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第410話 神は、死んだ




 (────こん一件は。正直、アタシ()手に余るばい)


 技量(うで)の差は、先程晒した”無様”で一目瞭然。

 恐らく、決死の抵抗をしてみせたところで。

 

 (相手に斬り傷()幾つか負わることができりゃあ上等。と云うた辺りやろうか?)


 だと云うのに、態々彼方さんの方から話し合いを。と申し出てくれたのだ。

 これに乗らない手は端から無いだろう。


 そして。特に何が、等と余計なことを考える必要も無く。

 いや、如何に熟考を重ねに重ね続けた挙げ句、脳内での迷宮入りの無限ループを繰り返してみせようが。


 この結論自体が、そもそも変わりはしないだろうことは。


 (別に責任放棄やとか、そげん(そんな)やなかけん(じゃないから)。どう考えたっちゃ、こりゃ”要相談案件”に決まっとーばい!)


 ……しっかりと脳内で自己保身用の理論武装(いいわけ)をした上で。(おおとり) (そう)が下した最終判断は。


 「ヴィーラ……やったっけ? 悪かばってんが(わるいけれど)、ちょっとここで待ってくれんね? 今からアタシ()仲間ば呼んでくるけんしゃ(からさ)……いや、こん隙に逃げるとか。戦力ばかき集めてくるとか。そげんつもりは欠片も無かばってん(ないけれど)。正直に言うと、アタシだけじゃなんも決められんっちゃ」


 人間、切羽詰まってくると。

 途端に早口になり、妙に口数が多くなってしまうものだ。

 実際、蒼は。半ば混乱した状態のまま、何とかヴィーラにも納得して貰える様な妥協案……いや、この場合は、


 (後から『丸投げだーとか』みんなに言われたっちゃ、もうそ()で良かばい!)


 完全に”丸投げ”を決め込む方向で考えていた様だ。


 「……ああ、全然構わないよ」


 異形の女は。翼を背負った妖しい人間が急に早口で捲し立ててきたことを特に訝しむでもなく。

 ただ素直に、頷いてみせた。


 (……まぁ、彼方(しゃ)んにとって。アタシなんかば特に警戒する必要も無かってか……そいだけ()()()()けん、仕方無(しょんな)かかばってんしゃ)


 あっさり背後を取られる”無様”を晒した経験は。

 恐らくは。(いのり)と初めて出逢った時、以来だろうか?


 (あんハゲが、祈ん師んひとりやとは。あん時知らんやったけん、屈辱に感じたもんやったが……)


 その弟子にすら()()()()。そんな現実を思い知らされて、双子たちは。


 (────ああ。そうか)


 ()()()()()()()()()()()のだ。自分たちは、強くなることを。


 『負けた』という事実を。

 あの時、悔しいと思わず。当然だと受け入れてしまったせいで。自分は弱くなったのだ。


 (アタシは、強うなりたか。今更かも知れんばってん……)


 せめて気持ちだけでも。もう一度、若かりし当時(ころ)に戻ろう。

 蒼は、両の拳を力一杯に握りしめた。



 ◇ ◆ ◇



 本来であれば。


 祈だけでなく、仲間たちの全員で”アスラ”のヴィーラとの話し合いの場を設けるべきなのだろうが。


 「ごめんなさい。本当は、此処にもうふたりの仲間も同席させるべき、なのでしょうが。生憎と……」

 「いいや、気にしないでくれ。本来であれば貴女たちに対し、我らの方こそが礼を尽くさねばならぬ立場、なのだから」


 とある集落の、その路地裏の片隅で。

 千寿(せんじゅ) (すい)が点てた抹茶を喫み、聖屋の饅頭を摘まみながらの。ささやかなる茶会だ。


 「────苦い」

 「そこですかさず、お饅頭をどうぞ。丁度良き塩梅になりますので」


 遠き異国の地で、異種族との異文化交流。


 (……なんね、これ?)

 (気にしたラ不好(ダメ)ヨー、蒼。人間、負けタラ負けネ♡)


 ────訳判らんわ。


 何処か悲壮なヴィーラの表情から、深刻(シリアス)な話が始まるのかと身構えてみれば。


 「眉間に皺を寄せて真剣(マジ)になって話し合ったってさ、楽しくなる要素なんか欠片も無いんだから。少しくらいは、”お楽しみ”があっても良いと思わない? 蒼ちゃん」

 「まぁ、確かに。聖屋ん”紅葉まんじゅう”は、美味かばってんしゃ……」


 聖屋の紅葉まんじゅうは。しっとりとした甘めの生地と、こしあんとのバランスが絶妙だと大好評の、尾噛(おがみ)領の新名物だ。


 「……うちのとっておきの()()()でしたのに……主上。この怨みは相当に根深いものとお覚悟を」

 「だから、ごめんて。ちゃんと後で埋め合わせしたげるからさぁ」


 ────きっとですよ? 絶対ですよ? 期待を裏切ったりなさったら、うちは全力で呪いまする。


 従者からそう何度も念を圧されるくらいには。こういう時の祈の”信用”は、限り無く低い。


 「だって、それは。(ひじり)ったら、母親の私でもさ。絶対に()()()してくんないし、贔屓もしてくんないんだもん……」

 「てか。仮にもあん娘は商売人っちゃけん、そいで当然やろうが!」

 「……ぶぅ」

 「祈。アンタも、もう100ば軽ぅ越えた良か歳っちゃけん。そげな子供っぽか反応しなしゃんな」


 なるだけ霊力を抑え込んでいるとしても。

 此の場に特殊な権能(ちから)を持った様々な種の亜人たちが、多く集って何やら始めたのだ。

 周囲に漂う”御使い”たちの感心を惹くには、充分過ぎる理由となるのだろう。


 ()()()()()を続けながらも、祈たちは。


 気が付けば、我が物顔で周囲を飛び回っていた”御使い”どもを一掃し。

 認識阻害と、破邪封魔の複合結界を展開した上で。


 「……さて。これで、聞き耳を立てる無粋なモノは、完全に消え失せましたし。甘い物で、双方の緊張も少しは解れたかと存じまする」


 ────では。そろそろ、本題に入るとしましょう。


 祈の言葉に。異形のアスラの娘は、苦い抹茶をもう一度口に含んで。

 その後、ゆっくりと口を開いてみせた。


 「助けて、欲しい」


 紛うことなき強者の口から漏れ出でた、真っ直ぐ過ぎた助けを求むその言葉に。蒼は大きな衝撃を受けた。


 「この地におわす”神々”は。”悪魔(マーラ)”どもの策略に依って滅んでしまった。もうこの地に”神”は、我が”アスラの王”しか残っておらぬのだ……」


 (……もしかして”八部衆”は、阿修羅王を残して。全て滅んだって云うのか?)

 (え? とっしー、それって……)


 霊糸に乗った俊明(としあき)の焦燥が伝わり、祈にも大きな動揺が走る。

 仏を守護せし八つの王、(てん)(りゅう)夜叉(やしゃ)乾闥婆(けんだっぱ)阿修羅(あしゅら)迦楼羅(かるら)緊那羅(きんなら)摩睺羅伽(まごうらが)……


 神々の闘争に敗れた”存在”は。

 人々の間から、概念そのものが薄れて消える。


 (祈、こりゃかなり不味いぞ。もうこの世界で”八部衆”は喚べなくなっちまった……)


 ヴィーラが告げた事実、それは即ち。

 知らずの内に、祈は。自身の持つ式神”八部衆”という強大な戦力を、完全に喪失したと云う凶報となったのだ。



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