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第32話 ちゃっちゃと決めよう




 「では、今から君達にやってもらう決闘の規則(ルール)を、ちゃっちゃと決めようか」


 翔がにこやかに宣言する。

 その表情と口調に、全然似つかわしくない物騒な内容ではあったが。


 「まず、帝国から。これは絶対不変の規則だ。豪クン、望クン、祈クン。君達は、必ず決闘に参加してもらうよ」



 夥しい量の血で汚れた四天王の間から、一同は移動を余儀なくされた。


 多数の兵を潜伏させ、嗾けた牛頭と、そのほぼ全てを返り討ちにしてみせた尾噛。結果的に、帝のおわす宮を血で穢す不敬を働いたとし、双方に罰を言い渡された。


 本来であれば、双方共に死罪であってもおかしくない事態である。帝の寛大な御心に感謝せよ。と、そう一方的に言われてしまっては、ただ降りかかる火の粉を払っただけに過ぎない筈の尾噛側は、不平を漏らす事すらも許されなかった。



 (ま、ここまでは完全に予定調和だったって事だろうよ……多少のイレギュラーがあったにせよ、帝国側は本来の目的を果たした。そう考えるのが妥当だろう)


 (で、ありましょうな……拙者もあまりにあまりな話の展開に、付いていけなかったでござるが)


(だから、最初から全部燃やしちゃえばこんな事にならなかったのに)


 (う、うん……あそこで収拾してくれるもんだって、私思ったんだけどなぁ……国で一番偉い人だからと、少しでも期待したのが間違いだった)


 すでに祈は、守護霊その3にツッコむ気力すら無かった。


 戦って死ぬか、ただ刑を受けて死ぬか……こんな不条理な二択があってたまるものか。


 祈は内心、(はらわた)が煮えくりかえる思いであったが、所詮世の中はこんなものだと、無理矢理にでも割りきる必要がある様だ。そうでなきゃやってられない。


 (まぁ、今更だな。決闘のルールが何も決まってないのを有効に活用するとしよう。祈、提案だ。俺達を使え。5人勝負にすれば、俺達だけで全てが終わる)


 (団体戦でござるか)


 (それ良いわね。少なくともイノリ達に危害が及ぶ事無いわ。あたし達ならまず負ける事は無いし)


 (負けた所で、俺達は元々死んでるんだ。これ以上どうこうなるこたぁねぇよ)


 (う、うん。みんなお願いね……)



 「では我から。一対一の勝ち抜き制による七人勝負を提案する」


 祈が手を挙げる前に、豪が発言をした。


 七人勝負とは、順に先鋒、次鋒、五将、中堅、三将、副将、大将による勝負方式だ。


 更に勝ち抜き戦ともなれば、要とも言える先鋒にかかる戦力的、心理的負担は計り知れないモノとなるが、逆を言えばここに絶対的戦力を配置できるのであれば、これほど有利な話も無い。


 牛頭側の思惑は、とても分かり易かった。


 ここが本拠地である牛頭ならば、いくらでも強力な戦力を物色できるが、対する尾噛は、連れてきた人間が全てである。護衛とはいえ、決闘にも使える戦力を複数人連れている訳では無いだろう。決闘に参加できる人数が多くなれば多くなる程、尾噛側が徐々に不利になっていくのだ。


 そしてもし、勝ち抜き戦が採用される事になれば、豊富な戦力を自由に選べる牛頭側が更に優位になる。その分だけ豪が表に出なければならない事態になる可能性も当然低くなる。つい先ほど尾噛兄妹達に、圧倒的な技量差を見せつけられたのだ。なるだけその前に決着を付けてしまいたいと言う事なのだろう。


 「それは良いけど……それだと豪クン、流石に君に有利過ぎないかい? 帝国としては、なるだけ公平に行いたい。全部は呑めないな」


 豪の思惑はあまりにも透けて見えていた。翔もそれを、ほぼ全て推察している。渋面を作り難色を示すのは当たり前の事である。


 「尾噛側としては、概ねそれで構いませんよ。一つそこに加えるとすれば、『勝利条件の追加』ですね。対戦者同士で、さらに条件を提示しあう決闘方式を提案したい」


 望は努めて冷静に、この場で自身の考えを示した。


 帝の勅とはいえ、決闘という危険極まりない場に、最愛の妹を上がらせる事態になってしまった。何とか回避する事はできなかったのかと激しく後悔していた。


 やはり祈を連れてこなければ良かったのではないか?

 無力化する為とはいえ、兵の両腕までを斬り落としたのは、流石にやり過ぎだったのではないか?


 (……今更の事だ。ならば、自分にできる事は、妹に及ぶ危険を少しでも軽減する事だけだ)


 勝利条件を新たに加える事ができれば、場合によっては上手く話を付けて、双方怪我も無く勝負を終わらせる事ができよう。

 妹の技量は先ほどの乱闘である程度推し量れたのだが、やはり兄には心配の種は尽きないのだ。


 「それはつまりどういう事だい? 相手の提示した条件を逸脱した場合、そこで勝負がつくって事でいいのかな?」


 「左様でございます。例えば、相手が『一歩でも後ろに下がったら負け』と条件を出し、こちらがそれを呑んだ場合は、その決着法が成立します。ただし、相手の条件が呑めない場合は、何らかの罰則を設ける必要がございましょうし、あまりに無茶な条件を提示する様でしたら、それにも何らかの罰則(ペナルティ)が必要になりましょうが」


 「そんなものは胡乱が過ぎよう。やはり尾噛は、まだまだ餓鬼だな」


 豪の嘲りを含んだ率直な感想に、望は何も言い返す事ができなかった。流石にこれは面倒過ぎるかな、という自覚があったのだ。


 「まぁ確かに運営側としては、煩雑であるし、その場でそれらを裁定するのは難しいかなぁ……でも、面白い提案だと思うよ。条件を提示し合うってのだけは採用しようか。でも、流石に罰則までは無理かな」


 場合によっては、それでさらに勝負が面白くなるかも知れないしネ。と運営側の目線の翔は楽しそうに呟いた。


 (これさ、ほぼとっしーの提案どおりの展開じゃないかな?)


 (で、ござるな。しかし7人勝負では、我らだけでは頭数が足りませぬな。家から二人出す必要がござるが?)


 (良いんじゃない? どうせあたし達の誰かが先鋒に出れば、そこで済む話よ)


 (すんなりそれで済むかねぇ……? あの部屋に前もって兵を多数潜ませてたりしてくる奴が相手だぞ? なんか裏で色々工作してきそうなんだよなぁ……)


 (う、うん……そうなんだよね。鳳様の知らない間に……って所が恐いんだよねぇ。あの気色悪い糞デブ牛脂親父、他に協力者がいっぱいいそうだし)


 決闘方法の採用話は、順調に(?)進んでいったが、祈の中ではすでにその後の事に及んでいた。尾噛の娘の心配の種は尽きない。このまま素直に家に帰してもらえるんだろうか? 何か更に一幕がありそうで……



 (((ウチの娘が汚い言葉を吐く件……)))




 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 御所の奥、寝所で光輝はだらりと寝そべっていた。


 宮内の結界内部であれば、全ての事象を見通す神通力を光輝は持っていたが、それを維持し続けるには多大な霊力を必要とした。


 今回の乱闘騒ぎの時、タイミング良く光輝が乱入できたのは、正にこの能力お陰である。その代償は、割と大きかった様だ。その後、何もする気が起きないのだ。


 だから、今は何もせずだらりと寝ている。


 こんな威厳の全く無い姿、誰にも見せられないよなー。見られたら、絶対に謀反でも起こされちゃいそうだ……と、頭で判ってはいるのだが、光輝は口を開けたまま呆としていた。



 「ただいま、(こう)クン。終わったよー」


 天翼人、鳳翔が、寝所に直接転移してきた。宮内での空間転移術の使用は、それだけで極刑にあたるのだ。


 だが、翔だけは例外であった。何故なら、ここでは臣下の鳳翔ではない。光輝にとってはただの友、”翔ちゃん”なのである。


 「おかえり翔ちゃん。で、どうだった? 決闘方法は決まった?」


 ここには天帝など存在しない。居るのは”光クン”と呼ばれる鳳翼人のみだ。


 光クンと呼ばれたいい歳した大人が、まるで少年の様な純粋な瞳を、親友に向けて事のあらましを訊ねた。


 「うん。きっと愉しい事になると思うよ。豪クン、やたらと張り切っちゃってさぁ…」


 必死さを隠しながら、分かり易いまでに自身に有利になる様な規定ばかりを提案してきた豪の顔を思い出し、翔は人の悪い笑顔を作り、シシシと笑う。


 「そうかー、久しぶりに良い興行が打てるかな。最近、民には苦しい思いばかりさせてたし……」


 「それに上手くいけば、牛頭に与する家々を一本釣りできそうだよ。まさか、あんなにあからさまな手段を使ってくるなんて思わなかったから、この際全部片付けてしまおうと思うんだ」


 光輝は唇の端をつりあげ、ニヤリと笑った。


 「最近国内でチョーシこいてる奴多すぎたし、ここらでチョイと帝のご威光とやらを見せつけてあげないとダメかな」


 「だねぇ。ボクは垰クンの一件だけでも、結構腹が立ってたから、色々とやってしまいたい」


 「……新しい尾噛には、悪い事したなとは思うけど、ここはお役目として割りきって貰えると有り難いが……ま、無理だろうね」


 「そこはボクもねぇ。光クン、何か考えてあげてくれないかな? 彼らは完全に巻き込まれただけの、ただの被害者だ」


 チョーシこいた牛頭とその親類共を一掃したい。

 それは光輝も翔もずっと考えていた。彼らは帝国内部に巣くう毒蛇なのだ。まずその毒蛇の頭を潰す。ただ、蛇は頭が無くなっても、数刻は暴れ回る。


 頭を潰す方法も問題であった。帝国の名において処刑する方法を取ってしまっては、毒蛇の身体である親類縁者が、裏で暴れ回るのは確実であり、国の被害が大きくなる。


 今回の様に、牛頭が尾噛に売った喧嘩を帝国がイベントとして”決闘”という場を用意してやった態を取れば、少なくとも帝国だけに親類の恨みが集中することはない。


 ただそれは、恨みの矛先が変わるだけであり、翔達がその標的に仕向けたのが、新たな尾噛なのだ。


 「そうなんだよねぇ、翔ちゃんも何か考えといておくれよ? どうも僕はそういう所ズレてるし」


 「何が良いかなぁ……? ボクもそういう所ズレてるって、色々な人に言われてるんだよねぇ」



 翼を持った二人は、常にのんきに物騒な事を考えているのであった。




誤字脱字あったらごめんなさい。

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