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vs 桜 ②

 お菓子を賭けた第一戦。俺は『リン・ウーロン』という、どっからどう見てもジャッキー・チ◯ンをモデルにしているであろう、カンフースタイルのキャラクターを選択した。

 対するさくらは、『リー・マーシャル』と言う、どっからどうみ見てもブ◯ース・リーにしか見えない見た目のキャラクターを選択していた。

 これが現実なら夢の対決である。


「お菓子がかかっているからね。公平こうへい、手加減はしないよ?」


「さっきも手加減している様子は無かったじゃねえか。一番の得意キャラを使いやがって」


「ハハハ。でも、公平は手を抜かれるのは嫌なタイプでしょ?」


「…………いや、別にそんな事はねえよ?」


「そう、意外ね?まぁ、いいか。始めましょう」


 キャラクター選択画面から対戦画面に切り替わり、闘いが始まった。

 しかし、桜の得意キャラを封印したのはいいものの、先程より少しはダメージを与えれるようになったが、まったく歯が立たずに敗戦してしまった。惨敗である。


「やったー!じゃあ、私はこのハイチ◯ウを貰うわね」


 勝利した桜は嬉々として手を伸ばし、俺の手元にあるお菓子を奪い取っていった。


「チッ……もう一回!」


「いいわよ!」


 俺が悔しそうな顔が嬉しいのか、上機嫌な様子で桜は俺のリベンジを受け入れる。

 しかし、お互いにキャラクターは変えるが、結果はまったく変わる様子は無い。何度もリベンジをするが、桜に一勝もする事が出来ず、10戦近く闘い、とうとう俺の賭けるお菓子が尽きてしまった。


「悪いわね。公平」


「あぁ~ちくしょ~。負けた~」


「フフフ」


 悔しがる俺を見て、桜が笑みを浮かべて俺を見つめてくる。その表情は柔らかく、何処か母性を感じるものであった。

 俺はそんな桜を怪訝けげんに思い、眉をひそめた。


「……何?」


「フフフ、楽しいなぁって思って。公平が私にここまで張りあってくれるとは思わなかったし」


「?、今でもたまに喧嘩とかするじゃねえか?」


「喧嘩とかそういうのじゃなくて、こういう普通の遊びでよ。昔はこういうゲームや鬼ごっことかでも、色んな事で張り合って遊んできたのに、最近の公平は何処となく大人ぶっているというか、一緒にはしゃぎながら遊んでくれないじゃない?」


「……そうか?」


「そう!絶対にそう!」


「いや、大人ぶっているつもりはないんだけど」


「大人ぶってるというか、格好つけるようになったのかな?この前、公平の事をクールとか言っている人がいたし……」


 いや、俺も中学三年生の思春期男子だよ?少しは格好つけようとしてもいいじゃない。そういう時期じゃないですかね?思春期って。

 そう言う言われ方をされたら、なんだか恥ずかしくなるじゃねぇか。

 俺は桜の指摘に戸惑い、興味は無いが照れ隠しで「誰がそんな事を言ってるの?」と桜に質問をした。

 しかし、その質問を聞いた桜は、少し表情をピクっとさせて、先程の柔らかい笑顔から何処か物憂げな表情へと変化した。


「……桜?」


「っえ?あぁ、安室あむろさんが言ってたの。安室さんが」


「……あぁ、安室さんが」


 どうやら軽く地雷を踏んだらしい。しかし、俺は何も悪くない。俺がクールと言われてるとかそんな話を始めたのは桜の方からなのだから。俺は話の流れで質問をしたに過ぎない。

 桜もそれは自覚があるからなの、引きずっている様子は無く、直ぐに笑顔に戻り、いつもの調子で憎まれ口を叩き始めた。


「本当の公平はクールでも何でもないのにね。本当に外面だけ良くなっちゃって」


「うるさいなぁ。男子中学生は皆カッコつけたい年頃なんだよ」


 お前だって外面いいじゃねえかと言うツッコミは、胸の奥にそっとしまった。今はまだ(・・)、桜の機嫌を損ねる時では無いのである。

 桜と楽しくゲームをする事が、本来の目的(・・・・・)では無い。俺は、計画の最終段階に移行しようとした。


「なぁ、桜?」


「何?」


「もう一戦賭けで勝負しねぇか?」


「賭けで?もう公平お菓子を持っていないじゃない」


 そう、俺は先程までの闘いで全てのお菓子を失った。さすがにお金を賭ける訳にはいかないし、賭ける物は何も無い。

 ならばだ。賭ける物が無ければ()を賭ければいい。


「……じゃあ、負けた人は勝った人のお願いを何でも一つ(・・・・・)叶えるってのはどうだ?」


「……え?」


 俺の提案を聞いた桜は、両腕を胸の前でクロスし、半身で身構え、俺から後退りをしながら距離取り、まるで犯罪者を見るよう目で俺を見てきた。


「……へ、変態……」


「バっ、馬鹿!チゲぇよ!!当然常識の範囲内!倫理の枠に収まらない無理なお願いはダメだ!コンビニで何か買ってきてとか、何か質問(・・)してみたりとか、そんな感じのお願いだよ!」


 あらぬ疑いを賭けられそうなった俺は、慌てて必死に弁明をした。そんな俺を見て桜は、一転腹を抱えて大爆笑をしていた。


「ハハハハハ!冗談よ!分かってるよ。公平が()にそんな事をしない事くらいわ」


「……いや、誰にだってしないんだけど……」


「あぁ~面白い。…………でもいいの?常識の範囲内とは言っても、そんなリスキーな賭けをして?」


 桜の言うとおり、これはリスキーな賭けだ。常識の範囲内で恥ずかしめられる可能性は高い。

 いつまでおねしょをしていたとか、お母さんといつまで風呂に入っていたとか、思春期男子には耐え難い恥ずかしい質問をされる可能性もある。

 そして、対決方法は先程まで完膚なきまでにやられていた『銅拳2』である。勝てる可能性は0に近い。

 ならば、俺がまずやらないといけない事は、ハンデの上乗せを要求する事だ。


「なぁ、桜。『リー・マーシャル』と『ポール・ライジング』は得意キャラか?」


「うん。『一男かずお』の次くらいにその2つのキャラクターは得意だけど」


「じゃあ、追加でそれを使用禁止で」


「いいけど、本当にそれだけのハンデでいいの?あんまりハンデになっていないと思うけど」


 桜の言う通り、その2つキャラクター以外でも惨敗をしていたので、それではあまりハンデになっていないように見える。

 しかし、今まで対戦した中で、その3つの得意キャラクターと他のキャラクターでは、桜の強さに明確な差があったように感じた。禁止した3つキャラクターは、桜にとっても特別に得意なキャラクターのはずだ。他のキャラクターを使っても、俺より圧倒的に強かったのだけど……。

 しかし、あまりにハンデをつけすぎると、この勝負を降りられる(・・・・・)かもしれない。

 それだけは、絶対に避けないといけないのだ。


「あまりハンデをつけ過ぎても俺が萎えるからな。勝負はある程度困難な方が、やり甲斐があるってもんだ」


「ふ~ん。分かった。受けて立つわ!……。でも、賭ける内容が内容だから、これが最後の勝負にしようね?要求するお願いがエスカレートしていったら大変だし」


「リョーカイ」


 桜は負ける気が無いのだろう。これが最後の勝負と言うのは桜の優しさだ。しかし、その優しさのせいで、俺に与えられたチャンス(・・・・)は一度だけになってしまった。

 この勝負は、絶対に負けられない。


 俺はこの運命の最終対決に、『団八だんぱち』と言う、このゲームの主人公キャラを選んだ。『団八』は前作ではラスボスである。そして、今作のラスボスであり、前作の主人公である『一男』の父親でもある。

 発売当時はこの主人公とラスボスの交代劇は世間に衝撃を与え、史上初、50代のゲーム主人公キャラとして、『団八』は銅拳をやっていない人の間でも有名になったらいし。


「へぇ~、公平、『団八』使うんだ。渋いね」


「まぁ、今日使っていないキャラクターはこれだけだからな。最後の勝負だし、全てを試させてもらうよ」


 桜は先程俺が使った『リン・ウーロン』を選択した。お互いがキャラクターを設定し終え、画面が対戦画面へと切り替わる。


「これが最後だからね!手加減しないわよ!」


「だからさっきから手加減はしてねえじゃねえか」


 取り留めの無いやり取りの最中、勝負が始まった。手加減をしないと言いながら、余裕の表情で勝負に挑む桜。

 しかし、勝負が進むにつれて、桜の表情が驚きの表情へと変わっていく。


「え?」


 ―『ケーオー!』―


 ゲームのナレーションが、一本目の闘いを終える合図を告げる。

 一本目は、俺が桜のキャラクターに、ハメ技に近いコンボ技を炸裂し、桜にまったくの手を出させないままに勝利を納めた。

 桜は呆然として俺を見つめてきた。


「……公平、あんた……。今まで下手なふりをしてたの?」


「いや、『団八』だけ得意なんだ。他のキャラクターはほとんど使った事が無い」


 昔、父さんとこのゲームをしていた時、父さんに全く歯が立たなかった。父さんは『銅拳2』が流行っていた頃の現役世代だ。

 その当時はゲームセンターブーム。ヤンキーからオタクと、幅広い人種が集まっていたゲームセンターで、猛者達と激戦を繰り広げていた父さんに敵うはずがなかったのだ。

 しかし、それが悔しかった俺は、ある(・・)キャラクターばかりを使って練習をしていた。他のキャラクターには目もくれず、そのキャラクターだけを必死になって……。

 そのキャラクターこそが『団八』なのである。結局、父さんより強くはなれなかったが、3回戦えば、一回は勝てるかもくらいには渡り合えるようにはなった。

 しかし、あの時の父さんとそこまで戦えるという事は、実力的には十分上級者(・・・)と言えるくらいの実力は身につけたと思う。他のキャラクターは全然駄目だけど。


「公平……卑怯よ。私の得意キャラを禁止にしておいて」


「今まで本気で戦って負けていたのは本当だ。騙したつもりはない」


 そんな俺の詭弁に腹が立ったのか、桜の目の色が変わった。


「負けないわよ」


 二本目が始まった。先程とは違って、桜は余裕を見せずに真剣に勝負に臨んでいた。

 元々の実力(・・・・・)は桜の方が上だ。使用を禁止にしたキャラクターを使われていたら、俺が勝てる事はないだろう。

 得意キャラクターを使っていないとはいえ、油断をしていない桜はとても強かった。二本目は一進一退の攻防を繰り広げて、わずかの差で桜が勝利した。


「よっしゃー!!どんなもんよ!!」


「くっ」


 勝利に喜び、ガッツポーズをしてはしゃぐ桜。緊迫の戦いに、勝負が楽しくなってきたのか、俺にハメられた(・・・・・)事に対するイラつきは忘れてしまったようだ。単純な奴である……。

 しかし、これで次は負けられなくなった。勝利条件は二本先取した方が勝ち。勝敗を決める運命の三本目がいざ始まる。


「えい!そこ!」


「ちっ、今だ!」


 このキャラクターでの対決において、二人の実力はほぼ互角であった。白熱した戦いに、声を漏らし、体全体を動かしながらコントローラーをお互い動かしていた。

 近い距離に座っている二人の体がぶつかり合うが、そんな事はまったく気にならなかった。

 勝負は進み、お互いのヒットポイントはあと一撃を食らえば無くなってしまう程に減っていた。


「ふぅ~」×2


 攻撃の応酬を繰り広げていた先程までとは違って、二人のキャラクターは全く動かず、お互いに息を吐く。

 お互いに一撃を食らえば終わってしまい状況。下手に動いて隙を見せたら負けてしまう。動きたくても動けない状況なのだ。

 しかし、動かない事には試合は終わらない。しびれを切らし、最初に動いたのは俺の方であった。


「そこだ!」


 俺は桜に近づき、ガードがしにくい下段しゃがみ蹴りをした。


「甘い!」


 しかし、桜はしゃがんで下段ガードをせずに、ジャンプで交わした。そして、そのままカウンターでジャンプ攻撃を俺にしかけてくる。

 しゃがんでいる状態では、ジャンプ攻撃をガードする事は出来ない。立ち上がってガードが間に合っても、すぐにガード不能の投げ攻撃を出されしまったら、俺は負けてしまう。

 絶対絶命のピンチである。


「もらったの!」


「ちっ!」


 俺は防御をする事を諦め、攻撃コマンド(・・・・・・)を即座に押した。そのコマンドにより、『団八』はしゃがんだ状態から、前に進む(・・・・)ジャンプアッパー攻撃をし、桜のカウンター攻撃を回避した。


「えっ!?」


 しゃがんだ状態からの普通の移動では、攻撃を回避する程早くに移動できない。しゃがんだ状態からの攻撃技により、普通の移動よりキャラクターを早く動かすという離れ技を、俺は瞬時の閃きでやっけのけたのである。


「もらったぁ!」


 同様する桜を俺は見逃さず、桜のキャラクターにすぐに近づき、ガード不能技の投げ攻撃を行った。

 俺の投げ攻撃は見事に炸裂し、桜のヒットポイントは0になった。俺の勝利である。


「しゃあ!!」


 俺は拳を握りしめ、ガッツポーズをした。


「あぁ~負けた~」


 桜のはコントローラーを床におき、体をのけ反らして天を仰ぎ、悔しそうにしていた。

 しかし、顔はなんだかんだで笑顔であり、この白熱した勝負に満足してくれたようだ。


「悔しいわぁ。公平!またこんど勝負をしなよ!今度は『一男』を使うから!」


「あぁ。まぁ、『一男』を使われたら勝てそうにないけどな」


 俺は少し自嘲気味にそう言った。桜はこの対決を楽しんでくれたから良かったが、俺は勝つ為にセコく、とても回りくどいやり方をしたのである。

 正直、稲葉いなばとかならまだしも、桜と普通に勝負をするのなら、こんなやり方をするのは俺の本意ではない。稲葉ならどんな手を使ってでも叩きのめすけどね!

 俺が桜相手にこんなやり方するのは、ある目的(・・・・)の為である。


「負けたら何でも言う事を聞くんだったけ?」


 桜が賭けの内容を確認してきた。そうである。負ければ勝った方の言うこと何でも(・・・)聞くことが、今回の賭けの内容なのである。


「あぁ、そうだな。桜は俺の言うことを何でも聞かないといけない。勿論、常識の範囲内でな」


「公平は私に何をお願いしたいの?」


 桜は首をかしげて、可愛いい笑顔を振りまきながら、俺のお願いを聞いてきた。不機嫌な様子や警戒をしている様子はない。

 俺の事を信用してくれているのだろう。俺が、無茶苦茶な要求を桜にする事はないと。……しかし、俺は無茶苦茶な要求をする事はしないが、桜にとって恐らく嫌な(・・)質問をする事になる。


「なぁ、桜」


「なぁに?」


「一つ聞きたい事があるんだけどいいか?」


「?」


 桜は少し気の抜けた表情をしていた。何でも言うことを聞くという事で、多少なりともベビーな要求は覚悟をしていたのか、俺のお願いが只の質問である事に拍子抜けしたのであろう。


「それが公平のお願い?」


「あぁ、そうだ。俺の質問に答えてくれるだけでいい」


「まぁ、別にいいけど」


 桜は俺のお願いを受諾した。俺は、桜に質問をする前に、「ふぅ~」と一息吹く。そして……








「桜が家を出て自立したい理由て何?」



「…………え?」








 俺の質問に、桜は困惑したような様子であった。俺の質問が全くの予想外だったのだろう。

 正直、こんな回りくどい事をして聞くような質問では無い。しかし……


「えっと……それは……」


「桜。咲太さくた兄ちゃんや母さん達に言っている建前の理由では無く、本当の理由(・・・・・)を言ってくれ。」


「……公平」


 桜は少し強張った顔をして俺を見てきた。桜は、今までの俺の行動の本意(・・)に気づいたのだろう。

 俺が普通にこの事を桜に聞いても、母さん達に言っているような建前の理由しか話さないだろう。

 だから、俺はあえて「賭け」の形をとったのだ。ゲームにプライドを少しでも持っている桜ならば、負けた事に対するペナルティを逃げる事はないだろう。

 そして、俺は既に敗北の代償(お菓子)を桜に払っている。これがまだ最初の賭けならまだしも、途中まで賭けに乗っていて報酬をもらっていたのに、最後の最後で賭けの約束を反古にする事は、いい人(・・・)である桜の良心が許さない。

 俺は、その桜の良心につけこんだのだ。桜が究極に逃げれない状態を作るために、こんな回りくどいやり方をしていたのである。

 我ながらに本当に狡いとは思う。こんなの、好きな女の子にするような事では無い。でも……


「桜、頼む。教えてくれ。皆、お前の事が心配なんだ」


「…………」


 俺の問いかけに、桜は目を泳がせながら黙り込む。部屋の中には静寂の空気が漂う。

 しかし、俺は桜を逃がすつもりはない。ここで逃がしてしまえば、汚い手を使った俺に桜は一生本当の事を言ってくれないかもしれない。

 俺は、覚悟を決めて桜と相対していた。

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