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第152話 結局は行き当たりばったり



「…で、其方(そなた)は頷いてしまった、と?」


「…その通りでございます…」


ただがっくりと項垂れる様に首肯した祈の姿に、斎王(さいおう)愛茉(えま)は、首を左右に振りながら大きく息を吐いた。


「何と言うか…其方、一見意思が強そうに見えて、ほんに流され易いのぉ。もう少し傍若無人に振る舞っても良かろうに…其方程の強者なら、それも赦されよう」


「本当に、私もこんな性格が嫌で嫌で…」


面目ねぇとばかりに身を縮めて、祈は愛茉に頭を下げた。愛茉の指摘は、正に祈の核心を突き通した。急に決断を迫られてしまうと、ほぼ我を通せず場の雰囲気に流される。こんな性格が、祈は本当に嫌だった。


「どんくさい此方(こなた)も大概じゃと思ぅておったが、其方は更に…ほんに難儀な事よな…」


「全くにございます…しかし、帝国(くに)の大事にも繋がる事でございますれば。私は否と言える訳も無く…」


大魔王の分霊を宿した大軍団が、年末までに国境に押し寄せると聞いてしまっては、祈も帝国の軍を(あずか)る身。絶対に拒否などはできない。


ましてや、三聖獣が対大魔王用に何らかの策を持っているとあれば、これに協力すべきだと、祈の直感が告げるのだ。決して返答に窮したから何となく…という訳では決して無い…筈だ。


「まぁ、それはもう済んだ事じゃ。此方は諦めよとしか言えぬ。で? そんな愚痴だけを言いに、態々此方の斎宮に赴いた訳でもあるまい?」


「…愛茉様、察しがよろしいですね…ええ、そうです。此度(こたび)の大魔王の討伐、是非とも愛茉様のお力添えをお願いしたく。この尾噛祈、(まか)()しました」


「ついぞの”地鎮の儀”では、此方は終始足手纏いじゃった筈じゃ。そんな為体(ていたらく)な此方でも、其方の役に立てるのかえ?」


魔の森の地中に封印していた”穢れ”…大魔王の欠片の力を削ぎ、再封印する為の儀式こそが”地鎮の儀”の正体であった。


その地鎮の儀では、先代斎王の光流(みちる)と愛茉二人がかりの全力ですら大魔王の欠片をその場に足止めする事が精一杯で、ほぼ祈一人の力で討滅した様なものだ。


あれからかなり修行を積んだとはいえ、未だ愛茉は先代の光流を超えたとは欠片も思っていない。その様な者の力程度が加わったとて、何の役に立つのかと疑問を持っても不思議ではない。


「ええ。愛茉様でなくてはなりませぬ。此度の”策”、強者が必須でございまして…というか、正直に申しましますと、まだまだ人が足りておりませぬ」


「ほぉ? ”策”とな?」


「はい。”策”にございます。その準備に、只今、朱雀様は奔走しております」


「面白そうじゃな。祈、申してみよ」


祈の言う”策”に、愛茉は好奇心を擽られた様だ。ワクワクが止められない。そう顔に書いてあった。



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



『…彼奴(あやつ)のあの能力は本当に厄介だ。例え彼奴を滅ぼしても、討伐に赴いた者は何れ彼奴と成り果ててしまう。だから、我らは”策”を考えた』


『左様。彼奴に直接相対せば、強制的に魂へ毒を流し込まれる。なれば、最初から毒を流し込まれる距離まで近付かねば良い…とな』


『竜の娘よ、お主の持つ呪術に、魔を結界に封じ込み浄化する術があろう? それを用いて彼奴等全員を一度に滅してしまえば良い。彼奴等が一カ所に固まっている今が好機なのだ。ばらけてしまっては手遅れになる』


『その通り。彼奴の支配する都市全てを覆ってしまえば、もう彼奴の能力は何の脅威も無い。あとは粛々と浄化するのみよ』


『結界の触媒は、我らが用意しよう。少し大きくはなってしまうが、なぁに、我らが配置してやるさ』


『竜の娘よ、後はお主が術を完成させれば全てが終わる。上手くやれば戦自体回避できよう』


(おいおいおい、お前等ちょっと待てや。お前等の”策”って<破邪聖光印>の事だろ? そんなの承知できる訳ねぇだろがよ。都市全体を覆う規模であれを使ったら、祈は死んじまうっ!)


破邪聖光印は、結界内に封じ込めた魔を完全に浄化するまで永続する術だ。その発動に必要な生命力(プラーナ)は、結界の規模に比例する。


大魔王が支配する『獣の王国』の首都は、列島のほぼ中心部に在る最大の湖の畔の周辺に位置する。そこを全て覆う超巨大結界を布き、術を完全に発動させる為には、如何に優れた触媒があろうと、祈一人の生命力では恐らく足りないだろう。


もし仮に発動できたとして、それは祈の命との引き替えになる事は明白である。その様な無謀な策なぞ、守護霊である俊明には、到底承知できる筈も無い。


しかも三聖獣は、その事に一切触れず祈に決断を迫っているのだ。これは重大な敵対行為である。前世で苦楽を共にした”家族”であっても、これは絶対に赦される事ではない。俊明は自身に幾重にも施した封印を一つずつ解除しながら、覚悟を決めた。


何も無い筈の真っ白な空間が、力を解放し始めた俊明を中心に軋み、次元の壁に罅が入り、地は激しく揺れた。


「ちょっ、とっし-? 何やってんのっ? ねぇっ!」


俊明の放つ気の性質と、周囲の様子が急に変わり、祈は戸惑う。この空間の()()は、俊明が引き起こしている。それは理解したが、何故そうなるまで怒っているか、祈には全く判らなかったのだ。


『…そうだ。だが主様(ぬしさま)、早まるでない。我が孫娘は、この時の為に預けたのだから』


『左様。我の斎王(巫女)の愛茉も、微力ながら協力させよう』


『竜の娘の周囲に翼持つ者がおろう。其奴(そやつ)等も、朱雀の眷属よ。少しばかり力は足りぬだろうが、我らの”祝福”を与えれば使い物になろうて』


(…それ、本当に大丈夫なのか? 俺にビビって慌てて取って付けた言い訳じゃねーよな?)


『これは手厳しい。だが、主様の僕である我らを信じて欲しい』


『我らに”名”をくれた主様を、裏切れる訳がなかろうさ』


青竜(あの馬鹿)はどうか、それは解らぬがな。だが、誓って我らは、今でも主様の魂と共に在る』


(…今回だけだぞ? 今度俺を怒らせたら、お前等全員この世界から追い出すかんな?)


霊格による力の差だけで言えば、俊明と精霊神の差は天と地ほどに開きがある。そんな両者がぶつかれば当然、俊明が消滅するだろう。だが、精霊神全員の”真名”を抑えている俊明は、彼らに対し一方的に勝つのだ。


『我はこの世界に何の未練も無いから構わぬが、この世界に血を残した朱雀と白虎は勘弁してやってくれ』


(…いや、俺が悪かった。俺がどう思うかくらい、長く共に生きたお前等なら解る筈だもんな。だが、それでも一人足りねぇが、どうすんだ?)


『実は今そこで悩んでおる。そういえば、一人足りぬな…と』


『左様。我の眷属ばかりで固めてもバランスが悪かろうし…の』


(…マジかよ)


あそこまで自身満々に”策”と言い放った挙げ句の結局の三聖獣の無策に、俊明は頭を抱え唸った。


誤字脱字があったらごめんなさい。

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