vs 桜 ①
「別にいいけど、公平って銅拳出来るの?古いゲームとか言って馬鹿にしてたじゃん?」
「俺んちにあるゲームだぞ?やった事くらいはある」
「……まぁ、それもそうか」
今は部活が忙しくてあまりゲームをしないが、俺もゲーム自体は好きである。
父さんがゲーム好きで、小さい時はよく父さんとゲームをしていた。銅拳2もその一つである。
「よし!それじゃあ、いっちょ闘ってあげますか」
桜は得意気か顔をして、腕まくりをしながら俺の対戦要求を受諾した。その仕草、他の男子にはするなよ。可愛すぎるから。
先程まで桜と翔が対戦していたので、ゲームを起動出来る準備は整っている。
俺はベッドからテレビの前に移動して、ゲーム機の電源のスイッチを押して起動した。そして、テレビの前へと座る。
そして、桜はモフモフの大きなクッションと共に、俺のすぐ左隣へと座ってきた。その距離はほんの数センチ程であり、少しでも動いたら接触してしまう程であった。
「……近すぎやしません?桜さん?」
「……へ?」
桜は「何が?」とでも言いたげな顔で、俺を見てきた。
「いや、俺と桜さんの距離がです。近すぎません?」
「仕方がないじゃない。ケーブル式のコントローラーなんだから。ゲーム機本体がテレビの下にあるし、ケーブルの長さ的にこの場所がベストなの。通信式のコントローラーなら、もう少し後ろでもいいけど。だから、公平もこの場所にいるんでしょ?」
「それはそうなんだけど……」
確かに、桜の言うとおりではある。それに、テレビと俺達の間にはテーブルもある為、これ以上前にいく事も出来ない。
この場所がゲームをする上ではベストな位置ではあるのだろうけど、もう少し横に離れる事くらいは出来ませんかね?
「なぁ、桜」
「ん?何?」
「他の男子とはこの距離感でゲームするなよ。勘違いされるから」
「はぁ?」
桜はムスっとした顔をした。そして、座った状態のまま、右肩を勢いよく俺にぶつけてきた。
俺はその威力によろめき、右手をついて体勢を維持した。
「何すんだよ!」
「公平が馬鹿な事言うからじゃん。そんな色んな男子とベタベタくっついたりしないよ。公平だから、こんな近くに座っても大丈夫なんじゃない」
「…………さいですか」
桜の天然小悪魔が炸裂した。……そうですか、俺だから近くに座れるんですね。俺だから…
しかし、それは俺が他の男子と比べて特別だと言う事かもしれないが、裏をかえせば男子として意識されていないという事なのでは……。
俺は、嬉しいような悲しいような気持ちを抱えながら、ゲームに始める事になった。
対戦モードのキャラクター選択画面まで移動し、お互いに使用するキャラクターを選択する。
桜は『一男』という、銅拳2に置いてラスボスを務めるキャラクターを選択した。前作の銅拳では主人公であったキャラクターだが、次回作である銅拳2ではラスボスに転向するという、珍しい経歴のキャラクターだ。
俺は『金光』と言うキャラクターを設定した。サイボーグ忍者で、剣を持って闘う少しトリッキーなキャラクターだ。
「へぇ~、『金光』使うんだぁ。得意なの」
「いや、適当かな?」
「ふ~ん」
キャラクター選択が終わり、いざ対戦が始まった。ゲームのルールは三回勝負で、二本先取したら勝利というルールだ。
しかし、俺は桜の使う『一男』にまったく歯が立たず、一本を取るどころか、桜の体力ゲージを半分も削る事が出来なかった。
「へへ~ん!どうよ!」
桜は胸を張り、ドヤ顔をしながら勝ち誇ってきた。
「その顔うぜぇ~。……もう一回だ」
「いいわよ!」
俺と桜は再度同じキャラクターで戦う事にした。しかし、二人の実力差は一回目の闘いで明白であり、手加減を全くしない桜に俺は再び完膚なきまでに叩きのめされた。
「いや、少しは手加減しろよ」
「何言ってるの?勝負は全力でやるから面白いんじゃない!」
桜は満面の笑みを浮かべて言った。
「まぁ……確かに一理あるな」
「でしょ!」
「うん。勝負は本気でないとな。……そこで一つ提案なんだけど」
「ん?」
「何か賭けねえ?」
「賭ける?…何を?お金?オバサンに言いつけるよ?」
「馬鹿、止めろ。母さんに殺される。お菓子とかだよ。なんかお菓子持ってるだろ?俺も今日の帰りに適当にお菓子を買ってきた。それを賭けて勝負しよう。しょうもない物でも何か賭けてたら、勝負の本気度が変わるだろ?」
俺の提案に、桜は少し上を向いて「う~ん」と言いながら悩んでいた。
桜と俺の実力差は明白であった。桜にとっては有利な賭けであるのだが、どうやらそれが悩んでいるポイントであるようで……
「その賭け、私が有利すぎない?賭けという事なら、不公平すぎて成立しないと思うのだけれど?」
桜はいい子だ。不公平な賭けをして、一方的に俺から搾取する事はよしとしない。
しかし、そんな桜の反応は俺にとって、最初から織り込み済みであった。
「そうだな。だからハンデをくれないか?」
「ハンデ?」
賭けにおいて、不公平な対決にハンデを設ける事は常套手段である。競馬においても、弱い馬や牝馬は軽い重りをつける事になる。
負ける確率が高い方に、見返りの倍率を上げる事も出来るが、ただ単にお菓子を賭けるだけの賭けで、倍率まで設定するのはやりすぎなように感じる。
ならば、ハンデを設定するのが今回の賭けにおいて妥当だろう。
「……いいけど、どんなハンデ?」
「そうだな……。お前って、『一男』が一番の得意キャラ?」
「そうだけど?」
「じゃあ、『一男』禁止で。桜は『一男』以外の他のキャラを使うってどう?」
「う~ん……。それでも私がまだ結構有利な気がするけど……。まぁ、たかがお菓子だし、いいかな?いいよ、そのルールで!」
「よし、決まりだな」
俺は腰を上げ、勉強机の上に置いてある鞄からお菓子を取り出した。桜も、さっき翔と一緒に食べていたお菓子を用意してくる。
お互いお菓子をテレビの前のテーブルに置き、準備が整った。お菓子を賭けた真剣勝負が、いざ始まろうとしていた。




