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02 マ男登場!

まぁ、間男も、ある意味で勇者ですけどねぇ(笑)

人間には、様々な欲望がある。

その手段や程度が間違っていても、それらは皆が持っているものであり、根本や経緯を考えると、全面的に否定できる物は少ない。



一人の男が、別の町を目指して街道を歩いていた。

彼が、この国に来てから数週間。

野宿こそ無かったが、必死に逃げ回る毎日だった。


憲兵や借金取り、謎の秘密結社などからではなく、女性からだ。


長身に厚い胸板、気品のある言動に甘いマスク。

貴族の様な上等な服装と宝剣と見間違う程の剣。

やや長めの黒髪を風になびかせる30代前半のナイスミドル。


ソレだけでも人目を引くのに、腕っ節は強く、夜の行為も超絶倫とくれば、関係を持った女性が手放す筈など無かった。


しかし彼自信は、より多くの女性と逢瀬おうせを重ねたいと思っており、一人の女性に付きまとわれるのは支障があったのだ。


「やはり、既婚者と一度限りの逢瀬が理想だな!」


彼と周囲の価値観には、少なくない齟齬そごがある様だ。


彼は、物色ぶっしょくしていた町を離れ、少し遠い辺境の地へと向かった。


「次は、金の問題か!」


彼は、金が無い訳ではない。

彼の懐には、大量の金貨がある。

問題なのは、その金貨が、現在この国で使われている物とは異なる為に、会計を断られる点だ。


女の元に居た時は、飲み食いを自由にさせてもらったが、流石に金の無心むしんは彼のプライドが許さなかった。


「しかし、腹が減った」


この国へ来る前から用意していた保存食も、ついに尽き、辺境の町に着いた頃には、多少の空腹感さえあった。


好意で乗せてもらった馬車を降りて、最初に目についたのは、花屋の女主人。

一人で運営している小さな店ではあったが、色とりどりの花が目を引き、女主人の容姿も彼のタイプである。


町に着いて、ぶらりと立ち寄った様に装おい、花屋へと入り、幾つかの花を見ながら女主人へと近付く。

幸いにも他に客は居ない。


「店員さん。友人の結婚記念日に花を贈りたいんだが、どんな物が良いか店長に選んではもらえないだろうか?」

「あいにくと、夫は花畑へと出ておりますので、私で良ければ御選びしますが?」


この会話の要点は二つ。

まずは友人を気遣う良い人と思わする事。

次に近くで既婚者の指輪が有るかの確認。

好都合な事に、相手側から『夫』の言葉が出た。


彼は無詠唱で『魅了』の魔法を放った。

彼の容姿と、この魔法で堕ちない女は居ない。


「奥さんの様な綺麗な花なら、全財産をはたいても手に入れたいものですな」


魔法との相乗効果で、彼女の耳が真っ赤に染まる。


「あっ、でも、主人が居ますし、店も有りますから・・・」


なかなかに、身の固い女性らしく、必死に耐えている様が見てとれる。


『なかなか固いな』

強い魔法を放てば、後々まで残る。それでは今までと同じになる。

『ここは、別の手で・・門番程度で充分か』


男は、少し離れた路地に、召喚魔法を展開した。

路地の大きさを見誤ったのか、路地からは物が壊れる音がした。


店側を向いていた彼よりも先に、路地から出てきた者に気が付いたのは女主人だった。


「まっ、魔物が!」


知っては居たが、わざとらしく驚いた様子で男が振り向いてから、腰の剣に手を掛けた。


魔物は、運悪く居合わせた男を壁に突き飛ばし、幾つかの建物を壊して、目だつ花屋へと迫ってくる。

通りに居合わせた多くの者が悲鳴をあげて逃げ惑っている。


そして、ついに3メートルの巨体が繰り出す拳が、花屋のヒサシを打ち壊した。

しかし、その拳はヒサシの下で男が抜いた剣で弾かれ、魔物は数歩、後退りした。


「奥さん、早く逃げて!」


声を掛けたが、女主人は男の後で腰を抜かしている。


「やむを得んか!」


男は退いた魔物が居る通りへと進み出て、牛の頭を持つ魔物へと斬りかかる。

信じられない駿足を駆使し、魔物の腕、脚、首へと斬りかかり、あっと言う間に倒してしまった。


隠れていた住民から喝采の声が上がる。

男は最初に突き飛ばされた青年を肩に抱え、花屋へと戻ってきた。


「大丈夫ですか?お怪我は?」

「だ、大丈夫です。腰が抜けただけで。あ、あの、助けて頂き、ありがとうございます」


男は、首を軽く左右に振る。


「たまたま居合わせただけです。被害者も傷は無い様ですが、休ませたいので場所を貸していただけませんか」

「裏に我が家がございます。店も、こんな有り様ですし、私も一旦戻りたいので」


軽く失禁したのだろう。

女の倒れた場所の地面が、僅かに変色している。

女は、赤面しながらも、自分のお尻辺りを見せない様に、やや後ろ歩きで、男を店の奥にいざなった。


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