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第332話 捕縛




 「今なら、あの()の居場所が良く判る。本当に、私たちは……」


 今まで、彼女の霊糸を手繰り寄せる。

 そんな単純な手段すら全く思い浮かぶことはなかったし、その進言をする者も終ぞ現れることもなかった。

 そのせいで、人を使っての広範囲の捜索ともなれば。魔導に長けた娘の術中に嵌まり、攪乱されてしまうのだから。当然、(しず)の痕跡、その一切が見つかる訳も無い。


 その癖、静は。なまじ才能が飛び抜けていたが為に、マナに纏わる法則(ルール)を良く理解していない。ならば、そこを突いてしまえば良い……と。

 ()()()()()()()()()()()()()、皆の頭の中に、すぐ出て来たのだから。


 「微妙に認識をズラされていたって処が、ホントにいやらしいんだよなぁ。完全に位相がズレてたりしたら、お前さんならすぐに気付けただろうに」


 もしも、てんで明後日の方向へ誘導されていたのだとしたら。察しの良い人間ならば、


 『何となく……』


 でも、違和感を覚えたのだろうが。


 「ここで、奴の狡猾さが良く判るってモンだろ? お前さんもそろそろ、こう云った”搦め手”を少しずつ覚えていかにゃ、な。力押し一辺倒では、(いず)れ行き詰まってもくる」


 俊明(としあき)の言葉に、(いのり)は素直に頷く。

 圧倒的力量差があれば。多少の罠なぞ、噛み砕いてしまえば其処で終わるだけだ。

 だが、今回の相手は神にも等しき”上位存在”であり、格上なのだ。


 「相手の”手札”を一つでも知ることができれば、朧気ながらも対処法が見えてきましょうて」

 「何なら、逆に罠を仕掛けることだって、貴女ならできるはず。得意分野にこそ、大きな落とし穴が近くで口を開けて待っているものなの。”自信は慢心”って奴ね♡」


 戦闘の経験値で云えば。

 元勇者たる三人の守護霊に勝る者は、恐らくどこの世界にもいないだろう。


 「……ま。奴の得意技を逆用しての”一本釣り”しようってンんだから。今回に関して云えば、そのものズバリって奴だよなぁ」

 「くふふっ、ホント楽しみー♡」

 「マグナリアどの……」


 これから上位存在と戦わねばならないのか、と不安と緊張とで冷や汗すら出ていると云うのに。

 守護霊たちときたら、何故か妙にハイテンションで。


 「……祈しゃま?」

 「琥珀(こはく)。皆まで言わなくて良いから」

 「もう全部、この三人に丸投げで良いんじゃないかっテ。美美(メイメイ)、しみじみト思うのヨー」

 「<玄武(ちち)>よ。心底、お恨み申し上げまする」


 対して、生きて此の世に在る方たちはと云うと。

 高すぎる彼らのテンションに完全にあてられてしまったのか。その士気は、限り無くゼロに近かった。



 ◇ ◆ ◇



 (……どうやら、シズは”操作”に抗える様になってきたみたいね)


 あの男に、本能的な恐怖を覚えたのは。

 支配から脱している証拠なのか。それとも、これを契機に脱しようとしているのか。


 ────そんな些細な事は。この場面に於いて、もうどうでも良い。


 重要なのは、静の”運命”が。

 ”天使(サリエル)”の悪意に依って敷かれてしまった軌条(レール)から、抜け出せるのか否か、だ。


 セイラは、改めて弥太郎(あの男)に取り憑いた三匹の”御使い”を睨んだ。


 一見、弥太郎(やたろう)の霊格に合わせたかの様な低級霊に偽装している様だが。


 (我が眼に映りし、その”光”の霊波は。絶対に誤魔化せはしない)


 彼の背後に存在していたであろう、()()()指導霊は。

 恐らく”天使”によって消滅()されてしまったのだろう。


 憑いた指導霊の性格や、霊格如何に依っては。

 その人格すらも、変わり果ててしまうことだって充分に有り得る。


 (恐らく、今は()()()だけれど。彼もきっと魅力的な男性であったのでしょう)


 そうでなくば、いくら運命を操作されていたとはいえ。静が一目で惹かれてしまう訳がない。

 元々彼女は。”理想の夫婦”を、ずっと間近で見て来たのだ。恋愛経験が皆無であっても、男性の善し悪しの判断は付くに決まっている。


 (……ああ、やっぱり。そこは少しだけ疑問符が)


 そういえば、彼女の母は。

 かなり特殊過ぎる価値観を持った人間だったな。と頭を振る。


 それでも。


 (わたしよりは、マシ……だと思うけれど)


 戦いだけの人生だった彼女は。

 最期は、戦友(とも)と共に果て。そして後に、同じ者を守護する霊と成った。


 ずっと戦友には、淡い想いを抱いてはいたが。


 (未だ何も云えないのだから。彼女たちの方がよっぽど……)


 その戦友がきっと連れてくるであろう、”戦力”がきっちりと揃うまでは。


 (手が出せない、と云うのは。本当にもどかしいわね……)


 品性の欠片も無い、思わず斬り捨ててしまいたくなる程に醜き貌の”御使い”に対し、溢れる殺気を飛ばして。

 恐らくは無意識なのだろうが。娘の守護霊は、腰に差した剣を撫でた。



 ◇ ◆ ◇



 「……やっぱり。もう一度あの娘には、基礎の基礎から教え込まなきゃダメみたいだなぁ……」

 「静、南無~☆」


 まるで息をするかの様に。場のマナを集め、支配しようとするのは。

 魔導士にとって、無意識の内にやってしまう、謂わば”本能”にも等しき行為だ。


 追っ手からの眼を逃れ、潜伏しやり過ごすつもりなのであれば。


 「ここまで無駄に大量のマナを支配していらっしゃるのですから。静様は”此処に魔導士が居ますよ”と、周囲に向け大声で叫ばれている様なものです……」

 「それでは、何の為の<隠行の術>なのか。もう判らなくなってしまいます、ねぇ?」


 だからこそ、当初祈は。

 捜索の部隊を分ける際に、必ず一名の魔導士を組に入れる様厳命したのだ。


 ────結局、それも”天使”は想定済みだったのか。”認識”をズラされてしまった捜索の眼は、終ぞ気付く事も無かったのだが。


 「まぁ、静は意識せずとも大半の魔導士からマナを奪ってしまえたのだから。()()()()()も知らなかったんだろうね……」


 なまじ弟子が優秀過ぎたが故に。師すらも気付かぬ落とし穴が、近くで口を開けて待っていたのだ。


 「”自信は慢心”か……ああ。さっきのマグにゃんの言葉が、私に綺麗に刺さっちゃったよぉ……」

 「主さま、どんまいヨっ☆」


 欠片も慰めにならぬ美龍(メイロン)の言葉を、聞こえない振り(完全に無視)した祈は。


 「……(すい)。<結界呪>の”破”と共にマナの支配権を、あの娘から完全に奪います。私に合わせて頂戴」

 「畏まりました。全力で行きます」

 「それと琥珀と美龍は、あの男の牽制を」

 「「はい(是)」」


 「……破っ!」


 祈は両手で印を結ぶと同時に裂帛の気合いを込め、此の地に幾重も布かれた”境界”を一気に破壊した。


 「……えっ?! そんなっ!!」


 母が出て来ることも想定しての、何重もの結界だったのに。

 まさか、たった一息だけで全て消されるとは思ってみなかっただけに。娘の味わったショックは、かなり大きかった様だ。


 「くそがぁっ!!」


 ショックで頭が真っ白になったのか。全く動けなくなった未熟な娘とは違い、それなりの戦闘経験値を持つ斥候の男はと云うと。


 「ふむ。そこそこ()()()様ですけれど、まだ踏み込みが(あも)ぉございます。それで制圧できるのは、一般兵の方だけでしょう」

 「大人しくするネ。ああ、それでも死にたいのナラ。幾らでもお望み通りに美美が後からブッ殺しテやるヨー☆彡」


 突き出した必殺の抜き手を、呆気なく琥珀に取られたと同時に、そのまま逆関節に極められて。

 抜けだそうと足掻く男の首筋に、美龍が刃を向けて黙らせる。


 「……くっ!」


 その光景で、完全に我に返った静は。

 形勢の逆転を狙い、渾身の魔術を使おうと詠唱をするが。


 「静、諦めなさい。マナの天秤は、完全に此方の側です」


 不発に終わった<深層睡眠術(ディープ・スリープ)>に。娘の膝は、その場に崩れ落ちた。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

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