第9話「超能力者」
*
ボク達が部活を終えてマイカ姉さま達と合流し、校舎の正門側から出ようとしていたところ、校舎側から走って出てきたアスカさんに声をかけられた。
「良かった、間に合った!」
「どうかしたの、アスカちゃん?」
「ああ、それが大変なことになっていてね、
詳しくは現場に行きながら話すから、皆私についてきてくれるかい?」
すると、正門前に小型のバスのような車が停まり、それに乗るようアスカさんに言われたのでボク達は言われるがままに乗り込んだ。
運転席と助手席を除いて九人まで乗れるその車で、ボク達はコクラの町の中心地へと向かいながら、助手席に座ったアスカさんが事情を説明してくれた。
「か、カラオケ店でテロ未遂!?」
「しかもその現場にムツキ君が!?」
「ああ。幸い、死傷者はおらず、ムツキ君を含む六人で犯人を取り押さえたらしい」
「皆無事なんだ…」
そのことを聞いてホッとするボク達。
「まあ、私も詳しい話はこれから現場に行って確認するつもりだ」
「でも、なんでアスカさんが現場に…?」
「軍属のアスカさんが出向くってことは、犯人は“レジスタス”連中なんですか?」
国内における事件の捜査は基本的に警察の管轄となる。
だが、“レジスタス”などの国外組織の絡む事件となると、軍が動くこともある。
国防軍第3小隊の隊長であるアスカさんが現場に向かっているということは、そうした国外組織絡みの事件なのかとボク達は考えたのだが、今回は違うようだ。
「いや、今回は“レジスタス”ではなく、“新人類教”だな」
「“新人類教”…!」
「ああ、だから本来は警察の仕事にはなるんだが、
ここ最近の調べで、“新人類教”がどうも大陸と違法薬物の取引をしている可能性がある、というような情報を得てね、
連中の動きには我々軍も目を見張らせているというわけなんだ」
そんな話をしていると、車が現場付近に到着したらしく、周囲が警察や軍の関係車両などで賑やかになってきた。
現場近くに車を停め、ボク達はそこから歩いて現場となったカラオケ店に向かった。
「あ、姉さん達!」
「ムツキ君!」
現場のカラオケ店に入ると、事情聴取を終えたばかりのムツキ君とムツミさんを含めた五人のクラスメイト達が、一階の受付カウンター前の待合スペースのソファに座っていた。
「皆、無事で良かったわ」
「あー、えっとマイカさん、実はそうでもなくて…」
ムツミさんが申し訳なさそうに事件の詳細を説明してくれた。
「…それで、私達を逃がすためにムツキ君が犯人の持ってたナイフで自らの喉を刺して……」
「喉をナイフで刺した!?」
「だ、大丈夫なのムツキアニぃ!?」
「う、うん、エリカさんとムツミさんが手当てしてくれたから」
「あ、でも念のためマイカさんの方でも見てあげてくれますか?」
「もう、ムツキ君ってば無茶して…
ええ分かったわ、後でチェックしてあげるから」
「お願いします」
「にしても…、女の子達を守るために体を張るなんて…、ムツキ、頑張ったね…」
「うんうん、見直したよムツキ君!」
「だけど、助けるためとはいえ、自らを犠牲にしていいわけではないのよ?」
「そうね、結果的にムツキ君含めて皆無事だけど、
もし万が一のことがあれば、残された人達がどれだけ悲しむか、そのことも考えなくちゃね」
「はい、ごめんなさい、ナナカ姉さん、マイカ姉さん…」
と、そこへ、現場の警察官らとの話を終えたアスカさんがやって来た。
「皆揃ってるみたいだな。
まずは、ムツキ君にムツミ君、それから…、」
「あ、アタイはエリカ・ハントです!」
「私はー、ルリナ・ホルンです」
「私はミホ・モトサカです!」
「わたしはミナ・ヴィルムだ」
「うむ、エリカ君にルリナ君にミホ君にミナ君だな。
君達には今回事件を起こした“新人類教”のメンバーを捕らえてくれたことに感謝する」
「いや、アタイはほとんど何もしてないけどな…」
「いやいや、君の“オペレーションハンド”だったか?
それが無ければムツキ君は危なかったと聞く。
それにミナ君の“ハイパーリンク”に、ルリナ君の忍術、なかなかに素晴らしい逸材ばかりじゃないか」
「本当、皆スゴいよねー!
それに比べて、私は本当に何も出来なかったからなー…」
「何を言う、ミホ君の能力についても聞いているが、
いざとなった時にはその力で犯人を取り押さえるつもりだったんだろう?
今回はたまたま出番がなかっただけで、君の力もかなり優秀なものだ」
「あ、ありがとうございます!」
「と、いうわけでだ、君達を我が第3小隊にスカウトしたいのだがどうだろう?」
「アタイ達を、」
「第3小隊にスカウト!?」
「ふむ…、それはなかなかに魅力的な話だが…」
「でも、私達なんかにつとまるかな…?」
「基本的にはムツミ君とムツキ君と共に行動してもらおうと思っているが、」
「「「「やります!」」」」
「…そ、そうか。
ふむ、なるほど、ムツキ君、君は早速ハーレムの主となったわけか」
薄々思ってはいたけど、やっぱりそうだよね。
ムツキ君カワイイし、男らしい一面もあるみたいだし、何より兄さまの弟だし、そりゃモテるよね。
「え!?い、いや、僕はまだ…、」
「ああ、アタイ達はムツキのハーレムの一員だ!」
「今日から一つ屋根の下で暮らすことも決めたしねー」
「あら、そうなの?私何も聞いてないけど?」
「あ、えっと、マイカ姉さんには後で言おうと思ってたんですが、だ、ダメですか?」
「んー、ムツキ君と離れて暮らすのは寂しいけど…
でも、しっかりと皆を守ってあげられるなら、お姉ちゃんは止めないわ」
「あ、ありがとうございます!」
「姐さん、ムツキのこともアタイらがしっかりと守ってみせるんで、安心してて下さい!」
「ええ、お願いね、エリカちゃん」
そんな感じで、ムツキ君達は今日からムツミさんの家で暮らすことが決まった。
新しい生活が始まったばかりだというのに怒濤の展開だ。
まぁ、何はともあれ一件落着だと思っていた矢先、一人の警察官がアスカさんの元にやって来て何かを耳打ちした。
それを聞いたアスカさんの表情は見るまに険しくなっていき、舌打ちをした。
「アスカさん、何かあったんですか?」
「…ん?ああ、今回の事件の犯人だが、パトカーで護送中に歯の中に仕込んでいた毒入りのカプセルを飲み込んで自殺したそうだ」
「ええっ!?」
「元々、“新人類教”と言うのは、超能力に憧れた人間達が集まる教団で、
超能力に目覚めるためには、臨死体験に近い経験を経る必要があるという。
事実、私が『相手の嘘を見抜く』という超能力を得たのは、とある戦いで死にかけて以降のことだ。
君達の姉、マコトちゃんやモトカちゃん、それにカズヒちゃんもそうだっただろう?」
「はい、そういう風に聞いてます」
死の縁に瀕することで、その人の持っていた真の能力が開眼する、というような設定の漫画やラノベはよくあるが、要はそんな感じなんだろう。
「だが、死にかければ誰もが超能力に覚醒するというわけでもない。
だから、“新人類教”に入信している者の中でもごく少数の者だけが超能力者として崇められていたわけなんだが、
ここ最近になってその流れが変わり始めたようなんだ」
「それは一体…?」
「先程、車の中で“新人類教”が大陸と違法薬物の取引をしているという話をしただろう?
その話と関係してくるんだが、簡単に説明すると、どうにもその薬物を摂取して自らの命を捧げることで、
魂は新たな肉体を得ると同時に超能力者として覚醒する、ということらしいんだ」
「そんな馬鹿なことが…!?」
「正直信じ難い話だが、少なくとも“新人類教”の信者達はその話を信じているようだ。
これは、世間には公表していないことなんだが、
実はつい先日、ゴールデンウィークの最中にモジ港レトロ地区において、“新人類教”のメンバーによる自爆テロ未遂事件が起きていたんだ。
その時に捕らえた者の証言から、先程の事実が判明したわけだ」
「『相手の嘘を見抜く』アスカさんが尋問した結果なら、
少なくともその“新人類教”のメンバーは、薬物を摂取して死ぬことで超能力者として転生出来ると本気で信じてたわけですね」
「ああ、その通りだ」
「あ、ひょっとしてアイツが体にダイナマイト巻き付けてたのは…!」
「きっと自爆テロ用だったんだろうねー」
エリカちゃんとルリナちゃんが納得したような顔をした。
一方で、一つの疑問が生まれる。
同じく疑問を抱いたのだろうモモコちゃんがアスカさんに尋ねた。
「でも…、なんで他の人を巻き込むような真似を…?」
「それは、より多くの魂を供物として捧げることで、より強力な超能力を得られる、らしいぞ?」
「だったら私達を裸に剥いた理由は何だったのさ!?」
「そこは本当にわたし達の裸を見たかったんだろう。
死ぬ前に美少女の全裸を拝んであわよくば童貞も卒業し、心置きなく自爆しようとかいう魂胆だったのだろう」
ミホちゃんとミナちゃんが怒りの声をあげる。
犯人が自殺した以上、彼が本当は何を考えていたのかは永遠に闇へと葬られてしまったわけだが、いずれにせよ彼の本当の目的である“自殺”という行為は達成されてしまった。
しかし、“新人類教”は一体何を企んでいるというのか?
まさか、本当に自殺することで超能力者として転生出来るというのか?
結局、その日はそれ以上のことは分からず、その場で解散となった。
*
エリカちゃん達の第3小隊への入隊手続きなんかは後日改めて行うということで、ボク達は一度全員でクルセイド研究所に集まり、ムツキ君の怪我の具合のチェックなどを行いながら、エリカちゃん達にボク達の事情について説明した。
アスカさんの第3小隊に入隊し、ムツキ君のハーレムになるというのなら、ボク達の事情はきちんと説明しておくべきだろうという判断からだ。
ただし、超極秘事項である“加速装置”の件だけは話していない。
これは、彼女達を信用出来ないというわけではなく、その存在を知るだけで、彼女達が危険にさらされるかもしれないというリスクを避けるためだ。
ボク達がヨウ博士の双子の姉妹のクローンで、おまけに転生者で、なんて話はなかなかに現実離れした話をあっさりと信じてくれたエリカちゃん達。
少しは疑わなくていいのか?と心配になったが、彼女ら曰く、他ならぬアスカさん直属の部隊であるボク達の言うことが嘘であるハズがないから、とのこと。
「何より、これからは皆とは親戚、家族になるわけだしな!」
「家族のことを信じられなきゃ、世の中終わりだからねー」
「そのとーり!」
「ま、そういうわけだから、これからはよろしく頼むよ、お姉様方」
その後は、皆で夕食を食べながら、今度はエリカちゃん達の話を聞いたりした。
エリカちゃんとミナちゃんは肉体の一部を改造したサイボーグで、ルリナちゃんは忍者の末裔、そしてミホちゃんはなんと超能力者であるということを聞いた。
「え、ミホちゃん超能力者なの!?」
「うん!あ、だけど私の場合は純粋、というか、要するに生まれた時から能力が使えたパターンというか」
「一般的、という言い方は、そもそも超能力が一般的でないから少し変な話だが、
超能力と言うのは、死に瀕した者が奇跡的に息を吹き替えした際にまれに覚醒するものだが、
ミホ君の場合は生まれながらに超能力を持った純粋な超能力者、というわけだな」
「そう!だから“新人類教”とは全く関係ないし、そもそも入る気もないから安心してね♪」
生まれながらに超能力者、そんな人もいるのか…
「ちなみに…、どんな能力なの…?」
「簡単に言えば『水を操る』能力、かな?」
「『水を操る』能力…、なるほどそれは場合によってはかなり有用な能力ね」
水を操れるのなら、もし万が一カラオケ店の事件で犯人がダイナマイトに火をつけようとしても、水でダイナマイトを湿らせてしまえば、自爆は防げていたのだろう。
ということは、どう転んでも犯人は自爆テロという目的は果たせなかったわけだ。
ムツキ君のハーレムもなかなか優秀な子達が揃っているみたいね。
夕食後、今日のところは皆をクルセイド研究所の客室に泊めることになった。
やはりテロ未遂事件に巻き込まれた精神的疲れがエリカちゃん達にはあったようで、お風呂からあがった後はぐっすり眠っていた。
そんなこんなで、ボク達の高等部生活一日目が終わった。
それからの数日は何事もなく平穏無事に過ぎていった。
事件らしい事件といえば、コクラの町の中心部辺りにあった暴力団組織“ハットリ組”が何者かの襲撃を受けて壊滅したという物騒な事が起きていたが、国の裏仕事もこなしているアスカさんが得た情報によると、どうにも内部抗争の結果、幹部同士で殺しあって双方共倒れ、というのが真相らしい。
警察の調べでもよく分かっていないらしいそうした事情をどうやって知ったのかは定かではないが、とりあえずアスカさんの底知れなさを改めて思い知らされたのであった。
“ハットリ組”は一般市民にも危害を加えたりと、その素行には何かと問題があり、警察組織も徹底的にマークしていた暴力団組織だったのだが、そんな組織が一夜にして壊滅したということで、市民達の間には安堵の声が上がっていた。
これで少しは治安がよくなる、と。
しかし、そんな空気の中、“新人類教”による無差別自爆テロが秘かに計画されていた…




