ」


「なるほど、さしずめ、君は前世で余程(ヨウイチ)のことを憎んでいたと見えるな。

 ヨウイチへの強い愛故に転生してきた他の姉妹達と違い、

 君はヨウイチへの強い憎悪故に転生してきた、といったところか」


「ま、そういうことになるのかね?

 理由はどうあれ、ヨウイチを殺すためにシロックに従ったフリをし続けたアタイは、ようやくこの海底研究所に来ることが出来た。

 後は、用無しとなったシロックを始末して、アタイの手駒となるクローン姉妹達を目覚めさせる。

 それから…、」



 フォルスは右手の“フィンガーミサイル”をゼロに向けた。




「ゼロ、あんたの存在も邪魔だから消させてもらうよ」


「まぁ、待て。

 俺達の目的は一致しているハズだ。

 であれば、俺の知識は有用だと思うが?

 俺の知識と、フォルスの兵器としての能力、これが合わされば向かうところ敵無しだと思うが?」


「白々しいことを…!

 あんたが存在していたら、アタイ達はこの首輪とボンテージ服のせいで自由に動けねぇだろが!」



 フォルス達クローン姉妹達に着せられている首輪とボンテージ衣装は、絶対に外すことの出来ない錠前でロックされており、ゼロの持つスイッチで首輪から電流が流れ、ゼロには逆らえないようになっている。


 だが今、ゼロは目覚めたばかりで一糸纏わぬ姿を晒しており、手元には電流を流すためのスイッチも持っていない。

 フォルスにとって、今が目の上のたんこぶであるゼロを始末する唯一のチャンスであった。



「ちっ…!」



 ゼロにとって不運だったのは、何の武装もせずにフォルスの前に立ってしまったこと。

 フォルスに魂が宿っていて、ゼロに反旗を翻すことになるとは、さすがのゼロでも予測出来なかった。



 ゼロは背後のカプセル室に逃げ込もうとしたが、それより早くフォルスの“フィンガーミサイル”が火を吹き、ゼロの右目と心臓を電気的に動かすためのチョーカー型デバイスを吹き飛ばした。



「ぐっ…ぁあ゛ああああああ゛っ!?!?」



 ゼロは右目を抑えながら床に倒れ混み、そのまま意識を失った。




*


―――ドクンッ!!



「………、()()、は…?」



 彼女、“レイブン”の意識は混濁していた。

 ()()としての知識と記憶が走馬灯のように流れていく中、明らかに()()以外の別人の知識と記憶が混じっていく。



―――へへ、やっぱお前は俺の最高の相棒だぜ



 そこに見知った顔の少年の記憶が見えた。



「ヨウイチ、俺のオリジナルであり、のお気に入り(クローン姉妹)達を奪い、そして俺を殺した、俺が憎むべき相手…

 俺がお前の最高の相棒、だと…?一体何の冗談を…、」



―――ドクンッ!!



 再び“レイブン”の心臓が強く鼓動した。



「…いや、違う、()()は、アイツのことを憎んでなんかない…、

 むしろ()()は、アイツに……、」



―――お前が俺の妹だったら確実に惚れてるところだったぜ



―――な、何をバカなことを!?


―――第一オレは()だっ!!



―――はは、冗談だよ、()()()



「…違うっ!!()()は本当は()で、本名は()()()っ!!

 オレは、本気でアンタのことを……っ!!」



 そこでレイブンの意識が完全に覚醒した。



「…ッ!?お、オレは……?

 痛ッ…!?」



 覚醒と同時に、フォルスに潰された右目の痛みを思い出し、右目を右手で抑えた。

 レイブンは痛みに堪えながら必死に思考を巡らせた。



「オレは、今まで何をしていた…?

 オレは…、一体誰だ…!?」



 レイブンは左手で自身の左胸に手を当てた。

 前世の時は胸がほぼなく、口調も男勝りだったせいで男と勘違いされてしまったその胸は、今は間違いなく女性のものだとハッキリに分かる程大きくなっている。



「…いや、そうじゃなく!

 首のチョーカーが破壊されても心臓が動いている…

 となると、やはりこの身体に魂が宿り、()()が転生してきた、ということなんだろうな」



 心臓の鼓動を確かめるまでもなく、ゼロ以外の記憶、()()()だった頃の前世が思い出せる以上、今の彼女レイブンは間違いなく転生者であろう。


 今のレイブンには、ゼロの知識と記憶に加えて、前世の知識と記憶がある状態だ。

 落ち着いてそこまで自身の今の状況を整理したところで、つい先程の事件のことを思い出す。



「…そうだ、オレはフォルスに攻撃されて……、そういやフォルスは何処、に…、」



 そこまで思い出したところで、レイブンは背後を振り返る。

 カプセル室へと向かう扉が開いており、そこには覚醒途中のトゥエニとフィフティーナ、そして未だ眠り続けるサティスとフォティスがいて…、



「マズいっ!彼女達を助けなきゃっ!!」



 レイブンは右目の痛みに耐えながら立ち上がり、カプセル室へと向かうのだった。




*


 ゼロとフォルスがデータ室で対峙している頃、カプセル室のB室で、アンドロイド型サイボーグであるトゥエニとフィフティーナが起動を開始していた。



「…サイボーグNo.12、トゥエニ、起動開始しました」


「…サイボーグNo.15、フィフティーナ、起動開始しました」



 ボンテージ衣装のみを纏ったトゥエニとフィフティーナがカプセルの中から起き上がった。

 目覚めた二人は周囲を見回し、マスターであるゼロの姿を探した。



「ゼロ様の姿がありません」


「探しにいきますか、トゥエニ?」


「ええ、そうですね、フィフティーナ」



 ちなみに、アンドロイド型サイボーグである彼女達は起動時に、マスター登録をすることで、そのマスターには絶対服従となる。

 例えば、ツヴァイスとフォルスとフィフスとアハトンはシロック氏がマスター登録されていた。

 しかし、魂が宿り、自身の意思を取り戻したフォルスは、シロック氏によるマスター登録が解除されていたため、あっさりとシロック氏を裏切ることが出来たのだ。

 マスター登録は、あくまで自身の意思を持たないアンドロイド型サイボーグに有効なだけであって、自らの意思を持つサイボーグには意味がない。

 だからゼロは電流の流れる首輪を付けることによって物理的にドライン(ミライ)達を支配していたのだ。


 そして、トゥエニとフィフティーナは、ゼロが起動時に自身をマスター登録していたから、当然二人にとってのマスターはゼロということになる。



 二人はカプセルから出て、B室の扉から外に出た。

 その時、「ダダダダダッ!」という銃声がデータ室の方から聞こえてきた。



「今の音は…!?」


「データ室に複数人の気配あり、行きましょう、トゥエニ!」


「ええ、フィフティーナ!」



 二人がデータ室へ向かおうとした時、ちょうどデータ室とカプセル室を仕切る扉が開かれ、そこから一人の少女が現れた。



「…おや、もうすでに目覚めている個体がいたのか」


「あなたは、サイボーグNo.4、フォルスですね?」


「何故、あなたがここにいるのですか?」


「それは、竜眼島りゅうがんじまの研究所が敵に襲撃されて無くなったから、ここに逃げてきたのさ」



 トゥエニとフィフティーナは、同じ()()のクローンサイボーグとして、特に警戒することもなくフォルスに近付こうとした。

 だが、フォルスの右手の指から硝煙の匂いがするのに気付いたトゥエニとフィフティーナは、一定の距離をとって立ち止まり、フォルスに尋ねた。



「フォルス、先程の銃声ですが、あれはあなたの仕業ですか?」


「そうだが、それが何か?」


「では、その“フィンガーミサイル”で、()を撃ったのですか?」


「ふふ、さて、()だと思う…?」


「まさか、ゼロ様を…!?」


「やはり、起動時にゼロがマスター登録されているか…

 仕方がない、勿体無いがお前達は破壊するしかないな」



 フォルスが右手をトゥエニとフィフティーナに向け、“フィンガーミサイル”を放つ。

 トゥエニとフィフティーナは避けようとしたが、二人が並んで立つことが出来る程度の狭い通路だったため、完全に避けきることが出来ず、二人は肩や腕に銃弾を受けてしまう。

 しかし、アンドロイド型サイボーグである二人は痛みを感じることもなく、血を流しながらも怯まずにフォルスへ向かって駆け出し、攻撃をしようとしたが、



「遅いよ」



 フォルスが二人の間を縫うように、目にも止まらぬ速さで駆け抜けた。

 背中合わせになる形になったフォルスと、トゥエニ達。

 次の瞬間、トゥエニとフィフティーナは全身から血を吹き出しながら前のめりに倒れた。

 二人の全身には刀で斬られたような切り傷が付けられていた。

 フォルスの左腕に装備された“レーザーソード”による傷だ。



「ただのアンドロイドなら、その程度じゃ痛くも痒くも無いだろうが、

 アンドロイド型サイボーグなら、その体内を流れる人工血液が尽きてしまえばその活動を停止する。

 自己修復機能が間に合うのを祈ることだね」



 フォルスは左腕に浴びた返り血を床に向けて払いながら、サティスとフォティスの眠るC室へ入るために、その扉に手をかけた時だった。



「トゥエニ!フィフティーナ!!」



 その声に振り向いたフォルスが見たのは、データ室の方からやって来たレイブンが、血まみれになって倒れているトゥエニとフィフティーナに駆け寄っている姿だった。



「まだ動けたのか、ゼロ…っ!」


「フォルス!よくも二人を…っ!妹達をこんな目に合わせたな…っ!!」


「その妹達を兵器として改造し、愛玩道具ペットとして可愛がっていたお前がよく言うな…」


「うるさいっ!黙れっ!!」


「それに、妹達と言っても遺伝子上そうなだけで、魂的には全くの赤の他人だ。

 第一、その二人にはその魂すらないじゃないか?」


「うるさい、うるさいっ!!

 それでも…!!こいつらは、オレが…、ゼロが生み出してしまった、大切な“家族”なんだ…!!」


「…お前、ゼロじゃないな!?

 その中に入ってるのは誰だ!?」



 フォルスの問に答えることなく、レイブンは自身の霊能力である『身体強化』を使い、目にも止まらぬ速さでフォルスに近付くと、その強化された腕力でフォルスを思いっきり殴り飛ばした。



「ガッ…!?」



 フォルスは狭い通路の端の壁に叩き付けられた。



「この力…!『身体強化』の霊能力…!

 まさか、お前はツキヤ、なのか…!?」


「オレのことを知ってるのか…!?

 いや、そうか…、その先端が千切れた特徴的な魔人の尻尾は、デス、お前なのか!?」



 霊能力者のツキヤと魔人のデス。

 かつて二人は“ワールドアイラン”と呼ばれる世界で、東西二つに分かれた世界大戦の最中に、お互い敵同士として戦っていた、まさに因縁の相手同士であった。



「ふふ、あはははは!!

 そうか、まさかアンタまで転生してくるなんてな!!

 ということは、やっぱりアンタもアイツのことが大好きだったってことか、()()()、いや、()()()ちゃん?」


「うっ、うるせぇっ!!

 そんなことは今はどうだっていいだろが!!

 それより、これ以上オレの妹達に手を出すって言うなら、」


「どうするって?」



 フォルスが両手を前に出すと、空中に無数の氷の塊が出現した。



「なっ…!?」


「おいおい、忘れたとは言わないよね?

 アタイの、デスとしての能力を?」



 デスは魔人と人間の間に生まれた半魔人ハーフの子孫で、偶然先祖帰りして魔力が強く発現してしまった特異な存在だった。

 さらに、霊力まで備えていたために、魔術と霊能力が使える半魔人ハーフとして圧倒的な力を奮い、敵から“死神デス”と恐れられていた。


 そんなフォルス(デス)のオリジナル魔術、水の魔術である『アクアショット』を霊能力『状態変化』で氷に変換して放つ『アイスショット』。

 それを連続で放つ。



「さぁ、避けられるものなら避けてみな!

 まぁ、避けたら後ろにいる二人に当たるだけなんだけどな!」


「クソっ!!」



 レイブンは『身体強化』で出来るだけ身体の防御力を上げて『アイスショット』を迎え撃とうとする。

 しかし、いくら防御力を上げたところで、生身の、一糸纏わぬ姿の今のレイブンでは、ただではすまない。

 覚悟を決めたレイブンだったが、直後、無数の氷の塊は彼女の背後から飛んできた無数の雷の矢によって全て相殺されたのだ。



「え…!?」


「な、何っ!?」



 同時に驚くレイブンとフォルス。

 レイブンが背後を振り返ると、そこには血まみれになりながらも、必死に立ち上がるトゥエニとフィフティーナの姿があった。



「トゥエニ!?フィフティーナ!?

 お前達、大丈夫なのか!?それに、その姿…!?」



 よく見れば、トゥエニからは魔人の角と尻尾が、フィフティーナからは鬼のような角が生えていた。



「まさか、この土壇場でその二人にも魂が宿るとはな…ッ!!

 それに、その姿は魔人と“鬼人デーモン”か?」



 フォルスの予想通り、トゥエニには魔人、フィフティーナには亜人である“鬼人デーモン”だった前世の魂が宿っていた。

 先程の雷の矢は、トゥエニが雷の魔術で、フィフティーナが雷の呪術で放ったものだった。



「はぁはぁ、ゼロ様を…、」


「傷付けるのは、許さないんだから…っ!!」

 


 二人はふらつきながらも必死に倒れないよう踏ん張っている。

 そんな二人に駆け寄り、二人を両肩で支えるレイブン。



「お前達無茶をするな!」


「ですが…、あのままでは、ゼロ様が危ないと…、思いましたので…」


「まだ、目覚めたばかりで記憶が曖昧だけど…、ゼロ姉ちゃを、助けなきゃって、思ったの…!」


「二人とも…、」


「おーい、アタイのこと忘れてもらっちゃ困るんだけどー?」



 その声に三人がフォルスに視線を向けると、フォルスは右手を前に出し、その掌の先に通路の幅とほぼ同じ長さの直径の、巨大な円錐状の氷の塊を出現させていた。

 今の状態の三人では、さすがにその攻撃から自分達の身を守る術はない。



「一応最後に聞いておくけど、三人はアタイの下部(しもべ)になるつもりは無いんだよね?」


「ああ…!」


「ええ、我にとって仕えるべき主は、ゼロ様…、と偉大なる【吸血騎(きゅうけつき)】であるあの方のみ」


「オイラだって!ゼロ姉ちゃと、【吸血騎(きゅうけつき)】であるヨウあんちゃ以外には従うつもりないもん!!」


「だよね、そっちの二人も、その身体に転生した以上は、アイツの前世の関係者で間違いないだろうし、

 それなら、大好きなアイツを殺す手伝いをしてくれるわけがないよな。

 本当に残念だけど、君達とはこれでお別れだ、さようなら」



 フォルスが巨大な氷の塊をレイブン達に向けて放つ。



 レイブンはその瞬間が来るまで必死に考えた。

 どうすればこの状況から助かる?

 せめて、この二人の妹たちだけでも助けたい…!


 一秒が何倍にも引き延ばされたような時間間隔の中で、レイブンは必死に考えた。

 ここから一瞬で何処か違う場所に移動できる技、『転移魔術』、いや、超能力…、


 そこまで考えた時、レイブンの脳内に神経が焼き切れるような衝撃が走り、次の瞬間、

竜眼島(りゅうがんじま)の研究室が脳内に浮かび上がった。

 そして、レイブンはほぼ無意識の内に、その言葉を叫んでいた。



「『テレポート』ッ!!」



 次の瞬間、三人の姿はその場から消え、フォルスの放った氷の塊は誰もいない床に突き刺さった。



「消えた…?

 『転移魔術』か?いや、魔力の流れは感じなかった…

 となると、超能力による『テレポート』…?」



 フォルスは三人が先程までいた場所までゆっくりと歩いてきて立ち止まった。



「…ふふ、まぁ、いいか。

 懸念は残るが、それより今は邪魔者がいなくなったことを喜ぼう。

 早速、アタイの計画の第一段階を進めるとしようじゃないか」



 そう言って不敵な笑みを浮かべるフォルスだった。

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