表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

300/420

第300話 退魔の行ー修行編ー

遂に300話到達です。



 「このハゲ一体何なの? なんか胡散臭。母さまの関係者って、本当なの?」


 (……なんて言われたりしたら。俺、軽く死にたくなるだろうなぁ……)


 念の為にと、イメージトレーニングを何度も行い。覚悟だけはしっかりと完了してから臨んでみた対面が。


 「よろしくお願い致しまする……」


 元々、(しず)は。性根が真っ直ぐな娘だっただけに。

 散々、若い娘から”キモい”だの、”臭い”だの言われ慣れてきた俊明(としあき)にとっては。

 其処には、新鮮な驚きと歓喜が待ち構えていた様だ。


 「よ……よーっし。良いか、静。これから俺の言う事をしっかり聞くんだぞ? お前の母親に、”呪術”を教え育てたのは、この俺なんだからなっ!」


 俊明の言葉は、確かに事実だ。

 だが、本人の口から出た……


 『アイツはワシが育てた』


 発言ほど。傍で聞いていて、無様で滑稽なモノはないのだが。


 (何と申しましょうか。此は聞いてて、妙に頬が熱くなってきますなぁ)

 (ああ。()()()()があたしらの”魂の長兄”だなんて。本当に何かの間違いではないかしら。なんて……) 


 ”霊の眼”を持たぬ静には。祈の持つ”異能”によって受肉、現界した俊明しか映っていない。

 だからこそ。

 こうして静の側に立ち、要らぬ茶々を入れようが。誰も、何も困りはしない。


 強いて云えば……


 (外野のお前ら、ちょっと黙ってろ。呪術は俺の専売特許なんだからな。悔しかったら除霊の一つでもやってみやがれってのっ!)


 二人の茶々が、しっかりと耳に入ってくる俊明の精神衛生上の問題くらいか。


 (まーた、このハゲは。すぐチョーシコキやがるんだからっ、全くもうっ!)

 (ま、ま、ま。マグナリアどの。冷静に、此処は冷静になりましょう。俊明どのは、()()()()()()()はおりませぬ故に……)

 (そうだぞー? 少しは暖かい眼で、俺らを見守ってろっての)


 百々の所。武蔵(むさし)は、つまり。


 『あのハゲが少しでもやらかしたら、即Goっ!』


 (……てゆか。そう唆しているだけで、決してマグにゃんを抑えている訳では無いんだけれどなぁ。私はどうなっても知らないよ、とっしー)


 どうしても、娘の安否が気掛かりな母としては。

 こうして娘に内緒で影に潜み。様子を覗ってしまうのだ。



 ◇◆◇



 娘が望んだ、退魔行の修練は。

 結局、母の手に依って行われる事はなかった。


 「お前さんじゃ終始冷静でいられる訳がねぇ。ってのが、先ずひとつだな」


 しっかりと自覚があるだけに。他人から其処を突かれてしまうと、忽ちに祈はぐうの音も出せなくなる。


 「”地獄巡り”の行ってなぁ、正式な手順を踏んで行わないと色々と不味いことになるのは、当然お前さんも承知してるよな? 今の不安定なお前にゃ、絶対に任せられねぇよ」


 ”地獄巡り”とは。

 観光の如く、気楽に行える様なモノでは、決して無いのだ。


 「決められた道から少しでも逸れりゃ、その時点で即お陀仏。正確な経路案内(ナビゲーション)と、()()()()()()はちゃんとやっておかにゃな」


 地獄に蠢く鬼どもであっても。その元は、人間の魂だ。

 当然、個々の性格も。考え方も様々であるのは間違いないだろう。


 その中でも。特に質の悪い奴に当たり、静が絡まれたりした場合……


 「腹を立てたお前が、一瞬で鬼を殺す様が目に浮かぶ様だぜ。お前はこれっぽっちも、こらえ性が無いからなぁ……」


 ────そんなことないっ!

 そうはっきりと言い返したいのに、”前科(こころあたり)”が多すぎて、どうしても言い返せないのだ。その悔しさに、祈の瞳にじわり涙が滲む。


 「そして、お前は絶対に()()()()()()。これがふたつめだ」


 地獄巡りの行とは。

 地獄界から始まり、餓鬼界、畜生界、修羅界、人間界、天界の。六道の全てを輪廻(まわ)る修行だ。


 ()()()()()()()()のだから。

 当然、其処に在る鬼たちからも。その先に棲む”邪”そのものとも。

 敵対せしモノ悉くを、対処せねばならぬ過酷な修行となる。


 「道中。お前は絶対(ぜってー)静を甘やかすだろうし、静も絶対お前に甘える。ってーか。身内だけでやっちゃ駄目な修行の最たるモンだからな、これって」


 地獄巡りの行は。失敗、此即ち行者の死を意味する。


 だからこそ、祈は。

 ”()る”と。

 そう表現したのだ。


 「……まぁ、それ以前に。今のお前じゃ、静を仮死状態にして、魂を肉体から離脱させにゃならんのに。そのまま本当に殺しちまいそうで怖いんだよ。これが最大の理由だな」


 幽体離脱を行う際に。

 肉体と魂との繋がり……つまりは霊糸線を。

 細く、そして脆いこの線は。謂わば現世との”命綱”であり、命運、天運そのものなのだ。


 それを、つい斬ってしまいそうだからって……


 「何処までとっしーからの信用が無いんだよ、私?」

 「あー……拙者ノーコメントで」

 「これだから、男親ってのは……子供が大雑把に育ってやーね」

 「……ってーか、マグナリア。こン中じゃ、お前さんが一番()()()だろうが」



 ◇◆◇



 「んじゃ、静。修行の前に、お前さんには。此から一度”死”を体験して貰わにゃならん」


 万物の源たるマナ。その存在だけを知覚すれば良かった魔術とは異なり。

 森羅万象、その全てに宿る魂と、周囲に満ちる”氣”。そして自身の肉体から溢れる”気”を知覚し、掌握せねばならぬ。それこそが、呪術の()()なのだ。


 「それを手っ取り早く身体に覚え込ませる為にゃ。仮の死────つまりは、”臨死体験”って奴だな。此をする訳だ」


 一歩間違うと、本当に死んじまうから。絶対に、気を抜くんじゃねーぞ?


 そうきっぱりと云われては。

 只でさえ、静にとってはまるで”未知の世界”だというのに。


 「…………」


 生唾を飲み込んだ音が、妙に耳の奥に響くことに驚く。

 どうやら、自分はかなり()()()()()()様だ。


 ────ああ。格好付けなきゃ良かったなぁ。ホント。何やってんだよ、わたし。


 此処で、仮の死を体感できるのか。

 それとも、そのまま本当に死んでしまうのか。


 後悔の念で、今にも押し潰されそうになっている静であった。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

評価、ブクマいただけたら大変嬉しいです。よろしくお願いします。

ついでに各種リアクションも一緒に戴けると、今後へより一層の励みとなります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ