第403話 守護霊生前むかしばなし
「海は広いな、大きいなっ♪ っと」
「ご機嫌だね、とっしー?」
結局、<跳躍>の”目印役”を当番制にすることで。
ぐだぐだ過ぎた貧乏くじの押し付け合いは、一応の解決をみた。
「────そりゃあ、な? 船旅なんてなぁ、早々経験できるモンじゃねぇんだからよ」
「まぁ、普通考えたらそうだよね……」
この世界、この時代に於いて。
船こそが、乗り物の王と云っても過言では無いだろう。
地域に依っては。未だ車輪すら自力で製造する技術力すら持たぬ国も多数ある。
本来、この世界とは。未だその程度の文明レベルしか持ち合わせていないのだ。
<海魔衆>を名乗る以前の妖狐族に生まれた三人の天才たちは。
他の世界で生きてきた記憶と、そこで培った技術力を持ったまま”転生”を果たした者たちだった。
そのお陰で妖狐族たちは。この世界、この時代に於いて。最高最強の艦隊を持って世界の海に乗り出せたのだ。
「この<九尾>は特に。俺の世界にあった帆船よりも、性能はそれ以上かも知れない」
現代地球の技術レベルで造り出された帆船は。
必要最小限度の人数でも運用できる様、緻密な設計の下製造されるが。
「この艦の竜骨に使われている神剛鋼なんてデタラメ過ぎる金属は、そもそも地球上にゃ存在しなかったからなぁ……」
硬いだけの金属ならば、超硬カッターで主に用いられるタングステンやコバルトの合金に代表される様に、確かに地球にも様々な種類が存在するが。
「耐熱性、耐腐食性、対摩耗性にも優れ。それでいて、ただ硬いだけでなく、金属特有のねばりすらも残そうと思えば可能だとか。そんな嘘臭過ぎる工匠にとっては、まるで夢の様な素材なんかが。本来あってたまるかよ……」
「……なんだか。色々屈折してンね、とっしー?」
とある世界の”勇者召喚”に見事引っ掛かり、墜ちた先では。
「────”世界の法則”の。その根本が違い過ぎたせいで、呪術の大半が使えなかったとしたら。お前さんならどうする?」
「え? そうなったら、魔術と剣術で何とかするしかない、のかなぁ?」
呪術、剣術、魔術の。
それぞれの第一人者たちの師事を受けてきた祈ならば。
「確かに。お前さんなら、間違い無くそれでやっていけるンだろうがなぁ……」
一応、あの世界では。
ほぼ最低レベルではあったが、魔術の素養を持っていたお陰で。
「生前、囓った程度だったが、剣術もそれなりに扱えたから。魔王と殺りあって、何とか生き残ることができたんだが……」
旅の間で、一番力の支えになったのは。
「こっちの技術、なんだよ」
そう云って、祈の守護霊その1、”最凶の呪術師”俊明は。
金槌を振るう仕草をした。
「それって。”武”の尾噛の証の太刀を作った時の……?」
「そそそそ。あの世界での俺は、”勇者”ってぇよりか。どちらかと云えば”技術者”だったのさ」
◇ ◆ ◇
「……やはり、あの様な”猿”如きには。我らが聖剣なぞ扱えもせぬか」
「いいえ、王よ。聖剣は、むしろ……」
あの者の秘めたる力に、怯えている様に。わたしには思えてならないのです……
如何に欲に塗れた生活をしてきたとはいえ、一応は高位の神職のたる枢機卿には。
己が権力の源泉たる教会が、管理・維持してきた”聖剣”の意思を。朧気ながらも感じ取ることができたのだ。
だが、それを正直に口にしたところで、多大なる犠牲を払い召喚した勇者の容姿が気に入らぬ。ただそれだけの理由で、王の不興を買ってしまった彼の擁護にも取れる発言を此処でしたら……その後のことを考えると。
(その様なつまらぬことで、もし王の機嫌を損ねてしまったら。私の将来も、同時に潰えてしまうやも……?)
もし仮に、あの勇者が。魔王を駆逐したとしたら?
近いうちに教皇選挙が行われる筈だ。
その時、この国の王の支持を失っていた場合。時期教皇の座は絶望的になるだろう。
「……聖剣は。未だ目覚めの時を迎えておらぬ様子。その間、勇者どのには、我ら”教会”が代わりの剣を授けるといたしましょう」
「……ふんっ! 聖剣に選ばれもせぬ猿如き。何が”勇者”かっ!!」
◇ ◆ ◇
「……ま。そんなことが裏であったらしくてな? 手渡された得物が、まぁ酷いモンでな……」
「うっへ。勝手に喚んどいて、本当に酷いねぇ」
王はガキの小遣い程度すらも出すのを渋るせいで。
買い換えすら儘成らない状況では。最終的に自炊する他は無かったのだ。
「────ま、そのお陰もあって、最終的に。お前さんが今装備してる、その具足一式とか。そこまで造れる様になったンだけどな」
「とっしー、なんか凄い苦労してきたんだね? でも。これ、本当にありがとうね」
「待ちなさい、イノリっ! それの制作には。あたしも深く関わっているのだけれど?」
守護霊その3、鬼の大魔導士マグナリアも。
自身の身の回りの様々な装備品を賄う為に、工作技術をずっと磨いてきた人間のひとりだ。
「まぁ、コイツの場合は。一々呪文を詠唱するよりも、殴った方が手っ取り早かった。ってだけなんだが……」
「黙らっしゃい!」
元々、魔導士らしからぬ優れた身体能力を誇っていたマグナリアは。
「既製品だと、そんなに長く保たなかったのよねぇ……」
手にした刃物を、次々に壊しては鋳潰して。次に鈍器として再利用。
愈々、それもダメになったら、最後は投擲用途で……と。経済的にも、環境的にも、序でに云えば世間的にも。あまりよろしくなかったせいで。
「だったら。もういっその事自作しちゃいましょうって。でも、今のあたしなら、もう少し賢い立ち回りもできたのではないかしら……?」
「さて。それはどうでござろうか、マグナリアどの?」
守護霊その2、無精髭の”剣聖”武蔵が。
当時の大魔導士の様子を振り返り、静かに語りだした。
「だよなー、武蔵さん」
遂に手持ちの武器が無くなってしまった時、マグナリアは。
『ああもうっ、面倒ねっ! 今からあたしの得物は、あなたたち自身よっ! だから、大人しく真っ直ぐ立ってなさいなっ!!』
手近の魔神の足を掴み、それを大雑把に振り回して。
「一昔前に流行った無双ゲーみたいだったなぁ。あン時の光景は……」
「鬼神とは、恐らく斯様な者のことを云うのだと。拙者、あの当時は。肝の芯から震えが込み上げましてござる」
「まっ! この男どもときたら。ひとりの淑女を捕まえて、何て口をっ!!」
気が付けば三人、いつもの様に賑やかに。
「……ホント、皆がいるから。退屈だけはしないなぁ」
「祈しゃま。そろそろ交代のお時間でございますよぉ?」
そこに祈たちも輪に加わり、地平線にまで笑い声が続いていった。
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