表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/376

第11話 ごめんなー?




 「祀梨さん、ちょっと今……時間いいかい?」



 「ええ、俊明さん。大丈夫ですよ」



 愛しい娘を護っている存在に、祀梨は笑顔で応える。



 祀梨は、死後はじめてこの世ならざる超常の存在を認識した。


 準神位を持つ三人の上級霊と、我が娘の異能。


 そして自分の……死因。


 本当に、現実味の無い話だった。


 子供に、寝話で聞かせるおとぎ話の様な。


 大人達が、深夜閨で密かに楽しむ怪談の様な……



 正直、今の自分は娘の異能によって作られた、仮初めの肉体に包まれているのだ。


 ……などという現実を、未だ信じられない、受け入れ難い気持ちがある。



 (しかし、私はあの日あの時……)


 我が娘の愛しい寝顔を、自身の身長からは絶対にあり得ない高さから……天井から、確かに見下ろしていたのだ。



 「でさぁ、ちょっと言い難いんだけど……」


 「うふふ。俊明さんにはいつもお世話になってるのですから、いくらでも言って下さいな」



 確かに、今の自分はこの世に存在しない者。だから家内の人達に気付かれない様に、気配を消して過ごす必要がある。


 不自由だけど祈の側にいられるなら、それも悪く無いと、祀梨は思う。


 目の前の上級霊には、何度も助けられている。


 そして、今もお世話になっているのだから多少の無茶な願いでも、祀梨は聞いてしまうだろう自覚があった。







 「あのさ、いきなりで悪いんだけど……何も言わずに、今すぐ成仏してくんね?」





 「はいぃ?」






 俊明は、マグナリアにしこたま怒られた。




 「いくらなんでも、色々すっ飛ばし過ぎ」


 ジャンピング土下座をキメて反省の意を示す俊明の頭を、マグナリアはグリグリと踏みにじる。


 「つい、カッとなってやった。反省してます」



 「えぇと……? その、成仏と、仰りまし……?」


 俊明のいきなりの発言と、その後目の前で繰り広げられた上級霊二人による、簡易SMショーに祀梨の意識は完全にフリーズしてしまった。


 しかしだからと言って、聞き捨てるにはあまりにあまりな内容の為に、自身の理性をフル活動させて何とか聞き返すことができたのだ。



 「ああ、祀梨さんごめんよ……何でこんな話を切り出したか、とりあえず説明すっから」



 俊明は、自分の分御霊でもある二人の守護霊に聞かせた内容を、順を追って祀梨に話した。



 「アンタにとっての一番の問題は、輪廻に関する事なんだけど…そこを別にいいって納得されちゃうと、正直俺としてはスッゲ困る」


 「何故でしょうか? それこそ、私はこのまま、祈の一生を、共に歩む覚悟でいましたのに……」


 少し後退の兆しがあり、気持ち寂しくなりつつある額を掌でピシャピシャと叩きながら、眉根を寄せて渋い顔をする俊明。


 「まぁ確かにさ。すぐに生まれ変われたからと言って、次が絶対に幸せな人生になるよ。なんて補償は無いしなぁ……そもそも生きるって事自体が、修行であり、試練であり、そして……罪でもある」



 この世界の宗教観なんて全然調べてないから、そこらの話は勘弁な?


 と、一応のことわりを入れてから続ける。



 「で、アンタをこのままにしてると…それが今世を終えた時、全て祈の罪になる。いいかい? 生きるって事は、罪を重ねながら、その都度精算している様なモンなんだ。今のアンタは罪の精算が出来ない。もうこの世の存在ではないからな。で、加算され続ける罪は何処へ行くか……此処まで云えば、もう解るよな?」


 「私が……祈の、罪であると?」


 「まぁ、ぶっちゃけその通り。それでも今まで見て見ぬ振りをしていたのは、幼い祈の事を想って、だ。俺だって本当はこんな事言いたかねぇよ。でも、誰かが言わないとな……」


 「納得したくはありませぬ。ありませぬが……我が子の、祈への、この想いそのものが…私の執着…罪、ということなのですね……?」


 愛し子を抱く感触。肌のぬくもり。


 それは心を満たし、さらに尽きる事の無い愛を育んだ。


 だが、祀梨にとってのそれは幻想であり、執着であるのだ。



 「どっちかってーと、俺の罪だな。知っていながら、今まで放置してたんだから。そのせいで、余計アンタに辛い想いを強いる訳だ。すまない……」


 「いいえ、いいえ……貴方でしたら、私なぞこの世から消し去る事は簡単にできましょうに。お話くださりまして、ありがとうございます……」



 「祈には俺から言うよ。だからもう少しだけ…祈の面倒みてくれな?」


 「……はい。ありがとうございます」


 愛しき娘との時間は、あと僅か……


 ”猶予”を与えて貰えたのだと、感謝せねばならない。


 祀梨はそう自分に言い聞かせるのであった。






 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇






 いのりー


 なにー、とっしー?


 お前、お母さん好きかー?


 うん。だいすきー


 そっかー。大好きかー


 うん、だいすきー。とっしーもすきだよー


 ありがとなー


 さっしーも、マグにゃんも、にいさまもだいすきー。あ、でもあのおばちゃんは、ちょっとだけ、きらい……じゃない、けど……こわいなぁ……


 あー、あのBBAな? ……大丈夫だぞぉ、祈を虐める奴は、この俺が”メっ”てしてやったからな?


 うん。とっしーありがとー


 気にすんな。それが俺達の役目なんだからな?




 ……かあさまのこと……やっぱり、とっしーは、”メっ”?


 やっぱり解ってたか……


 うん。もりのこがいってたの……よくないよって


 そっかー


 うん。でも、かあさまいなくなるの、やだなぁって……


 そっかー


 うん



 でも、その子が言った通りだ。お母さんとはサヨナラしなきゃいけないんだぞ?


 うん。わかって、る……


 ごめんなー?


 え、なんでとっしーが、ごめんなさいするのー?


 うん。本当はな、もっと早く俺が祈をメってしなきゃ、ダメだったんだー


 そうなんだー?


 うん。そうなんだ



 でも、いまメっていったから、いいとおもう


 そっかー


 うん。そうだよー


 そっかー、そっかー……



 うん。そうだよー





 ……とっしー、だっこー


 おう。おいで、祈……


 うん。とっしーありがとー


 どういたしましてー




 かあさま、ちゃんと、さようなら……するから……いまは……こうしててね、とっしー



 うん。ごめんなー?


 うん。わたしもごめんなさい


 ごめんなー?


 うん……



誤字脱字あったらごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ