川瀬の来訪。
「あぁ~、あっちぃ~」
7月中旬、とある日の休日。俺はタンクトップに下はパンツだけのスタイルで扇風機の風に当たり、そして、棒状のアイスキャンディー(いちご味)を口に咥えながら、自室で戦国シミュレーションゲームをしていた。
桜は自分の部屋で勉強をしており、桜の部屋でエアコンを使っている為、俺は節約の為にエアコンを使わずにいる。
お金に困っている訳では無い。嫁である紫苑事故死による保険金やら賠償金。そして財産相続。紫苑と桜の両親も事故で亡くなっており、紫苑には結構な額の貯金があった。
当然、そんな金などまったくいらなかったのだけど……。
そのお金はなるべく手をつけないようにしている。使う時は、桜の事でお金がどうしても必要になる時だけだ。普段の生活費には使ってはいない。
だから、普段からなるべく節約できる所は節約しようと心がけている。しかし……
「扇風機だけじゃあ限界があるなぁ……。でも、流石にエアコン2台使うのは電気代がアホすぎるからなぁ……」
俺の希望通り、進学する事を決意してくれた桜には勉強に集中してもらいたい。リビングで勉強をしてもらい、リビングのエアコンを共有する手もあるが、自室の方が勉強に集中しやすいだろ。
しかし……しかしだ。今日も東京は最高気温が軽く30度を越している。ゲーム機による熱で部屋の温度もゴキゲンな事になっている。汗が止めどなく溢れ出てくる。
でも……桜の勉強の邪魔は絶対にしたくない……
「駄目だ。限界だ」
俺は暑さに耐えきれず、禁断のリモコンに手を伸ばした。エアコンのリモコンを手にとり、センサー部分をエアコンの方に向ける。
そして、起動のスイッチを押そうとしたその時、
―ピンポーン―
玄関のチャイムが部屋に鳴り響いた。誰かがこの家に訪ねにきたのだ。一体誰だろう?
チャイムの音に反応して、桜が大きな事で「は~い!」と訪ねてきた人に聞こえるように返事をした。
「桜!行かなくていいぞぉ!俺が行くから!」
桜の部屋に聞こえるよう、俺も大声を出して、桜に俺が訪ねて来た人の対応をする旨を伝える。桜はそれに「わかったぁ!」と、更に大声で返事をしてくれた。
俺は短パンだけ履いて、すぐに玄関の方へと向かった。そして、玄関に到着し、玄関の扉を開ける。すると、扉の向こうには、川瀬が笑顔で立っていた。
「オッス!来たぜ!ビール買ってきたから今から飲もうぜ!」
川瀬は笑顔のまま、右手にビールの6缶パック、左手に大きなスイカ一玉を持って俺に見せつけてきた。
そんな川瀬を、俺はじとっととした目をしながら見つめる。
「あのなぁ……川瀬。来てくれるのは全然いいんだけど、来る前に連絡をよこせっていつも言っているだろ?」
「ハハハ!いいじゃねぇか。どうせいつも家に居るんだし。サプライズだよ!サプライズ!日常にサプライズがあるって素敵な事じゃん?」
「何いってんだこいつ?暑さにやられたの?」
紫苑の法事以降、川瀬はちょくちょく家にくるようになった。しかし、川瀬は突然連絡をよこさずにいつもいきなりやってくるので、正直若干迷惑をしている。来てくれるのは本当に構わないのだけど……
「あのなぁ、川瀬。こっちにはこっちで準備ってもんがあるんだ。いきなり来られても何の用意もできねぇよ」
「ほら!!だからこうして酒盛りの用意はしてきたじゃねぇか!」
そう言って、川瀬は両手に持っているものを俺に突き出してきた。
「お前……スイカをつまみにビールを飲めってか……」
俺は「はぁ~」とため息をつき、全てを諦めて川瀬から突き出されたビールとスイカを受け取った。何を言った所でこの馬鹿に通じる事はないだろう……
まぁ、今の時間は大体11時くらいだったはず。丁度昼飯時だ。昼飯を作るつもりで酒の当てでも作るか。
「取り敢えず家の中に入れよ。適当になんか作るから」
「ハハハ、サンキューな!」
「はぁ~」
子供のように無邪気に笑う川瀬を見てしたうと、怒る気も失せてしまうから不思議だ。持ってきたのはビールだけど。
中学生の頃はこんな感じでは無かった。馴れ合う事をせず、近寄りかがたい雰囲気を醸し出し、笑顔を他人に見せる事など絶対にしない。
素行が悪く、注意をする先生達にいつも反抗していた。そんな川瀬に話しかける同級生は誰もいなかった。優等生で、生徒会長であった紫苑以外は。
正確には、生徒会長になる前から紫苑は川瀬と接していた。それは、喧嘩という形で……。最初は、中学一年生の時に、学校に馴染めなかった川瀬を、紫苑がどうにかしようとして話しかけにいったのが、二人の関係の始まりだった。
しかし、川瀬はそれを拒絶し、それでも紫苑がしつこく喰い下がる為、川瀬はいつの日かぶちギレて仲が絶望的に悪くなり、顔を合わせれば喧嘩をする仲になっていた。
しかし、中学を卒業してからは、二人の仲は次第良くなっていき、いつの間にやら親友と呼べるような間柄になっていたから驚きだ。
川瀬の性格もすっかり丸くなり、あの川瀬が今のようになるだなんて誰も想像していなかった。川瀬にも色々あったのだろう。
桜が家を出ていった時に、川瀬は自分の家庭環境を話してくれたが、その家庭環境が昔の近寄りか難かった川瀬を作ってしまった一因なのだと思う。
しかし、川瀬はそれを乗り越えたのだ。紫苑との仲が、川瀬にどう影響をしたのかは分からないが、川瀬は過去を乗り越えて、人に優しく出来る強い人になったのだ。馬鹿だけど。
俺はそんな川瀬の事を尊敬しているし、桜の事を大事に想ってくれている事に感謝をしている。だから、川瀬とはこれからもずっと付き合っていけたらなと思っているのだ。
でも……本当に来る前には連絡くらいよこせよな。
「あっ、明日香ちゃんだ!おはよう!明日香ちゃん!」
自室から出てきて、川瀬と遭遇した桜は、目をキラキラ光らせながら川瀬に挨拶をした。
「オウ!桜ちゃん!また来ちまった!スイカ持って来たぜ!スイカ!」
「わぁ~!大きいねぇ」
桜はテーブルの上に置かれているスイカを見て目を丸くしていた。川瀬が持ってきたスイカには、『5L』という表記が書かれたシールが入っていた。
5L……。確か、大玉スイカの一番大きなサイズだったはずだ。重さは最低10キロ以上だったはず……。どうやって三人で食べきれるんだよ。冷蔵庫にも入らないぞ?てか、よく片手で持てたな。
俺は再び「はぁ~」とため息をもらしながら、冷蔵庫の中身を見て、何を作るのかを思案する。




