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第263話 この結果は想定外



 「……いやぁ、これは面白い」

 「だなぁ。まさかあンの糞餓鬼に、こんな”才能”があったとは、なぁ」


 土佐衆が屈服し、蜥蜴の害が無くなり死国(しこく)の地が安定したところで、牙狼(がろ) (はがね)とその弟(くろがね)率いる”狼牙隊”も、倉敷の都へと戻ってきていた。


 ……本来ならば。


 「(おおとり)の奴から、『一度本国に戻ってこい』って云われちゃあいるんだがな」

 「現在、この”新倉敷”の地には、多くの難民の流入があります。そろそろ”隣国”の影が出て来るやも知れませんので」


 現在、新倉敷の地を安堵する兵は数多(あまた)存在するが、()()()()()()は、牙狼兄弟率いる”狼牙隊”だけだ。


 「まだ訓練を始めたばかりの新兵如きを、”最前線”に立たせる訳には参りませぬ」

 「文字の読み書きも碌にできねぇひよっこなんざ、危なっかしくてなぁ……」

 「ですが、鋼さま。交代要員くらい、帝国(ほんごく)から出るのでは?」


 今まで帝国に足りなかったのは、主に物資であって兵力ではない。

 狼牙隊ほど実戦経験が豊富な精鋭部隊に匹敵為うる兵団は、確かに帝国の何処を探しても見つからないだろうが、それでも帝国軍の装備は、他国の物より遙かに高性能だ。多少の実力差なぞ、簡単にひっくり返せる筈だ。


 「……良いのか。その場合、恐らくお前の兄貴が出張ってくることになっちまうぜ?」

 「……ああ。それは困ります」


 帝国の現在(いま)は。

 確かに、”兵力”は足りている。だが、”人材”は絶望的に足りていない。


 全ては、自身の権力に陰りが訪れるのを恐れた牛頭(ごず) (ごう)の仕業だ。


 そのことを思い出し、(いのり)は頭を振った。


 「一応、鳳様も”義理の父親”となるのですから、そこまで鬼畜な沙汰を下さない……そう思いたいのですけれど。こと”人材”の話になりますと、まぁ、その……」


 『今や帝国に人材(ひと)無し』


 場末の酒場で在っても、流しの楽士が奏でる音に乗って、こんな詩が聞こえてくるのだと云う。


 「まぁ、彼奴(アイツ)も一刻も早く孫の顔が見たいだろうし、早々そんなアホなこたぁ云わねぇと思うんだが。帝は……なぁ?」

 「ええ。お二人とも此の倉敷の地に残って下さり、感謝の言葉もございませぬ……」


 時の帝光輝(こうき)は、人事に関して徹底的にドライだ。

 その者の事情なぞお構い無しに、”要求する能力を満たしているか?” その一点しか考慮しない。


 当然、その場合。真っ先に候補に挙がってくるのは、”尾噛(おがみ)”だろう。

 この場に居る者、全員の見解が一致した。逆に云えば、それだけ帝国の人材が枯渇している、その証左なのだが。


 「……しかし、この”結果”を見る限りは、我らが前線を離れても特に問題は無さそうなのは確かだぜ、兄者」

 「ああ。あの皇子(ガキ)がここまで()()のは、予想外だったが、それよりも死国の奴らが使()()()のは大きい」


 伊武(いぶ) 光秀(みつひで)の自覚を促す為、千寿(せんじゅ) (すい)が採った策は、狼牙隊との模擬戦だった。


 死国の4部族、海魔(かいま)弥勒(みろく)鳴門(なると)土佐(とさ)からの志願兵による混成部隊を率いた光秀と、帝国の精鋭(エリート)を借りた祈たちとの一戦だ。


 平地で、ただ正面から争っても、何の”策”も介在出来ぬのは当然の話。

 なので、互いの部隊の配置と数。さらに陣地の構築。その全てを伏せさせて、一週間の刻をかけ何度も競わせた。

 その内容を一言で簡単に云ってしまえば”豪華な棒倒しゲーム”だ。


 互いに陣を布き、しっかり準備を行ってから行う”競技”。

 この場合斥候役の使い方と、情報の集約と相手側の心理分析こそが、戦において特に大事であり、当然”参謀役”の役割がそこに大きく関わってくる。


 ────その結果。


 「面白いくらいに。良い様にやられちまったもんだなぁ、嬢ちゃん?」

 「……まさか”人読み”のせいで負けちゃうとか。悔しいったら、もう!」


 その時のことを思い出して腹が立ってきたのか、祈は思わず近くに在った座布団を何度も殴り付けた。


 「しっかし。10戦全敗とか……この結果は、いっそ清々しいくらいだ。確かに祈様は、()()()()ところが一番の”欠点”だから、これは仕方ないかなぁ」

 「……え? ちょっ、ちょっと待って下さい、鉄さま? そんな話、私初めて聞いたのですがっ」


 「そりゃあ、お前ぇ。そんなの面当向かって云える訳ねぇだろうが。『お前の頭ン中単純過ぎてバレバレなんだよっ!』なんて。そんなこと云われて、お前さん、冷静でいられるか?」

 「無理ですっ! そんな失礼なこと言われたりしたら、わたくし、その瞬間に絶対(ぜってー)ぶん殴ってますっ!」


 言葉と同時に拳が唸り、座布団のど真ん中に丁度綺麗に穴が開く。


 「……と云う訳、なのですよ。祈様」

 「俺たちだって、命が惜しいし、痛い思いも勘弁だ」

 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……最初からこんな恥ずかしい”欠点”に気付いていたら、あんな”約束”、絶対にしなかったのにぃぃぃぃぃぃ」


 従者兼、友人の(すすぎ) 琥珀(こはく)が毎朝丁寧に梳いて綺麗に編み込んでくれる美しい白髪を乱暴に掻きむしり、祈は一人煩悶した。

 この光景を見たら、琥珀は卒倒しても可笑しくないくらいに、綺麗に整えられた祈の髪は千々に乱れてしまっていたのだ。


 「おおう。嬢ちゃん、少しは冷静に……な?」

 「いやはや。しかし、どう為さるおつもりで? ”負けた数だけ、何でも言う事を聞いてやる"────でしたか。流石にこれを女性の口からは、その。ええ、まぁ……」

 「うぅっ、いっそ殺せぇ!!」


 新都にある尾噛邸の奥座敷に、”魔術大家”の、その若き当主の絶叫が響いた。



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