第399話 五芒星の輝き
これを書いてる本日(2025/10/25)、一瞬だけハイファンの日間300位以内に当作品がランクインしていたそうです。
大変ありがたいことです。厚く御礼を申し上げます。
「……<麒麟>さん。これで良いんだよね?」
『うむ。これで千年の間は、この列島に”魔”は入っては来れまいて』
<五聖獣>に請われ。
尾噛祈を筆頭に、雪 琥珀、楊 美龍、千寿 翠、斎王 愛茉の精霊神に祝福され”半神”と化した女性たちは。
「しかし。何て言うか……<精霊神>と息を合わせて同じ術を行使するっていうのは……色々と勘違いしちゃいそうで、なんか怖いなぁ」
『いや、それは汝の”勘違い”などではない。我ら自然神と歩調を合わせてこうも巨大なる陣を形成できたことをむしろ誇るが良い』
<五聖獣>の中でも、中央に座す<麒麟>は。
陰陽の、相反する属性をも内包し。更には、四門を司りし<青龍>、<白虎>、<朱雀>、<玄武>を総括し、また庇護する存在でもある。
────然して、実際は。
とある世界の、とある皇帝が。
この世の全てを手中に収め。愈々精霊神の名と実績をも掠め盗らんと企み、傲慢にも”神成り”まで果たした、卑しき盗人の如き所行の果て────に過ぎぬのだが。
『汝も、何時の日にか。この”四門”の中央に座す資格を、得るのやも知れぬな』
<麒麟>の言葉に、祈はというと。
「勘弁して欲しいなって云うのが、正直な感想です。私はそんななってまで、仕事したくなんかないなぁ……」
『ほっ、ほっ! それで良いわ。苦心の末”神成り”を果たしたとて、後は無間の地獄なり。我も少しだけ。神の名を掠め盗ったこと、実は後悔しておるのよ』
元々<四聖獣>であった精霊神は。
現象、それぞれの概念が”神”として形を得た果てだ。
だが、<麒麟>は。
偽りの”概念”を、強引に人類史の中に織り込むことで、何とか”神”として下駄を履いただけの存在に過ぎぬ。未だ彼は、神として修行の日々を過ごしていかねばならぬのだ。
『────だが、まだ我はマシな方であろうよ。56億7000万年の時を定められたとある仏に比ぶれば……』
地上へと降り立ち、そこで人類の救済を約束した弥勒菩薩は。
釈迦入滅後、真の仏と成り仰せるまでに。彼は56億7000万年もの間、修行の日々を過ごさねばならないとされる。
人々の数々な”想い”によって発生した神々たちは。
そうした”概念”に縛られて、漸くその存在が赦されている。
『汝もまた、そうした人々の”想い”によって。果ては我らの<祝福>をも超え、独自の”神格”を得るやも知れぬ。そう云う話よ』
人の口に、戸は決して建てられぬ。
噂が一人歩きして、新たな”概念”が育つのは。言葉と知性を得て、繁栄を重ねてきた人類の、謂わば”業”なのだから。此ばかりは仕方が無い。
「……うへぇ。できればそれは。私と同じ名を持つ別の存在であって欲しいなぁ……」
だからこそ、一人歩きで好き勝手に成長した”概念”と、自身の魂を結びつけられるのだけは勘弁願いたい。
「それってさ、完全に。墓場から叩き起こされる様なモンじゃないかなぁ……って。『静かに寝かせといてくれよ』って。私なら絶対怒るだろうなぁ」
自らが望んで神へと成り仰せた<麒麟>には、竜の娘の真意は凡そ理解の範疇にはなかったが。
それはまだ。
『────我にも。”人”の心が残っておると云うこと、か』
そのことが妙に嬉しく感じるのもまた、人の心の成せる業だろう。<麒麟>は首を伸ばし嘶いた。
『今この時よりっ! 我、四方を守護せし四門の中央に座す、我<麒麟>がっ!』
『東方を守護せし、風を司る、この我<青龍>がっ!』
『西方を守護せし、土を司る、我<白虎>がっ!』
『南方を守護せし、炎を司りたる、我<朱雀>がっ!』
『北方を守護し、水を司りたる、我<玄武>がっ!』
それぞれを五芒星の頂点とし、今正に発動した<破邪聖光印>に。
『『『『『<五聖獣>の名に於いて、永久となろう平安の祝福と祈りを、捧げんっ!!』』』』』
四門を開いた精霊神の祝福が、円を描いて重なり。
祈の守護霊でもあり、最強最凶の呪術師でもある俊明が授けた、絶対破邪の結界の聖なる光は。
列島全土だけでなく、中央大陸の一部をも巻き込み。
住人たちの中には、急に発生した眩き光を不気味に思い、一心不乱に自身が信仰する神へと縋り祝詞を唱えたが。
その光は。邪に属する生き物たちを、等しく灼き尽くし。
その光は。聖に属する生き物と、少なくとも邪ではない者達には皆等しく、春の陽光の様に暖かく包み込んだ。
『範囲内に於ける全て”魔王”の消滅を。今”観測”したわいな』
『ざまぁっ! 此で、最低千年は。安気に寝て過ごせるってぇモンよっ!!』
『少なくとも。我らも此の世界に対する”義理”は、完全に果たしたであろうて』
『愛しき我が子と、その同胞らよ。此度の働きにより。此より千年の繁栄を約束しよう。生きよ、今を……未来をっ!』
光が失せると共に。精霊神たちも”異界”へと還っていったらしい。
中央に座す祈は。
「────さて、みんな。帰ろうか”我が家”へ……」
霊糸で繋がった経路を手繰り、家族たちに声をかけた。
◇ ◆ ◇
「……最近、アタシだけ。ずっとこげん扱いばっかりばってん、なしてなんやろうか?」
一仕事を終えて。
何処か充足感に包まれながら、懐かしき”我が家”へと帰ってきた祈たちを待ち受けていたのは。
仲間はずれの置いてきぼりを喰らい、完全に拗ねてしまった白翼の友人の仏頂面だった。
破邪聖光印は。
術の発動に要する時間と効果が、術者たちの霊力の総量に比例し。範囲に反比例するというその性格上。
「……此度の一件。蒼さまでは、完全に力不足にございましたので。<玄武>が止めました」
「ぐっ」
”役不足”の誤用を使うこともなく。翠が拗ね倒している蒼の自尊心ごとばっさりと斬り捨てた。
術の根幹を、呪術師である祈が担当し。
四方を司る<四聖獣>がそれを囲って<祝福>し。
眷属たる四人の女性は、己が産みの親の補佐をし、祈へと霊力を供給する。
それが今回用いた”破魔結界”の、大凡の構図である。
以前、八幡の街に巣くう魔王の群れを奇襲した時の様に、それぞれの頂点に術者を配置して印を結ぶ方法も<五聖獣>の間で検討はされたが。
『各眷属と我らの属性を合わせてやった方が、恐らく効率は高かろうて』
<玄武>のこの一言により、蒼は役目の候補から外されたのだ。
────この5人の中で神秘的な能力は、自身が一番劣っている……一番自信があるはずの身体的能力も、この5人の中では。という括りにした途端、正直妖しくなるけれど。
その自覚があるだけに蒼は、ぐうの音も出す事ができない。
「それに。今この情勢下では、六芒星を出そうとすると途端に……」
「翠君。それ以上いけない」
破邪聖光印は、俊明が編み出した絶対破邪の印のひとつで。
その基となる理論が、陰陽行の五芒星に在るのだが。
「確かにそれでも結界陣は作れる。いや、確実に強固になるはずだ」
ましてや、此度の様に。四門の<祝福>までをも重ねたのであれば。
「先ず間違い無く。<五聖獣>より格上の上位的存在であっても、あれを打ち破ることはできなくなるだろう。だが────」
天使たちには。六芒星が一応”概念”の基にあたる訳、だからなぁ……
浮いてテカる皮脂を、掌で額に塗り込める様に俊明は。
「ま、用心に越したこたぁない。って、そんな話さ。蒼君も、腹ぁ減っただろ? 今日の為に特別なカレーを作っといてやったから。皆で喰おうぜ?」
マグナリアの胸の谷間に腕を突っ込み、炭とタンドールを取りだして。
「ま、今からナンを焼かにゃならんから。ちょっとだけ待ってて貰うけどな」
「新作ですかっ?! それは期待でお腹が鳴るってモンですよ、俊明さんっ!!」
「良いお乳は、良い食事カラだって。美美そう乳母さんたちから訊いたネ。可愛い我が子の為に。全力で食い尽くすヨーっ!」
「それだけは、うちの胃袋が阻止します」
「……本当にアンタらは。ほれ、仲良うしろとまで言わんけん、喧嘩せんとって。アタシにも喰わせんしゃい」
<五聖獣>に請われ、皆で動いた今回で。
(平和になったのなら、きっとそれは。とても喜ばしいことだよね?)
それが、中央大陸の一部の地域と。列島全土だけで。
この世界を覆うには、あまりにも限られた極一部の狭い範囲でしかないのだが。それでも────
”なんでもない”。ただ、この幸せを。
────噛み締めていたい。
そう思う祈だった。
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