プロローグ~逆転ブザービーター~
8月7日 関東中学バスケットボール大会2日目
俺が所属している市立下柚木中学男子バスケ部は都大会を準優勝し、都の代表として関東大会に出場していた。
そして、一回戦と二回戦を順調に勝ち進み、勝利をすれば全国大会の出場権を与えられる三回戦へと駒をすすめていた。
しかし、三回戦の相手は全国大会優勝候補の、私立実千中学校。相手チームであるエースの加藤は全国レベルに有名な選手とあって、俺達のチームが三回戦を勝利をするなど誰も思っていない。圧倒的な勝利を実千中学が納めると誰しもが思っていた。
しかし、いざ試合が始まると、戦前の下馬評を覆す激戦が繰り広げられた。抜いては抜きかえされるシーソーゲーム。試合を観ていた観客達による今日一番の大歓声は、この試合に送られていた。
現在はゲームは終盤となり、最終ピリオド残り6秒。得点は72対71と、一点差でうちのチームが負けていた。
ワンゴールで逆転、そしてマイボールというこの緊迫した状況に、俺は今までにないくらいのプレッシャーを感じている。
「松本、最後はお前に任せる。お前が決めてこい。」
最後のタイムアウト中、顧問からの指示が出された。
「俺がですか?」
「あぁ、最後にお前が決めてこい」
確かに、この日の俺は絶好調だった。チーム得点の半分以上は、俺による得点であった。自分で言うのも何だが、ここまで格上のチームと接戦が出来ているのは、勿論チームメイトの頑張りもあるが、俺の活躍による所が大きい。
最後のシュートを任されるのは当然の選択のようにも思えるが、しかし……
「多分、俺へのマーク結構厳しくされますよ」
ここまでの活躍をすれば、当然相手チームも俺を警戒してくる。世界最高峰のNBAでも、シュート成功率が五割であればかなり優秀だと言われている。ましてや試合を決めるラストショットは、通常のシュートより条件が限られてしまう為、成功率は更に下がる。
そんなラストショットをマークが厳しい中で決める事は至難の技であり、マークが厳しい俺ではなく、別の選手にラストショットを任せる選択肢もある。
しかし、それを承知で顧問とチームメイト達は俺にボールを託そうとしてくる。
「公平。お前がこのチームの柱だ。お前がラストショットを打って駄目ならば仕方がないよ」
「そうだよ。ここまでこれたのも公平のお陰だしな」
「皆……分かったよ。俺に任せてくれ」
チームメイトの言葉により、俺は決意を固めた。それと同時にタイムアウトの終了を告げるブザーがコートに響き渡った。
「よし!お前ら、しっかりと決めてこい!!」
「ウッス!!!」
顧問の激により、気合い十分にコートへと俺達は戻っていく。
「ガンバレー!!」
「勝てば全国だぞー!!」
ベンチに入れなかった部活仲間、応援に来てくれた学校の生徒や父兄達の声援が、俺の耳へと届いてくる。しかし、その声援の中に、あの子の声が聞こえてくる事は無い。
あの子の声援があれば俺はもっと……いや、今はそんな事を考えている場合では無い。試合に集中だ。この試合に勝って俺達は全国に行くんだ。
試合は再開され、自チームのスローインから始まった。俺はボールを受け取ろうとするが、激しいマークにあって中々ボールがもらえない。
しかし、何とかマークを振り切り、俺は3ポイントライン後方で何とかボールを貰う事が出来た。
「っしゃあ!!」
ボールを貰った俺は、マークされている選手にピッタリ張りつかれ、その場を1、2秒動けなかったが、何とか抜き去りゴール下へとドライブを仕掛けにいった。
しかし、組織的なゾーンディフェンスをすぐさまに組んでいた相手チームは、俺へのドライブにすぐ対応してきた。
俺はディフェンスを必死にかわそうと、もがきながらドリブルをする。
「あと2秒!!」
チームメイトが大きな声を出して、残り時間を告げてきた。その声に俺は決意固め、再度ゴール下へとドライブを仕掛けようとする。
相手もそれに反応をするが、それを見た俺はレッグスルーと言う、自分の両足の間にボールを通す技でドライブを中断し、そして一歩下がって相手ディフェンスをかわす事に成功した。相手ディフェンダーは尻餅をついて転んでいる。
―― わあぁぁぁぁぁ!!! ――
今日一番の大歓声が、観客席から聞こえてくる。マークを振り切った俺は、シュート体勢に入り、シュートを放った。それと同時に、試合の終わりを告げるブザーが鳴り響く。
ゴールが決まれば逆転ブザービーターで全国大会へ。外せばそこで全てが終わる。思いを乗せて放たれたボールは大きく弧を描き、リングへと向かっていく……




