第395話 竜の帰還
「我回来了ー♡」
「おや。随分と長い道草でございましたねぇ、美龍?」
一度故郷に戻り、幼馴染みに逢ってくる。
そう云って”倉敷”の地を発った美龍は。
「对不起。でもネ、美美にも色々あったんダヨ-」
「……まぁ。きっと貴女のことですから、込み入った事情があったのだとは思いますが、それでも……」
────念話の経路なら、私たちの間では、何時でも繋げられるでしょうが。
そう同僚に指摘されてしまえば、美龍は何も言い返せなくなってしまうのだが。
「うん、それも含めて。主さまや皆にも報告と相談があるンだーヨ」
「……相談? 他人の迷惑顧みず。思い立ったら即行動の貴女らしくもない……」
この機会を逃すものかと。指折り数えながら、雪 琥珀は。
美龍のせいで今までに被ってきた数々の”迷惑ごと”を、時系列で並べ立てる。
「……何か美美。琥珀に、色々とディスられてる気がするヨー」
「思いっクソ真実だけを、貴女にお伝えしているのですが。それでなにか?」
両手の指をゆっくりと全部折りきるくらいの時間をたっぷりとかけて。
無言のまま、ふたりはにらめっこを続けたが。
「────やめましょう。どうにも久しぶり過ぎて。貴女とどうやって喧嘩をしていたのか。上手く思い出せません……」
「奇遇ネ。美美も、琥珀をどうやっておちょくっていたノカ。良く思い出せないーヨ」
今までの付き合いだけで云えば。
並の人間種の人生よりも遙かに長い時間を、同じ人物を主と仰ぎ。同僚として共に過ごして来たと云うのに。
たった一年と少し離れていただけで。
「こうも、調子が狂うモノ。なんですかねぇ……?」
「ネー?」
調子が外れ、妙に歯車が噛み合わず。
そして気が付けば、何処か空回り。
どうやら、以前の調子を取り戻すには。
今暫しの時間が、ふたりには必要の様だ。
◇ ◆ ◇
「……そう……」
美龍の身の上話を全て聞いた祈たちは、と云えば。
「……正直な話、さぁ。美龍、貴女にどんな言葉を贈ってあげれば良いのか。私は全然解んないや」
「です、ねぇ……琥珀は、出生に関して云えば。世間一般の通り、まぁ、”普通”でございましたので……」
「美龍さま。( ´ ▽ ` )人( ´ ▽ ` )ナカーマ」
「翠。頼むけん、アンタは人の言葉で喋りんしゃい」
「(´・ω・`)」
基本、場の空気を読んだ上で、フォローの一切をしようともしない翠でも。
今回の美龍の話は。流石に色々と重く受け取ったのだろう。
何時になく”変”だった。
「謝謝ネ、翠。でも、皆気にしなくて良いヨー。元々、美美は気にしてナイナイ。ンでネ、それよりも────」
「「「「も?」」」」
少し温くなった緑茶を一気に煽り、美龍は。
「美美の、子作りのお相手。これからどうやって確保しようカナ。っテ……それが、皆への相談ごとネ♡」
これ以上無いくらいに、顔を真っ赤にして。小さくか細い声で、可愛く呟いた。
祈の配下の中でも、未だおひとりさま人生を貫く鳳蒼に云わせれば。
「今更そげんけん。焦る必要あるとや? アタシはもう諦めたばってん」
「……そういう訳にイかないノヨー。ダッテ美美、<青龍>の直系だカラ」
後世に”精霊神”の血を残せ。
これは帝国の貴族と同様に、直系の義務なのだ、と。
そう断じられてしまえば。
「────へぇ、へぇ。アタシは所詮、眷属の成れの果ての。更には、その末裔でござんすばい」
「蒼ちゃん。何も拗ねなくてもさ……」
まるで親の敵の如く。
蒼は、聖屋の栗羊羹に齧り付いた。
「ですが、美龍さま? うちがしたのと同じ様に、単為生殖を為されば、それでよろしいのでは?」
「「……うっ……」」
その時を思い出し、祈と琥珀は口元を抑え。込み上げてくる胃液を、なんとか鎮めるに努めた。
「ああ、うん……爸爸もそう云ってたーヨ。デモ、それだト」
────もう一人、美美が増えるだけ、ネ。
単為生殖は。
単純に、自身のクローンで個体数を増やすだけの話だ。
「確かに何も手を加えねばそうなりましょうが。ですが、美龍さま。一度お考えください。<青龍>の手で創られし存在の貴女様は?」
確かに翠の指摘の通り。
<青龍>と美龍は。完全に別種の存在だ。
「てゆか。美美は、<青龍>の”劣化克隆”に過ぎないヨー。元来精霊神には、性別なんカ無いンだしネ」
如何に上位存在とはいえ、精神を持つ以上は個々のパーソナリティが存在するのは道理だ。
そこを言及すれば、確かに<青龍>は男性の色が強いのだが。
「肉体は、あくまでもオマケに過ぎない。そして、分霊だけでは、個性は創られない。そういうことかな?」
「是。翠の云う通り、分け御霊に少し手を加えテモ。結局は、細かい違いしか産み出せないヨー」
「うちの場合は、完全に育つ環境に任せました。お陰さまで、我が子ふたりは。それぞれに”個性”が芽生えておりまする」
長女の藍は、魔導局の経理一切を担当している為か、何事もきっちりしていないと気が済まない性格になり。
次女の瑠璃はと云うと。
「────身内の恥を晒すのは、少しばかり心苦しいのですが。あの娘には、内外の揉め事の仲裁や、調整役を任せきりにしてしまっていた為か。その……」
「ああ、それは真智から少し聞いてる。あの娘ってば、口より先に手が出ちゃうんだっけ?」
「本当に、我が娘ながら。お恥ずかしい話で……」
────少々の荒事には眼を瞑りますが。流血沙汰だけは、本当に勘弁してよね?
息子の懸念は”翠の娘”という、その一点に在る。
一度暴走してしまったが最後。恐らく祈か翠。その両名以外に、彼女を止められる存在が此処”倉敷”にはいないのだ。
「……祈しゃま。一度おふたりの”役割”交代させてみては?」
「上手く行くとは全然思えないけれど。一度それを試してみようか」
翠の娘たちに。
任せた仕事に依って、それぞれの”個性”が生まれた……と云うのであれば。
薄めると云う意味でも、仕事それ自体を交代させるのは。確かに”アリ”なのだろう。
「……ってゆか、主さま? 完全に美美の相談。晾在一边……」
美龍(……足して2で割ったラ、またふたりの個性無くなるンじゃないカナー?)
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