第375話 縁談狂想曲ー再々演ー???
「望さまの”尾噛”の存亡は、正にこの縁談如何に掛かっているのだと。愛茉様のお言葉だ」
「えぇ~……」
確かに愛茉は。
帝国の守護神<朱雀>の巫女”斎王”として、歴代でも屈指の実力を誇るだろう。
多次元同時存在たる”上位的存在”の中でも、特に精霊神たちは。
(まぁ、奴らは。幾通りもの未来に同時に跨がって存在していやがる訳、だからなぁ……)
その巫女たる”斎王”からの神託ともなれば。
(尾噛の存亡……ねぇ。だが、そこまで大袈裟な話でもないンだろうなぁ……)
(でもさ、とっしー。そんな未来の話を、本来なら知り得ない筈の私たちが知っちゃったら。その時点で未来が変わるって前、言ってたじゃん?)
通常、人は。定められし時の流れと云う、制約の中で生きている以上。
(その通り。斎王を通して降りてきた預言は、それ込みの話。なんだろうさ)
つまりは。<朱雀>の神託に従わねば……
「”武の尾噛”の直系は。法斗の代で、確実に途絶える」
「うっへ……」
初代駆流直系の血筋、それ自体は。
祈の”魔の尾噛”によって、この先も続いていくのだが。
今代で別れた、望の”武の尾噛”の血脈は。
「……わたくしの、”天翼の血”のせい。ただでさえ望さまは、邪竜の血が薄かったと云うのに……」
確かに望は、駆流から続く邪竜の”尾噛の血”を、先代垰から受け継いではいるのだが。
「……母親の布勢が。純粋な人間種だったから、か……」
その垰も。その前の”尾噛”も。
人間種の母の胎から出ている以上、邪竜の血が徐々に薄まっているのは間違いないだろう。
だからこそ、法斗の前に望と空の間から生まれた二人の子は。
「……血の証が出なかった。だから、祈。貴女の”血脈”が。望さまの”尾噛”には、どうしても必要なの」
元々祈の母、祀梨は。
尾噛の分家の一つである白水の出であり、血の濃さで云えば。祈の”尾噛”の方が、血の正統性でも遙かに上なのは間違い無い。
「────その証拠に。貴女の子は皆、邪竜の血の証が身体に出ている」
「まぁ、そうだね……」
邪竜の血の濃さ。それだけで云えば。
祈よりも、邪竜の手に依って直接肉体の隅々まで好き勝手に改造され尽くされてしまった祟の方が、よっぽど上……だから、なのだが。
(……まぁ、祟さまも。”邪竜の直系”なのは、変わらないかぁ……)
駆流の直系ではないが、其方を言及するのであれば。一応祈の方の血が、それに当たるのだから。祈は、此の場で腹を括ることにした。
「”血の濃さ”で云うなら。確かに私の子から出すのが、一番良いよね……」
「だから、わたくしが直接”倉敷”に来た」
突如。尾噛”本家”の人間が、直接屋敷まで訊ねてきたのだから。
屋敷中大混乱になったのは云うまでもないのだが。
「……だからってさぁ。その法斗くんも一緒に”倉敷”まで連れてくるとか。空ちゃん、もうちょっとさぁ……」
「玄関に塩ば撒かれて追い出されたっちゃ。本来やったら全然文句ば言えん立場なんやぞ、空姉」
「心底焦っていたから……本当に、返す言葉も無い」
以前、養女の静を嫁に欲しいと。
家中の人間全員が。うんざりする程執拗なまでに屋敷へと押し掛けてきた貴族の当主と、その嫡男たちに依る攻勢を想起させたのか。
今回の一件は。家宰の水面 船斗が偶然それに気付き、家人のやらかしを事前に防ぐことが出来ただけに過ぎず。
「力尽くで。倉敷から追い出されていた可能性もあったんだよ、空ちゃん……」
「本当に、面目無い……」
流石に、その様な事態にでもなってしまったら。
最低でも祈は。そのやらかした家人を、処さねばならなかっただろう。
「────先触れは。貴族として、最低限の”礼儀”でありまする」
まるで祈の背後を護るかの様に立っていた船斗が、ここで初めて口を開いた。
”魔の尾噛”家宰の彼曰く。如何に”本家”の人間とも云えど、貴族としての最低限すらも守れぬ”粗忽者”如きにみせる礼儀作法は。
「本当に。そんなの何処にもある訳無か。よなぁ……」
「ま、ま、ま……水面様も、蒼さまも。そこまで空さまをお責めにならなくても……」
「あれぇ、琥珀。”地蔵”に徹すルんじゃなかっタのカ?」
「黙らっしゃいっ! そこの海苔を巻いたお煎餅群は。私がずっと狙っていたってのにぃっ!」
祈は無言のまま、印を結び。
たった数枚の煎餅を巡り、争い始めた二人を。物理的に静かにさせた。
◇ ◆ ◇
「のりと。みっちゅ~」
”にぱーっ☆”
文字に起こした場合、この表記こそが一番適切かと思われる無邪気な笑顔で。
指を三本も立てるのは流石にまだ難しいのか、すこしだけ不格好に曲がってはいるが。それでも自分の歳の頃をちゃんと把握しているのは、充分に立派だろう。
「あら、可愛い。法斗くん、良い子ねぇ」
初対面の人間相手にも、一切の物怖じがない。
それだけで、この子の器は。
「……流石。兄さまと空ちゃんの子だねぇ。特に今が一番可愛い盛りじゃないの?」
「でしょ? だから連れてきた」
法斗の身体には。確かに邪竜の血の証が出てはいるが。
竜の角に、四肢と首元を覆う薄緑の鱗に。
「何より、尻尾が無い。か……この血の出方は、分家と同じ。まぁ、私も兄さまも。元々はこんな感じだったけれど」
法斗は。初代駆流の姿ではなく、代々の”尾噛”の方の。
竜鱗人の特徴が、出ていたのだ。
「歴代の尾噛の話は、とと様から聞いている。初代様以降、尻尾を持っていたのは。望さまと祈まで誰もいなかった、と」
「そうだね……」
祟と祈の子は皆、逆鱗以外に鱗のある部位は、尻尾だけだ。
「……己には何故か、背に六対の翼があるのだが……これは見なかったことにしてくれると、本当に助かる」
肉体改造を施した邪竜曰く。
『どうじゃ、似合うとるだろ?』
────と、満足気に問いかけてきた。
どうやら、その場の勢いでやっただけの様で。背の翼、それ自体には。特に深い意味なぞ無かったらしい。
「……とは云え。祈の”尾噛家”は邪竜の血が濃い。これが何よりの証明」
「まぁ、それは良いけれど。空ちゃん、本当に、玲と賛なの?」
法斗は確かに。
数え3つの男の子にしては、物怖じをせず。何より滑舌もはっきりとしているのには、祈たちも驚きを隠せない。
「この頃の男の子と云う奴は。女の子に比べると、然程発育は良ぉないもの。だからのぉ……」
祟の言葉通り、数え3つの男の子の中には。まともに会話できない子も、まだまだ普通に在るものだ。
「祈の娘の中でも、一番のお姉さんが良い。だって、ほら」
当の法斗と云えば。
誰に言われた訳でもなく。
「……二人の方へと、真っ直ぐ近付いていってる」
「玲も賛も。あの子を受け入れるつもり、の様だの」
多少覚束無い処はあるが。それでも法斗は。
「のりと。みっちゅ~」
「「わぁっ。かぁいぃ☆」」
きっとこれが彼の持ちネタなのだろう、法斗は。
無邪気な笑顔で。自分の嫁(予定)たちに、元気よく挨拶をした。
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