第295話 その後始末的な状況に。呆然とする二人のおっさん
某2ですが。
3回目の抽選も外れ傷心抱え書いてます……
列島の南に在る。
とある大きな島の、その北側に。
嘗ては、中央大陸の大部分を支配せし国の、現在の”首都”が。其処に在った。
凋落の……いや、没落の果て、と表現すべきか。前帝の御世に於いて、その国土と権威の大半を。崩れ落ちる焔の直中に失って。
山を駈け、海を越え。
命辛々逃げ出して。此処は地の果て、流されて。
漸く落ち延び、一息吐いて。暫しの休息の後に、捲土重来図っていかねば。
そう考えていた矢先に。
帝国の屋台骨の、その根本から揺らぎ、崩れ去る一大事件が発生してしまったのだ。
「────で。翔ちゃん? 結局この一件は、誰が悪い訳なんだい?」
「う~ん、困ったなぁ。”誰?” と問われれば、あの尾噛……になるのだろうけれど。でもさ、厳密に云っちゃうと、何処までも彼らは被害者だったりするんだよねぇ」
確かに祟の持ちし、此の世界唯一無二の”権能”は。
自身と、その家族に向けられし悪意、敵意に対し、自動的に”因果”による”応報”が行われるというものなのだが。
今回は、そこから更に。祈の式神<夜摩>という追い打ちと云う名のトドメまで入っているので、翔の指摘は全くの的外れだ。
「ああもう、誰が悪いとか。どうこう云う以前にさ、”他者を呪う”だなんて論外に決まってるでしょ。ましてや、ウチの愛華まで関わってたんだから、恥の上塗りだ。ふたりの罪咎を問うては絶対に駄目だからね、翔ちゃん」
帝国法に照らし合わせてみても。
他者を貶める為の呪詛、祈祷の類いは。発覚次第、極刑が確定する。
此に関しては。もう血筋がどうこう等と、そんな政治的な話で済む訳もない。
抑も防ぎようが無いのだから、実行者を徹底的に取り締まる他に術はないのだ。
……ただし。
何事で在っても、”一部例外”と云うモノが、此の世には存在する訳、なのだが。
「……というか。そんなことしたらさ、光クン。多分ボクらも彼ら同様、”冥府への片道切符”を受け取る羽目になると思うんだ」
その、一部の例外たる尾噛夫妻に対し。
ふたりとも、敵意も悪意も。芥子粒ひとつ程の欠片も持ち合わせてはいない。
彼らの心の内に潜むモノは、夫妻に対しての、ほんの少しの申し訳無さと。大量の畏れだ。
特に、鳳翔は。
自らの保身のため。そのためだけに、飢えた貴族共の生贄に捧げかけた前科がある以上、実際に夫妻から”報復”として何をやられたとしても、文句が言える立場にない。
「……そこでサラッと僕まで巻き込まないで欲しいんだけどな、翔ちゃん?」
「何を言うんだい、光クン。ボクらは大親友で、何処までも一蓮托生の間柄だってのに」
現帝光輝の、200年近くにも及ぶ、此の治世は。
”宰相代行”の立場に在る鳳 翔の手腕によって今も支えられている。
確かに。一蓮托生であるのは、疑い様の無き事実……なのだが。
「……てゆかさ。何故、僕らは祈ちゃんに殺される前提の話をしてるんだい?」
「……ホント、云われてみれば。なんでだろう?」
二人とも。それだけ、尾噛 祈に対し後ろ暗いところが多々存在する証左、なのだが。
そのことについては。深く考えることを放棄した。
「でも、奴らが如何に害悪で、最期まで糞の役に立たなかったとはいえ。此処まで一気に数が減っちゃうと……」
「いや、それ以前にさ。これだけの”事件”が起こった此の地は、流石にもうね。何処までも験が悪いって皆が……」
他人を羨み、勝手に嫉み。
その挙げ句、目障りだと呪ってみれば。あっさりそれを返されて。
言ってしまえば、身勝手極まりない自身に対する”因果”の、その”応報”を喰らっただけ。結局は、そんなつまらない話に過ぎないのだが。
「守護神さまが夢枕に立ってさ、僕にこう仰ったんだよ。『此の地は、亡者どもが残した欲によって穢れ果てた』って。確かに、験が悪いでは済まない話……かもね」
「とはいえ、”遷都”となると。この帝国には、そんな体力がある……とは。流石にまだまだ言えないんだよなぁ」
帝国の実務を与る身として、この返答を為ねばならぬ自身の不甲斐なさに対し忸怩たる思いがあるのか。翔は呻く様に呟いた。
「其処はまぁ仕方の無い話さ。ほんの数年前には、実際に国庫が空になってしまったのだから。よくここまで持ち直せたものだと、逆に感心してるんだよ、僕は」
帝国中興の礎となったのも。また、現在のこの暗澹たる状況を招いたのも。
────結局は。
「「”尾噛”……なんだよなぁ……」」
なのだが。
彼らには、何処までも直接の非が無いのだ。
今回の一件に於いても。
彼らから云わせれば。厭くまでも、反撃しただけに過ぎぬのだ。
それでも、国の代表たる二人には。
『ボク達だって。少しくらい、怨み節を吐いたって赦されるだろ?』
そう云いたくなるのも、為様が無い話だろう。彼らも、結局は。
”ただの人”なのだから。
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