表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/134

安室さんの告白。

「もしもし。」


『もしもし。咲太さくた。今電話大丈夫か?』


「あぁ。大丈夫だよ」


『今何している?』


「実家に帰っているよ。桜の事で父さんに相談していたんだ」


『マジか……帰るの遅くなる?』


「帰り?」


 今は夜の7時30分である。飯時の時間であるが、八重やえと母さんに嫌われてしまっているので、ここで晩飯を頂くのも気まずいし、あまり長居をするつもりはない。


「いや、そんなに遅くならないよ。父さんとの話しもそんなに長くならないだろうし、8時30分までには家に帰ってると思う」


『そうか……。その時間くらいに、安室あむろさんと新藤しんどうとで、お前んちに行ってもいいか?』


「俺の家に?大丈夫だけど急だな。何かあったの?」


『いやなぁ……』


 健太は気まずそうな口調で、俺の家に訪ねる理由を説明し始めた。


『今、安室さんと新藤と一緒に居酒屋にいるんだけど、新藤が安室さんに余計な事を言ってな……。安室さんが咲太に、桜の件で話したい事があると言っているんだ』


「安室さんが?なんで?」


『電話じゃ話しづらい……、というか、俺の口から説明出来る内容じゃないんだ。直接、安室さんの話を聞いてあげてほしい。どうしても、すぐにお前と話がしたいらしくて』


 桜の件とは、進学の話や、家を出ていった事についてだろうけど、安室さんがその件で俺に話したい事がある?しかも急ぎで?安室さんには関係の無い話しだと思うのだけど……。新藤の野郎、一体何を話やがった。


「分かったよ。なるべく早く帰るようにするよ」


『悪いな』


「いや、桜の事なんだろ?こちらこそ、迷惑をかけて本当に申し訳ない」


『気にするなよ。それじゃあ、また後で』


「あぁ」


 健太との電話を終了し、俺は父さんがいる和室へと戻った。和室に戻ると、父さんはタブレットを操作して、何かを読んでいる様子だった。


「父さん、何読んでるの?」


大宰だざいだ」


「あっ、そう」


 大宰も電子機器で自分の小説が読まれるだなんて、夢にも思っていなかっただろうな。

 俺は父さんに事情を説明して、桜の話の続きを少々してから家に帰った。雨が降る中、傘をさして歩いて帰り、マンションに到着したのは8時20分頃であった。

 そして、エレベーターで七階まで上がり、住んでいる部屋の前まで到着すると、健太達は既に、部屋の前に到着して俺を待っていた。


「すまない、待たせたか?」


「いや、ついさっき来たばっかりだよ」


 健太が物語でよくありそうな台詞を使い、俺に返事した。その健太の後ろで、安室さんが少し下を向きながら、暗い表情をしている。そして、軽く俺の方に顔を向け、挨拶代わりの会釈をしてくれた。俺もそれに会釈を返す。

 安室さんの隣にいる新藤は、何処か気まずそうだ。俺に目を会わせようとしない。


「まぁ、取り敢えず中に入ってよ」


 俺は皆に部屋の中に入る事を促し、部屋の中へと入って行った。取り敢えず、皆にはテーブルの椅子に座ってもらい、俺は皆の飲み物を用意しようと台所に立つ。


「皆、酒を飲んでた途中なんだよな?」


「あぁ、あまり飲んではいないけど」


 健太が俺の質問に答える。早くに飲みを切り上げる程に重大な話しなのか?


「酒を飲んでた人にコーヒーが合うか分からないけど、あまり飲んでいないならコーヒーで大丈夫?」


「あぁ」


 健太からの承諾を得たので、俺はコーヒーを作り始めた。砂糖とミルクはお好みで入れてもらうように、テーブル中央に使い捨てのプラスチック容器に入ったモノを、複数テーブルの上に置いた。そして、作ったコーヒーを皆に配る。

 台所から向かって奥の席に、安室さんと新藤が座っており、健太ら手前の席に座っている。コーヒーを配り終えた俺は、健太の左隣で、安室さんの対面になる席へと座った。

 ここまでの安室さんは、まったく言葉を発していない。下を向いてうつむくその態度から、安室さんが何か深刻な思いを抱えて、この家に来たことが伺える。

 一体、本当に何があったんだ?


「安室さん。健太から聞いたんだけど、俺に桜の事で話したい事があるんだよね?」


 俺はなるべく優しい声色を使う事を意識して、安室さんに本題を尋ねた。それに反応して安室さんはゆっくり顔を上げて、目を俺に合わせる。

 その目は何処か潤んでいるように見え、涙を堪えているようだった。


「……すいません……桜井さん………」


 安室さんは絞り出すように、か細い声で頭を下げて、俺に謝罪の言葉を述べる。


「えっ、何?なんで謝るの?辞めて辞めて!頭を上げて!」


 なんで謝られているんだ?新藤ならまだしも、安室さんに謝られるような事をされた覚えは無い

 頭を下げる安室さんに、俺は慌てて謝罪を制止する。しかし、安室さんは頭を上げようとしない。

 安室さんは頭を下げながら話を続けた。


「桜さんが『自立をして家を出ていく』と言ったんですよね……。それなんですけど……私のせいかもしれません」


「えっ!?」


 安室さんのせい?えっ?余計に意味が分からない?なんで安室さんのせいで、桜が高校に進学せずに、自立してこの家を出ていく事になるんだ?

 安室さんは目線が俺と合うくらいには少し顔を上げ、話を更に続けた。


「新藤さんから聞いたんですけど、桜さんは……、そのぉ……『桜さんが家を出ていけば、私を家に呼んで遊んだり出来る』みたいな事を仰ったみたいですね」


 確かに、桜はそのような事を言っていた。あの時のその言葉が、桜の頬を叩いてしまった引き金の言葉になり、結果桜は家を飛び出してしまった。

 しかし、売り言葉に買い言葉でヒートアップして出た言葉だ。当然、その件で安室さんが謝罪をする必要なんて、何処にも無い。桜が勝手に安室さんの名前を出しただけなのだから。


「確かに、桜はそれっぽい事を俺に言っていたけど、正確には『安室さん(・・・・)女の人(・・・)と遊べる』と言っていたと思う。だから、桜から見て、俺の身近な人である安室さんの名前を例えで出しただけで、それで安室さんが気に病む事はないよ」


「いえ……違うんです……」


「違う?」


「はい……、この前家にお邪魔してから2日後の話しなのですが……。実は私、駅の近くで桜さんとたまたまバッタリと出会い、喫茶店で二人でお茶をする事がありまして……」


「桜と?」


「はい……」


 安室さんと桜が二人で会っていた?そんな話は初耳だ。桜なら、その日の晩飯の時にでも話しそうなもんだが。

 そんな事を疑問に思いながら、安室さんの話を聞いていると、安室さんは俺の腰を抜かすような、衝撃的な事を言い出す


「それで、その時に……私が桜井さんに好意を……、私は桜井さんの事が好きだという事を桜さんに言ってしまったんです」







「………………………へっ?」









 え?安室さんが俺の事を好き?へっ?そして、それを桜に言った?え?なにそれ?

 突然の告白に、俺の思考回路は煙を立ててショートしていた。まともにモノを考える事が出来ない。

 俺は口をポカーンと開け、フリーズした。


「すいません!!桜井さん!!」


 前代未聞の告白をした安室さんは、先程より更に深く頭を下げ、フリーズした俺に再び謝罪をした。告白してからの謝罪……本当に訳は分からない。

 訳は分からないが……しかし、聞いておかないといけない事がある事だけは分かる。安室さんには悪いが、今は『俺の事が好き』だと言う話しにはかまっていられない。

 俺はなんとか頭を落ちつかせてフリーズを解き、安室さんに言葉をかける。


「安室さん。取り敢えず頭を上げて。そして落ち着いて。こんな告白をされたのは始めてで、俺もかなり戸惑ってはいるけど……」


「すいません……」


「……安室さん。一つ聞いてもいい?」


「はい」


「どうして、桜とそういう話しになったの?」


「はい、それは……」


 安室さんは、俺の要望に答えてくれて、桜との経緯について説明をし初めてくれた。俺達は、安室さんの説明を黙って聞く姿勢をとる。

 外の雨はどんどん強くなっており、重い空気が流れる部屋の中にも、私が大きな雨音が響いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ