第379話 縁談狂想曲ー千秋楽ー
「……すっかり馴染んだみたい、だの」
「その様で」
”倉敷”の都に在る尾噛邸では。
「子供たちの無邪気な笑い声と云うのは。本当に良いモノでございますね」
「うむ。全くだ」
この地を治める”地頭”祟と、”地頭代”祈の夫妻の目の前で。
「あははは。のりちゃん、こっちだよー」
「しろちゃん、けいちゃん。まってー」
「おそいぞ、のりー」
子供達が、元気よく走り回っていた。
結局、”武の尾噛”の継承者法斗の縁談は。
祈の娘達の中で一番下の双子、白と啓で決まった。
「……祈、貴女達夫妻を。わたくしの早合点で、散々振り回してしまったみたいで。本当にごめん」
「……本当だよ。できれば、これっきりにして欲しいかな。空ちゃん」
法斗の母、空は。一番上の双子、玲と賛との縁談を、殊更推し進めようとしていたのは。
「愛茉さまの、ご神託があったからこそ……それに沿ってさえいれば。我が家の未来は……そう信じていたのに」
確かに、愛茉の先見に。その未来が在ったのだが……
(愛茉さまが”先見”をしてしまったが故に。その未来は、消え失せてしまった……とは。流石に空ちゃんに云えない、よなぁ……)
だから、祈は。
「あくまでも、以前の神託は。明るい”未来”の一例。そう思っていれば良いのだ、と<朱雀>さまから新たなご神託が在ったそうだよ?」
義姉には、嘘を吐くことにした。
愛茉が<朱雀>の言いつけを守り、祈たちの子の”先見”をしなければ。
恐らくは、
(……法斗が最初に挨拶をしに行った玲と賛の二人で良かったンだろうけど、な。相性、それだけで云えば。一番だったのは間違い無い)
(うっへ。そんな今更過ぎる情報は、できれば聞きたくなかったんだけど?)
守護霊その1俊明が。
他で決まった”縁談”に。態々そんな今更な話で蒸し返す。
だが、実際。
法斗が最初に向かってみせたのは、玲と賛の二人なのだ。
ただ、法斗は。他の四人のことを殊更無視した訳ではなく。
『あの子は。一度それだと集中してしまうと。他が目に入らなくなる悪癖がある』
────とは、母親の談だ。
(だが、白がなぁ……)
(ああ、うん……)
最初の初顔合わせの後、本人から話を聞いてみたのだが。
どうやら白は、法斗に一目惚れしてしまったらしく。
(娘の”初恋”を。親として、出来れば成就させてあげたかったし)
(いや、それで良かったと俺も思うぞ? ……だって、なぁ?)
愛茉の”先見”では。
様々な”最悪の未来”が、彼女の前に示されたのだが。
(結構、白絡みのヤバげな未来が。沢山あった訳だし……)
(あンニャロ、わりと思い詰める性根っぽいから。今から矯正、頑張ってくれよ、母さん?)
祈たちの子の中で。
今の所、魔術の素質だけで云えば。
(白が、一番っぽいから、なぁ……)
(シズほどじゃないけれど。あの子も相当なモノだもの、ねぇ?)
(だったら、尚更でござろうて。魔術士の暴走を止められるのは。より強き魔導士のみ、でござる故)
祈の手による魔導士の育成課程は。
『戦場では、単独でも動けること』
例え”英雄”の一つの形である魔導士であっても。当然、軍に所属する兵の一員に過ぎぬのだから、集団行動ができてナンボだ。
だが、不測の事態が起こり、戦場で孤立する様なことがあっても。
必ず戦場から生きて帰ってこれる様に、と。
祈の教えは。
『例え、詠唱中であっても。集中を途切らせることなく敵の攻撃を捌け』
から始まり。
最終的には……
『剣士3人相手に。無手で制圧できて、魔導士としては漸く一人前』
にまで行き着く。
(そこまで極まってしもうた者の魔術を止めるなぞ。凡そ人の手では、至難の業でござろうて?)
(……でも、だからって。静みたいに『ああ、うん。貴女はどう頑張っても絶対無理だから。諦めて詠唱中は旦那に身を委ねなさい』だなんて、云える訳ないじゃん?)
魔術の素質は最高。だが、あまりにドンクサ過ぎた娘では。戦場で一人生き残れぬのは明白だった。
だからこそ、祈は。
弥太郎の師として、守護霊その2武蔵にお願いしたのだが。
(……困ったことに。双子たちは、全員が全員。わりと万能、なんだよなぁ……)
(言うなれば”器用”。然して”貧乏”ではないとは。此は何とも……)
(……本当にね)
少なくとも。祈の教育基本方針に従って娘達を育て上げた場合。
(……双子だから、言葉による意思疎通は基本的に不要。さらには、魔導士特有の解り易い弱点も無ければ、近接でも互いの少ない隙をフォローし合うとか……戦場では絶対に出逢いたくない手合いだぞ。そんな”死神”なんか)
(拙者も、速攻で逃げの一手を撃つでしょうな)
(やっぱり。接敵される前に、広範囲殲滅魔法……が、一番の安牌。かしらね?)
何処までも物騒過ぎる守護霊たちの発想に、祈は半分呆れるが。
(でも。だからこそ……教育が大事。なんだろうな)
(そういうこった)
強大過ぎる力を振るう者は。
常に、それに相応しい”覚悟”を。胸に抱え生きて往かねばならない。
逆に、その”覚悟”を持たぬ者は。
(それまでの所行に相応しき”因果”を、必ず負うものさ。それが、生きている内なのか、死後かは解らんが。ま、少なくとも……)
(生前の”業”の精算は。死後必ず行われまするな)
(これは、全世界共通のお話よね♡)
(……うん)
祈は、霊界に繋がる魂を持っているからこそ、余計に。
(自分の子には。絶対に、そんな苦しみを味あわせたくないなぁ……)
(だったら、早い内に……だな)
内に籠もり、思い詰めるであろう。白の性格の矯正と。
(お互いの言葉なら、きっとあの子たちは。聞き入れてくれると思うの)
母親として。双子の”絆”を信じてやること。
(それで、最低限でござろうか。ですが、人として一番大事なことは……)
「……他人の痛みを理解できる。そんな心優しき子に、皆がなって欲しいものだのぉ」
「……はい。そう願わずにはおられませぬ」
仲良く庭を跳ね回る子供たちの姿を。
親たちは、何時までも眩しそうに見守り続けた。
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