第250話 義理の親子の会話
誤字・脱字報告いつもありがとうございます。
只今、改稿編纂作業も平行しておりますので非常に助かります。
「……で。此度の”海賊行為”とやらは、何処の手の者によるのか、解明できたのかい?」
報告書を携えた書記官は短く「否」とだけ応える。
何とか身銭を切り崩し、漸く放り出した”物資”を、輸送途中悉くが”賊”どもなんぞに強奪されてしまう。
如何に対策を講じたとて、相手側はどうやら此方を”カモ”と看做したのか、完全に付け狙われてしまっている様だ。
そもそも、帝国内には凡そ”海軍”と呼称できる様な武装集団は、今まで存在してもいなかった。
当然である。今まで”帝国の敵”は、地に足の付いた人間どもしか、存在しなかったのだから。
その敵どもに、長らく都が置いてあった土地を追われ、僅かな財産を抱え命辛々逃げ出したその時になって初めて。
漸く帝家は、”船”という乗り物の存在を思い出したのだ。つまり、帝家にとって”海”などというモノの認識は、『広く大きな水溜まり』。その程度の認識でしかなかったのである。
そもそも帝家のお偉方はその程度の認識で全然構わなかった。
だが、帝国の政一切を取り仕切る実務者たちにとって、海とは、そして船とは、大きな政治的意味を持つ重大で、そして危険な存在として長らく認識されていた。
────それもその筈だ。
帝国が守護神として奉る精霊神”朱雀”が棲む火山島近くに在る『斎宮』へ赴く為の道のりは、時に猛烈に荒れ狂う危険な外海を、どうしても渡っていかねばならぬからだ。
斎宮への道のり半ばに命を落とした歴代の斎王、その候補者達の数は、両の指の数では到底足りはしないのだから。
如何に高波を乗り越え、横風を軽く受け流し、そして絶対に沈まない船は造れないものか……?
過去にこの難事に挑み続けたその技術の”粋”は、今も中央大陸に残っているはずだろう。その手柄を、今は”賊”どもに独占されてしまっているのだろうが。
忌々しい気持ちを抑えながら、検めて鳳翔は報告書に熟々と在る文字に目を走らせた。
「”賊”の”船”は、決まって北方から来ているのか。────やはり、”辰”か、”淘”辺り、なのかな?」
帝国を打倒し、帝家の血族全てを追い出した後の中央大陸は。
帝家の支配を支持してきた豪族を打ち破った各々の”英傑”たちが、それぞれの派閥に別れ、互いの肉を相食む戦国の”修羅の地”へと変貌ってしまった。
あれから200年以上もの刻が過ぎ、現在の中央大陸の”情勢”は、翔たちでも今は詳しく知り得ないが。
それでも、今は遠き辺境の列島の一部たるこの”島国”にあっても、幾つかの大国の名ならば轟いて聞こえてはくるのだ。
その中でも、特に帝国を憎んでいると思われるのが”辰”であり、”淘”と云う海に面した二つの、恐らくは今の帝国とほぼ同程度の力を持った国だ。
”淘”は魔導具の技術に長けており、何時かの”偽りの魔導士隊”どもが演じ踊ってみせた、例の”穀潰しども”の自信の源となった短杖は、この国で作られたものであったと翔の記憶にも在る。
我が子可愛さに、態々その様な魔導具を”密輸”していた貴族共によって、帝国が未だしぶとく生き延びているだろう事は、すでに彼らにもバレていると看るべきだろう。
”辰”の存在も決して忘れてはならない。特に彼の国の所在地は、長らく”貿易港”として、帝国の船渠が置かれていた土地だ。
奴らは、帝国が長く研究してきた”造船”の成果と手柄、その両方を横取りした生粋の”盗人”どもなのだ。
「彼の国々が手を結んでいる……等とは、流石に考え難いかな」
帝国憎し。
その一念だけで手を組むにしても、そもそも今の帝国には、その実力に見合う程の脅威を彼の国々に与えられもしないだろう。
魔導具の技術では”淘”に。そして海上戦力では”辰”に、帝国の実力は到底及びもしないのだから。
「いえ、ですが鳳様。国力だけで考えれば、どの国も他を圧倒している訳では無い筈でしょう。であれば、”共通の敵”を前に手を組むは戦略の面から観ても常道なのでは?」
同じ”四天王”の一員として、今は公的には机を並べ仕事をする同僚であり、私的には”義理の息子”となった尾噛 望が、彼にそう指摘をする。
長く帝国の政その一切を預かる翔は、様々な細かい数字を把握しているが故に、逆に帝国の実力を軽視しがちで、実は近くしか視えていない。そういう意味も含め、翔は戦略、戦術の才能の一切を持ち合わせてはいない様だ。
……云われてみれば、確かにそうだ。
翔は腕を組み、今までの”考え方”を改めた。
他国を攻めようとするならば、当然拮抗程度の実力では、双方とも疲弊する結果に終わるだけで、何ら益を生み出せはしない。
ましてや、過去に攻め滅ぼしてしまいたい程憎んでいた国が、その相手なのだ。
「……うん。確かに”淘”の魔導具で常に我らを監視し、隙あらば”辰”の船で強襲する。今までの妙に良過ぎた奴らの手際を考えると、そう考えた方がしっくり来る、か……」
「問題は、然と敵の姿が見えた所で、我らが採れるべき手段は、結局何も変わらないこと。でしょうが」
望の云うこと、悉くがその通りだ。翔は頭を抱え唸ることしかできなかった。
「光雄様の手による”献策”を、その通りになぞるべき、でありましょうね。つまりは……」
(────何時までも、何処までも。我が妹、祈の権能に頼らねばならぬとは)
未だ妹離れもできぬのか。その事に対し、多少の後ろめたさを感じ、己が不甲斐なさに腹が立ってくるのをどうにか堪えながらも。
「此度は、光秀様に軍の全権を委任し、彼の配下たる”海魔衆”の合力により、”賊”を海上にて始末するのです」
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