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私と体育祭。②

 部屋着に着替え終わった私は、リビングでテレビを見ようとして座布団をテーブルの椅子に敷き、椅子に座った。


「なんも面白いのやってないなぁ~…」


 しばらくテレビを見ていたけど、興味を引くようなテレビは何もやっていない。お義兄ちゃんが夜いない事は最近なかったから、この時間お義兄ちゃんがいないとどう過ごしていいか分からない。勉強をしようとしても、何故か今は勉強に身が入りそうにない。


「はぁ~」


 私はテーブルに突っ伏し、大きなタメ息をついた。…ってか、なんで体育祭なんてあるの!?あんな能力の優劣を強制的に公衆の面前で見せつけ晒し者にする競技、今の時代に絶対やったら駄目だと思うの!しかも私は学年で三番目に速いはずなのに、その速いグループに強制的に入れられるせいで速いのに晒し者にされるというこの理不尽!

 勝てるように努力すればいい?そんなの無理じゃん!だって、私より速い二人は陸上部だよ?二人とも県大会レベルの猛者だよ?その二人に次いで帰宅部の私が学年で三番目に速い事自体誉められるべき事でしょ!

 しかも、何故かその二人の陸上部のうちの一人で、この学年で一番速い女子の宇多田うただ ユキがいつも体育祭になると突っかかってくるのが面倒臭い。何故帰宅部の私に対抗意識を燃やしてくるのだろう?本当に意味が分からない。

 あ~嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!でも、誰かが走らないといけないし…私が拒否をすれば誰かに押し付ける事になる……

 私はどうしようもない事をテーブルに顔を伏せながら考えていると、頭が段々とぼ~っとしてきた。そして考える力もやがて無くなっていき、そのまま夢の世界へと誘われていった。




「……きろ………起き…ろ………起きろ。そんな所で寝てたらちゃんとした睡眠とれないぞ?ちゃんと布団で寝なさい」


「…ん……、あっ……お義兄ちゃん……お帰りなさい……」


 夢の世界の住人であった私をお義兄ちゃんが優しく揺さぶりながら、私を現実の世界へと連れ戻してくれた。

 涎をたらしたまま時計を見てみると、時計の針は11時30分を指していた。なんとか終電に間に合ったのかな?時計からお義兄ちゃんの方に顔を向けると、お義兄ちゃんは優しい笑顔で私の事を見ていた。


「ん?どうした?」


 お義兄ちゃんの笑顔に私は安心したのか、何故か自然と涙が溢れでて止まらなくなってきた。涎が垂れている顔を拭くことをしないまま、私は泣き叫びながらお義兄ちゃんの胸に飛び込み抱きついた。


「わぁ~ん!!お義兄ちゃ~ん!!」


「え!何!?ちょ、涎拭け!スーツが汚れる!!どうした!どうした!?」


「わぁ~ん!!お腹が空いたよ~!!」


「お腹?晩御飯食べてないの?うわ!てか鼻水までついた!いいから離れろ!!」


 お義兄ちゃんが軽く手で私の顔を引き剥がそうとしてくるが、私は全力でお義兄ちゃんに抱きつこうとするのを辞めなかった。

 お義兄ちゃんは諦めたのか、抵抗する事を止めて私の頭に手をやって何も言わずに頭を撫でてくれた。

 本当にお義兄ちゃんは優しい。このままずっとお義兄ちゃんに抱きついていたい…お義兄ちゃんがいたら嫌な事なんてどうでもよくなってくる……でも、仕事から帰ってきたばかりでこんな泣きつかれたらお義兄ちゃんもしんどいよね……

 お義兄ちゃんを困らしている事に気付いた私は泣くのを止めて、お義兄ちゃんから離れた。


「ごめんなさい…お義兄ちゃん……」


「謝らなくていいよ?取り敢えず簡単にご飯でも作るか」


 そういってお義兄ちゃんは笑顔で私の頭を軽くポンポンと手で叩き、台所へと向かった。私はテーブルの椅子に再び座り、鼻をすすりながらお義兄ちゃんが料理を作るのを待っていた。

 冷静になると恥ずかしい……別にそんな泣いて抱き付く程の悩みでもないのだけど…。多分、今日はお義兄ちゃんにうんと甘えようとしてた分、一人の夜が凄く寂しかったのだろう。その反動で起きた瞬間お義兄ちゃんの顔があった事で急に安心して泣いてしまったのかな?うん。きっとそうだ。お義兄ちゃんの安心力は本当に凄い破壊力だ。


「はい、有り合わせだからこんなんしか作れないけど」


 そう言ってお義兄ちゃんは焼き飯と肉野菜炒めとインスタントの味噌汁をテーブルの上に置いた。


「ありがとう。頂きます」


 私はまず焼き飯を口に頬張った。お義兄ちゃんの焼き飯はいつも絶品である。お義兄ちゃんが公言する48の得意料理のうちの一つであり、焼き飯だけでレパートリーが6個もあるくらいである。

 肉野菜炒めも美味しく、昼から何も食べていない私は箸を止めずどんどん食べていった。


「桜?今日なんかあったの?」


 お義兄ちゃんが片肘をテーブルに付き、手を頬に当てた格好で聞いてきた。


「……ん、いや…別に何かあった訳じゃないんだけど…なんかちょっと今日寂しくなっちゃって……」


「寂しく?……まぁ、もうすぐ一年(・・・・・・)になるしな……」


 そう言ってお義兄ちゃんは少し寂しそうな顔をしながらカレンダーを眺めた。来月にはお姉ちゃんの命日があり、お姉ちゃんが死んでもうすぐ一年になる。

 特にそう言った理由で情緒不安定になった訳ではないのだけど、体育祭のクラス選抜リレーのアンカーに選ばれたのが今回の原因だとはしょうもなすぎてとても言えない。恥ずかしい…

 お姉ちゃんが死んだ事は今でも当然凄く寂しいし、悲しい。でも、お義兄ちゃんはそれを感じさせないよう、私の為にいつも頑張ってくれている。こんな誤解でお義兄ちゃんをセンチメンタルにさせてしまうの凄く申し訳ない。話題を変えよう!


「そう言えば今日はこんな時間になるまで残業なんて珍しいね?そんな大変だったの?」


「いや……」


 私の話題を変えるつもりで適当に言った質問に、お義兄ちゃんは気まずそうな顔をして私から目をそらした。


「ん?どうしたの?」


「いやな……まぁトラブルはトラブルなんだが、まぁ納期とか色々重なったとかも色々あったんだけど、たまたまそういった仕事が新藤の仕事でね…その新藤が少し体調不良と言いますかなんと言いますか…少しというかかなりというか……|お腹の方が凄いやられた《・・・・・・・・》みたいでして…。それで新藤がお仕事をお休みしたのでちょっと大変になったということで…」


 お義兄ちゃんは歯切れの悪い言い回しで答えてくれた。

 そうなんだ、新藤さん体調不良なんだ。2日前家にきた時は元気だったのに何でだろ?何か悪い食べ物でも食べたのかな?

 食べ物と言えば新藤さんは私の作ったカレーを食べてくれたのだろうか?数日寝かしてるからきっと美味しくなっているはず。美味しく食べてくれてたらいいな!!




読んで頂きありがとうございます。

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