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川瀬の来訪。②

「今日で賞味期限が切れる豚肉と……キムチ……。うん、豚キムチにしよう。」


 豚キムチはごはんにも合うし、酒のつまみになる。桜の昼飯と川瀬のつまみを兼用するには最高のおかずだ。


さくら。もうすぐで昼飯にするから、それまで川瀬の相手をしてやってくれ」


「はぁ~い」


「してやってくれってなんだ?」


 文句がありそうな顔して、川瀬が俺を睨んでくるが、俺はその視線を無視して料理を作り始めた。

 桜井さくらい家の豚キムチは、炒める際にゴマ油を投入するのが伝統だ。そうする事により風味が出て、更に美味しく出来上がる。

 豚キムチの他に、後は適当にひじきとか漬け物を出しとけばいいだろ。枝豆も確か余ってたはずだ。

 俺はテキパキと事を進め、時間にして30分かからずに、食事の準備を終わらせた。皿に盛り付けた料理を、桜と川瀬が待っているテーブルへと持っていく。


「はい、それでは召し上がれ。」


「ありがとう!お義兄ちゃん!いただきます!」


「おぉ!旨そうだな!」


 桜は美味しそうに豚キムチとご飯を頬張り、川瀬は俺と乾杯をしたあと、モリモリ豚キムチを食べながら、グビグビとビールを飲んでいた。


「かぁ~!!うめぇ~!ビールに豚キムチ合うわぁ~!」


 川瀬は豪快な飲みっぷりに、俺は唖然として川瀬を見つめる。


「お前はおっさんか?もうちょっとおしとやかに出来ないの?」


「あっ、嫌だぁ~。全時代的ぃ~。女性に女性らしさを求めるとか今の時代裁判沙汰なんですけどぉ~」


「ウザッ!馬鹿のクセに無駄にそれっぽい事を言いやがって!」


「馬鹿ってなんだよ!馬鹿って!」


 俺と川瀬のやり取りを見て、桜は「ハハハ」と大笑いしていた。

 まぁ、川瀬の言うとおり、今の俺の発言は気をつけないといけないのかもな。女性ひとによっては、ああ言った言葉で本当に傷ついてしまう事があるのだろう。

 それにしても川瀬は女性とか関係なく、もう少し大人しくなった方がいいと思うけどな。


「ムシャムシャ……そう言えばさ、二人はお盆とか予定あるの?……ムシャムシャ」


 川瀬は豚キムチをムシャムシャ食べながら、俺達の予定を聞いてきた。まずは飲み込んでから喋りなさいよ……。


「まぁ、一応お盆休みで連休はあるけど……」


「私も夏休みは受験対策の夏期講習を受けるけど、お盆期間はお休みだよ。」


「じゃあさ!別荘にいこうぜ!別荘!」


 俺と桜は同時に「別荘?」と言って首を傾げた。


「あぁ!別荘だよ!うちの店の常連さんで、お金持ちの社長さんがいるんだよ!その人が千葉県のとあるビーチ近くに別荘を持ってて、今年は利用する事が無いからって鍵を貸してくれたんだよ!20人くらい泊まれる大きな別荘で、カラオケルームがあったり、地下にはシアタールームがあるみたいだぜ!BBQテラスやテニスコートとかもあるし、絶対に楽しいぜ!」


「ほへぇ~」


 金持ちっている所にはいるもんなんだなぁ。俺なんて、さっきまでエアコン代を節約する為に、汗だくになってゲームをしていたというのに……。

 しかし、そんな凄い別荘をタダで貸してくれるという上手い話が本当にあるのだろうか?何かあやしい……


「別荘に泊まる前に、ハウスキーパー代わりに別荘の大掃除をさせられるとかないよな?」


「ちげぇよ!定期的に清掃業者呼んでるらしいから綺麗な別荘だよ!」


「ふ~ん。じゃあその社長さんと川瀬がただならぬ関係だとか?」


「じゃあ私と社長の二人でその別荘にいくだろ。その社長と関係が深いのは私っていうよりもママの方だよ。あとママもそんな関係じゃねぇよ。社長が太っ腹なだけだ!」


「マジか。すげぇな社長って」


「……でもぉ~」


「でも?」


「今月お金使いすぎてぇ~、来月もそのせいでマジピンチみたいなぁ~、だからぁ~旅行でかかるお金を出してほしいかなぁ~って。」


 川瀬は猫なで声でブリブリしながら、いきなりとんでもない事を言い出した。社長は何も思惑をはらんでいなかったが、川瀬は腹に思惑を抱えていた。


「やっぱり何かあるんじゃねぇか。嫌だよ。なんでお前の分の金を出さにゃあならんのだ」


「いいじゃねぇかよ~!海で遊びたいんだよぉ~!大人数でBBQして盛り上がりたいんだよぉ~!宿代をはタダだし、車でいけば交通費も安いしぃ~、かかるのは食費ぐらじゃねぇかぁ~。いいだろぉ~?正社員様は夏のボーナスが入っているんだろぉ?」


「その言い方なんかムカつくな」


 まぁ、確かに宿代がタダならかかるのは食費くらいか。その他の雑費なんかそんなにかからんだろうし、この1、2年は色々あって、桜を遊びに連れて行ってあげられてないしなぁ~……

 俺は桜の方を向き、「桜はどうしたい?」と言って、別荘に行ってみたいかを尋ねてみた。


「う~ん……。大人数でBBQをしたいって明日香ちゃん言ってたけど、誰が来るのかもう決まってるの?」


「いや、決まってないよ。一人二人誘おうかな?って奴はいるけど。桜ちゃんの友達を沢山呼んでくれて構わないぜ。綾香あやかちゃんに八重やえちゃんに……あと公平こうへい君だっけ?桜井も、田原たはらとか友達を呼んでくれよ。」


「それじゃあ……私は別荘に行ってみたいかな?皆で行ったら楽しそう!」


「そうだろ、そうだろ?花火大会とかもあるみたいだぜ!」


「うわぁ~凄いね!楽しみだなぁ~!」


「あぁ!楽しみだぜ!」


 二人はあたかも別荘に行く事が決定しているかのようなノリで、凄く盛り上がっていた。俺はまだ行くとは言っていないのに。

 まぁ、桜がこんなに喜んでいるのなら、俺に断る事なんて出来ないのだけどな。


「わかったよ。川瀬の費用は俺が持つよ」


「さすが桜井!よっ、社長!太っ腹!」


「本当に太っ腹社長の話をされた後にそんな事を言われもなぁ……」


 こうして、特に何もなく過ごす予定であった今年のお盆に、豪華別荘宿泊旅行という素敵な予定が入ったのであった。

 半ば強引に予定を決められてしまったが、そのお陰で桜の喜ぶ姿を見る事が出来た。それは俺にとって何よりも嬉しい事である。まぁ、川瀬には感謝しておくか。


「川瀬」


「なんだ?」


「誘ってくれてありがとな」


「なんだよ。急に態度を変えやがって。改まってそんな事を言われると照れるじゃねぇか」


 川瀬は顔を赤くし、照れた笑みを浮かべながら、ビールをゴクゴクと飲み始めた。そんな川瀬の姿が何処か可笑しく、俺も笑みを浮かべてビールに口をつける。

 紫苑の親友だった川瀬は、俺と桜の事情をよく知る人物の一人だ。桜が家を出ていった件についても迷惑をかけてしまったので、そこの事についてもよく知っている。

 あの強引な誘い方は、複雑な関係の俺と桜に対して、川瀬なりに気を使ってくれての事なのかもしれないな。


「ぷはぁ~!!やっぱりビールは美味しいぜ!……あれ?枝豆が無くなったな?枝豆のおかわり無いの?」


 そう言って川瀬は俺に空になった皿を差し出してくる。

 ……そうだよね。君はそういう奴だよね。少しでも君が気を使える奴だと思った俺が愚かだったよ。

 俺は無言で川瀬が差し出してきた皿を受け取り、目で川瀬に不満を訴えながら、粛々と枝豆を茹で始めるのであった。



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