第397話 で、それからどうした?
「で、祈。結局美龍君には、誰の”因子”を渡したんだ?」
一応は”女子会”と云うこともあり、祈に憑く三人の守護霊の内、男性の俊明と武蔵は、席を同じくすることを遠慮したために。
「……マグにゃんに聞いて。ひとりで色々と考え過ぎちゃって、もう疲れちゃったからさぁ」
────正直に云うと、このことに付いては。もう考えたくないし、関わりたくもない。
そう云われては。俊明たちも、ただ興味本位だけで、無理に追求できなくなってしまう。
「で。どうなんだ、マグナリア?」
「えぇ? トシアキ。貴方、本人を目の前にしてそうやって平然と訊けるのは、かなり無神経ではないのかしら?」
「ですが、マグナリアどの。如何に我らがこっそり内緒話をしたとて。祈どのには、ほぼ筒抜けにござろうて」
祈は、霊魂に直接触れて、会話もできる。
更には守護霊たちとは、常に霊糸で繋がっているのだ。お互い、内緒話とは縁遠い環境にあると云っても過言ではない。
「……だったらさ。もう解ってるんじゃないの、ふたりとも?」
「いや。俺ら努めて情報を遮断してたンだから。当然、知り様がねぇってばよ」
「然様。”じょしかい”なる物に、我ら男衆が関わる無粋だけは。抑も、あっては成らぬことにござれば……」
あまりに必死に弁明する男衆ふたり組の顔を見比べて祈は。
マグナリアに向けて小さく頷いてみせた。
自身の分け御霊と”因子”を用い、新たな分身を造り出すと云うのだから。それは────
「美龍君とその”因子”の間の子となる訳だ。嫉妬深い祈なら、幾ら請われたとしても祟の因子を絶対に出さないのだけは、予想は付くが……」
「そうね。イノリは、マチの髪の毛を渡したみたいよ?」
「なるほど。真智どのにござるか……」
祈と祟の間に生まれた真智は。
恐らくこの世界で、最も優秀な一般人だろう。
実際、真智が尾噛の家督を継承してからというもの。
”倉敷”とその周辺の地は大いに繁栄し。人口は倍以上にも伸びて、民を一度たりとも飢えさせたことはない。
「確かに、あいつの因子からなら。さぞかし優れた眷属が生まれることだろうな」
「然様にござるな。これにて<青龍>の血脈も、安泰にござろうて」
無邪気に笑う男衆の反応を見て、祈は。
「────何でかな? 私は胃の辺りに、こう。モヤっとしたモノが溜まっている様な……なんか、言葉にしにくい妙な不快感が、さぁ……」
何時になく不機嫌な顔で。不貞腐れた様な声で返事をした。
「ああ、それは。真智が妻帯者だから。じゃねぇかな?」
美龍が自身の生涯の相方として、新たに此の世に造り出すのは。
「それってば事実上、美龍と真智の子にあたる訳……だからなぁ」
「────ああ。だから、かぁ」
これが、未だ相手の居ない十二男の受利だったならば。
もしかしたら。形容し難き不快感に、祈は悩まされずに済んだのかも知れない。
「そっかぁ。硯ちゃんに何も相談せず、勝手に決めちゃって。今頃になって申し訳ない気持ちでいっぱいになって……」
硯は、真智の正室だ。
平民の出である硯を迎えるにあたって、周囲から猛反発を受けたせいで。逆に真智が本気になったのだと云う逸話もある。
それくらいに真智はベタ惚れしていて。その夫婦仲は、彼らの様子を見た周りが、砂糖を無限に吐き続けるくらいには良い。
「……ま、やっちまったモンはしゃーねぇさ。それに真智ひとりの”因子”だけを材料にする訳じゃねぇンだろ?」
「材料って。実はそれがさぁ……」
琥珀は、
「なんだか、ウチの可愛い子たちが穢れてしまいそうで嫌です!」
と、断固拒否の姿勢を見せ。
蒼は、
「お前に提供でくる”因子”ん充てがありゃあ。アタシは未だおひとりさまなんか、やっとー訳なかろ?」
などとやさぐれた顔で酒を呷り。
翠に到っては。
「うちも、娘たちも。例外無く、属性:水/冥の。<玄武>の眷属でございますので。極論、”混ぜるな、危険っ!”と云う奴にございましょう。焦って一般人の因子を組み込んで。大事な<五聖獣>の血を、精々劣化させないでくださいましね?」
口は出すが、協力は一切しない。と、無慈悲な言葉を投げかけたのだと云う。
「まぁ、なぁ……素直に翠君と同じ手段を採ってりゃ、こんなややこしい事態にゃ、なってねぇかんなぁ……」
「ねー?」
派生クローンを創るだけならば、直ぐにもできるのに。
さらに一手間掛けた上で、そのクローンと子作りをしたい。ともなれば。
「”迂遠で不確実”。かぁ……翠の言葉の意味。私、今になってようやく理解出来た気がする」
「分け御霊で作成した分体は。先ず間違い無く自身で決め撃ちした通りの能力値になって生まれてくる訳。だからなぁ」
分体を選択した場合。多少の誤差はあるだろうが、ほぼ設計通りの分身が出来上がる。
対して、実際の生物が行う繁殖行為では、
「良い意味でも悪い意味でも。”想定外”が起こる可能性が、どうしても捨てきれない以上。確実を求めるきっちりした性格の翠君には。理解できないんだろうさ」
愛しき人の血を引き、さらには自身が腹を痛めてまで育んだ子どもたちが。
「産まれてくるその瞬間は、いつも不安だった。幸い、皆五体満足に生まれ、そして健やかに育ってくれて、今はほっとしているけれど。今でも偶に夢に見るんだ。もし、あの時、あの子たちに。何かが欠けていたら────とかさ」
分け御霊による分体の作成では、絶対にあり得ない不正が起こる危険性が、生物の繁殖に於いては常に伴う。
「翠君でなくとも。そんな危険を冒してまで態々……とは、確かに思いたくもなるよな」
「うん。私も、不安に駆られた日々を生きるのは、確かにキツかった」
「……なのに。24人も、かぁ。本当にご苦労さま。だったわね、イノリ」
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