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第3話 ハメられた?



 「コンチキショー。これ、絶対にハメられたわ……」


 主人格の魂に付いて現世へ降り立った俊明は、主が入った母体を見て自分の迂闊さを呪った。


 床に伏せ、浅い呼吸を繰り返し苦悶を浮かべる母体の生命の光……オーラが消えかけていたのだ。


 今にも消えそうなオーラを覆い尽くすかの様に、凄まじいまでの悪意と敵意により真っ黒に染められた怨念が渦を巻く。


 所謂呪詛である。



 この強力な呪詛により、母体の身体と精神が同時に蝕まれているのが看てとれた。


 どう見てもこの様な状況では、遠からず母体は確実に死ぬだろう。


 守護するべき魂が、この世に生を受ける前に終わるだろう事は、すぐに判った。



 この世界の管理者が言ってた数々の言葉は、この世界へ引き込む為の方便だったのか。



 何が”息抜きの人生”だ……



 何が”安らかな人生”だ!



 何が”良い人生をっ!” だ!!



 スタート前に終了しかかってンじゃねーかっ! ふざけンな!!


 守護霊の一人が、大きく咆えた。


 すぐに主が入った母体を護るべく部屋全体に結界を布いた俊明は、いきなり死に向かうだけの人生を主に押しつけてきた管理者へ怒りを募らせる。


 この世界の天界へ戻る機会があれば、即座に管理者の断罪を心に誓う。


 母体を見る。


 顎から首筋にかけて薄緑色の鱗に覆われ、漆黒の髪の間から僅かに純白の角が覗いていた。


 掛け布団のせいで彼女の全身までは覗い知ることはできないが、蜥蜴もしくは竜系統の亜人かも知れない。


 畳敷きで梁は高く、襖に囲まれた木造家屋の一室。


 天井を抜け周囲を見渡す。どうやらここは日本に近い文化の国である様だ。



 (今いる所が母屋であるとして……それなりに高い地位にある家なのか?)


 部屋をせわしなく出入りする使用人と思しき人達は、床につく母体と違い普通の? 人間種の様だ。


 その服装と先ほど見渡した周囲の様子から、精々鎌倉~室町時代程度の文化レベルであろうと俊明は漫画で何となく得た朧気な知識から推察した。


 「どうしたでござるか、俊明殿。何か問題でも?」

 「色々問題だらけだよ。つーか、武蔵さんも気付いてるでしょうに……この部屋だけじゃなく、すンごい真っ黒クロスケな呪詛が辺り一面に、だもん」


 「拙者そこまで問題にならないと思ってござる。俊明殿の結界術は、かの魔王の呪いすら簡単に弾いてござったし?」


 管理者権限ギリギリの介入である転生勇者の存在を恐れた魔王が、勇者として産まれるであろう生命へ向けて全世界をも巻き込む呪詛をかけた。


魔族の総人口のおよそ1割をも生贄にして行った大呪殺である。


 それより数年の間、新たに世界に生まれ出でるであろう知的生命は、誰からの祝福を受ける事も無く、その全てが死に絶えた。


 人類側の切り札であったはずの転生勇者の大半が、宿命を思い出す事も、それを果たす事も無く世界から退場する事となったのだ。



 「ああ、あン時の奴は弾くので精一杯だったけどね。まぁ確かに、マグナリアが産まれる時もこんなだったけどさぁ……一応ここ、あの管理者が魔王なんか居ない世界だって言ってたのに、()()だぜ?」

 「考えてみたら、あの時そのまま死んでたら……あたし、今頃こんな事になってなかったんじゃ?」

 「そこに気付いてはいけない所でござるよ、マグナリア殿」


 「しっかしなぁ~これ完全に詰んだレベルのバグゲー掴まされた様なモンだぞ。ゲームスタート以前の問題じゃねーか。インストールすらできない欠陥品を定価で買わされた。みたいなひでえ話で、しかもメーカーは、それについて何の発表も謝罪もせず、修正パッチを出す事も無くダンマリ続けてるっていう」

 「「その例え、全然わからない(でござる)」」


 母体に付いている守護霊の霊格では、この呪詛に抵抗する事ができないらしく、母体の衰弱はかなり進行していた。


 俊明の結界術によって、今後一切呪詛の効果が及ぶ事は無いが、呪詛が効かないと相手側にバレた場合、今後どの様な手段で来るか……


 ……敵?

 いや、この際そう表現しても構わないだろう……敵の出方が読めないのは、直接的に介入する事が許されない三人にとって頭の痛い問題である。



 「さて、問題は続くよどこまでも。まずその1だけど、主が胎内にいるからこそ、母体ごと結界術で護る事が許されるが、主が産まれた後は母体への介入が一切できない事。その時は、この女性が死にゆく姿を、ただただ指を咥えて見ているだけになる」


 結界を布いたこの部屋の中で、ずっと引きこもっている分には大丈夫なんだけどな、と苦笑する俊明。


 「あたしの時はあんなクソッタレな世界だったから、片親だったり孤児だったりと、そんな境遇の子が多かったのだけれど……できれば主には、そんな思いをさせたくないわ」

 「かと言って原因を究明したとて、拙者らは所詮霊魂。直接手出しする手段も、その道理も無いでござる」


 肉体を持たないただの霊魂が、世界に与える得る影響は少ない。


 じゃあレイスとかゴーストはどうなんだとツッコミはあるが、霊系アンデッドが現界に存在を保つには本人の骸や呪術式そのものである触媒、もしくは特殊な呪いによる固定が必要になる。


 つまり、レイスやゴーストとは世界への楔として触媒があって始めてこの世に存在できるれっきとしたモンスターであり、一般人でも普通に存在が視えるのはその為でもある。


 守護霊、指導霊は明確な制約がある為に、世界へ直接介入ができないのもあるのだが、俊明達の様な上級霊は、制約以前に霊格が高すぎるが故に存在そのものが世界から遠ざかる為に、更に影響力が落ちるのだ。



 「そそそ。だから俺達は、呪詛を結界で防ぐ事はできるが、狙っての呪詛返しをできない。直接胎内にいる主を狙っての呪詛ならば、その限りではないし、術者をこの世から消し去るつもりだけどな」


 守護霊が現世で力を行使できるのは「守護を定められた存在を”霊的に”護る」その一点のみ。


 なので、現状できる精一杯がこれなのだ。


 「その2。だから、毒殺やら闇討ちやらの直接行動に出られたら、完全にお手上げになる」

 「毒ならあたしが解毒術(アンチ.ポイズン)をかけるわ。即死さえしなければ回復術(キュア)もできるでしょう。どうやらこの世界は、魔術行使に必要なマナの量は充分あるみたいだし」


 マグナリアが行使する魔術は、世界に満ちたマナを利用する事で発揮される技術であり、学術である。


 この世界のマナは生前世界と遜色ないレベルの濃さがある様なので、肉体を持った状態ならばマグナリアは魔神を蹂躙し尽くした時同様に、最大限のポテンシャルを発揮できるだろう。


 より多く周囲のマナを集め、より速く凝縮し、術者の望む奇跡を発揮する為の力を魔力という。


 周囲に濃いマナがあるから、だけでは魔術を行使する事ができないのだ。


 世界によってはこのマナの密度と総量に差がかなりある。


 マナ密度が薄い、もしくは皆無に近い状態の場合、いかに本人の魔力が桁違いにあったとしても魔術の使用がほぼ不可能になる。


 ちなみに現代地球世界にはマナがほぼ存在しない。


 もし、現代地球にマグナリアが降り立ったとしたら、ちょっと人外レベルで運動神経が良いだけのただのおっぱいでしかない。


 「え、それ、アリなの? 完全に他人への物理的直接介入になるけど」

 「”主を護る行動”なんだから。アリ、よ」


 自信たっぷりに豊かすぎる胸を張るマグナリア。


 生前は殲滅、消滅、滅殺の広域破壊黒魔術ばかり使っていたので、ここに来て白魔術も使える賢者の面目躍如とばかりに偉ぶる。


 「じゃあ、今すぐ回復術かけてやってくれ。これちょっと洒落にらないレベルで不味いわ」

 「はいはい」


 マグナリアが手をかざすと、呪詛の影響で頬がこけ、土気色だった母の肌に赤みが差す。


 苦しそうな吐息は、今でこそ落ち着きを取り戻し、規則正しい寝息が聞こえてきた。


 「拙者、本当に役立たず侍……」


 こういう時、脳筋物理って何の為に存在するんだろうネー、と二人から弄られ縮こまる役立たず侍。


 「んで、その3もし仮に……もし、仮にだ。主が無事にこの世に生を受けたとして、今後穏やかな人生を歩めると思うか?」

 「「無理ね(でござ)」」


 ……今すぐ天界へ駆け上がり、管理者を滅殺してやろうか、等と物騒な事を考える守護霊三人であった。



誤字脱字あったらごめんなさい。

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