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第296話 その後始末的な話を。放棄した二人のおっさん




 建国以来、陽帝国では。

 過去5回行われていた遷都だが。


 「……まぁ。今の都は、急造そのままで使ってきたから」


 中央大陸から見て。

 列島の、しかもその端に在る島などは。


 辺境も辺境。

 それも、代官の屋敷と。その家人の荒ら家だけが建ち並んでいただけの集落が元だ。


 それでも。

 200年近くもの年月をかけ、宮殿の体裁だけは何とか繕ってみたのだが。


 「限界だった……と云えば、確かにその通りなのかも知れない。色々と足りない物が多すぎたし」

 「けれど翔ちゃん。先立つモノも無ければ、その予定地も何も決まっていないのにさ。移すことは確定で、本当に良いのかな?」


 確かな都市計画に基づいて造成された都ではなかったが為に。

 人が増えるに任せて、無計画に後付けされて。急激に狭くなる上に袋小路が形成されていたり。

 微妙に目的地まで行き届かない水路やら……


 凡そ、国家の首都としては致命的な問題の数々を、この都が抱えていたのは事実だ。


 「……そういえば、送られてきた”新倉敷”の図面を見たけれど。あれは本当に見事な出来映えだった。ウチの工作兵は優秀だね、本当に」

 「そりゃあね。優秀な人材を得るためには、教育こそが一番だもの」


 帝国では。

 長子以外の男子は。定められた期間の兵役の義務を課している。

 その際、最低限度の読み書き計算を叩き込まれ、そこから一定水準の成績を収めた者だけに、俸禄が与えられる。

 勿論成績が振るわなければ、兵役の間ずっとタダ働きだ。


 義務期間を勤め上げれば、故郷に戻れるのだが。

 所詮、継ぐ田畑の無き”部屋住み”なぞ、何処にも居場所は無い。

 碌を食む程に優秀な者達は。義務を終えたその後に、文官であったり、また武官であったりと選ぶ道はそれぞれ異なるが、士官し専門知識を身に付けて、その終生を国家に尽くす。


 「特に土木分野に関しては、専門性が高いからか引く手数多でね。一番人気の兵種だったりするのさ」

 「へぇ。それは僕、全然知らなかったなぁ……」


 「待って。一応、詳細は報告書に上げてきた筈なんだけどね、どうなってんの(こう)クン?」


 ズッ友の鋭い視線から逃げる様に、光輝(こうき)は顔を背けた。


 「……まぁ、でもいくら設計段階で完璧であったとしてもさ。これを実際に短時間で建てちゃったんだから。(いのり)クン達の手腕は、確かだったんだろうね」


 そもそも、”英雄のひとつの形”たる魔導士を大量導入して、土木作業を行う……だなんて。

 少しでも()()()()()()()()()()()()()()()。凡そ思い付く訳もないのだが。


 「……むしろ、逆に。同じ魔導士だったからの着眼点なのかなぁって。今なら気付くんだよね……想定よりも遙かに安く仕上がったし。出来れば今後も、彼女にお願いしたいくらいだよ」


 算盤を片手でシャカシャカと音を立てて振りながら、(おおとり)(しょう)は笑う。


 「もういっその事さ。その”新倉敷”に、都を移しちゃわない?」


 ────そうすれば、掛かる費用(コスト)は。後、引っ越し代だけだし。


 算盤の珠を意味も無くパチパチと弾きながら、光輝はふとした思い付きを口にする。


 「流石にそれは……祈クン達の”功績”を、権力尽くで奪う形になっちゃうからさ。ボクはオススメできないなぁ……」


 どうにも光輝は。

 ”人の気持ち”とやらが理解できない質の人物らしい。


 以前にも。

 漸く財政を立て直し、軌道に乗りかけた望の”尾噛領”を、土地替えで召し上げる案を挙げたり。

 国家の円滑な運営を安堵せねばならぬ”宰相代行”たる翔にとって、ある意味光輝という上司は、障害の一つだと言えたのだ。


 「と云うか。それ以前に”新倉敷”は、帝国の最前線にあたるのだから。そんな所に都なんか置く訳にいかないでしょ……」


 何故、未だ帝国の”最強戦力”たる魔導士達70余名を配置しているのか。また、その頭たる帝国最強の”駒”の祈を本国に引き揚げないのかを考えれば直ぐに気付こう筈なのに。


 「……いやさ。ここで彼女に対し引き上げ命令を出したって、絶対に背くに決まってるでしょ? 流石に僕だってそのくらい学習したよ。新婚さんの仲を引き裂くだなんて……流石に、ねぇ?」

 「ああ、良かった。そんな勅書を書け、なんて云われたら。ボクは迷わず、その場で隠居してたと思うよ」


 ……キミを見捨ててね。


 算盤で軽快なリズムを刻みながら、翔は少々歪んだ笑みを浮かべてみせた。


 帝と、翔は。

 一蓮托生の仲なのだから。最期は結局同じ末路を辿ることになるに決まっている。結局光輝とは、寿命が数日……いや、数時間程度の差にしかならぬだろうが。


 「僕だって自分の”死刑執行書”なんかに、進んで署名(サイン)したくないさ」

 「其処まで解ってるならさ。何で最初に新倉敷への遷都を、言い出しちゃうのかなぁ……?」


 多くの貴族家当主を襲った、謎の変死事件は。


 残された者達の、未知に対する恐怖を煽り。終いには……


 『此の”都”は、呪われてしまったのだ』


 などと、貴族だけでなく、多くの庶民の間からも。

 為政者にとって、致命傷となり得る領域(レベル)の飛語まで出てしまっては。


 「移さないと不味いのは、僕も認めるけれど……」

 「とは云え。噂に圧される形での”遷都”じゃあ、逆に験が悪くなっちゃうと思うんだ、ボクは」


 此の儘噂が収束するのを、ただ耳を塞ぎ静かに待つのも一つの対策ではあるのだろう。


 だが、それはそれで。

 国の(まつりごと)、その一切を取り仕切る者としての矜持は。激しく”否”を突き付けてくる。


 「丁度、時期(タイミング)が悪過ぎた。一光(まさみつ)への”指名”が……」


 他の候補者が、知らぬ間に消えてしまったのだから。

 現帝として、何の憂いも無く”次代の帝”への指名ができる────その筈、であったと云うのに。


 「遷都に、次代の指名に……うん、今後の予定としても。色々と無茶が過ぎるよ」

 「……もういっその事さ。古賀(こが)のボンに、遷都に纏わる一切合切。全て任せちゃわない? その”任”を持ってして、次の帝に推す形でさ」


 とはいえ、都の造成ともなれば。

 計画の立案から始まり。それこそ、完成までには10年単位での時が最低限必要()るものなのだ。


 「下手すると、ボクらは生きて"新都”の姿を見れない可能性だって僅かながらにあるんだし。なら、最初から彼の好きにやらせちゃえば良いのさ。責任(ケツ)は此方で持たねばならないのは、勿論大前提なのだけれど」

 「……ふむ、確かに。それは有りだね」


 現在、古賀 一光は。

 ”魔の森”に於ける、魔物の掃討作戦をほぼ終えて。周辺地域の開発に力を注いでいた。


 「一光様には。与えた土地、全てを召し上げる形になっちゃうのだけれど。そこはご寛恕願いたいね。最終的には、帝国の全てを掌握為さる訳だし」

 「全てを開示した上での”勅”を、此方が出せば良いだけの話さ。もう誰も、一光を阻む者など居ないんだ」


 逆に、在るとすれば。此方に近い”他国”の存在。


 屈服した”辰”は、恐らくもう大丈夫だろうが。

 もう一つの隣国”淘”辺りは、まだ解らない。


 だが、そこが急に要らぬちょっかいをかけてくるのは考え難い筈だ。

 一光の身は、中央大陸から見てこの帝都より遠いのだから。


 「……引き継ぎ、ちゃんとしていかなきゃね」

 「ようやく肩の荷、降ろせる時が来たんだね」


 二人とも。何となく良いことを言ったつもりになってはいるが。

 結局のところ。

 ただ、丸投げしただけだった。



誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

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