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第100話 覚悟

ついに100話の大台にのりました。

これも皆様のお陰です。



 (……この中に、あの大魔王の魂の欠片が紛れているのか)


 周囲に気を張ってみるが、武蔵の様な驚異的な探知能力は、当然祈にはない。

 祈には、うっすらと”よくない気配”が周囲から感じる様な……位がそれとなく判る程度だ。


 (今の所、あちらから仕掛けては来ぬ様で。流石に彼の大魔王も、宴の席を荒らす様な無粋な真似はせんということでござろうか……だが、一体何用で此処に?)


 (単なる偶然……なんてこたぁ、絶対に無いだろうなぁ)


 薄くなった額をピシャピシャ叩き、俊明はいつも通りに振る舞おうと、少し無理をしている様だ。


 元勇者である俊明達守護霊にとって、魔王の魂の欠片程度なぞ、相手にとって不足も不足過ぎる。だが、この様な大勢の無関係な者が居る場での戦闘となれば話は別だ。どうやり過ごすか、どう切り抜けるか。その事に思考の多くが割かれる。


 (ムサシ、大魔王達の位置特定、急いで。今は良くても警戒は必要よ)

 (その辺は抜かりなく。とうに特定は済んでござるよ。完全に気配を消されぬ限りは、全て追跡可能にござる)

 (武蔵さん、あんた本当にスゲーな……)


 高位存在である俊明をも舌を巻く、”高感度霊界ソナー”は健在の様だ。この場に存在する、全ての魔王の魂の欠片の波動を感知し、位置の特定と捕捉がすでに完了していると武蔵はいうのである。


 (ですが、完全に気配消し去り、周囲に埋没している者が存在する可能性も、決して捨てきれませぬ。その様な者が居た場合、拙者でも把握できぬが……)


 今回の問題は、魔王の魂の欠片がこの場に複数存在する……という単純な話ではない。大魔王が一体何の目的で、この国に侵入したのかという事だ。何か明確な目的があるのであれば、それを指示する司令塔の役割を持つ個体が、必ず居る筈なのだ。


 武蔵の感知した魔王の魂の欠片の反応は6つ。

 だが、これら全てがほぼ同じ程度の強さである様だ。魂を分割したのか、はたまた弱い欠片同士が同一の目的の下に集まったのか……それは定かではないが、どちらにせよこの6つは、実行部隊と見て間違い無いだろう。


 (もしかしてだけど、挑発目的で気配をみせたとかって可能性は無いよね?)

 (その可能性はありますまい。何故なら、大魔王側にそれをやる意味がござらぬ。”勇者”という明確な敵が、この世界に存在せぬのでござれば。それに、大魔王の存在を知る者は、我らのみの筈にござる)


 大魔王が態々挑発する程に気になる存在なぞ、この世界には居ないだろうというのが武蔵の考えだ。祈の魂と一緒にこの世界に降り立つ前に、世界の管理官の説明では、この世界には”魔王”も”勇者”もいない筈だった。


 何の間違いか、他の世界から大魔王を輸入してしまった様だが、未だ対抗存在である勇者はこの世界に生まれて来てはいない。その気配を感じないのだ。


 (……とりあえず、人相(ツラ)の確認だけはしとくか?)

 (そうね。いつでも殺せる様にしとくべきよね)

 (だからマグにゃん、言う事が一々物騒なんだよぉ)



 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 「ふぅん。こいつらば見張れば良かばい?」


 魔王の容疑者(?)6人の人相、氏名、宿舎の位置を確認した祈は、翌朝蒼に見張りを頼む事にした。


 流石に、


 『こいつらは大魔王の魂の一部を持つ、大変危険な奴です』


 等と正直に言える訳も無い。蛮族の工作員の疑いがある。という”設定”にする他は無かった。


 このところずっと、蒼は空と別行動を取っていた。いつの間にか望の秘書的な仕事を受け持つ様になった空と違い、蒼は自身を徹底的に草であろうとしていた。


 尾噛家にも草の部門があるが、蒼はそこでいくつかの部隊を任される様になっていた。蒼の経歴から言えば大抜擢だ。だが、望が目指すのは実力主義の尾噛軍である。何らおかしな話ではない。


 魔王の魂の反応があったのは、尾噛兵から2名、残りは他家の兵が4名だ。その事を蒼に説明し、常に監視の草を配置して貰う手筈を取った。異常があれば直ぐに連絡が来る筈だ。



 離れに戻った祈は、武具の整備をしながら、草部隊からの報告を待つ事にした。


 宿舎周辺には、いつでも強力な結界を発動できる様に、呪符を複数配置していた。万が一に魔王が宿舎周辺で暴れる様な事があったなら、確実に封じ込める事ができるだろう。


 黒曜石の様な輝きを放つ鎧達を乾布で磨きながら、いつしか4人の話題は、その魔王容疑者達に及んでいた。


 祈は宴の席で尾噛兵の二人に接触し、それとなく探ってはみたのだが、彼らの受け答えには全く違和感が無かったし、これまで生きてきた記憶もある様ではあった。


 「一体、魔王の魂って何なんだろうね…?」

 「わかんね。一応輪廻の輪から外れた存在だとは聞いているが……」

 「転生する存在では無いのでござれば、あの者達は、憑依されている……という事でござろうか?」

 「そう考える方が自然だよな。だが祈、あいつ等視てどう思った?」


 「うん……()()()()()()()()。何だか凄く不快な斑模様って、そんな感じだった」


 祈の眼は霊界に繋がっている。その為、霊体を直接視ている。その眼から視た魔王の魂の欠片を持つ者達は、白黒の斑模様をした歪な人形に映っていた。


 「魂が浸食されているって事だ。そいつら、もう少ししたら完全に喰われちまうな」

 「そっか……何となく解っていたけど、そうだよね……」


 魂を浸食された彼らは、もう助からない。そう俊明は言葉を紡いだ。どういう理屈なのかさっぱり解らないが、大魔王の魂は他の生命体に寄生して乗っ取ってしまう特性を持つ様だ。


 「これで大魔王は滅するしかないって貴女も解ったでしょ? 奴に、一切の容赦は不要よ」

 「……うん。でも、せっかく戦場から生きて戻って来れたのに……」


 戦場から命を繋ぎ、漸く故郷の地に戻って来られたというのに……それとは気が付かぬ間に、魂を食い尽くされ存在を失ってしまう彼らの無念を想うと、祈はやるせない気持ちでいっぱいになった。


 彼らが何処で魔王の欠片に寄生されてしまったのかは解らない。あれだけ深く複雑に混じり合ってしまっては、取り除く術は恐らく無いだろう。


 だから、せめて。


 彼らが正体を無くし、この地を魔で穢す前に、殺してやる他手はない。



 短刀を一点の曇り無く拭い上げ、祈は覚悟を決めた。


 人を、殺める。

 その覚悟を。



誤字脱字があったらごめんなさい。

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