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第23話 太刀を作ろう

いつもよりちょっと長くなりました。




 「尾噛が逝った様だな……」


 最前線から届いたその訃報に、軍部からは衝撃と悲しみを持って迎えらる事となった。


 垰は”四天王”の中では一番年若く、特に大きな功績は無かったのだが、身分の上下に一切囚われる事無く、誰にでも公平に穏やかな物腰であたるためか、彼を慕う者はとても多かった。


 「そうだね、本当に残念だよ……だからボクは反対したんだ。こうなるのは、目に見えていたんだからね。さて、この始末、君はどう付けるつもりなんだい? 豪クン」


 おおとりしょうは、垰を死地に送り込んだ張本人である牛頭ごず (ごう)に鋭い視線を向ける。


 「ふん、今回の作戦に問題は無かった。それなのに奴が死んだのは、そもそも奴の指揮が悪かっただけであろうが」


 所詮、奴は偽物の尻尾無しだからな。と牛頭は、唇を片方だけ釣り上げ嘲笑してみせた。


 「本当にそうなのか? 上陸予定地には、すでに敵軍が待ち伏せをしていた……と、あり得ねぇ報告があるんだが、これは俺の聞き間違いかね?」


 四天王の一人でもある牙狼がろ はがねは、自身の爪をやすりで研ぎながら、つまらなさそうに牛頭に問うた。


 一応、全員同格扱いの四天王ではあるが、家の歴史と格式で、自分より遙かに劣る牙狼の舐めきった態度に、牛頭のこめかみに青筋が浮かぶ。


 (卑しい出の癖に。野の獣とそれほど変わらぬ身分の癖に。我と同格などと勘違いしよって……)


 「……聞き間違いであろ。我はそんな報告なんぞを受けてはおらぬ。もし、それが事実ならば、むしろ尾噛の方が、敵と内通していたのではないかと、我は疑いたくなるがな」


 そんな牙狼の態度に激高しそうになるのをどうにか抑え、牛頭は努めて冷静を装う。


 「はぁ。豪クン、君は何を根拠に、そんな事を言うんだい?」


 「送り込んだ部隊の大半が、生き残っているからだ。もし仮に、蛮族共に待ち伏せを受けていたなら、そこで大半の戦力を失っていてもおかしくない筈だ。なのに、送り込んだ人員の7割以上が、前線の部隊に合流できている。その部隊に間者が潜んでいてもおかしくはあるまいよ」


 自信たっぷりにそんな持論を展開する牛頭に、牙狼は頭をかきながら残念な生徒に対する教師の様な心持ちで質した。


「包囲戦からの生還者が多いってのは、それだけ現場指揮官の、尾噛の能力が高かったっつぅ証明だろうが。それにだ。もし仮によ、お前さんの言う様に、尾噛が敵と内通してたとして、何でそこで死ぬ必要があるよ?」


 「それこそ、我の知ったことでは無いわ。おおかた自分の手柄を作り出す為に演じてたつもりが、そのまま自滅したのであろうよ。所詮奴はその程度の偽物竜なんだからな」


 鼻息荒く、牛頭は『尾噛こそが裏切った』のだという持論を固持し続けた。


 きっと何を言っても彼は絶対に曲げる気が無いのだろうと、二人はそれをすぐに理解した。ならばこの時間は本当に無駄でしかないな、という諦めの境地に達してしまうのを自覚せずにはいられなかった。


 (どうして垰クンを貶める時は必ず”偽物”だの、”尻尾無し”だのと強調するのか? 本当に彼の心理が解らないなぁ……)


 「はぁ、馬鹿馬鹿しい……もういいや、俺は帰るぜ。鳳の、後ヨロシクな」


 牛頭に対し、怒鳴り散らしたくなるのをグッと堪え、牙狼はこの場から離れる事にした。


 この席において全員が同格ではあるが、牛頭の家は代々続く最古参の直臣であり、それが彼のプライドの骨子でもある。


 ほぼ自身一代で成り上がった牙狼がそんな彼に怒鳴り散らす。こんな何も益を生み出す事の無い席で、そんなのに逆恨みされるなんて何も面白く無い。さっさと居なくなるに限る……と。


 「はいはい。任されましたよ-」


 「ふん。無責任な奴め。これだから下賤の輩は……」


 「へんっ、勝手にほざいてろ。じゃあな」



 部屋には、牛頭と鳳の二人だけとなった。つい二ヶ月ほど前までは、4人が顔を合わせ、この国の行く末を案じていたのがまるで嘘の様な過去の話である。


 ……それは和やかな雰囲気とは、絶対に言えない殺伐としたものではあったのだが。


 「さて、二人きりだし……そろそろ、ボクと腹を割って話をしてみないかい、豪クン?」


 「割る腹なぞ、我は持ち合わせておらぬわ」


 話は終わりだ。


 牛頭は席を立ち、ほんの少し着崩れた上着を正す。


 「本当にそうかい? ボクの方からは、色々と聞きたい事があるんだけれどねぇ?」


 「貴様に言うべき事なぞ、我の方には何も無い」


 「ボクにはあるんだよ……君さ、暗殺者を使って、尾噛を、殺しただろ?」


 鳳の言葉に、扉ににかかった牛頭の手が止まった。


 「……何の話だ? 我は知らん」


 「垰クン含めて、今までで4人。帝国にとって将来有望な、有能な人材が、君のせいで、命を落としてきた……」


 「……だから、何の話だ? 我はそんな事なぞ知らぬ。我に関係無い話をしてどうすると……」


 牛頭の声が、微かに震えていた。必死に平静を装っているつもりなのが、背中越しなのに、手に取る様に翔には解った。


 「うん、そうだね。君がやったという証拠は見つかってない。ずっとね。ずっと無かったから、特に今回は色々と裏から手を回してみたんだ……でも、何に焦っていたのか判らないけど、今回の君は、全てにおいて雑だったね。簡単に尻尾を出してくれて、本当にありがとう」


 「……どこまで知っている?」


 取り繕うのを諦めた牛頭は、腰に帯びた刀に手をかけ背を向けたままの翔に殺気を放っていた。


 「大凡おおよそは。できれば、彼の死も止める事ができてたら最上だったんだけどねぇ。それは叶わなかったのが、残念だよ」


 本当に残念だ。寂しそうに呟く翔の声が、小さく掠れた。


 「……まさか敵に情報を流していただけではなく、複数人もの暗殺者を、彼の身辺に送り込んでいたとはね……いつも彼に辛く当たってた割に、ずいぶんと評価が高いじゃないか」


 「殺るからには、確実に殺らねばならぬ。当然の事であろ」


 刀を抜き放つ。


 牛頭が本気であるならば、このまま一息で翔の頭部は、身体と永遠の別れを告げる事だろう。


 「ああ、それはやめといた方が良いよ、豪クン。こんなつまんない所で死にたくないだろ?」


 いつの間にか牛頭は、複数の刃を持つ影に取り囲まれていたのだ。


 「ぬっ? これを狙っておったのか、貴様っ」


 「尾噛に送った書簡。あれには、何と書いてあったんだい? 年若い尾噛に、君は何をするつもりだったんだ?」


 垰は、戦場から逃げる事無く、むしろ戦場で死ぬ準備をしていた。彼がそのために真っ先に心を砕いたのが、尾噛の家だった。


 彼の何が牛頭は気に入らなかったのか……翔は全く判らなかったし、判りたいとも思わなかった。


 だが、実際に彼と彼の家に牛頭は害を及ぼした。垰が翔のことをどう思ってくれていたか、今では知る由も無いが、彼は翔にとって友人であったし、帝国の内政の側を支える立場でもある以上、究明せねばならない。


 牛頭は、帝国の名を使い、尾噛の家に何かを要求していたのは判っていた。だが、その内容までは翔でも掴めなかったのだ。


 「っく、ならば教えてやろう。我は……」



 牛頭から全てを聞き出した時、翔は牛頭豪と牛頭家を、帝国から完全に切り捨てる事に決めた。





 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇





 「はぁ? 祈も帝国に来いって?」


 「はい。本来なら、こんな話は拒否するべきなのでしょうが、尾噛の家に蛮族との内通の嫌疑がかかってしまっている以上、僕は本国の命に従うしか無いんです……」


 帝から届いた書簡には、前当主垰の死と、部隊の被害状況と、垰による裏切りの嫌疑についての言及があった。


 それらを晴らしたくば、現当主である望の出頭と、当主の証である証の太刀を持参せよ。と、綴られていたという。



 そう。問題は、その証の太刀である。



 現在それは、祈の身体の一部と化してしまっているのだ。色々試してはいるが、それを取り出す目処は、未だ立っていない。


 「ふむ。確かにあれが祈殿の中にある以上、祈殿も一緒に行かねばならぬ。それは道理でありましょうな」


 「おおお。私も、お家の外に出られるの?」


 家の敷地内だけが、世界の全てである祈にとって、家の外は未知の世界である。外の世界が見れる…そんな期待に、祈の瞳は輝いていた。


 「でも、あれって継承の儀の時しか出してなかったんでしょ? だったら、細かい部分まで知られている訳も無し、でっち上げちゃえば良いんじゃないの?」


 そこをすかさず潰したのは、マグナリアの一言であった。


 あの太刀は、世間に細部まで知られていないのだから、請われたところで贋作を持参して行っても、誰にも解る訳なぞ無いのだ。





 「……あのね、イノリちゃん? そんなに膨れてないで…ね?」


 「つーん」


「……ね? あとで大福餅でも作ってあげるから、ね?」


 小豆の餡は、まだこの時代には登場していない。それに、砂糖は高級品でもある。甘味料は主に甘蔓の蜜を煮詰めたもの、味醂、麦芽糖といった具合だ。もちろんどれも砂糖に比べればマシというだけで、充分に高級品でもある。


この時代、干し柿を潰した(場合によっては裏ごししたり)ものが、よく餡として使われていたともいう。


 「つーーーーんっ!」


 「うあああん。イノリちゃんが無視するー」




 「うん。確かにそれはアリだな。でもまぁ少なくとも、あの透き通った刀身だけは再現しないと不味いだろうな」


 「そうですね。先代の垰の口から、ある程度の特徴は、あちらにも伝わっている事でしょうし」


 「そうなると、その素材が問題でござるな。硝子なぞでは脆すぎよう」


 透き通った刀身。その一点だけなら簡単に再現できるが、それが刀として、ある程度の実用に耐えられねば、すぐに偽物とバレてしまうだろう。


 ……本当に面倒臭い。三人は溜息を漏らした。


 「ぐすん、ぐすん。そんなの、聖晶石使えば良いじゃない。あれで武器を作ったら、多分透き通った刃になるんじゃないの? あたしいくつか持ってるわよ」


 聖晶石とは、マグナリアが生きていた世界に存在する、聖なる力が結晶化した特殊な石である。


 主に、杖の先端に取り付ける魔導発振、増幅用の媒体であったり、対魔法戦用の特化盾に使用される、とても希少な素材であるのだ。


 「……こいつの存在は本当に反則だな。そんな特殊素材を、異世界に持ち込んだってバレたら後が怖いなぁ……」


 「そんなに不味いので?」


 「不味いっつーか、勇者の最強装備が、ラストダンジョンで手に入る伝説の武器だとすると、その手前の村で手に入るイベント装備で要求される材料のひとつがコレ……って言えば、どんだけヤバい代物か、解るかな?」


 「俊明殿の例え話は、いつも良く解らんのでござるが……とにかく、伝説の武器その一歩手前、が作り出せる。という認識でようござるか?」


 「そそそ。そんな感じ。でも時と場合によっては、最強の一角になり得るモンが作れちまう可能性がある。まぁ、そこは加工する人間の技量次第、とも言えるが」


 「伝説の武器、その一歩手前ですか。それはもう伝説の武器と言っても過言ではありませんね。どんなに強力なものなんでしょう…それを聞いて、滾らない男はいませんよ!」


 望がキラキラした瞳で俊明を見ていた。


 (ああ、こいつら本当に兄妹だな。こんな所がそっくりだ)


 「じゃあ、アイテムボックスの中にあるから、取り出していいわよん。ホラ?」


 マグナリアはそう言うが否や、俊明の目の前に、その豊かすぎる胸に両手を添えて、その谷間を強調する様に突き出してみせた。


 「んをっ?! アイテムボックス自体を、俺に渡してよこせば良いだろ! なんでそんな挑発刺激的な格好をする?」


 「だって、あたしアイテムボックスをここに固定しているのだもの。こうしないと、この世界に持ち込めなかったのよ」


 今この空間は、ゆっさゆっさ。ぼよよんぼよよん。ばいんばいん。と普段なら聞く事のまず無い、特殊な擬音が乱れ飛んでいた。


 「うううう…チキショー」


 脂汗を流しながら、俊明はマグナリアの悩殺ボイン攻撃から、逃げる様に後ずさっていた。


 「やっぱり俊明殿は童貞……」


 「やだー。童貞が許されるのは○○歳までよね。きゃははははは☆」


 守護霊二人が、顔をつきあい、わざと俊明に聞こえる様にひそひそ話をしてみせる。


 「どっどどどどど、童貞ちゃうわ!」


 「ほらっ。もう面倒だから、早くあたしに手ぇ出しなさいっ、な!」



 業を煮やしたマグナリアが童t……いや、俊明の腕を掴み、自身の谷間に無理矢理押し込んだ。




 「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」




 また離れに絶叫が響き渡った。




誤字脱字あったらごめんなさい。

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