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第6話 こんにちは赤さん




 子は(いのり)と名付けられた。



 母である祀梨(まつり)が名付け親だ。




 呪い師の言葉を曲解した(たお)は、大きく膨らみ過ぎた期待がそのまま失望へと変わった為に、急速に子への興味を失った。


 本来ならば呪い師がいくつか用意した名から当主が選び名付け親になるのが慣例であるのだが、その気の失せた垰は、八つ当たり気味に祀梨に全てを投げたのだ。




 この世界も多分に漏れず、女性の地位はとても低い。



 家を存続させる事、繁栄させる事、それが一番と考えられていた時代。


 女の子は他家との縁を繋ぐ道具でしかない、と見なされていたからだ。



 かくして、祈と名付けられた竜鱗人は、以後皮肉にも布勢(ふせ)の標的から外される事となる。


 女の子では当主になる事なぞできないのだから。


 女は家を継ぐ事なぞ許されない時代なのだから。




 「んきゅ~。イノリちゃん、かわいぃぃぃぃぃぃわ~~~ん」


 午後の清々しく優しい風が、離れの一室に心地よく流れる。


 女の子であるという、自身に非など無いただその一点だけの為に当主の不興を買ったとはいえ、尾噛の姫として大事に扱われるのは当然の事だ。


 むしろ勝手に期待しただけの垰の八つ当たりに過ぎぬのだから、その事に不満を持つ使用人もそれなりにいるのだ。


 「おいおい、メロメロだな……」

 「赤ちゃんがこんなに可愛いだなんて、全然知らなかったわ……やっぱり、一人くらいは産んでおけば良かったかも?」


 「お前さん、生前にそんな相手これっぽっちもいなかっただろ。でも、もしその気があったんだったなら、すぐにお前を世界から連れ出してしまったことを、俺は謝らなければならない。本当に悪いことをした。すまないな……」


 強制的に喚ばれ、世界を救うもその後の人生は人々に疎まれ、孤独であった記憶。


 転生し、勇者としてまた世界を救う旅を果たすも、祖国の命を受けた仲間の裏切りにあい殺された記憶……


 マグナリアに同じ経験をさせたくなかった俊明は、役割を終えたすぐに世界から逃げる様に連れ去ったのだ。


 だが。もしあの戦いの後、穏やかな生き方ができたとしたら……


 (……まぁ、無理だろな。超広域殲滅魔法使ってる時のこいつの貌をもし見られてたら、絶対に危険視され暗殺されてるわ……)



 「別に気にしてないわよ。あの世界に、いい男なんて居なかったしね…それに、今の私にはイノリちゃんがいるし。ねぇ~? イノリちゃーん」

 「だぁ~☆」



 銀色の髪、四肢を覆う鱗は純白、翠玉石の如く深い緑の瞳は、自身をのぞき込むマグナリアを捉えていた。



 「む? これはもしかして、祈殿はマグナリア殿をしっかり認識しておるので?」

 「その様だな。生後半年位までは魂が定着していないから、辺りの霊魂を人と同様に認識する子は結構いる。ああ、そうそう。ちなみに霊感の無い人間でも霊を視る方法ってのがあってな? こういう子の目を覗くんだ。そうすると、その子の瞳に映った霊魂を見る事ができる」


 「そんな無駄知識、聞きとぉ無かったでござる。拙者、今後、赤子の瞳を見れなくなってしまったではないか……」

 「猫でも同じ事ができるわね。たまにあるでしょ? じっと一点を見つめて動かなくなっている子…あの時にもよく見えるわ」


 「おおう、そこでさらに無駄知識を被せてきてござる。もう拙者、二度と猫を愛でる事もできぬ……」


 「でも、本当に。こんな可愛いなんて、知らなかったなぁ……」


 マグナリアは、祈の頬をつつく様に指を差し出す。



 触れる事はできない。


 それを判っているハズなのに、つい指が出てしまうのは生前からの性なのだろうか?



 「あぁう~☆」



 「「「へ(でござ)????」」」



 嬉しそうな声を上げながら、祈がマグナリアの指を掴んだのを見て三人は驚いた。




猫がじっと虚空を見つめるのは、ちょっと怖いですよね…

誤字脱字があったらごめんなさい。

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