私と体育祭。
あぁ、憂鬱だ。
今うちのクラスは来週始まる体育祭のメンバー決めをしている。私にとっては人生3回目の体育祭。私は毎年このイベントが嫌で仕方がない。私は片肘を机に付き、頬を手で支えながらつまらなそうな顔をして、メンバー決めの進行を聞いていた。
「桜。全然女子選抜クラス対抗リレーのメンバーが決まらないね。このままじゃまたタイム順で選考されちゃうね…」
「そうだね…」
友達の綾香が私にメンバー決めの現状報告をしてきた。そう、今は女子選抜クラス対抗リレーのメンバー決めをしている最中。
基本、出場種目は立候補を募って決めるのだけど、リレー種目など走力が試され、尚且つ勝利得点が高い種目は敬遠される。だから、クラス対抗リレー等は結局体力テストなどで計った、50m走のタイムの早い順で決まる事が多い。
「立候補者もいませんし、この前の体力テストのタイム順で選考しようと思います」
委員長がこれ以上話しは進まないと判断し、タイム順で選考をするとの決定を下した。あぁ…やっぱりこうなるのね…。結局こうなるなら、最初から立候補者なんて募らなきゃいいのに…文句を言っても仕方がないけど……
「このクラスで一番タイムがいい女子は……浜崎さん。浜崎 桜さんですね!じゃあ浜崎さん!アンカーをお願いします!」
パチパチパチパチ
私がアンカーに選ばれた事でクラスから拍手が鳴り響く。本当に皆止めて!何もうれしくない!
私は結構走るのが速い。運動するのは嫌いでもない。でも、このクラス対抗リレーの選手に選ばれるのは嫌だ。
私は女子の中でクラスで一番走るのが速く。学年では三番目は速い…。そう三番目に…。
私は大体クラスで一番速いので、こういったクラス選抜には必ず選ばれるけど、私より速い人が他のクラスにいつも二人もいるせいで、いつも順位が三番になるのだ。
リレーではいつもアンカーだが、少しリードしてバトンを受けても、アンカーは走る距離も前の走者より長く設定されているのもあって、必ず抜かれてしまう。抜かれたら勝利得点が高い競技なので、クラスの皆はガッカリする。
私だって一生懸命に走っているのに、いつも脚光を浴びるのは私より速い二人。
私はクラスにガッカリされて、私より速い二人は脚光を浴びる。過去二年の体育祭はこんな構図であり、今年もそれが繰り返されようとしている。
私はそれが、何か晒し者にされているような感覚になり、とても恥ずかしくて嫌なのだ。もう本当に嫌……
しかし、私にこれを断る勇気は無い。
「仕方がないなぁ…わかりました!私に任せておいて!!」
私は立ち上がり、胸を張って宣言した。それにクラスは盛り上がり、皆から拍手喝采を受けた。
「いいぞ~!!」
「さすが桜!頑張ってね!」
クラスからの声援に胃が痛い。でも、ここで中途半端に競技を断っても、強引にクラスの皆に説得されると思う。泣いたりとかしながら強く断れば、クラスの皆も諦めるだろうけど、そうしたらクラスの皆は白い目で私の事を見てくる……そっちの方が耐えられない。ここは笑顔で引き受けるのが一番ダメージが少ない。当日、その時の一瞬を我慢すればいいだけなのだから…。
どうせ、体育祭が終われば私が三位でゴールした事など誰も覚えていない。
「桜?大丈夫?…ごめんね…」
私が本当はアンカーなんてやりたくない事を知っている綾香が、うつむきながら私の事を心配して声をかけてくれる。
そのごめんは、「自分が立候補すれば、私がアンカーにならなくてすんだのに。押し付けてごめんなさい」と言う意味が含まれているのだと思う。けど、それは仕方ない事だ。
綾香はクラスでも1、2を争う程に走るのが遅い。そんな綾香が立候補でもしたらクラスがざわつく。そっちの方が可哀想…
「心配しないで綾香!な~に!私がクラスに栄光をもたらしてあげるわ!!」
私は心配する綾香を元気づけようと、更に高らかに宣言をした。それにクラスが更に盛り上がり、コールが自然とおこってきた。
パンパン!「は・ま・さ・き・!!」パンパン!「は・ま・さ・き!!」
いや~本当に止めてほしい……胃が痛い胃が痛い胃が痛い……
しかし、結局誰かが選ばれないといけないし、このクラスで一番足の速い私が選ばれるのは道理に合っている……それならば我慢をして、やりすごそう…
あぁ、これはもうお義兄ちゃんに癒してもらうしかない!う~んとお義兄ちゃんに甘えて甘えて甘やかしてもらおう!悪戯をしてストレスを発散しよう!この胃痛を押さえてくれる特効薬はお義兄ちゃん!痛みを押さえてくれるという点において、ロキソニンより優秀なお義兄ちゃん!
待っててねお義兄ちゃん!傷ついた義妹がお義兄ちゃんに癒されにいくよ!!
クラス会も終わり、下校時間を告げるチャイムが教室になり響く。私は教室に残らず、すぐさま帰宅しようと綾香と教室から出ていった。学校からマンションまでは歩いて20分くらいの所であり、家が近所の綾香とは途中までいつも一緒に帰っている。
「無理しないでね桜?」
「なぁ~に大丈夫よ!帰ったらうんとお義兄ちゃんに甘えるから!」
笑顔で私がそう答えると、綾香はやっと心配そうな顔を止めて、少し穏やかな顔を取り戻した。綾香は本当に優しい子だなぁ。
「良かった。でも桜は本当にお義兄ちゃんが好きだね」
「うん!大好きだよ!」
綾香の言葉に、私は更に笑顔になった。私にとって、お義兄ちゃんは唯一のかけがえのない家族である。お姉ちゃんが死んでから、血縁者のいない私に寂しい気持ちにさせないでいてくれるのは、お義兄ちゃんがいてくれたからだ。お義兄ちゃんだって、本当は私より悲しいはずなのに、そんな素振りを見せようとせずに私をいつも元気づけようとしてくれている。私はそんなお義兄ちゃんが大好きだ。
「はぁ~、早くお義兄ちゃんに会いたいな~」
「うふふ」
私の独り言に、綾香は口に手をあてて微笑んでいる。お上品な笑い方だなぁ~。
そうこう話しをしながら歩いているうちに、自宅に近づいてきた。二人は解散をし、各々の自宅へと向かった。しばらくして私は住んでいるマンションにつき、エレベーターで七階まで上がり部屋へと向かう。
扉の鍵をカバンから取り出し扉をあけ、玄関に入ると誰もいない部屋に向かって「ただいま」と呟いた。一見誰もいない部屋だが、私とお義兄ちゃんにとっては姉と向日葵ちゃんがずっといる部屋である。
私は玄関から自分の部屋に向かい、鞄を机の上におき、制服から部屋着へと着替えようとした。スカートを脱ごうとしたらスマホの着信音がなり、私はスカートを脱いでスマホを見た。
「なんだろう?」
スマホのロックを解除すると、お義兄ちゃんからLINEがきていた。私はそのまま中身を確認した。
(すまん。仕事でトラブルがあり、今日はすぐ帰れません。終電にも間に合うかわかりません。ご飯は外食か出前をとってください。絶対自分で作るなよ!!)
私は絶望した。
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