第392話 ”加護志摩”では
息抜きで始めたこちらのシリーズもよろしくお願いします
『わたしは、この世界で生きています。』
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彼の家から宮殿へと届けられた書簡は。
とある尊き家の方々が。
一、地方領主如きの足を引っ張る。ただそれだけの、下らぬ嫌がらせの為に色々と為出来してみせた、数々の証拠と。
『───我ら”尾噛”は。件の首謀者の首を所望する』
あまりに簡潔で、殺伐とし過ぎるその要求に。
本来であれば。仲裁し、互いを諫めてやらねばならぬ立場にあるが。
文の主の、怒りの程を察するに。余りに難事であることは明白だ。
で、あらば。
当事者に、これら全てを見せ反省を促してやれば。
「……どうだ。汝も、此で少しは懲りたかや?」
「……お戯れを。某は、真に祖国を憂いて現在を動いておるに過ぎませぬ。何故、新興の成り上がり者如きの影に、某が怯え過ごさねばならぬと申しますのやら……」
陽帝国の宰相職は。
代々の慣例として、”帝”を排出した家の当主が此を負う。
先帝の”宰相”は。
中央大陸での乱の折り、若き帝を庇いその命を落としたのだとの記録が残っている。
長き逃避行の末に。遠く辺境の列島の島に辿り着いた時。
帝を護る僅かな手勢と。各々、支配域と財貨を失った十数の貴族家だけが、若き皇帝に付き従うのみであった。
義父と、異母兄弟たちの尊い犠牲により、命を長らえた光輝帝は。
自身の在位中は。宰相職を永世空位にすることに決めたのだ。
乳兄弟であり、幼馴染みであり。親友であった鳳翔が側におらねば恐らくは。光輝帝の治世は、長く続くことはきっとなかっただろう。
そして、現在は光帝の治世に代わりて、既に半世紀以上が過ぎ。
宰相職を担う”古賀”家の現当主は。
「……雅昭よ。”尾噛”を成り上がりと称したが。其れを言い出したら、我ら”古賀”こそが、成り上がりの最たる例であろうよ。元は一地方の代官の家系如きが、此の官位におる理由……貴様、四方や忘れてはおるまいな?」
帝家とそれに付き従いし貴族たちが落ち延びてきた際。辺境の地を治めていた代官職が、古賀家の祖だ。
代官が奔走し、土着の豪族どもと折衝を重ねたが故、帝国は首の皮一枚が繋がり。結果、こうして再興を果たせたに過ぎぬ。
もし、あの時。
古賀が光輝や貴族家当主達の首を刎ね、乱の首謀者の元へ持ち込んでいたとしたら。
世界の情勢は、今よりも平穏であった可能性すら、充分にあり得たのだ。
「……帝よ。貴方様が”至尊の頂”に在る。その結果こそが、全てでございましょう?」
「────もう良い。貴様は、もう口を開くな」
自身の従兄弟の曾孫は。
どうやら、どう為様も無き”莫迦”だと云うことだけは。
光は、嫌と云う程に理解できた。
(”尾噛”から<陰陽寮>へ、呪殺許可証の申請が出ておる様だが……赦すか)
────古賀の”先代”は。多少の不満を感じつつも、事務能力はギリギリ及第点だったが。
どうやら、子育てに関しては落第生だったらしい。
この様に。国の権威と自身の家と、そして自分自身を。同列に視ている様なのぼせ上がった”莫迦”は要らぬ。
少なくとも、帝国内では。
ましてや、政一切を取り仕切るべき”宰相”職に就けるなぞ。怖気すらしてくる。
不満げに口を閉ざしてみせた従兄弟の曾孫の顔を見て。
(これしきのことで、表情を繕うことも出来ぬガキが。我が宮にて、何を為すつもりであると云うのか?)
ほんの一瞬だけ。そんな下らぬ興味が光の中に沸きはしたが。
(代わりになりそうな者を、鳳家に用立てて貰うとするか……)
彼の存在ごと、早々に忘却の彼方へと追いやることにした。
◇ ◆ ◇
「……あら。そうなのですか?」
「うむ。其奴は、帝御自らが暇をくれてやったそうじゃ」
”斎王”が座す宮殿”神の司”は。
帝都”加護志摩”の、端に在る。
帝国の守護神<朱雀>の神座たる”聖地”を護る様に建つ、荘厳なる宮だ。
「どうせ、其方の息子をいじめたたわけに文句を云う為、態々此処まで来たのじゃろ?」
「いいえ……いえ。全く無い、とは云いませぬが。それとはまた別件でございまする」
────ああ、あと。
「文句だなんて。”尾噛”は、決してその様に生ぬるいことは云いませぬ。我らの要求は、常日頃より単純でして……『首を寄越せ』 此だけにございまする」
「おおう。相変わらず、其方は。ほんに殺伐としとるのぉ」
斎王愛茉の眼は。
「ふむ、”魔王”かや。列島だけは”駆除”したとは<朱雀>さまも仰っておったが……」
「はい。どうやら”世界”では、かなり汚染が拡がっている様にございまする」
遠くの事象も、見通すことができる。
「列島も。今一度、アレを。やるべき……であろうか?」
「破邪聖光印────」
確かに、今の祈たちの”霊力”であれば。
列島全てを範囲内に収めるだけでなく。
「もしかしたら。中央大陸の半分は、イケるやも知れぬ……ぞ?」
ましてや今回は。
”奇襲”なのではなく。幾らでも時間を掛けられるのだ。
「お戯れを。流石にその規模になりますと、如何に半神と成り果てた我らでも。最低一月は掛かりましょうて。その間、愛茉さまは。愛する者から、離れられましょうや?」
「……ぐっ」
一時期、”恋バナ”に憧れて。
散々目の前に座す親友を揶揄い続けた報復を。今更やられるとは、全く思っていなかっただけに。
「……其方は。本当に、意地が悪いのぉ」
「実は、私も。正直耐えられそうにありませぬので。出来ればご勘弁願いたい……と云うのが本音にございまする」
”仕置き”が空振りに終わってしまった以上は。
「今すぐにでも”倉敷”へと跳躍するつもり。でございまするが」
「……取り残される”提督”が、ほんに気の毒よのぉ……」
引き取った生き残りの漂着者たちの通訳のために、翠を<九尾>に残さねばならないが。
「深刻な”祟さま成分”の欠乏を。今すぐにでも補わねばなりませぬので……」
基本、火を焚くことの出来ぬ船上では。
「倉敷に着くまでの暫くは。不味い携行食を喰らう羽目に、なる……か」
「まぁ、あの娘は<次元倉庫>持ちですし……」
……ただ、翠に関して。ひとつだけ懸念があるとすれば。
「あの娘ったら。こと食べ物が絡むと、途端にポンコツへと成り果てまする……」
「良くて独り占め。悪ければ壮絶な取り合い、奪い合い……と、云ったところ。かのぉ?」
”先視”をすることは、育ての親に封じられてしまったが。
「……そんなの、権能を使ってまで”視る”までもないわ」
「むしろ、そこまで無理して視たくなぞは……」
琥珀「わたしは毎日定時に上がってましたよぉ。まだ乳飲み子もいますし♡」
真智「尾噛はホワイトカラーを目指しておりますので……」
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