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第15話 わたしが行く




 半裸の酒呑うわばみ達による、乱痴気騒ぎが繰り広げられているその真上で…


 「待ってくだせぇ。待ってくだせぇ、おやび~ん」


 「早くしやがれ、このウスノロがっ! あと”おやびん禁止”って言ったろ?」


「アチキ、暗い所苦手なんですよ、おやび~ん」


 「だから禁止だt……つーか、なんで付いてきたんだよ、おめぇは……」


 黒装束に身を包んだ、どうにも怪しい人影が4つ。尾噛家の屋根にあった。


 「だってだって、アチキはおやびんの影。影ながら正々堂々とおやびんの愛を盗む、愛の狩人なんですっ」


 「訳判気色悪ぃ事言うなっ! 俺に男色の気なんざねぇよ! おめぇキモ過ぎるから、さっさとくだばっちまえ!!」


 おやびんと呼ばれる影は、同性の影からの熱烈な愛の告白を、幾度も足蹴にする事で猛烈な拒絶の意思を示す。


 「ああん。つれないですぜ、おやび~ん」


 「そこまでにして下さいな、おやびんwwww」


 「騒がないで、おやびん(笑)」


 「……てめぇらも、あとで説教な」


 怪しい人影達には、緊張感の欠片も無い様だった。




 『尾噛という家に、竜に纏わる物凄いお宝があるそうだ』




 その話を聞いた時、おやび……雷太は、敵国から脱出する駄賃にと、お宝をいただいてしまおうと考えた。


 国の命により、草として帝国領内で諜報活動していた雷太達だったが、本国から何も連絡が無いまま両国間で戦端が開かれてしまい、身動きが取り辛くなっていたのだ。


 帝国領民は人類種が主で、亜人種…特に獣人の割合が本当に少ない。


 今までは、両国間で常に緊張がありはしたものの、物流や人の交流は多少なりとも続いていたので、獣人が町を歩いているのを見かける事は、希ではあるが確かにあった。


 だが、いざ開戦してしまっては、人類種が多数を占めている帝国領内は、ただでさえ肩身の狭い獣人達が外を練り歩くには、些か無謀だと言われても仕方の無い事だろう。


 対帝国の為の草の選定基準は、人類種、もしくは人類種に限りなく近い外見を持つ獣人に限られた。


 尾噛の地担当の雷太の見た目は、ほぼ人類種ではあったが、猫系獣人特有の瞳孔のせいで真昼の活動が難しかったし、部下である草達も、何かしら行動に制限が出てしまう様な人類種と異なる特徴があったのだ。



 こうなったら、お宝掻っ攫ってさっさとおさらばするに限る。



 そう決めてからの雷太達の行動は速かった。


 竜殺しの”証の太刀”が表に出て来るという継承の儀の日時を確認し、下見を繰り返し屋敷の構成を調べ上げた。


 領民からの噂では、その太刀は邪竜の尾から出てきたとか、一振りで邪竜の首を刎ねたとか、ものすごい法力を持つ代物だという。


 その家は、初代の興りから、ずっと武を誇る家系なので、きっと色々と凄い武器やら防具が蔵に眠っているだろうとも聞く。


 噂を調べれば調べる程、雷太の好奇心と欲望は止まらなくなっていった。



 「竜殺しの太刀だとか……そんなすげぇ刀を手に入れたら、戦働きで出世もきっと夢じゃねぇぜ」



 そんなこんなで、雷太は3人の部下を引き連れての冒頭に繋がった訳である。




 「酒が入っちまえば、多少うるさくしてもバレるこたぁねぇ。俺が太刀を取ってくる。おめぇらは蔵のお宝を掻っ攫ってきな」


 「「「へい、おやびん」」」


 雷太の抗議を無視し、太刀以外のお宝が眠る蔵へ三つの影は一直線へ向かう。


 見張り兵二人の首を、音も無く掻っ斬り蔵の扉を破る。


「おおっ、これは凄い……」


 魔術の心得のある影の一人が、感嘆の声を挙げる。


 特に物色もしていないのに、そこら中に魔術による強化の施された武具が目に付いた。


 鑑定なんぞをしている暇は無い。手当たり次第という訳にもいかないので、なるだけ強い力を感じる物を見繕っては布に包んでいく。


 重く嵩張るので鎧の類いは諦めるしかないが、小刀や槍やら…それらを売却した金を山分けするだけでも、充分な財産になるだろう。影達の心は浮き足だった。




 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 「……異様な気配がする」


 最初に異常に気が付いたのは、武蔵だった。


 「どしたー?」


 「さっしー、何かあったの?」


 「家の者とは異なる気配が……3……いや、4つにござる。これは…獣混じりの人種か?」


 「武蔵さん、そんなのよくわかるな。いつもそんなの気にしてたら、頭おかしくなんね?」


 「常に戦場に身を置くと、嫌でも身につくのでござる……気配は、あちらにひとつ。そして、こちらにみっつ」


 みっつ。と、武蔵の指さした方に、超常の意識を向けた俊明の表情が変わる。


 「今、二人、死んだな……」


 命の光が消えたその間際を、上級霊の意識は確かに捉えた。


 「その様で」


 「えっ…誰っ? 誰が……まさか兄様じゃないよねっ?」


 二人死んだ。


 その言葉に、祈の顔から血の気が引く。


 「かの御仁達は、とても強い”気”を持っておるので本当に分かり易い……父君と望殿は、母屋の庭に居る様にござる」


 「つか、こっちの方角は、確か古い蔵が並んでたよな……泥棒か?」


 「泥棒ねぇ……放っておきなさいな。今家にいる人間の大半は酔っ払い。ヘタに騒いでも、無駄な犠牲者が増えるだけよ」


 マグナリアは欠伸をしながら、事も無げに言う。


 祈の実家とはいえ、どうせ被害に遭うのは金持ちの蔵だ。そんなものの為に無駄に命をかける必要はない。今なら金銭被害と二人の命だけで済むのだから、どうでもいいだろうと言い切ったのだ。



 「ダメだよ……二人も死んでるんでしょ? そりゃわたしだって、それが兄様じゃないって言われてホッとしちゃったけど…でも、そんなのダメだよ」


 「あのねイノリ、賊がいる様な気がします……だなんて。そんなのじゃ、誰も動いてくれないのよ?」



 勢いよく立ち上がった祈は、マグナリアの言葉に頷きながらも、高らかに宣言した。



 「判ってる。だから、わたしが行く。絶対そいつらを捕まえてやる」




 「「「はいぃぃぃぃぃ?」」」



 その言葉は、祈の守護霊達にとって、今までで一番の衝撃であった。


誤字脱字あったらごめんなさい。

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