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桜井さんに誘われる。

安室あむろさん。二人で飲みにいきませんか?桜が友達の家にお泊まりでいないんだ」


「え?」


 終業時間になり、タイムカードを押して帰宅しようとしているところに、桜井さくらいさんが声をかけてきた。桜井さんが発した予想外の言葉に、私は動揺を隠せずにいた。


「二人で……ですか?」


「うん。健太けんた新藤しんどうにも声をかけたんだけど、二人ともこの後予定があるみたいで。それならば、地元に美味しい店があるので、近所に住んでる安室さんと一緒にどうかな?と思いまして」


「は、はい!行きます!行かせてください!」


 私は桜井さんに詰めよりながら、必死に飲みにいきたいとの意思表面をする。桜井さんはそんな私に苦笑をしながら、「近いなぁ」っと言って少し困惑した様子だった。


「あっ、スミマセン……」


 桜井さん反応に、自分が取り乱した事に気づいて少し恥ずかしくなってしまう私であった。しかし、それは仕方がない事だ。

 だって、もうプライベートで誘ってくれる事なんて無いと思っていたのだから……。

 桜さんの家出での一件で、私が桜井さんの事が好きだと言う事が伝わってしまった。そして、それは桜さんが家出の原因となってしまったのだ。

 桜さんの一件が解決したとはいえ、桜さんの事を考えたら、私には職場以外ではもう会わないと判断されても仕方がないと、私は覚悟をしていた。

 当然、会社では普段通りにしようと心掛けようとしていた。桜井さんも変わりなく接してくれていたのだけど、まさか桜井さんの方から誘ってくれるなんて、しかも二人で……こんなの動揺しない方がおかしい。

 私の恋が実る事は無い。それは分かっている。桜井さんは浜崎はまさき先輩の事が今でも大好き。そして、今一番大切な女の子は桜さん。

 だから、このお誘いに他意はない事くらいは分かっている。変な期待はしていない。でも……凄くうれしい。変な期待はしていない。していないのだけど……。

 私は胸を踊らせながら、桜井さんと電車に乗って地元に戻り、桜井さんが誘ってくれたお店の前へと向かうのであった。

 地元の駅を降り、歩いて15分のところにそのお店はあった。私の家からそんな遠くない場所にあるお店だが、私はこのお店をまったく知らなかった。


「うみんちゅ……」


 お店の前に置いてある看板を読み上げる。お店の名前は『うみんちゅ』という名前のようだ。いかにも個人経営で、長年続けている居酒屋さんである事を窺わせる見た目のお店だ。

 平たくいえば、地元のおじさん達が好んできそうなお店であり、男女が二人っきりでくるような雰囲気の外観をしたお店では無い……。

 いや……まったく期待してませんでしたとも!!ムーディーなお店に連れていかれて、ムフフな展開なんてまったく期待してませんでしたよ!?これっぽっちもね!だから残念にだなんてまったく思ってないです!最初から地元のお店だって言ってましたもんね!


「ん?どうかした?安室さん」


「い、いえ!なんでもないです!ただ、こんなところに居酒屋さんがあったんだなぁ~と思いまして」


「沖縄料理のお店なんだ。子供の頃から家族ときていて、すっごく美味しいんだよ。近所に住んでいる安室さんにも、知らなかったら一度紹介してみたくてさ」


「そうなんですか。凄く嬉しくです」


 私は笑顔で桜井さんにそう言った。本当の事を言えば、少し残念なのは否めないのだけど、嬉しい気持ちがあるのも本当だ。

 このお店が子供の頃から今も来ているお店だと言うのであれば、それは桜井さんにとって思い出が詰まっているお店だと言う事だ。

 そんな思い入れのあるお店を私に紹介してくれるという事は、それは桜井さんのパーソナルスペースに私を踏み入れさせてくれているように思えて……。


「入ろうか。安室さん。」


「はい!」


 私は少しの幸福感を胸に抱きながら、店の中へと入っていった。外観とは違い、店の中は結構綺麗にしていて、お客さんは仕事終わりの会社員やら家族連れやらで繁盛していた。女性も結構多い。


「へいらっしゃい!!……おや、さくちゃん久しぶり。今日は珍しく美人さんを連れてきてるじゃないかい?」


 店に入るなり、カウンターに立っている店主と思わしき人が、桜井さんに話しかけてきた。


「久しぶり、大将。こちらの美人さんは会社の同僚で、最近結構親しくしているんだ。近所に住んでて、また()とも一緒にくる事があると思うからよろしく頼むよ」


 私は桜井の言葉の後に、店主にペコリと頭を下げて挨拶をした。


「おう!咲ちゃんも隅に置けねぇな!奥の座席が空いてるから、そこに座りなよ」


「ありがとう。大将」


 私達は奥にある座席に案内され、靴を脱いで座席へと上がって座布団の上に座った。


「あれ?なんか顔が赤くない?」


 座って早々、桜井さんが私の顔色を指摘してくる。


「いや……、あんな大きい声であんな事を言われたら、そりゃあ恥ずかしくもなりますよ……」


「あんな事て……美人さんの事?」


 私は首を大きく縦に二回振って肯定をした。


「ハハハ!まぁ、美人なのは本当の事だからいいじゃない。そんなに恥ずかしくならなくても。」


「もう……やめてください。」


 そう言って頂けるのはありがたいけど、余計に恥ずかしくなるので本当にやめてほしい。

 でも、それより桜井さんは気になる事を大将に言っていた。『また、()とも一緒に来ると思うから』と……。それも本当の事なのだろうか?

 私は当然、また桜さんとご飯をご一緒に出来たら嬉しいのだけど……桜さんは……。


「安室さん。飲み物どうする?」


「えっ?」


 桜井さんは考えこんでいた私にメニューを開いて見せて、頼みたい飲みものを聞いてきた。


「あ、えっと……じゃあレモンチューハイで」


「オッケ、レモンチューハイね。スイマセーン!生ビール一つとレモンチューハイ一つで!」


 桜井さんはカウンターの方に向かって大声で飲み物の注文を言った。それに対して店員さんも「ハーイ!」と大声を出して返事をする。

 飲み物の注文が通り、今度はメニューを見ながら食べ物の注文を考える。沖縄料理のお店らしく、ゴーヤチャンプルーやらそれっぽい食べ物の名前がメニューに並ぶが、沖縄料理の範疇外の食べ物も沢山メニューには載ってあり、沖縄料理専門店というよりは、沖縄料理も置いてある、創作居酒屋さんみたいな感じのようだ。


「黒豚三種盛り?」


「あぁ、黒豚を使ったウインナーと角煮と餃子が一皿に乗っているんだ」


「へぇ~美味しそう。」


「うん。美味しいよ。じゃあそれ頼もうか。」


「はい!」


 その他にも食べ物を数種類選び、店員さんがお酒持ってきたタイミングで食べ物の注文をした。店員さんはお酒と一緒にお通しも持ってきてくれた。


「じゃあ、乾杯しようか」


「はい」


 私は桜井さんとグラスを合わせて乾杯し、レモンチューハイに口をつけた。そして、お通しでやってきた小鉢に入っている煮物を一口食べる。


「あっ、美味しい……」


「でしょ?まだお通しだけだけどいけるでしょ?ここのお店」


「はい。近くにあるのになんで知らなかったんだろ?」


「まぁ、ぱっと見はただの古い居酒屋さんだからね。大将もいい人だし、またこの店に来てあげてよ。」


「はい。お母さん達にも紹介します!」


 お通しの煮物でこんなに美味しいのだから、メニューに載っている料理も美味しいに違いない。まだ来ぬ料理に期待をしつつ、和やかな雰囲気で桜井さんとの食事が始まった。

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