表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

310/423

第310話 縁談狂想曲ー再演ー2



 「して、(いのり)よ。其方(そち)は、如何とするつもりでおるのじゃ?」

 「騒いでいらっしゃるのが(おおとり)さまの内は、あえて此方(こちら)から動く意味は無い。そう考えておりまする」


 正式に皇太子の地位に就いた古賀(こが) 一光(まさみつ)の名に於いて。

 新都造成の号が発せられた、この神宮(じんぐう)の地にて。


 特に即位戴冠の日時が内外的に定められた訳でなし。特に急ぐ必要もないのだが。

 それでも、街の体裁が愈々(いよいよ)形作られてくると。設計に携わった技師だけでなく、大工たちの力の入り様も一入(ひとしお)となってしまうのも、こればかりは仕方の無い話であろう。


 そんな最中、古賀に協力を約定した”尾噛(おがみ)”としても。

 新都の現在(いま)を、然とこの眼で確かめるべく視察名目の”挨拶”に訪れるのは、また道理だ。


 「……愛茉(えま)さまに於かれましては。些か時が開いてしまい、誠に申し訳ありませぬ」

 「よい。如何に何でも熟すお主であろうと、赤子相手では流石に勝手が違ったことじゃろて。ま、次は其方自慢の息子も此方(こなた)の処へ連れて()ぃ。此方自らが<祝福>してやるわいな」


 <五聖獣>の祝福を受けた5人の娘の身は。

 ”半神”と化したのだが。


 その半神から<祝福>を授かった場合────さて、息子(まち)はどうなってしまうのか?

 祈はぶるりと身を震わせた。


 「”斎王”猊下御自らの折角のご厚意。誠に申し訳ございませぬが、慎んでご遠慮させて戴きとぉござりまする……」


 今後”尾噛”は、普通の貴族として平穏無事に生きていきたいのだ。だからマジやめてくれ。


 真智(まち)の無病息災が、それによって叶うのなら。確かに、まだ再考の余地はあるが。

 ()()()()()()()()()<()()>なぞ、そんな噂が少しでも外部に漏れ出でた時点で。

 息子の今後の人生が、波瀾に充ち満ちたものになることが確定してしまうのでは。母として、絶対に頷ける筈が無い。


 「────冗談じゃ。其方の言外の気持ち、よぅ解ったわ」

 「愛茉さま。流石にそれ、意地悪が過ぎます……」


 (腹を痛めて産んだ子の可愛さと云うものは。やはり別格なのじゃろうのぉ……此が”母親”か)


 一瞬、息子の将来を思いやっただけで、目の前の女性が一気に老け込んだ様に愛茉には見えた。


 凡そ生物という奴は。

 親は子のために。自身の文字通り”生命(いのち)”を分け与えてしまうものだ。

 それが”本能”に根差した”生体反応”だと断じてしまえば、実に素っ気ないものに過ぎないのだが。


 (────此方にも。我が子を抱く機会は、訪れるのかのぅ?)


 斎王位は。

 特に此といった制約は、帝国法に何も記されてはいない。


 400年もの永きに渡り、”お役目”を全うした先代光流(みつる)は。確かに生涯独身を貫き通しはしたが。

 特に巫女────神職についての規定が、其処に在る訳でも無い。

 強いて云えば、出家し僧など神仏に帰依した存在(もの)達は、自ら生涯を捧げる誓約をするくらいか。


 「ま、其れは良いとして。先ずは其方の息子より、娘の方じゃの」

 「はい……本当に、面倒なことで」


 祈は、如何にも嫌そうに顔を顰める。

 此が帝による”勅”であれば、帝国貴族として抵抗それ以前に、もう頷くしか術はないのだが。


 「鳳では、のぉ……」

 「はい。何と申しますか。微妙に憚られる処が、本当に。もう……」


 今や帝家に次ぐ家格を持つとはいえ、相手が鳳家の、その”先代”では。


 「()()()()()()逆らうことは可能。その癖、その”意向”とは。私と、更には旦那さまの。直属の上司でして……」

 「なんと申すべきか……何とも愉しき職場で(ブラック過ぎて)。其方も、わりかし苦労しとるのぉ」


 それでも。

 今は帝都(会社)から離れ、倉敷の地で(自宅からの)悠々自適のリモートである。

 知らぬ間に、心理重圧(ストレス)による慢性的な胃痛を抱えて。

 仕事を終え、自宅に戻る頃には心身共に軽く20は老け込んでいたのは、もう遙か昔の出来事の様に感じてしまう今日この頃だ。


 「ふむ。もう”新婚”という訳でもあるまいに。帝都への帰還命令に顔を背け続けておるのも、其処に理由がある様じゃの?」

 「ちょっ、待って下さい! 私、旦那さまと絶対別居なんてしませんからっ!!」


 実際、牙狼(がろ)兄弟と、その配下の狼牙隊(ろうがたい)は。

 定められた任務を全て終え、すでに帝都への帰還をはたしている。


 当然、魔導局の頭たる祈にも、幾度となく帰還命令は出ているのだが。


 「新婚たる夫婦仲を権力尽くで裂き、我が家をブチ壊したい。貴方様方は、そう申されるのでしょうか?」


 倉敷の地頭が務まる様な人材が他におらぬ以上、祈のこの言葉に対し何も返すことができない上層部は、ただ黙って見ているだけしかできぬのだ。


 魔導士として出来上がった人間の内、本人の希望があれば。隊の人員の中から定期的に帝都に送り、一定以上の成果は出している。絶対に文句は言わせるつもりはない。

 それでなくとも”魔の尾噛”は、帝国(くに)一番の英雄なのだ。

 祖国の身勝手な方針によって夫婦仲が引き裂かれる……その様な醜聞が広まっては、決して世論が黙っていないだろう。


 「(たたる)さまとは、ホントにラブラブなんですよ。私はっ! 昨晩だって。もうっ、こうして……」

 「あー、あー。その様な生々しき話なぞ、本人の口から聞きとぉないわ。てゆか、その妙な手付きをやめんかっ!」


 ()()()()()()()()、女は変わってしまう。


 昔々、此がその時できた精一杯の背伸びと云う奴だったのだろう、”耳年増”の腹違いの姉から聞いた話は。正に真実だったことを知り、愛茉は少しだけ冗談交じりに話題を振ったのを後悔した。


 「……鳳には。此方の方から文を出すとしよう。して、祈よ。其方の娘には、ちゃんと話を聞いたか?」

 「いえ、まだ。何と申しますか……」


 もごもごと何やら言葉にならぬ声が、祈の口から漏れ。


 「────いざ本人を眼の前にして。口に出してしまうと、此が急に”現実”となってしまう様な気がしまして……」


 意を決した様に、言葉を紡ぎ出したかと思えば。

 まさかその様な、不意討ち気味の寝たボケた言葉が、そこから零れ落ちてくるとは。


 「踏ん切りがつかぬ、か……」


 ────こくん。


 実年齢から考えたら、余りに子供過ぎるその反応を見て。

 呆れ返りつつも、一つ大きな溜息を漏らし、斎王は。


 「ほんに、其方と云う奴は。見た目通りに、何も成長せぬよなぁっ!」

 「愛茉さま、酷いっ!」


 

誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

ついでに各種リアクションも一緒に戴けると、今後へより一層の励みとなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ