桜と綾香ちゃんと公平の関係性は、世間の常識では図れない。
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宴の時間は刻々と過ぎていき、時計の針は夜の10時丁度を指していた。当初はプンスカ怒っていた義妹の桜も時間が進むにつれて機嫌を直していき、公平の祝勝会は和やかな雰囲気で行われていった。
「そろそろお開きにするか」
テーブルの料理がほとんど無くなったのと、夜も遅くなってきた事もあり、俺は皆に祝勝会の終了を皆に提言する。皆は頷いて了承の意を示してくれた。
「公平も泊まっていくか?」
今日はこの後、綾香ちゃんが桜の部屋に泊まっていく。さすがに男子である公平が泊まって行くわけにはいかないので、俺は断られる事が前提の冗談を言ったつもりであった。公平は俺の冗談を聞いて、鼻で笑って肩を竦めている。
しかし、この冗談を真に受けてしまった困った子が一人いたわけで……。
「お義兄ちゃんの言う通り泊まって行きなよ!『銅拳2』のリベンジをしないといけないしね!』
義妹の桜が冗談で言った俺の提案に賛同してしまった。そんな桜の反応に俺と綾香ちゃんは驚いてしまい、ギョッとした目で桜の方を向く。
「桜……さすがにそれはちょっと……」
綾香ちゃんは桜をそれとなく説得しようとする。それに桜は、綾香ちゃんの反応が意外なモノであったのか、「えっ?駄目なの?」と言って、キョトンとした顔をしていた。
一方の公平は、冷静に桜の言葉を受け止めている様子で、「ハハハ。泊まっていくのも悪くないけど、明日も朝練があるからね。今日は帰るよ」と、やんわりと泊まる事を断った。
桜は頬っぺたをムスッと膨らませて、公平の断りに不満そうな様子であったが、「朝練なら仕方がないね」と、しぶしぶ納得してくれた様だ。
綾香ちゃんはそんな桜の様子を見て、少し困っているような微笑をしているが、慈愛に満ちた聖母の様な目で桜を見つめている。綾香ちゃんも本心では桜と同じ気持ちで、公平と一緒にもっと遊びたいのだろう。
昔はよく三人の家に行き来してお泊まり会をしていたらしいが、公平が中学生になってから公平がお泊まり会に参加する事は無くなったみたいだ。
当然の成り行きだ。いくら家族ぐるみの付き合いがある幼馴染みだと言えども、年頃の男子が女子の家に泊まりに行くなど常識的に考えて親が許さないだろう。逆も場合もしかりだ。桜が家を出ていった時は公平の家にお世話になっていたが、それは事情が事情だったからだ。
しかし、桜だって馬鹿な子では無い。それくらいの常識くらいは理解しているはずだ。他の男子だったら家に泊める事など一ミリも考えたりしないだろう。公平だから、桜も家に泊めたいと思っているのだ。
「桜、悪かったな。俺がいらん事を言ってしまったみたいだ」
俺の冗談が原因で桜を不快にしてしまった。俺はその謝罪をしながら、桜を慰めるようにして頭をポンポンと軽く二回叩いた。
この三人の関係は特別だ。世間一般にある只の幼馴染みでは無い。物心つく前からずっと一緒にいて、桜の悲しみを共有し、一緒に支えあって乗り越えてきた子達だ。
三人のうち誰かが傷つけば、自分の事のように皆一緒に傷つくし、誰かが嬉しい事があれば、それも自分の事のように喜こんであげれる、運命共同体のような関係を築いている。
そんな三人が、世間の常識で当てはめられる事なんか出来るはずは無い。しかし、それでもこの三人はその世間の常識という名の檻の中で生きていくしかないのだ。
世間の常識から外れるような行動は、周りから非難の対象となってしまう。世間の常識をぶち壊し、周りを変える英雄が現れるのも世の常ではあるが、それは穏やかな生き方では無い。
この三人は穏やかに暮らしたいのだ。三人が思いのまま穏やかに暮らすには、世間の常識は狭すぎる。まぁ、たかだかお泊まり会を我慢するだけの話なので、そんな大層に考える事でも無いのだけど。
しかし、男女というだけで、これからこの三人の関係性が歪に見られる事がもしかしたらあるのかもしれない。
「じゃあ、俺そろそろ帰るわ。皆、今日はありがとね」
公平はそう言うと、自分の使った食器を台所の流しに持っていき、帰る身支度をして玄関に向かおうとする。
そんな公平に俺は、「ちょっと待って。コンビニに行きたいから近くまで一緒に行くよ。財布取ってくるから少し待ってて」と言い、帰ろとする公平を引き留める。
コンビニに行きたいと言うのは、公平を家まで送っていく為の口実だ。普通に家まで送っていくと言えば、照れ臭くなって遠慮をしてしまう年頃だろう。だから、そんな回りくどいやり方で、公平を家まで送ろうとした。
しかし、公平はそんな俺の思惑なんてお見通しのようで、「別に大丈夫なのに」と言って苦笑をしていた。だが、俺の事を待ってくれる様だ。
俺は少し急ぎ足で自室に財布を取りにいった。
「桜、綾香ちゃん。アイス買ってくるけど何がいい?」
部屋から財布を取ってきた後、桜と綾香ちゃんに尋ねる。
「ありがとうございます。お兄さん。私はバニラ系のアイスだったら何でも大丈夫です」
「お義兄ちゃん!私はハーゲ○ダッツのラムレーズンとマカデミアナッツがいい!!」
アイスを買ってくれると聞いて、桜は元気を取り戻してくれたようだ。いや、取り戻してないかもしれない。周りを心配させないよう、取り繕っているだけなのかもしれない。
桜は周りを気にする事が出来る子だ。時には行きすぎてしまう程に。でも、お義兄ちゃんのお財布事情も気にしていただけたら有難いなぁ……。
「桜さん、またそんな少しお高めのアイスを……。せめてどちらか一つにしなさい」
「はぁ~い。じゃあ、ラムレーズンでお願い!お義兄ちゃん!」
「はいはい」
聞き分けのいい義妹で助かります。しかし、お前がハーゲ○ダッツを買ったせいで、綾香ちゃんにもハーゲ○ダッツのバニラ味を買わないといけなくなったけどな。
公平にもアイスを買ってあげるとして、ハーゲ○ダッツ×三個と俺のガリ○リ君で千円近くは使ってしまう……。コンビニアイス千円使う事になるとは……トホホ。
二人のオーダーを聞いた俺は、待っていてくれた公平と一緒に玄関に向かい家から出ていく。




