表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

373/413

第373話 縁談狂想曲ー再々演ー?



 「う~ん……」

 「……(いのり)しゃま。何をそこまで、難しいお顔をなさっておられるのでしょうか?」


 大きく膨らんたお腹を抱えたまま、ひとり唸っていた祈は。

 その原因となった本国からの書簡を、無言のまま琥珀(こはく)に手渡した。取りあえずは、何も言わず目を通せ。そういうことらしい。


 「……あ……あら~……」


 その内容に、尾噛(おがみ)家の筆頭従者は。


 「(くう)さまったら。とうとう力業で押し切ろう。そう云う、おつもりの様ですねぇ……」

 「ね-?」


 尾噛()()の一切を取り仕切っているのは。

 無論、当主(のぞむ)の正室である空だ。


 跡継ぎたる”法斗(のりと)”を迎えるのに、心身共に、長らく苦労を強いられ続けた苦い経験からか。


 「……だからって。まだ数え10にも満たないお子さんに許嫁、ですかぁ……」

 「そりゃあ。同種族間の婚姻だったら、間違い無く同じ子が出来る訳。なんだろうけれどさぁ……」


 真竜人たる望と、天翼人の空は。

 異種族間の婚姻の難しさに、散々と苦しめられてきた夫婦だ。


 帝国の貴族たる最大の”義務”とは、”後世に血を残す”。この一点だ。

 その為には。正室のみならず、側室……つまりは、重婚も認められているのだが。


 「そういえば、望さまは……」

 「うん。空ちゃんだけ、だねぇ」


 尾噛先代の(たお)は。

 祈の母、祀梨(まつり)と。望の母布勢(ふせ)の他にも。


 「……あと二人の側室がいたんだって聞いてる」

 「……お父君は。わりとお盛ん、だったのですねぇ……」


 正直、()()()()を父だと思いたくもないのだが。それでも、血縁上は歴とした父親で間違いない。


 「どうだろ? 私と兄さま以外の()()は、居ない訳だし……」

 「……ああ。云われてみましたら、確かに」


 最初の男子望を産んだお陰で。

 側室ながらも布勢は、家内で絶大な権力を掌握するに至った訳だが。

 基本的に、第一子が()()であれば。次代の当主は決まった様なものである……けれど。

 ここで、()()()()()()()()。という処に、問題が隠れていたのだ。

 もし仮に、後に正室が男子を産んだ場合は。


 「……だから、母さまは……」

 「……呪殺、でしたか」


 逆に、一度でも手にしてしまった絶大なる権力は。

 例えそれが。”家内限定”と云う、ちっぽけな”世界”の中であろうと。布勢にとっては、それが全てであったのだから。絶対に守り通さねばならぬ、最後の一線だったのだろう。


 「そのせいだと思うんだけど。兄さまが『側室を入れる気は無い』と、そう言い続けてきたのは」

 「例え、空さまの胎からお世継ぎが産まれることがない。それが解っていても……ですか」


 実際、尾噛直系の(邪竜)の証を持ち生まれた法斗の、その上の二人の子も男子であったのだが。


 「どちらも、尾噛に流るる邪竜の血が出なかったからね。当然、世継ぎにはなれない」


 医学が異常なまでに発達した現代の地球とは違い。

 この世界、この時代の。根本的な物の考え方はと云えば。


 『望む子が産まれてこないのは、全部”胎”が悪いからだっ!』


 この一点となる。

 周囲からの非難が集中したであろう、空の今までの心労の程を慮るだけで。祈の胸は苦しいまでに締め付けられてしまうのだ。


 「……だから余計、なんだろうけれど。でも、だからって……」

 「ええっと。それでも、琥珀は。”(れい)さま、(さん)さまのご両名を、法斗さまの嫁にくれ。”とは。この要求……流石に、どうかと思うのですけれど?」


 同じ邪竜の直系の血が流れている以上。二人の間から産まれ出でる子は、確実に邪竜の血の証が出る、筈だ。


 「更に二人も確保すれば、どちらかが男の子を産んでくれる。はず……何とも解り易すぎる。そう申しますか……」

 「さらに玲と賛は。双子だから、()()()()()()。そんな空ちゃんの考え方も、透けて見えちゃってるんだよねぇ……」


 自身もそうである為か。ある種独特の”双子間だけに通じる物の感じ方”。それを前提にした話の様に、祈は思えてならない。


 「まぁ、確かに。お二人とも、好みが共通していらっしゃいますが……」


 玲も賛も。

 食べ物の好き嫌いから始まり、着物の色や柄。果ては小物に至るまで。


 「お陰でウチの家人のみんな。ぱっと見だけじゃ、二人の区別が全然付かないって云うさ……」

 「あれ、お二人とも。()()()()()()()()()()よぅ」


 そんな混乱を密かに楽しんでいる節が、確かに感じられるが。


 「まぁ、でも。私も、(たたる)さまも。そういや、ウチの子たちは。全員がちゃんと解るんだよねぇ」

 「……私や美龍(メイロン)は、()()()の違いで何とか。(そう)さまは……まぁ……」


 『(すい)だけは。絶対(じぇったい)に間違えんところが、本当に(ほんなこつ)腹立つばいっ!』


 とは。何故かほぼ毎回、()()()()()()()蒼の談だ。


 「同じ双子でしたら。”(さい)”さまや、”(せい)”さま。”(しろ)”さまや、”(けい)”さまでもよろしいのでは?」

 「まぁ、普通に考えたら。そうだよねぇ」


 確か、法斗は。


 「────むしろ、年齢(とし)の面だけで考えれば。同じ数え3つなんだから、白や啓の方が釣り合いが取れて良いと思うんだけど……」

 「いや、其処は祈しゃま。それ以前に、数え3つのお子に既に許嫁とか……」


 物心が付く以前に、運命付けられているとか。

 如何に貴族の家に生まれたからとはいえ、それは流石に可哀想ではないか?


 ────確かに、散々尾噛の家で苦労した空であれば。嫁姑問題だけは、絶対に無さそうであるが。


 どうしても琥珀には、そう思えてならないのだ。


 「まぁ、私の場合は。兄さまが居てくれたから、結構好き勝手やれたんだけど。まぁ、貴族間の婚姻なんて。得てしてこんなモンだけど、ねぇ……」

 

 貴族間の婚姻なんて云うモノは。結局、政治的に依るものが、ほぼ理由の大半だ。

 望の母”布勢”の実家は、尾噛のすぐ隣に在る”小田切(おだぎり)”なのだから。正に()()()()だったとも云えるだろう。


 「……尾噛は、二代続けて”四天王”を出したから、結果手が出せないだけで。彼処の家は、未だ豊かな尾噛の地を諦めていない」

 「この文には。そんな裏の事情も含まれている訳、ですかぁ……」


 盤石な体制である今の内に。

 更に次代へ繋がるだろう剛き”尾噛”を確保しておきたい。


 性急過ぎる文の裏には。そんな空の焦燥を滲ませた”願望”が見え隠れしているのだ。


 「……まだ早い。そう言って断るだけなら、簡単にできちゃう訳。なんだけど」

 「でも、祈さまは。そうなさらない、のでしょう?」


 ────まぁね。


 元々自分の”実家”の話、でもある訳だし。見捨てるなんて選択肢は、端から祈の中には無い。


 何より、倉敷の地を治める”尾噛家”と縁を結びたい帝国貴族は。掃いて捨てるほど存在()るのだ。勿体ぶって逆に()()()を引くくらいなら。


 「元々の親類に、ウチの可愛い娘たちをあげるのも。悪く無い────気がしてきたぞ」

 「でもでも、祈しゃま」


 ────双子たちは全員。揃いも揃って()()()なのですが、それは?


 望の方の”尾噛”の問題を、祈は諸々に挙げ連ねてみせたのだが。


 「私ってば。ウチの方の問題を、完全に見ていなかったよ……」

 「人間、見たくないモノに関しては。徹底して見ないもの、なんですねぇ……」


 『嫁に出しても、恥ずかしくない』


 先ずは、その最低限度の教育を施さなければ。そもそも嫁入り、それ以前の話だったか。


 「あとあと。祟様とも、ご相談為さらないと」

 「ああ、そっちは全然イイや。だって、『娘たちは、絶対にやらんっ!!』 ……って云うのは、目に見えてるからさ」

 「……ああ」


 ────やっぱり夫婦、なんだなぁ。


 そう思うだけに留める様、意図的に琥珀は努めることにした。”口は禍の元”であり、何より主は心を読むのだから。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

ついでに各種リアクションも一緒に戴けると、今後へより一層の励みとなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ