桜の思い。
桜を家から追い出した次の日、桜は学校に姿を見せなかった。
「浜崎さんなら、今日は体調不良で学校を休むって連絡があったわよ」
担任である人見先生の言葉だ。昼休みに、幼馴染みの綾香と一緒に、職員室へ桜の事を尋ねに行ったのだ。
昨日、咲太兄ちゃんから連絡をもらって家に帰った事は聞いている。その後の大まかな経緯も、今朝咲太兄ちゃんから説明が書いてあるメッセージがスマホに送られていた。細かい詳細は、また後日話してくれるらしい。
だから、家を出た後の桜の安否について心配をしている訳では無い。俺が心配しているのは……
「桜、公平に会いたくなかったのかな?……公平、嫌われちゃった?」
「ヴぅ……」
職員室から教室に戻る途中、綾香が俺の危惧をしている事を、オブラートに包まず全力ストレートでぶちかましてきた。
桜の為にとはいえ、俺は昨日桜に対してかなり強引な事をしてしまった。それも、汚い手を使いながら……。
綾香には事の経緯を全て話している。その綾香がそう判断するのであれば……本当に桜は……
「ごめん!公平!冗談だから!そんなに落ち込まないで!」
目に見えて酷く落ち込んでいたのだろう。綾香が俺に対して全力フォローをしはじめた。
「桜が公平を嫌うはずないよ」
「……だといいんだけどな」
今までに数々の喧嘩を繰り返してきた。小さい頃は殴り合いの喧嘩もしょっちゅう行われていた。成長するにつれ、男女の力の差が明確になってからは暴力を伴う喧嘩はしていないが、口喧嘩は今でもたまに行われる。
その度に仲直りをしていたが、今回はいつもとケースが違う。今回は喧嘩というわけではない。しかし、明確に意見、意思はすれ違っていた。
いつもなら、意見が違えば対等に喧嘩をして収まっていたものを、今回は男の力を使って、向こうの意見を聞かずに無理矢理事を運んだのだ。正直やり方としては最低である。
だから、今回はいつものように桜と仲直りが出来る自信
が無い。こんな強引なやり方をした俺を、桜は嫌ってしまったのかもしれない。だから、俺に会いたくなくて学校を休んだのでは?
そんな不安が頭の中を駆け巡っていた。
放課後になり、部活の練習が始まった。しかし、桜に嫌われてしまったかもという不安で練習に身が全く入らなかった。
「どうした!松本!そんなんで全国にチームを引っ張っていけるのか!?」
「ウッス!スイマセン!」
ミニゲーム方式の練習で、ミスを繰り返してしまう俺に、顧問からの怒声が飛んでくる。しかし、俺は本調子を取り戻す事はこの後も無く、身の入らない練習を最後まで行っていた。
「大丈夫?松本?何かあったの?」
そんな状態の俺を見て、女子バスケ部のキャプテンである持田が、学校を出る為、下駄箱で靴を履き替えている俺に声をかけてくれた。その隣には同じく女バスの倖田がいる。
「いや、まぁちょっと考え事をしててな。正直練習に身が入っていなかったと思う。大した考え事ではないんだけど」
「なんや?好きな人の事でも考えとったんかいな?」
「えっ?」
笑いながら適当に茶化してきた倖田の言葉に、俺は動揺をしてしまった。その動揺が二人にも伝わってしまったらしく……。
「……アハハ、まさか、図星やった?」
「……」
適当にではあるか、俺の考えていた事を言い当ててしまった倖田は少し気まずそうにしており、一方の持田は、何処か暗い表情をしているように何故か見えた。
「そんなんじゃねえよ。本当にしょうもない事なんだ。心配してくれてありがとうな。じゃあ、俺帰るわ」
「そうか。じゃあ、また明日!」
「サヨナラ、松本」
俺は適当に二人を誤魔化し、学校を後にした。帰る道のりの中でも不安は頭から消える事なく、桜を追い出してしまった家に帰る足取りは重い。
今更ながら、あんな強引に事を進めてしまった事に後悔をしている。はぁ……もっと他にやり方もあっただろうに……。
そんなしても仕方がない不味い後悔を咀嚼をしながら、いつの間にか家の前にまでたどり着いていた。考え事をしていたら、時間はあっという間に過ぎるものだなと、どうでもいい事を思いながら、玄関の扉を開けて家の中に入っていった。
家に入り、牛乳が飲みたくなったので、俺は部屋には戻らず、リビングにある台所の冷蔵庫へと向かう事にした。
リビングの扉を開けて、台所にいるであろう母さんに向けて、「ただいまぁ~」と言いながらリビングへと入室する。すると……
「おかえりなさい」
リビングで俺のただいまの挨拶に返事をしてくれたのは、母さんでは無く桜であった。リビングにはどうやら桜しかいないみたいだ。
桜はテーブルの上に肩肘をついて座っており、俺はその姿を見て驚き、言葉を失って目を丸くしてしまった。
そんな俺の態度に、桜は「何よ?その反応は?」と言って、怪訝な表情をしながら問いただしてきた。
「いや、まさかいるとは思わなかったから」
「何よ、いちゃいけないの?」
「だって……」
「ちゃんと、公平の出してきた条件はクリアしてきたよ。だから、敷居は跨いでもいいんでしょ?」
「…………あっ」
俺に話してくれた、本当に家を出たい理由を咲太兄ちゃんに話すまで、この家の敷居はまたがせない。勝手に俺が桜に出した、この家の敷居をまたぐための条件だ。
桜を追い出す為に適当に言った事であり、俺自身は自分でいっておきながら、全く忘れていた言葉なのだけど……。
「あんな適当な話を真にうけてたの?」
「ヒドイ!結構私、昨日の公平の態度に傷ついているんだからね!」
「いや……それはごめん」
昨日の勢いはどこへやら。桜の言葉に俺はたじろいでしまった。そうだよな……言った方は忘れてても、言われた方は傷ついているもんだよな。本当に反省だ。
気まずくなった俺は、謝った後に言葉を続ける事ができず、しばらく黙りこんでしまった。桜も、そんな俺の姿を見て、同じく気まずそうな様子である。
流れる沈黙。夕陽の光が窓からさしこみ、二人を夕焼け色に照らし出す。そして、
「公平……」
沈黙をまず打ち破ったのは桜であった。桜の呼びかけに、俺はピクッと反応をする。
「私、ちゃんとお義兄ちゃんに本当の事を話したよ。しっかり、ちゃんとお義兄ちゃんと話しあったよ」
「そうか……」
咲太兄ちゃんと桜が話し合った事は、咲太兄ちゃんからのスマホに送られてきたメッセージで知っている。桜が高校に進学をして、家を出ない事も。
「それを言いに、俺の帰りを待ってくれてたの?」
「うん。そうだよ。だって……公平には直接報告をしておかないと。公平のおかげで、お義兄ちゃんと向き合う事が出来たんだから。おじさんやおばさん、翔にもお礼を言わないと……」
桜の言葉に、俺はホッと胸をなでおろした。実際には、あの時咲太兄ちゃんは、桜の真意に気づいて桜を迎えに行こうとしていた。
だから、俺があんな事をせずとも、今回の件は解決をしていた可能性が高い。むしろ、余計な事をしてこじらせてしまった可能性まである。しかし、そんな俺に対して、桜は俺のおかげと言ってくれた。
「良かったぁ~」
俺はそう言って、膝を曲げて中腰になり、今までにたまっていた不安を、大きな息と一緒に「はぁ~」と床に吐き出した。
「どうしたの!?公平?」
「いや……お前に嫌われたのかもと不安になっていて……」
「私が?公平を?……何言ってるの。今までに散々喧嘩をしては仲直りをしてきた仲じゃない?しかも、今回の件で感謝する事はあっても、嫌う事はないの」
「そう言ってくれると助かるよ」
俺はこの時、今日初めての心からの笑顔を桜に向けた。
良かった……本当に良かった……うん、本当に良かったよ!ヤッホー!気分はサイコーだせ!チョベリバからの大生還!!パーリピーポー、アゲアゲマックス!ふぅ~!!
いい波乗ってんね~!
「あっ、でも公平の強引なやり方が怖くて傷ついたのは本当だからね」
「あ、サーセン」
心の中の少し時代遅れなパリピ公平に釘を刺す桜であった。
「でも……私がまた馬鹿な事を考えてたら、また遠慮せずにお願いね。私も、公平が馬鹿な事をしたら遠慮せずにいくから。本当に…ありがとうね」
桜はニコッと天使の笑顔をみせて、感謝の言葉を俺に言ってくれた。しかし、その感謝の言葉よりも、桜が俺にも遠慮をしないでくれるという言葉の方がうれしかった。
それは、桜も俺の事を大切に想ってくれていると言ってくれているように思えて……。
「あぁ。まぁ、そん時はよろしく頼むよ」
俺は、本当は嬉しくて嬉しくて仕方がないのだが、格好をつけながらすまして桜に返事をした。それは、俺のプライドを守る為の精一杯の抵抗であった。
これ以上、感情を爆発させてしまうと、桜の前で涙を流してしまうかもしれない。それだけは、俺のちっぽけな男のプライドが許さなかったのだ。
そんなちっぼけな俺に、桜は「フフフ」と笑って笑みを向けてくれる。そんな桜に、俺も笑みを見せて返した。
二人の間に、穏やかな空気が流れ込む。窓から差し込む夕陽の光の温度が、すごく心地よく感じた。
こんな穏やかな気持ちになれたのは久しぶりだ。桜は俺の心を乱す事もするが、こんな気持ちにさせてくれるのも桜だけなんだなと、改めて実感をした。
こんな穏やかな時が永遠と続けばいいのに……しかし、この世の中はそう都合よくは出来てはいなかった。
ガチャ
「あら、公平。帰ってたの?」
俺の背後から母さんが扉を開けて、リビングへと入ってきた。
「母さん……、居たの?」
「居たのって何よ?トイレに行ってたのよ。トイレに」
「あぁ?」
「いやぁ~長く熱い闘いだったわぁ~。4日ぶりのお通じ!久しぶりの快便に母さん絶好調よ!4日ぶりともなるとかなりの大物でね。つい写真におさめちゃった。イ◯スタにupしたらたちまち大バズリよ!ハッハッハ!」
「オバサン!それは名案なの!」
「アカウント削除だよ……」
俺がこの人のお腹から出てきたと思うと嫌になる。黙っていれば、見てくれは美人の若奥様で近所に通っているのに……。心が綺麗とは程遠い。下品にも程があるだろ……
俺の穏やかご褒美タイムは、母さんの快便トークによって見事にクラッシュされたのであった。
あぁ、俺に真の心の平穏はいつかくるのだろうか?多分、俺の受難はまだまだ続く。そんな気がする……(涙)
◇◆◇◆◇◆◇◆あとがき◇◆◇◆◇◆◇◆
「死んだ嫁の妹と暮らしてます。」をここまでご覧いただき、誠にありがとうございます!第2章はあと2部で完結となります。
これから第3章、第4章と続いていきますので、これからも「死んだ嫁の妹と暮らしてます。」をよろしくお願いします。
あともう一つ、皆様にお礼を申しあげたい事があります。なんと、ブックマーク人数100人を突破しました!この数字を目標にこの作品を書いてきましたので、とても嬉しいです!ありがとうございます!
この作品における目標は達成できたのですが、こうなってくると更なる高い目標を目指したい気持ちが出てきまして、次なる目標はブックマーク人数1000人を目標にこの作品を執筆していこうと思います。
その為には、この作品を読んでくださってる皆様のご助力が必要になります。厚かましいお願いなのですが、まだブックマークをされていないかた、作品の下部にある「★★★★★」の評価ボタンを押されていない方がいらっしゃったら、是非ともブックマークと評価をお願いしたいです。
本当は後書きでお願いする事では無いのかもしれませんら、この作品を読んでくれる方が増えていく度に、もっと沢山の人に読んでもらいたいという欲が出てきました。
私が死なない限り、この「死んだ嫁の妹と暮らしてます。」は必ず完結させますので、是非とも応援をよろしくお願いします。
本当に、ここまで読んでくださってありがとうございました!
周瑜 こうき




