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第4話 妾がやりました。





 尾噛おがみ家は武の一門である。


 尾噛家初代”駆流かける”の手で、永きにわたり国を荒らし、多くの民を苦しめてきた邪竜を征し興した由緒ある武家である。


 その際、駆流が竜の血を浴びた為に、強大な竜の力を得たのだと口伝にある。


 尾噛の家に生まれし者は皆、恐ろしくも強大な邪竜の化身なのだ…と。



 「くそっ、くそっ、くそっ……何故じゃ? 何故あやつは、まだ生きておるのじゃ!?」


 女は苛立ちと焦りを、近くにある物全てに手当たり次第にぶつけていた。


 尾噛家が封ぜられた地だけに留まらず、国中から高い能力を持つ呪術師を大量に囲い願ったのに。


 標的は狙い通りに、確かに目に見えて衰弱していたのに。


 ようやく邪魔な女がいなくなるとほくそ笑んでいたのに。


 一昨日、何故か急に呪術師共が全て倒れたと間者から報告があった。



 呪詛返し



 恐らくは呪いが失敗した為に、その効果全てが術者に反転したのであろう事は、その道に僅かながらも知識のある女にも理解できた。


 では、何故失敗したのか?


 一人ではない。これ以上無いと自信を持って言える程の呪術者を幾人も集めたのに。


 あちらにはそれ以上の力を持つ能力者が、こちらの集めた規模をより大きく上回る人数で向こうにいるという事。


 標的であるあの女にそんな能力も、そんな考えにおよぶ気力も無いはずだ。無かったはずだ……



 「まさか、まさか…お舘様に気付かれたのでは……?」



 女……布勢ふせは焦っていた。


 いくら現在次代当主に一番近いであろう長子”のぞむ”を三年前に産んだとはいえ、布勢は側室であり、そしてただの人類種なのだ。




 尾噛の血筋にのみ現れる特異な姿。竜と見紛うが如き角と逆鱗、四肢を覆う鱗…


 標的である祀梨まつりは、分家の出ではあるが、尾噛の血を受け継ぐ歴とした竜鱗人であり、正室なのだから。



 祀梨懐妊す。



 その報が流れた時、布勢の足下が音を立てて崩れるかの錯覚を覚えた。



 あちらは正室なのだし、なんだかんだと自分もやることをやってた訳だし、当然と言えば当然であるのだが……


 一度死産をして以降10年近く、その様な話が出なかった為に、祀梨は子を()()()()()()になったのでは……等と使用人の間で密かに噂されていたのだ。



 それがどうだ?



 もし祀梨の子が男であった場合。


 より濃く、より強く尾噛に流れる邪竜の血が出るであろう。


 そしてその事で、次代当主の母の地位が失われるのは明白である。



 更に家の呪い師が、「祀梨の子は初代を超える大器になるであろう」と言い放った。



 それに気を良くした当主”たお”の顔を思い出す度に、布勢の心に更なる憎悪が燃え上がるのだ。




 とはいえ、もし当主にこの謀が露見した場合……


 最愛の息子である望だけでなく、自身の命すらも失う事に今更ながら気が付いた布勢は、途轍もない後悔に苛まれる。



 祀梨が憎い。


 妾の望む欲しいもの全てを持っている惰弱なだけのあの女が憎い。


 しかし、今は耐えるしか無いのか。


 でも、もし……


 貴奴に男の子が産まれたら……?




 初代を超えるやも知れないという、大器が……


 ただの人間種である布勢の血のせいで薄まってしまった息子では、継承順位が確実に入れ替わるだろう……


 憎い。


 心底あの女が憎い……



 憎い憎い憎い憎い憎い……



 憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎




 憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎

 憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎

 憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎

 憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎……



 ……だが。



 ほんの少し冷静になって考えてみたら……動機からしてバレバレ過ぎるのでは?



 「不味い、不味い、不味い……消せっ。”痕跡”を消すのじゃ! はよぅ、はよぅ全て消してくるのじゃあああああああ!」



 「ん~? ありゃりゃ。やっぱ反転しちゃってたか」

 「狙わなくても呪詛返し、成っちゃったみたいね♡」

 「これで当分は、安心安全でござろうか?」


 「ま。どうせ、すぐに何かしら仕掛けてくるだろうけどな。喉元過ぎれば何とやら……という言葉も、昔からある訳だし、なぁ」



誤字脱字あったらごめんなさい。

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