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第254話 海賊たちの処遇

誤字・脱字報告いつもありがとうございます。

只今、改稿編纂作業も平行しておりますので、非常に助かります。



 その日の(リウ) 海飛(ハイフェイ)は、とても不幸だった。

 いや、彼だけが不幸であった訳ではない。多分、彼よりも彼の指揮の下、忠実に働いていた者たちの方が、よっぽど不幸であったはずだ。

 だが、海飛は。

 そんな忠義者達の存在を意識の外へと完全に押しやり、この世で一番不幸なのは自分なのだと、世の万象に対し、怨を振り撒いた。


 『俺が今不幸なのだから、この世の全ては不幸であらねばならぬ。俺が細やかな幸せを噛み締める為にも』


 ……などという、大変素晴らしい思想の持ち主こそが、”劉 海飛”と云う。あまりにあまりな、解り易い為人(ひととなり)である。


 「……こンクズ、今すぐ死にゃあ良かばいね」

 「いや、流石にそれは言い過ぎではないかと……」


 ”クズ”と呼ぶに相応しき物言いをし、半ばヤケになって踏ん反り返る海飛に対し、天翼人(おおとり) (そう)率直(どストレート)な感想が零れ、それを(すすぎ) 琥珀(こはく)が遠慮勝ちに窘めた。


 そんなクズい海飛を含む、”海賊”たちの生き残りは。

 首に縄を次々と数珠繋ぎに掛けられ、その上で両手両足を拘束された上で、祈たちの前へと引き摺り出された。


 ”海賊”たちは、久方ぶりに眼にした、見目も麗しき”生の女性”に瞬間で色めき立つも、そこから発せられる殺気混じりの冷徹な視線の数々にやられ、怒髪天を衝いた筈の()()()()が、一瞬で音を立てるが如く、しおしおと萎え果てた。


 「優しすぎヨ琥珀。こんな奴ら、みんな纏めテさっさと()()しちゃった方が良いに決まってるネ。慈悲なんか必要無(いらな)いヨー。生かしていても、餌代だってタダじゃないからネー」

 「妾もそう思いまする。この様な心根の人物は、凡そ改心なぞ期待できませぬ故」


 (ヤン) 美龍(メイロン)が掌を横に向けて何度か水平に動かし、首を切る様な仕草をしてみせ、八尋(やひろ) 栄子(えいこ)が深々と頷く。

 扱う言語が異なるのだから、海賊どもには祈たちの会話の内容は何一つ理解できないが、その中の長身の女がしてみせた仕草(ジェスチャー)で、大凡の中身は察せたのだろう。全員の顔色が一気に変わった。

 ()()()()()()は、万国共通なのだと云う実例なのかも知れない。


 そんな中、(いのり)だけは一言も発することなく、皆の口が開くままに任せ、じっと何かを考え込んでいる様だった。

 ”海賊”たちも、周囲を具足を固めた兵達にぐるりと囲まれたその中で、少女の如き小さな体躯の人物こそが一番身分が高い者であると、着ている衣服の仕上がりと、周囲の者達の態度で理解できたのだろう。

 潤んだ瞳で、まるで命乞いをするかの様に祈の顔色を覗っていた。


 「……主上。一つ、よろしいでしょうか?」


 一人物思いに耽っていた祈に、千寿(せんじゅ) (すい)が声を挙げた。


 「うん? 翠、どうしたの??」

 「此奴らの処遇。主上は、どうなさるおつもりでありましょうか?」


 そう。祈が考えていたのは、正にそのことについて、である。

 怒りに任せ、本拠地に乗り込み殲滅、捕縛したまでは良かったが。


 (────問題はここから、なんだよなぁ)


 端から事情を聞く耳も持たず、美龍の云う通り、さっさと処刑してしまった方が良い様な気がしていたのだ。

 下手に”海賊”どもの身元と、その背景を知ってしまったら。


 (今の()()()()()じゃ、どう足掻いても”戦争(いくさ)”なんかできよう筈もない。モンねぇ……)


 蒼曰く”クズ”の着ている服が、何処をどう視ても素材からして()()()()()なのを見て、祈は自身の怒りが急激に萎んでいくのを自覚してしまったのだ。

 此度の一件。如何に相手で”国”であろうとも、報復して然るべき。その筈であり、道理なのだが……


 (それを行うには、あまりも状況(タイミング)が悪過ぎる)


 本音を云ってしまえば、今すぐ海飛たちを<九尾>のマストからぶら下げて、此奴らの”本国”へと喧嘩を買い取に赴きたいくらいなのだ。

 態々向こうから強引に押し売りしてきたのだから、その言い値の何倍、何十倍の値段にも釣り上げて買い占めてやるっ! と。


 だが今の祈は、帝国貴族の一人であり、帝国軍のNo.3の地位に在る。

 その言動、その行為の一つ一つが、他国への宣戦布告。つまりは国家間の戦へと繋がってしまう可能性がある以上、逆に身動きが取れなくなってしまった訳だ。


 ”賊”の討伐。

 これ自体は帝の勅であり、実際に奴らの船団を壊滅させたのだから大成功の内に収めたと云えるのだが、事後処理をも含め、()()()を独断で行う権限は、勿論今の祈に無い。

 だからこそ、祈は翠の問いに対し、素直に答える事ができないでいるのだ。


 「主上。皆まで仰る必要はありませぬ。未だ腹に据えかねておられるのか、それとも、もう収まったのか。それだけで構いませぬ。」

 「そうだね……」


 (────翠の眼は、一体どこまで視えているのだろうか?)


 彼女の名付けの由来ともなった、美しく澄んだ翠玉の瞳は、そんな祈の姿を映したまま。ただ静かに揺らめくばかりだった。



 

誤字脱字等ありましたら、ご指摘どうかよろしくお願いいたします。

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