第396話 竜のお相手
「ごめん、ごめん。美龍。別に貴女の相談の内容が、クっソ面倒だなぁ……だなんて。欠片も思ってなんかないからっ!」
「いっ。い、いいい祈しゃま? 本音が駄々漏れですぅっ!」
────あ。いけない、いけない。
こういう時、嘘を吐けない人間性は、果たして。褒められるものなのか、どうなのか?
(割と難問じゃないかっテ、美美は思うネー)
実際、自身がかなり面倒臭い話を周囲に持ちかけている自覚があるだけに。
遠く別方向へと逸れたまま、一向に帰ってくる気配のない話題に。多少の不満はあれど、それで嘆き喚く様な気分にもなれないでいた。
「貴女の”お相手”を探す手伝いは、確かにできると思うけれど。でも、貴女はそれで良いの?」
この場に居る5人の中で、経産婦は。
……いや、正確に経産婦と云えるのは、祈と琥珀のふたりだけだ。
祈は、周囲を派手に巻き込んだ大恋愛の末に結ばれて。
琥珀はと云うと、祖母にあたる<白虎>が集落から適当に若者を見繕ってきた見合い結婚だ。
「琥珀は、旦那さまに些かの不満も……も…………ごめんなさい。やっぱり、嘘は良くないですよねぇ」
方や、村長の娘であり、守護神の孫。
方や、ただの平々凡々の、平民の男。
余りにも出生と身分が違い過ぎたふたりの間には。
未だ、旦那である虎桜の心の奥底に、色々と蟠りが燻っている様で。
「……琥珀、と。何気無い、ただそのひとことが、わたしは欲しいのですが……」
「そればかりは。ちょっと難しいかなぁ……?」
人の心の問題は。
赤の他人が、とやかく言い募ってみた処で。余計に拗れる事は、儘在るけれど。何の解決にもなりはしない以上。
「でも、でも。祈しゃま。すでに琥珀は、一姫二太郎を産んでおりまする。虎桜さまったら、やることはやっていらっしゃるのですから。そろそろ慣れて頂かなくては……」
「てゆか。ちょっと待って、琥珀っ! それこそ、他人がとやかく言える範疇を、軽く超えてるでしょうがっ?!」
叫び混じりの祈のツッコミに。
特に完全に外様となっている蒼などは、半ば地蔵の心持ちで聞いていたが。
「……やっぱり、アタシも。男が、欲しかぁ……」
思わず、ポロっと。そんな言葉が漏れた。
◇ ◆ ◇
「……つい興奮して、散々に妙な事を口走ってしまいましたぁ。本当にお恥ずかしい限りで」
「誠に。お恥ずかしい話でございましたねぇ。琥珀さま?」
「翠ってば。相変わらず、容赦ってモンが無いなぁ……」
ずっと美龍そっちのけのままで。
一度修正が入った筈の会話の筋道が、また明後日の方向へとカッ飛んで行き。全く戻ってこない状況に。
「……おい、美龍。アンタ、そろそろ怒っても良いんじゃないか?」
「……大丈夫ヨー。美美、もう半分この話は諦めてるからネー」
そう本人に言わしめさせてしまっては。
「……ホント、ごめん。じゃあ、もう一度話を戻すけれど。”お見合い”でも良いんだね、美龍?」
「ううん。最初からお見合いなんてしなくて良いヨー」
「うん? どういうことです、美龍??」
お相手は確保したい。
でも、出逢いの機会を作る必要は全く無いのだと、きっぱり美龍は云うのだ。
どの様な意図があってのことなのかと、一同は首を捻った。
「────ああ。そういうことでございますか、美龍さま。随分とまぁ、迂遠で不確実な手段をお選びに……」
「なんね、翠? ひとり勝手に納得するんなコスかよ。アタシたちにも解る様に説明しんしゃい」
「ああ。大丈夫ヨ、蒼。ちゃんと美美ガ説明するヨー」
喉を枯らすほど興奮してしまったのか。
琥珀は、皆の茶を煎れ直して。自身の湯飲みを一気に煽った。
「……ふぅ、落ち着きました。では、美龍。どういうことなのか、説明してくださいませ」
「うん。美美はネ、子作りの相手を、美美自身の手で創るつもりなのヨ。で、相談と云うノハ……」
ひとことで”単為生殖”と云っても。
「何も手を加えなけレバ。もうひとり美美が増えるだけネ」
方法は、幾つも在る。
翠が産んだふたりの娘、藍と瑠璃の様に。
魂に少しだけ手を加え、異なる経験を積み重ねて新たな個性の誕生を期待するやり方に。
「でもネ、別生物の因子を混ぜて創り上げた派生克隆ナラ。それはもう”別人”ヨー」
「で、貴女は。その派生クローンとの間に……」
美龍の選ぼうとする方法は。
「────ばってん、それって。自分の子供と子供ば作るってことやなかとか?」
どこか疲れた様な声で、蒼は美龍の考えに指摘する。
ある意味、これは。生物学上の禁忌に抵触する行い、だろう。
「正直に云うと。派生クローン? っていうのを創った段階で終わりにしちゃ、ダメなのかしら?」
「うん。主さまの云う通り、きっとそれでも良いンだろうケレド。できれば、美美も……」
────お腹を痛めて、自分の子を産んでみたいヨ。
そう云われては。
(だったら……とか。琥珀の頭の中では、色々なツッコミどころが満載過ぎて。どうしましょう、祈しゃま?)
(……やっぱり、本人の好きにさせてあげるしか無いんじゃないかなぁ?)
(アタシは、もう何も云えんばい。『最初から男を探せば良かたい』……なんて云うてしもうたら。全部自分に跳ね返ってくるとばってん)
(正直うちは。捻くれているな、としか……)
翠の身も蓋もない総評を無視して祈は。
「……それは良いけれどさ、美龍? ”相談”と云うのは、もしかして……?」
「是。皆には”因子”の提供を、お願いしたいのネ♡」
────此奴。『祟さまの因子を寄越せ』とでも言いやがったら、絶対に全力で殴ってやる。
変なところで嫉妬心をメラメラと燃やしつつも、祈は頷いた。
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