第10話 おがみむかしばなし
「明日になったら本気出す」
「問題の先送りでござるか…」
「貴方、ここに来て急にヘタれるのね…」
むかーしむかしのことでした。
あるところに、駆流という名の、それはそれは身体の大きな男がおりました。
村一番の働き者で力持ち。
弓を担いで山に入れば、必ず猪や鹿を何匹も仕留めて村に帰ってくるほどの名人です。
ときに大きな熊や人食い虎…果ては竜なんかも仕留めて来る事もあったそうです。
村一番の弓使いの噂を聞きつけた天子様は、駆流にこう命令しました。
「南の山に棲む、人々を困らせている悪い竜を退治せよ」
暴れん坊で、人々が困る顔を見るのが大好きな悪い竜は、沢山の兵隊でも相手にならないほどに、すごくすごく強かったそうです。
事実、何度も天子様は討伐に多くの兵隊を送ったのですが、ただの傷一つすら付けられなかったといいます。
そんな強い竜を一人でやっつけて来いと言われたのに、駆流は全然怯む事はありませんでした。
逆に、国で一番偉い天子様にまで名を覚えてもらえたと、駆流は喜び勇んで悪い竜の棲む山へ向かうのでした。
駆流を待っていたのは、山をぐるりと何回も巻けてしまうほどの、それはそれは大きな大きな、長い長い、真っ黒な竜でした。
大きく息を吐くと、草木は枯れ、水は干上がり、生き物は死んでしまうのだと、人々が怖がるとても強く悪い竜なのです。
それでも、駆流はひとりで悪い竜に挑みかかります。
何日も何月も続いた、それはそれは長い戦いでした。
いつしか、駆流の持っていた矢は尽き、槍は先を失い、刀は根元から折れて無くなってしまいました。
もう駆流の手には、何も武器がありません。
ならばと駆流は、悪い竜の尻尾に噛み付きます。
竜はあまりの痛みにたまらず泣き叫び暴れますが、それでも駆流は絶対に尻尾から口を離しませんでした。
そしてついに、駆流は悪い竜の尻尾を噛み千切ってしまいます。
大事な尾を失った悪い竜は、とても怒りました。
悪い竜はみんなが怖がっていた息を、駆流に何度も吐きかけます。
これは大変です。
この息を浴びてしまったら、流石の駆流でも死んでしまいます。
咄嗟に駆流は噛み千切った尾を盾に使いました。
するとどうでしょう。
崩れ落ちた悪い竜の尻尾から、とてもとても眩しい聖なる光を放つ太刀が出てきたのです。
聖なる太刀を手にした駆流は、とてつもなく強い力が身体に流れ込んで来るのを感じました。
そして、駆流が聖なる太刀を振るうたびに、竜の息は力を失い、今まで一つもつくことのなかった傷が増えていきます。
そして、駆流が聖なる太刀を振るうたびに、次第に駆流の身体は強大な竜の姿になっていきます。
長く続いた戦いは、ついに駆流が悪い竜の首を太刀で刎ねて終結しました。
こうして悪い竜を退治した駆流は、天子様から「尾噛」の姓を許され、尾噛の家ができたのでした。
めでたしめでたし。
「おおー、かけるしゅごーい☆」
「これは、尾噛の初代様のお話なんだよー。お話に出て来る聖なる太刀は、尾噛の当主の証なんだってさ。聖なる力と邪悪なる力が重なって最強に見える。敵は頭がおかしくなって死ぬ。…なんて、父上が言ってた」
「ふおぉぉぉぉ…さいきょー」
「なんっつーか…すっげーツッコミ所満載なお話だな…」
「おとぎ話風にまとめてあるからに、それを言っては無粋でござるよ、俊明殿…」
「はぁ、イノリちゃんかわいい。prprしたい…」
「「…こいつはもうダメだ。はやく何とかしないと(でござ)…」」
誤字脱字あったらごめんなさい。




