第12話「Sisters of Dark side」
*
「その疑問にはアタイが答えてやろう」
「あ、あなたは…!?」
「クローンサイボーグNo.4、フォルス…!?」
突如、ボク達の前に魔法陣と共に出現したのは、ボクらと同時期に作られ、魂無きクローンサイボーグとしてシロック氏の私設兵器とされ、その後シロック氏と共に行方不明となっていたクローンサイボーグNo.4、フォルスちゃんだった。
でもなんでこのタイミングでここにフォルスちゃんが…!?
「やれやれ、せっかく『魂の分配』と『魂の譲渡』というチートじみた超能力を授かっても、
本人の実力不足じゃこの程度か。
まぁ、分かってはいたけどな、実験台としては非常に役立ってくれたから良しとするか」
フォルスちゃんはまるで悪の女幹部が着ているような黒のビキニアーマーに、裏地が赤いマントを着ていた。
ビキニの下には、ボク達がゼロに着けられた物と同じボンテージ衣装と、首には“4”の数字が書かれた錠前付きの首輪が着けられているのが見えた。
さらには頭からは魔人の角、お尻からは魔人の尻尾(ただし、先端の矢印のような部分が切れて無くなっている)が生えていた。
まさか、フォルスちゃんにも転生した魂が!?しかも魔人の!?
「よぉ、フォルス、ちょっと会わない内にいい服を着るようになったな」
そんなフォルスちゃんに声をかけるレイブン、もといレイちゃん。
二人はすでに顔見知りなのだろうか?
「やぁ、ツキヤ、いや、ツキヨだったか?
それとも、今の名前、レイブンと呼んだ方がいいかな?
海底研究所以来だね?元気にしていたかい?」
「好きにしたらいい。
お陰様で、アンタにやられた右目が疼く以外はすこぶる元気だよ」
「ふふ、それは良かった」
「それで?なんでアンタがここにいる?
まさかアンタも“新人類教”に入教した、なんて言うんじゃないだろうな?」
「少し違う。
今や“新人類教”はアタイのモノなのさ」
「何っ…!?」
「今はアタイが“新人類教”の新しい教祖様ってわけさ!!」
「ちょっ、ちょっと待ってっ!!」
思わずボクは叫んでいた。
「うおっ!?な、なんだよ急にどうしたミライ!?」
「急にどうしたはこっちのセリフよ!!
何なの!?二人はどういう関係!?
フォルスちゃんはどうしてここにいるの!?
というか、フォルスちゃんには何で魂があるの!?
ボクの知ってるフォルスちゃんは確か魂が無い、アンドロイド型のクローンサイボーグだったハズだけど!?」
「今はそんなことイチイチ説明している時間が、」
「ああ、その通りだ。
というか、ドライン、いつまでもこんな所にいていいのか?」
「ど、どういう意味よ!?」
「ドライン、お前の質問に一つだけ答えてあげるよ。
アタイがどうしてここにいるのか、それは今が好機と見たから時間稼ぎに来たのさ」
「今が好機?時間稼ぎ…?」
「それは、どういう意味…?」
モモコちゃんが警戒しながらフォルスちゃんに次のセリフを促す。
「今頃、アタイの妹にして“相棒”であるクローンサイボーグNo.13、サティスがクルセイド研究所に向かっている頃だろうな」
「な、何ですって!?」
「ちっ…!?
おい、ムツキ!お前はムツミさんと手分けして捕らわれてた女の人達を運び出せ!
それからミライとモモコは早く研究所に、」
「おっと、研究所には行かせないよ?」
レイちゃんが素早く指示を出すのとほぼ同時に、フォルスちゃんが指をパチンと鳴らすと、新たに二人の女の子が現れた。
一人はショートヘアーでボクらと同じボンテージ衣装の上からフォルスちゃんよりさらに露出度の高い黒のビキニに身を包んでいる。
お尻からは魔人の尻尾が、そして背中の右側にだけ魔人の羽が生えていて、頭の左側にだけヒナちゃんと同じ鬼のような角が生えた、ボク達と同じ顔の女の子…
「か、カリナちゃん!?」
「カリナ姉ちゃ!?」
真っ先に反応したのはユエちゃんとヒナちゃんだった。
“カリナ”と言うのは彼女の前世の名前なのかもしれない。
その“カリナ”ちゃんの首には首輪と“14”と書かれた錠前が着けられていた。
「彼女はクローンサイボーグNo.14、フォティス、何故か前世の記憶を思い出せなくなっているみたいだけど、
見ての通り、魔人と“鬼人”のハーフだったようね~?
そして、もう一人は、レイブン、アナタもよく知っている娘でしょう?」
魔法陣から現れたもう一人の人物、それは肩まで伸びた髪に、頭からはキツネのような耳と、お尻からはモフモフなキツネのような尻尾が生えた女の子だった。
服はボンテージ衣装以外何も着ていない生まれたままの姿で、両手で大事なところを隠している、いわゆる手ブラに手パン状態。
そして首には“16”の数字が書かれた錠前の着いた首輪と、“隷獣”契約の証である首輪が巻かれており、その“隷獣”契約首輪からは金属製のリードが繋がれていた。
これじゃまるで…、
「ふふ、紹介しよう、我が愛しの“隷獣”、サイボーグNo.16、ゼクスティーナ、前世の名は…、」
「い、イザヨイ…っ!?イザヨイなのかっ!?」
「ツ…、ツキヤ…っ!」
新たにボク達の目の前に現れた姉妹達は、複雑な前世からの繋がりで結ばれていて、クローン姉妹同士で敵対するという最悪の形で再会を果たすことになってしまったようだった……
*
新たにボク達の前に現れた姉妹…、クローンサイボーグNo.14のフォティスにクローンサイボーグNo.16のゼクスティーナ。
そしてどうやらフォティスはユエとヒナの前世の姉妹で、ゼクスティーナはレイの前世の知り合い(さしずめ霊能力者と妖獣の“相棒”だった、とかだろうか?)らしい。
さらにはクローンサイボーグNo.13のサティスがボク達の家、クルセイド研究所に向かっているようだ。
「人数が増えて厄介だが、やることは変わらねぇ!
ムツキとムツミさんは急いで女性達の避難を!
そしてミライとモモコはクルセイド研究所に!」
「ううん、レイちゃん!ボクもここに残るよ!
だから、研究所にはモモコちゃんだけでお願い!
多分一人の方が移動は早いよね!?」
ミライの言う通り、一人だけなら『転移魔術』に最低限の情報を書き込むだけでいいから魔法陣も早く書ける。
ボクは伸ばした左手の爪で、右手の人差し指に傷を付け、床に血で魔法陣を書き始めた。
「ん…、心得た、ここは、任せる…!」
「おっと、させないよ!?」
フォルスが氷の塊を掌から出現させてボクに向かって発射した。
しかし、ミライがボクの前に立ちはだかって、その氷の塊を全身で防いだ。
「さ、行って!!」
「ん…!」
ボクは書き終えた魔法陣に魔力を流し込んで『転移魔術』を発動させ、クルセイド研究所へと向かった。
クルセイド研究所の前に転移が完了したボクが目にしたのは、研究所の扉が強引に破壊された跡だった。
その時、ボクの脳内に埋め込まれた通信チップからノイズ混じりの声が聞こえてきた。
『…ザザッ………!……ライちゃん!? モモコちゃん!?聞こえる!?』
「マイカ姉や…!うん、聞こえてる…」
『良かった!ようやく繋がった!
その声はモモコちゃんね!?』
どうやら、先程までマイカ姉や達からの通信がこちらに届いていなかったようだ。
恐らくはフォルスが何かしらの妨害電波を発生させていたのだろう。
『ねぇ、そっちで何が起きてるの!?
おまけにクルセイド研究所の方もセキュリティが破壊されたって私のスマホに通知が来てるし!』
「ん…、詳しい説明は後…!手短に話す…
今、ボクはクルセイド研究所にいて…、侵入者を相手にしようとしてるとこ…」
『侵入者って、大丈夫なの!?ミライちゃんは!?
念のため研究所にナナカちゃんも向かってくれてるけど、それまで、』
「時間はない…、ボク一人でやれるだけやる…!」
『え、ちょ、モモコちゃん!?』
ボクは一旦通信を切ると、壊された入口から研究所の中に入り、侵入者、サティスの姿を探した。
研究所の中は部屋の扉以外は荒らされていなかった。
扉だけを壊して部屋の中を確認したらすぐに別の部屋に移っている、という感じだ。
と、わずかに自分以外の魔力を感じた。
この魔力は地下室から…?
地下室には、冷凍保存されたツヴァイス兄やとアハトンとフィフスの身体が…!
ボクは急いで地下室への扉のある場所に向かった。
すると、案の定地下室への扉も破壊されていた。
ボクはその破壊された扉から中に入り、地下への階段を下りていった。
そこにはボクらと同じ顔をした少女がいた。
「ありゃりゃ、もう来ちゃったか。
あと一人だったんだけどニャ~」
「君が…、サティス?」
「うん、ウチがクローンサイボーグNo.13のサティス、よろしくニャ~」
サティスは、ボクらと同じボンテージ衣装の上から黒い三角ビキニを着ており、首には“13”と書かれた錠前が着いた首輪に、“相棒”契約の証である首輪も付けられていた。
その頭からは猫耳、お尻からは猫のような尻尾が生えていたが、背中からは魔人の翼が生えていた。
「君は、魔人と“妖猫”の、ハーフ…?」
「ご名答~♪
と言っても、それは前世の話で、今のこの身体は君達と同じ“バイオヴァリアブルメタル”によって作られたクローンの身体だけどニャ~」
「ここで、何をしてるの…?」
「おっと、いきなり本題かニャ?
もっとこうウチらの前世の話を聞くとか、」
「ここで、何をしてるの…?」
「…ニャ~、君はもっとコミュニケーションを取る努力をすべきだと思うニャ。
見ての通り、ウチはここに冷凍保存されてるツヴァイス達の肉体を回収しにきたのニャ」
見ると、床にはすでに冷凍保存用のカプセルから取り出されたツヴァイス兄やとアハトンが寝かされていた。
今、サティスは三人目、フィフスの眠るカプセルの前にいて、その機械を操作している途中だった。
「何故、その二人を…?
目的は、何…?」
「いや~、個人的には女の子から先に回収したかったんだけど、
超能力者の魂は男の方が多いから、その魂を定着させるための男の肉体を優先して回収してこいって言われてたんだよニャ~
だからツヴァイスとアハトンの肉体を先にカプセルから出したんだけど、機械の操作に想定外に戸惑っちゃって、
さて、ようやくフィフスちゃんの肉体の回収をしようとしたところへ君が来たってところだニャ」
「そこから、離れて…っ!」
ボクは右手を突き出して魔術による雷の矢を放った。
サティスは雷の矢を避ける形でカプセルの前から飛び退いた。
「おっとっと!
ニャ~、残念だけど、フィフスちゃんは諦めるしかないか~…
…個人的にはフィフスちゃんの中にあの子の魂を……、っと、長居は無用ってニャ、
君とはもっとお話をしたいところだけど、フォルスに怒られちゃうから、またニャ~♪」
「逃がさない…っ!」
ボクは再び雷の矢を、今度は連続で何本も放ったが、サティスはその矢を器用に避けながら、左胸のビキニの中から魔法陣の書かれた紙を取り出し、そこに魔力を込めて魔法陣を発動させると、床に寝かされたツヴァイス兄やとアハトンと共にその場から転移していった。
残された魔法陣の書かれた紙は、青い炎をあげながら燃え尽きてしまった。
『転移魔術』発動後に証拠を残さないよう燃え尽きる魔術も記されていたのだろう。
そこへ、入口の方からナナカ姉やの声が聞こえてきた。
「モモコちゃん!大丈夫ですか!?」
「ナナカ姉や…!ゴメン、サティスに逃げられて、おまけにツヴァイス兄やとアハトンが連れ去られた…」
「サティス…!?
それにツヴァイスとアハトンが連れ去られたってどういうことですか!?」
「詳しくは後で…!
今はミライが心配だから、オオカワ橋に戻る…!」
「えっ、ちょっ!?」
ボクはもう一度伸ばした左手の爪で、右手の人差し指に傷を付け、床に血で魔法陣を書き、魔力を流し込んで、ミライ達の所へと戻った。
ボクが現場に戻って来ると、そこにはすでにフォルスとフォティス、ゼクスティーナの姿はなく、代わりに傷を負ったミライとレイ達だけが残っていた。
「ミライ…!」
ボクは真っ先に血を流した右腕を押さえるミライの元へと駆け寄った。
「あ、モモコちゃん」
「ミライ、怪我してる…!」
「あ、うん、でも大したことはないよ、この程度なら自己修復機能ですぐ治るし。
それよりモモコちゃんの方は大丈夫だった?」
「ん…、ゴメン、サティスには逃げられて、おまけに、ツヴァイス兄やとアハトンが連れ去られた…」
「そっか…、でもモモコちゃんが無事で良かったよ」
「ボクの心配より、自分の心配をして…」
「はーい」
と、そこへパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
同時に、アスカさんからの無線通信が入った。
『…ザザッ……!…えているか!?
ミライちゃん!聞こえているか!?』
「あっ!はい!こちらミライです!
今聞こえました!」
『良かった、ようやくミライちゃんとも繋がった!
今、私が手配したパトカーがそちらに向かっていると思うのだが』
「あ、はい!サイレンの音が聞こえてます」
『こちらムツキです!
パトカーの方は僕とムツミさんで対応しています!』
『そうか、ではそちらの方はよろしく頼む、ムツキ君。
今、我々もそちらへ向かっているところだから、ミライちゃん達はとりあえずその場にいてくれ』
「分かりました!あ、あとそれから、」
『レイ君達のことだね?』
「え…!?何故レイちゃん達のことを!?」
『彼女達にそこへ向かわせたのは私だからね』
「ええっ!?」
衝撃の事実が語られた…!
アスカさんが、レイ達をここに向かわせた…!?
一体どういうこと…!?
『その辺の事情も含めて、お互いに情報交換をしよう。
レイ君達にはその場に残っておくように伝えてくれ。
それとナナカ君には申し訳ないが、クルセイド研究所で待機しておいてくれ。
再度サティスなる少女がフィフスちゃんを回収しにくるかもしれないからね。
状況は無線を通じて確認するようにしてくれ』
『了解しました』
そこで一旦通信が切れた。
ミライの声を聞いていたのか、レイ達がこちらにやって来た。
「今のはアスカさんから?」
「うん、そうだよ。
…というか、レイちゃん達とアスカさんって知り合いだったの?」
「黙っていて悪かった。
…こちらにも色々事情があってな、お前達とは行動を共にし辛かったんだ」
「そっか…
まぁ、色々言いたいことや聞きたいことはあるけど、その辺はアスカさんが来てから改めて、ね。
その前に一つだけ、いくら操られていたとはいえ、罪なき女の人達にいきなり電撃を浴びせるのは、ちょっとやり過ぎだったんじゃない?」
「彼女らを助けるためにはやむを得なかった。
それに、あそこで彼女達を気絶させなければ、ミライ達だって危なかった。
ミライ達を助けるために、必要最低限の犠牲を選んだ。
ゼロから君達を助け出すためにマイカ姉さんを危険な目に遭わせたヨウイチ達のやったことと似たようなものじゃないか?」
「何故そのことまで!?」
「…オレには、ゼロの記憶があるからな」
「「ええっ!?」」
レイの一言に、ボクもミライも同時に声をあげた。
*
レイちゃんが言った「オレには、ゼロの記憶がある」という発言の真意を問い質そうとしたところへ、アスカさんとマイカ姉さま、メイコちゃん、そしてエリカさん達ムツキ君ハーレムの子達が現場に到着した。
アスカさんは改めて現場の警察官らに指示を出し、今回の発端である誘拐犯を逮捕させ、その後はムツミさんも含めて被害女性達の対応を後から来た救急隊員達に指示していた。
ちなみに、ムツキ君とそのハーレムの子達はムツミさんのことが心配ということで、そのまま病院に向かった。
その間、ボク達も警官達に軽く事情を説明したりして(話したのは誘拐事件に関わることだけで、フォルスちゃん達のことはアスカさんから口止めされていたので話していない)、レイちゃん達のことは詳しく聞けずじまいだった。
ある程度の事情説明も終わって、アスカさんがボク達のところへやって来た。
「さて、ここの現場でやることはもう無いかな。
では、いよいよ本題となるフォルス達のことだな。
さすがに、この場で堂々と話すわけにはいかないから、一旦クルセイド研究所に戻ろうか。
レイ君、頼めるかい?」
「分かった、皆、手を繋いでくれ」
レイちゃんに言われて、ボク達はレイちゃんを中心にぐるっと円を描くように手を繋いだ。
「さすがにこの人数は初めてだが、問題ないだろう」
「レイちゃん、今から何をするの?」
「さっきもやっただろ?お前達を助けた時に」
そう言えば、ボク達が操られた女性達に捕まっていた時、気付いたら女性達から解放されていて、隣にはレイちゃんがいた。
あれは、まさか、
「じゃ、行くぜ。
場所はクルセイド研究所…!」
すると、周囲の風景が一瞬で変わり、ボク達はクルセイド研究所の前にいた。
「これって、まさか『テレポート』!?」
「じゃあ、レイは超能力者…?」
「ああ。
オレが“レイブン”の身体に転生した時に覚醒した力だ」
なるほど、以前のコクラ駅で起きた“新人類教”による自爆テロ未遂事件の時、一瞬で移動したり消えたりしていたのは、『テレポート』を使っていたからか…
「さて、とりあえずはミライちゃん達の手当てが先だな。
その手当てをしながら、まずは研究所での件とオオカワ橋での件の話を聞こうか。
ミライちゃん達はレイ君達のことを知りたくて仕方がないだろうが、先に今回の事件の整理と今後の対応を話し合っておきたいのでね」
アスカさんの言う通りなので、レイちゃん達のことは気になるが、まずは今回の事件の顛末をお互いに共有することに異論はなかった。
ボク達は扉の壊されたクルセイド研究所に入り、マイカ姉さまとナナカ姉さまに怪我をしたボクとレイちゃん達の手当てをしてもらいながら、まずモモコちゃんとサティスちゃんの話を聞いた。
モモコちゃんの話が終わり、今度はボク達とフォルスちゃん達の話をした。
*
モモコが魔法陣でクルセイド研究所へと向かった後、オオカワ橋のビルの中には、フォティスと対峙するユエとヒナ、ゼクスティーナと対峙するレイ、そしてフォルスと対峙するミライが残る形になった。
フォルス達は、拐われていた女性達には一切の興味を示していないようで、ムツキとムツミが手分けして建物の外に運び出しているのを邪魔するようなことはしなかった。
フォティスと対峙するユエとヒナはフォティスに必死に呼び掛けた。
「カリナ!カリナなのでしょう!?我のことが分かりませんか!?
前世であなたの姉だったアリナです!」
「カリナ姉ちゃ!オイラだよ!
サリナだよ!!分からない!?」
「さてね、ぼくは君達のことは知らないよ」
そう言って、フォティスは右手を前に出すと炎の魔術である『フレイムボゥル』を二人目掛けて放った。
「「きゃあああっ!?」」
二人は咄嗟に避けきれず、まともに攻撃を受けてしまう。
「そんな…っ!?」
「なんで!?カリナ姉ちゃ!!」
「何度も言わせないで、ぼくは君達のことは知らない。
ぼくの名前はフォティス、フォルス様の命に従い、君達を攻撃する」
再び右手から『フレイムボゥル』を放つフォティス。
それに対し、ユエが両手を前に出して水の魔術である『アクアボゥル』を放って『フレイムボゥル』と相殺させていく。
その間にヒナが雷の呪術の詠唱を行う。
「雷の呪いよ、我が力となりて、敵を射て!『ライジングアロー』!!」
ヒナが『ライジングアロー』を放つのとほぼ同時に、フォティスもまた雷の呪術の詠唱を行っていた。
「雷の呪いよ、我が力となりて、敵を討て!『ライジングボール』!!」
フォティスの左手から放たれた『ライジングボール』が、ヒナの放った『ライジングアロー』を相殺していく。
いや、大好きな姉を傷つけたくないと思うヒナは手加減しているのに対し、目の前の少女達を自らの姉妹だと認識していないフォティスは全力で攻撃を放っているため、相殺されなかった攻撃がユエとヒナに襲いかかる。
「「きゃあああっ!?」」
『ライジングボール』を受けて、ユエとヒナは入口側の壁に叩きつけられる。
「あははは!どうした?
その程度の実力では、このぼくの足元にも及ばないよ?」
「うぅ…、カリナを相手になんて戦えません…」
「どうしたら…、どうしたらいいのさ!?」
二人の姉妹は絶望に打ちひしがれるのだった。
一方、ゼクスティーナと対峙するレイもまた絶望していた。
「イザヨイ、まさか君まで転生していたなんてね…」
「うぅ…、ツキヤ…!」
ゼクスティーナの姿はボンテージ衣装に首輪から伸びた金属製のチェーンのみで、大事なところが一切隠されていなかった。
首に巻かれた“隷獣”の首輪からも分かる通り、今の彼女はフォルスの“隷獣”とされているのだろう。
“隷獣”は主人の指示には絶対だ。
だから、どれだけ頭で拒否しようとも、身体は勝手に動いてしまう。
「うっ…、あぁ…、み、見ないでぇっ……!!」
ゼクスティーナはその場に座ると、股間を広げて、大事なところを見せつけるように両手で広げていった。
「なっ、何をしてるんだイザヨイっ!!」
思わず駆け寄るレイ。
だが、そうすることが彼女の、いや彼女を操るフォルスの狙いだった。
「だ、ダメっ!!こっちに来ちゃっ…!」
ゼクスティーナの意思とは関係なく彼女の身体が動く。
“妖狐”である彼女の身体の動きは素早く、彼女の恥態を止めようと近付いてきたレイの背後に一瞬で回り込むと、その大きな尻尾でレイの胴を掴んで逃げられなくし、レイを掴んだまま背中から床に倒れると、レイの首にチョークスリーパーをかけ、その首を締め上げた。
「あっ…、グ…ッ!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…っ!!
身体が言うことをきかないの…!
だから、だから…っ!!」
ゼクスティーナが泣きながら謝る。
レイは首を絞められながらも、ゼクスティーナを安心させようと微笑む。
「だ、大丈夫さ、このっ…、程度…!
それに…、この、体勢だと…、イザヨイのおっぱいが…、後頭部にずっと当たってて、気持ちいい、し、な…っ!」
「ば…、バカ…っ!」
レイの身体はサイボーグ改造されていない、純粋なクローン体だ。
だから、首を絞められれば普通に苦しいし、そのせいで『テレポート』を使うための集中力も途切れてしまう。
正直、このままではレイはなす術なく、かつての“相棒”だったゼクスティーナに殺されてしまう。
それだけは避けなければいけない。
ゼクスティーナに、“相棒”殺しなんていう罪を犯させるわけにはいかない。
そこでレイは自身のもう一つの能力、『身体強化』の霊能力を発動させる。
レイは自身の中の霊力を両腕に集中させ、ゼクスティーナの腕を振りほどいていく。
「くっ……、うぉおおおおっ!!」
ゼクスティーナのチョークスリーパーから逃れたレイは、今度は『テレポート』を使ってゼクスティーナから距離を取った。
しかし、その行動を読んでいたかのように、ゼクスティーナはレイが出現した場所に瞬時に駆け出すと、その両手の爪に炎の刃を纏わせながらレイに切りかかる。
「う…が…、だ、ダメ…っ!!
もう、これ以上ツキヤを傷つけたくないのに…ッ!!
『獄炎刃』っ!!」
「くっ…、ぐぁああああっ!?」
レイは咄嗟に『身体強化』した腕をクロスさせて受け身の体勢を取るが、ゼクスティーナの爪から放たれた炎の刃はあっさりとレイの両腕を切り裂き、大量の血が飛び散った。
「ごめんなさい…!!ごめんなさい…っ!!」
「気にすんな、お前が悪くないのは…、分かってるから…!」
お互いに望まぬ戦いを強いられるレイとゼクスティーナ。
そんなゼクスティーナを操るフォルスは、その能力でミライを圧倒していた。
フォルスはクローン達の中で最も戦闘用に改造された箇所の多いサイボーグだ。
その愛称は“死神”、奇しくも前世の彼女の愛称も同じく死神を意味する“デス”であったのは偶然の一致か、運命の悪戯か。
フォルスはその全身武器とも言える武装でミライを攻め立てる。
右手の指先から放たれる“フィンガーミサイル”を華麗に避けるミライだが、その避ける先を巧みに誘導するフォルスは、ミライに気付かせずに自身の間合いの距離に入れさせると、左腕に内蔵された“レーザーソード”を伸ばし、ミライとの距離を詰めて、その右腕を切り裂いた。
「痛っ…!?」
咄嗟に右腕の傷口を左手で押さえるミライ。
そのことにより、ミライのがら空きとなった腹部へと右手を突き出したフォルスは、掌から産み出した氷の塊を放った。
「ガハッ…!?」
氷の塊による攻撃を腹部に受けたミライは、両腕で腹を抑えながらよろよろと後ずさった。
「い、今のは魔術、なの…?
さっきも思ったけど…、氷系の魔術なんて、聞いたことが…」
前世で精霊術師だったミライは、敵である魔人や魔獣が扱う魔術に関する知識も少しあった。
魔術には基本的に精霊術のような属性は存在しないが、稀に雷や炎、水といった属性魔術を扱える者が存在する。
モモコとユエとフォティスがその稀な例で、それぞれ雷と水と炎の魔術が使える。
だが、フォルスが使ったのはそのどれでもない氷の魔術。
水と氷は状態が違うだけの同じ属性と言えなくもないが、水の魔術で氷系の攻撃が出来るとは聞いたことがなかった。
そのミライの疑問に答えるようにフォルスが口を開いた。
「今のはアタイのオリジナル魔術だよ。
正確には、アタイの霊能力と魔術の合わせ技、ってところかな」
「霊能力との合わせ技…?」
「そう、アタイの霊能力は『状態変化』。
簡単に言えば液体を固体に変えたり気体に変えたりすることが出来るって能力さ」
「なるほど…、
じゃあ今のは水の魔術である『アクアショット』あたりを氷に変えた、ってところかしら?」
「ご名答だよ、ドライン!
さすがはあのサウの右腕を勤めていただけのことはあるな!」
「ボクの前世のこと、知ってるの?」
「この身体に転生してから、サウの周りの人間のことは一通り調べ尽くしたからな」
「なるほどね…。
それで、あなたの最終目的は何なの?」
「ふむ、単独ではアタイに勝てないと理解した上で時間稼ぎをしようというわけかな?」
「………」
「図星のようだね。
ま、いいよ、君達にはアタイの目的を知っておいてもらった方が面倒がなくていいか。
アタイの目的はサウ、今の名前はヨウイチか、彼を殺すことさ」
「兄さまを殺す、ですって…!?
何故兄さまを殺そうだなんて!?」
「簡単なことだよ、前世において“デス”と恐れられたアタイに唯一勝った男だからさ。
おまけに、戦争の最中で命の取り合いをしているというのに、アイツはアタイに止めを刺さなかったんだ。
何故だと思う?」
「…兄さまは無駄に女の子に優しいから……」
「その通りさ!さすがはドライン、ホレた男のことをよく分かってるね!
アイツはアタイにこう言ったんだよ!
『いくら戦争でも、カワイイ女の子は殺せない』
だとさ!“デス”のアタイをカワイイだってさ!!」
「…それで、情けをかけられた腹いせに兄さまを殺そうと?」
「少し違うね。
アタイはそれ以来、アイツのことしか考えられなくなった。
アイツととことん殺し合いたい、アイツを殺すのはアタイだけ、アタイがアイツを殺して独り占めにしたい、アイツの全てをアタイのものにしたい…!」
「それって、フォルスちゃんも兄さまのことが好きってことなんじゃ…?」
「ああ、その通りかもしれない!
アタイは、アイツを殺したいほどに愛してるんだ!!
そのために転生して、仲間を揃えた!
だが、まだ足りない!そのために“新人類教”を利用したのさ!
優秀な超能力者の魂をアタイ達と同じクローンの肉体に転生させて、家族同士殺し合わせる!
今のこの状況のようにね!」
「そのために、フォティスちゃんやゼクスティーナちゃんを利用したの…?」
「ああ、そうさ。
アイツの全てを奪い、絶望させ、アタイだけのものにするために、ね♪」
そう言って笑うフォルスの瞳は狂気に満ちていた。
「…そんなこと、ボク達が絶対にさせないんだからっ!!」
「ふふ、いいよ、アタイ達はいつだって君達の挑戦を受けるよ。
…さて、そろそろアタイの“相棒”がクルセイド研究所での仕事を終えてる頃だろうから、アタイ達もここいらでお暇させてもらうよ」
フォルスが指をパチンと鳴らすと、フォティスとゼクスティーナが一瞬でその場から姿を消した。
「えっ!?」
「ふふ、今のはアタイの超能力さ」
「超能力まで使えるの!?」
「ああ、だからこそ“新人類教”の教祖になれたのさ。
ちなみにアタイの超能力は『人体転移』と言って、その名の通り任意の人間を任意の場所にテレポートさせる能力さ。
というわけで、ドライン、それからツキヨ、アタイ達が殺すまで死なないでくれよ、じゃあね♪」
そう言ってフォルスは足元に描いた『転移魔術』の魔法陣で、その場から立ち去っていった。




