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第305話 祖母と母の会話

某2ですが。

4回目の抽選も結局……ちくしょう。やる気が出ねぇ……




 「ふむ。我は、そのままの(しず)でええと思うておる。むしろ、何故にお前は変える必要があると思うておるのじゃ?」

 「……それを言われちゃうと。う~ん」


 最近の邪竜は、と云うと。

 真智(まち)が生まれてからこっち。ちょくちょくと(いのり)の身体を抜け出しひょっこり顔を出しては、乳母の仕事を奪う勢いで。全然頼まれてもいないというのに、”初孫”の世話を買って出ようとする始末だ。


 「”怒り”とは確かに、凡そ生物であれば。持っておらねばおかしき”反応”よ。じゃが、無理に発露させねばならぬ類いのモノでも決してあるまいて。知らぬのであれば、知らぬままでも。きっと良かろうよ」

 「……だけれど。それじゃあ、あの子は何時まで経っても退魔行を身に修めることが……」


 ”破邪の(しゅ)”とは。

 『闇を。邪を断ち切る』のだと。その念を、印に(しっか)りと乗せねば発動はしない。


 「むしろ、じゃ。それが”怒り”である必要性なぞ、欠片も無いではないか?」

 「……まぁ、云われてみれば。確かにそうなのだけれど……」


 闇を憎み、邪に怒る。

 だが、此の心の流れが。破邪の呪に乗せる”念”を生み出す為に、一番解り易く簡単なのも、また事実なのだ。


 「やはりお前と云う奴は。何処までも、頭が硬過ぎるわい。あの()()()()は、永く生き過ぎたから仕方無し、じゃが……」


 確かに、”怒り”は感情としても純粋だからこそ。

 こと、瞬間の爆発力に関してだけに言及するならば。最強の力たり得るだろう。


 「駆流(かける)が生まれる遙か以前(まえ)の話になるが────」


 邪竜は、尾噛(おがみ)の初代”駆流”に出逢う前に。

 旅の僧の手によって、封印されていたのだと云う。


 「其奴(そやつ)は、の。我を憎むでもない、怒るでもない。今思い返せば、純粋に、我を。我の”生き様”を哀れんでおったわい……」


 邪竜はというと。

 ”邪悪な存在”として、当時から人々に畏れられていた。


 生者を見かけては。腹が空いてなくとも、戯れで喰らい。

 死者を見かけては。恐怖をばら撒く為だけに、此を操る。

 人が乾くのを見ては。川を堰き止め、井戸を涸らせた。

 人が嘆くのを見ては。目の前で嘲笑い、小馬鹿にした。


 そうして”邪竜”と。人々から呼ばれる様になったのだが。

 彼女の中には。そもそも”正”も、”邪”も。その様な、凡そ”社会”を形成し、集団の中で生きていかねばならぬ人間の様に。明確な道徳観なぞ、何処にもある訳は無い。


 ……だが、その様な有り様でも。

 彼女の心の内には。言語にし難き、明らかな”焦燥”があったのだ。


 「恐らく、じゃが。我の心の内、其奴に見透かされておったのやも知れぬな……」


 『……寂しい』


 孤独に生まれ。

 孤独に生きた。


 明確な”自己(わたし)”を持つ者であれば。

 必ず覚える、孤独と云う名の焦燥。


 「てゆかさ。貴女って、すごく面倒臭い"構ってちゃん”だったんだね……」

 「やかましいわ」


 容赦の無い祈の指摘(ツッコミ)は。邪竜に、真っ直ぐに突き刺さ(クリティカルヒットだ)った。


 「……こほん。ま、そんな僧もじゃが。長い時をかけ我と戦い抜いた駆流とも……我は」


 邪竜は、”奇妙な絆”を、その時感じたのだと云う。


 「だから、かの? 我は、駆流に惚れ。その血を受け継ぐお前を娘と想い……」


 祈の胸に抱かれ、健やかに眠る真智の頬へ。微かに触れるかの様に、邪竜はその細くしなやかな指を這わす。


 「また、お前の子にも。我は、愛情を注ぎたくなってしまうのじゃろうて」


 初代駆流から連綿と続く尾噛の血脈の、その中に流るる邪竜の血。

 彼女は。此からも、見守っていくのだろうか?

 今は、祈が居るからこそ。こうして当たり前の様に意思疎通も、交流もできているのだが……


 (もし私が死んでしまったら、その後は? ”証の太刀”として、また蔵の中で……)


 「おっと、話が完全に逸れてしもうたの。つまりは、”純粋な祈り”であっても、破邪は成るじゃろ? と、我は言いたかった訳じゃ」

 「……結論で言えば、できる。できるが、それ。かなり難易度高ぇぞ?」

 「もうっ、とっしー。いきなり出て来ないでよ」


 「なんじゃ、ハゲ眼鏡め。親子水入らずの会話に、いきなり割って入るでないわ。不細工な見た目通り、なんと無粋な奴じゃ」

 「見た目は関係ねぇだろうがっ! 見た目はよぉっ!!」


 ────”不細工”は、否定しないんだ?


 祈の心の中で、意味の無いツッコミが浮かんだのは一瞬。

 でも、口には出さなかった。


 「てか。確かにとある世界では、”聖女”の称号を持つ聖職者に代表される技能(スキル)に、そんな感じの奴がある。簡単に言えば、”光の術法”って奴だな。純粋な光は、闇を駆逐するし。そのまた逆も有り得る。”光”と”闇”の間に優劣は無い。在るのは相剋のみだ」


 破邪の呪ならば。

 例え、相手が聖魔であろうが、邪聖であろうが。込められた”念”が強ければ、問答無用で祓うことができるのだが。


 光の術法では。

 光に属する者全てに対し、何ら影響を与えることができない。


 「まぁ、今の帝都に蔓延る瘴気は。この子へと向けられた呪詛が反転したモノだから問題無いっちゃ無い訳だが……」

 「問題は、どんな邪悪でも。愛せるのかって話……だっけ?」


 「まぁ、”好き嫌い”で明確に判断するお前さんにゃ絶対(ぜってー)無理な話だな」

 「当然っ。嫌いな奴なんか、私はとことん嫌うよっ!」


 万人を平等に愛するのだと云う、”慈愛の心”なんてのは。

 凡そ、普通に生きる()()()()。どだい無理な相談だろう。


 「俺もだ。嫌いな奴は、人知れず不幸になっていて欲しいし。好きな奴は、できれば幸せになって欲しい……ま、これが普通の人間の”反応”って奴だ」


 嫌いな奴は、俺の手で確実に不幸にしてやるがなっ! 


 (……などとほざくハゲ眼鏡という奴は。やはり我より余程邪悪な存在じゃと思うが)


 話がちっとも進みもしないので、あえて黙っているのは邪竜の持つ年の功と云う奴、なのだろう。


 「ほんに、極端じゃのう。お前らときたら……別に、誰も彼も平等に愛する必要なぞ何処にもありはせんわいな。ただ、瘴気に苦しむ人々のことを真剣になって思いやればええだけの話じゃろうが」


 ────それこそが、”純粋な祈り”と云う奴であろうが。


 呪術、魔術の類いの、その一切は。邪竜に欠片も理解はできぬ。

 それでも、人の持つ”想いの力”の、その強さを。邪竜は何度も経験したので、それは理解できる。


 「……それが、途轍もなく難しいんだって話なンだが」

 「だから、それはお前にとっての話じゃろが。ハゲ眼鏡め」


 「────てか。その呼び名さ、ホントええ加減やめてくんね?」

 「不許可なり。何度も言うてやるわい、お前は”ハゲ眼鏡”。それ以上でも、それ以下でもないわ」


 何時の間にかじゃれ合う二人の間から、少しだけ距離を置いた祈はというと。


 「今でも”怒ること”を知らない、優しいあの娘なら。もしかして……? 真智ちゃんは、どう思うカナ?」


 そんな母の問いかけに対して。

 息子は健やかな寝息で返した。



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