第265話 それを上から見ていた者達の会話
「……しかし、まぁ。なんつーか」
「我らが育ての娘ながら。これは余りにチョロ過ぎではござらぬか……」
「でも。あの子ってば、今まで一人前の女性扱いをされた経験、ほとんど無かったのだもの。仕方の無い話ではなくて?」
常に祈との霊糸の経路が繋がっているとは云え、守護霊たちだけの内緒話もやろうと思えば、当然出来る。
今はそんな本人に聴かれでもしたら、確実に痛い目を見るであろう内輪の中だけの”内緒話”だ。
「マグナリアの云う通りだな。今までずっと大人たちの中で過ごしてたんだ。アイツは、”お子様扱い”されんのに慣れすぎた。だから余計に効いちまったんだろう」
「其も此も。言うなれば、全て我らの責任にござろうて」
「でも、こればかりは、あたし達ではフォローの為様が無いのだから、今更の話ではなくて?」
数え12の頃には、すでに祈は大人達に混じり”尾噛家”の為、”帝国”の為に日々働いてきた。
”大人顔負け”どころか、周りを圧倒する実力を祈は常に示し続けてきたのだから、当然の話だろう。
だが、一見余りにも幼く見える祈の容姿が、それを全力で否定し続けた。
その為、周囲の大人達は、余計に祈を”お子様扱い”してしまう皮肉を産んできたのだ。
「急に今までと違う扱いをされたら、ついついコロっとイッちまうのは仕方がねぇ話だろうさ。特に前々から憎からず想っていた人間からなら余計にだ。俺も、そういったのは何度か経験あるし……惚れちまうだろって」
「俊明どの。それはただの”勘違い”と云う奴にござろうて?」
「そうやって勝手に惚れられたりすると、本当に対処に困ったりするのよねぇ……」
今まで特に何も想っていない人間からの一方的に寄せられた好意には、時に色々な摩擦や軋轢を産むものだ。
それが深く関わる事の無い”赤の他人”であれば、率直に断っても何も問題無いのだろうが。もしこれが仲間からであったり、職場の同僚であったりなどしたら……
マグナリアはぶるりと身体を震わせた。
「ああ。古い記憶を呼び起こしてしまったみたいだわ……」
「女性だけの徒党に入る切っ掛けになったアレか。どうやら、意味も無くお前さんの”古傷”を抉っちまったみたいだな。悪い……」
マグナリアは生前、色々な徒党の間を渡り歩いてきた。
それは女性にだらしなかった徒党主による人間関係の問題であったり、また別の徒党では、男性面子の全員から乱暴されそうになったりと様々な事件があった。
その為、マグナリアは一時期重度の男性恐怖症に陥ってしまった程だ。
「良いのよ、もう今は何ともないのだし」
「本当にすまん。あとで絶対この埋め合わせはするから」
「……これだけの気遣いができて、何故俊明どのは生前モテなかったのでござろう?」
「嘘言っちゃいけませんぜ、武蔵さん。俺様、ちゃんとモテてましたぁ! それこそ、群がる女どもを千切っては投げ、千切っては……」
「……で。本当はどうだったのよ、トシアキ?」
「……ホント、頼むから聞くな」
「ほらぁ♡」
「……俊明どの。正直すまんかった」
一端の”淑女”を気取ったところで、滑稽にしか映らないと云われては、おんなの沽券に関わる。
だが、結局それも、祈一人が必死になっていただけの虚しき抵抗で終わり、現在に至る。
「話を戻すが、恋に恋して、結局は現実の虚しさに気付いた上で。アイツ、女になる前に一足飛びで母になっちまった訳、だかんなぁ……」
「流石にそれは色々と語弊があるのではないかと……」
「一応、事実だったりするのよね……困ったことに」
実際、祈は八幡の街で拾ってきた孤児、静を自身の”尾噛”の家へ養子として迎え入れたのだから、”祈の守護霊その1”である俊明の言葉には、何処にも誤りなど無い。
端から見た二人は、母娘の間柄ではなく歳の近い姉妹にしか見えないが、実際歳が近いのだから、こればかりはどう為様も無い話だ。
『……考えてみたらさ。あの子、私が数え4つの頃に産んだ娘って事になるんだけど……?』
などと、育ての娘がひとり頭を抱えていたのも、今は懐かしき記憶だ。
「あいつがチョロ過ぎンのは、この際仕方が無いさ。だけれど……」
「然様。我らが愛しき育ての娘。僅かでも悲しませることが在ろうものなら……」
「……燃やす? それとも切り刻む? あ。もしかして呪っちゃう?」
「「無論。全部だ(でござろう)」」
「わお♡ 楽しい未来図になりそうね」
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