第384話 守護霊たちと四方山話2
今回のお話は。多少差別的な表現があり、ご不快に思われる方がいらっしゃるかも知れません。
その場合、ブラウザバックを推奨いたします。
「……しかし、<白虎>の娘御は。拙者、完全に見誤っておりました」
「うん、琥珀を?」
祈の反応に。武蔵は軽く頷きながらも。
「然様。あの娘御、凡そ人として正常な価値観を持っておったとは。拙者はてっきり、祈どのに一生の操を捧げるものだとばかり……」
「うっへ。それかなり酷いこと云ってるよ、さっしー」
他人と比べ、確かに独特な恋愛観を持ってはいるが。
それでも、祈自身の価値観は。
「私、普通に通常のつもりだよ?」
「いや。そこは別に拙者、欠片も危惧はしておりませなんだが……」
「ああ、確かに琥珀君は。女性偏愛者っぽ……いや、この場合”祈限定”になるか……感じのヤバげな言動多かったしなぁ」
「そう? あたしは特にそう思わなかったけれど」
「……いや、お前さんの場合は。琥珀君と同じ精神世界の住人っぽいところあったし、素直に頷けやしないんだが……」
守護霊たちの中でも、見解が分かれる以上は。
「……てーか。特に深く追求する話題でもない、か」
「然様でござりまするな。相済まぬ次第で……」
「まぁ、態々<白虎>さんが倉敷にまで来てこんな縁談を勧めてくるとは。全然思わなかったのは本音だけど」
<白虎>の勧めるまま自身の従者に加えて以降。
「……ずっと一緒に生きてきたから。側に彼女が居ない時間は、ちょっとだけ寂しいかなって……」
その癖して。
自身は、祟とふたりでいる時間をしっかり持っていたというのに。
何とも手前勝手な話で嫌になってくるのだが。
「ま、そこは追々慣れていくしかねぇだろうさ。なぁに。子供なんてなぁ、その内勝手に巣立っていくんだ。また元に戻るだろう」
────お前さんも。既に経験済みの筈、だぜ?
確かに”育ての親”たちからそう言われてしまえば。
明確に否定できるだけの材料を、祈は持ち合わせていない。
「巣立ちと云えば。真智どののご長女も、そろそろ”輿入れ”でござるな……」
「……冴か。確か”死国”の……」
「うん。土佐の、明神家」
死国に在る四つの国のそれぞれは。
「結局、各首長たちを”地頭”として認めるたぁ。また随分と帝国も思い切ったことをする」
「だからこそ、死国探題の役目を終えた倉敷が。尾噛家の領地となった訳、なんだけどね」
本来、死国の平定は、帝国の戦略には当初無かったのだから。
この功績だけでも、祈の”尾噛”は。倉敷とその周辺の土地を拝領できた筈、なのだが。
「其処は当時の倉敷が最前線で在った以上は。土台無理な話かと」
「……ま、確かにそうだな。今や帝国の影響力は、”明石”を越え八幡の地にも届きそうだが……」
「あそこは、未だ戦乱が続いているのかしら?」
大魔王と獣の王国を消し去った後、養女静を拾った彼の地は。
「長き戦乱にて。とうにあの地には、価値なぞ欠片も残ってはおらぬ。その筈であろうに……」
「地理上だけの話で云えば。あの地にまだまだ価値はあるんだよ、武蔵さん。街道の整備をまた一からやりなおさにゃならない。って、経済的な一番の問題が残っちゃいるが」
「……だったらさ。やっぱり八幡の地に拘る必要、無いんじゃ?」
「そうね。それに帝国には<海魔衆>の戦艦があるのだから、街道だけでなく港も整備できる土地の方が、やはり良いのではなくて?」
そうマグナリアが云い、列島の地図のとある一点を指した。
「……大阪か。この世界の列島では、其処がなんて云うのか知ンねぇけど」
「……ごめん、実は私も良く知らないや。あとで祟さまに訊いてみるよ」
ただ、マグナリアが指した地は。
立地の面だけで云えば、たしかに便は良いのだろうが。其処は湿地帯が主で、凡そその上に街を建てるのには向いていない。
「……人が集まる土地と云うのは。まずそうなる所以があって、と云う次第にござろうて」
「魔法を使えば、この程度。何の障害にもなりはしないのだけれど……」
「待て、マグナリア。お前さんほどにつかえる奴ぁ、この世界にゃひとりも居ねぇの忘れンな」
広く土地を開拓為ねばならぬ以上は。
「一人の突出した異常能力に頼るよりか。その他大勢の人数の力に頼る方が、よほど健全で建設的でありましょうて」
「……武蔵さん。それこそ、もっと難しい話じゃね?」
この世界では。魔術の素質を持って生まれてくる者は、そう多くない。
「マナの密度だけで云えば。この世界ってば、かなりの上位に在ると、あたしは思うのだけれど……」
「多分、この世界の人間たちは。自身の素質の有無を知る機会が無いだけじゃないかなぁ、と私は思うんだ」
マグナリアや祈の様に。
一目視ただけで、”魔術の才”その有無が解れば良いのだろうが。
「以前、婿どのも仰っておりましたな。皇族として生まれたからには、素質の有無以前に徹底的に魔術の基礎を叩き込まれるのだと」
「……ああ、そういえば」
帝家の者は、<朱雀>の血族として生きている以上。
「最低限を持って生まれてはくるんだろうが。もし魔術を使えなかった場合、そいつはどうなンだろうな?」
「……急にそんな怖いこと云わないでよ、トシアキ」
光帝の子たちは、<朱雀>含む<五聖獣>の祝福を受けた”斎王”愛茉の血を得て。
「向こう4代は。欠片もそんな心配をしないで済むだろうが、な」
「……やっぱり。”英雄”が出て来ることを強く望まれているんだろうね……」
指導者層というモノは。
”民衆の支持”と云う、支配するために必要な名目と云う理由を、常に欲している。
「そもそもの根拠が、端から無ぇんだ。しかも一度は倒れかけた訳だし、な?」
「”中興の祖”。この理由だけで既に充分ではござらぬか?」
「でも、それでは。彼の子孫の大義名分には、決してならないわよ?」
「いっそのこと、『列島の統一』。これくらいは為さないと。確かに難しいかも知れないなぁ……」
「……できれば、戦乱は。勘弁して欲しいところ、かなぁ……」
祈も長く軍に在籍してはいたが。
「人間と争った経験って、結局無かったなぁ……」
精々、辰や七星との小競り合い程度だ。
「現在大きな戦があったとすると。少なくとも、真智と言葉に、走流は。先陣を切って矢面に立たにゃならんだろう」
「国の碌を食んで生きている以上は。常にその覚悟をしろ……そう言い続けてきた訳だから。私が反対を言える立場には、最初から無いのだけれど」
「親なんてなぁ、結局そんなモンだ。それで良いさ」
現状、帝国に近しい国力を持った国は、抑も列島の中に無い。
「帝国から攻め入ろう、なんて阿呆なことを云わない限りは。ま、大丈夫だろうさ」
今のところ、光帝は賢明な指導者として君臨している。
早々その様な軍事的大冒険なぞやりはしないだろう。
「……愛茉さまとは仲睦まじく過ごして居られるみたいだし。そこは安心しても良いのかなぁ」
「美龍君はそれ目的で里帰りしている訳だし、なんだかんだで。全員”次世代”に繋げたンだよなぁ……」
<五聖獣>たちの狙いが、何処の何に在るのか。
それは彼らの元の主たる俊明にも解らないが。
「<五聖獣>と云えば、俊明どの。ほれ、彼の<玄武>の娘御の……」
「ああ、翠君か」
────彼女が、どうしたって?
「いや。やはり彼女の元は、あの蜥蜴なのだな────と。拙者思い知らされた次第で」
「……ああ。彼女が言うには、アレが”単性生殖”だった、かしら?」
そのことを思い出したのか、武蔵とマグナリアは顔を真っ青にし。祈はと言うと、吐き気を堪える様に口に手を当てて。
「アレは、どちらかというと。ナメッ○星人だなぁ────って感想だったな、俺は」
そして、俊明は。死んだ様な遠い目をした。
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