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桜の頬が赤くなっていた。

 

「この後皆でファミレスに行くんだけど、松本まつもとも来ない?」


 女子バスケ部キャプテンの持田もちだが、いつものクールフェイスをぶら下げて、俺をファミレスへと誘ってきた。

 さっきまで、男子バスケ部と女子バスケ試合が行われていた。今日の試合は県大会の初戦であり、俺達は共に勝利を収め、次の試合へと駒を進めた。

 現在は、その試合の帰りで、丁度地元の駅についた所である。


「あぁ~……悪いけど今日は辞めておくわ」


「どうして?用事?」


「用事というか、この後(さくら)の家に寄らないといけないんだ」


「……浜崎はまさきさんの家に?」


 俺がこの後の予定を言った時に、持田の顔が少しだけピクッと動いたかのように見えた。なんだ?何かおかしい事でも言った?

 よく分からないが、変な誤解をされてても嫌なので、ちゃんと理由を言っておくか。


「あぁ、今日は桜の姉ちゃんの法事なんだよ。試合で法事には参加出来なかったたけど、仏壇に手くらい合わせておこうと思ってな」


「ふ~ん。そうなんだ……」


 持田は表情を崩さないが、何処か含み(・・)を持たせた雰囲気を醸し出している。何?何かあるの?

 そう言えば、体育祭で俺が足を吊って、保健室で治療をしている時に、桜が何故か俺と持田を二人っきりにしようとしていたな。

 自意識過剰かもしれないが、もしかして、持田は俺の事が好きなのか?それで、桜はあの時にお節介を焼き、今の持田は、桜の家に行く俺に不満を持っている……

 まぁ、そんな訳ないか。考えすぎだな。持田とは普通に仲がいいけど、そんな素振りを持田は見せた事が無い。

 自意識過剰な勘違いをしてしまった事がバレたら、とても恥ずかしい事になる。

 ボロを出さないうちに早く帰ろう。


「そう言う事だから。じゃあな、持田。また誘ってくれ」


「うん。バイバイ松本。浜崎さんにヨロシクね」


 俺は持田と別れ、傘をさして歩いて自宅へと向かっていく。雨はどしゃ降りに降っており、傘をさしても足下は完全に濡れていた。


「あぁ~、雨やまねぇかなぁ……」


 天気に愚痴をこぼしつつ、俺は住宅街のエリアへと入っていく。

 自宅から徒歩三分程の公園付近まで、足をびしゃびしゃに濡らしながらもなんとかやってきた。ここまで来たら、自宅まではもうすぐだ。


「ん?」


 しかし、俺は公園で奇妙な光景を目の当たりにし、歩みを止める。どしゃ降りの雨の中、傘をささずにブランコに座り、うつ向いている女の子がいたのである。


「なんだアレ?失恋でもして、傷心をしている自分に酔っている、頭が痛い女の子か何か?」


 俺は失礼な一人言をボソッと呟き、ブランコに座っている女の子をじっと見つめる。

 あの女の子、何処かで見た事があるような気がするなぁ……あれは…………


「…………桜!?」


 雨に打たれてブランコに座っている女の子は、なんと桜であった。俺は慌てて桜の元へと駆け寄った。


「桜!何をしているんだ!こんな所で!」


 俺は桜に大声で尋ねながら、桜を傘の中に入れ、着ていたジャージを桜の肩にかけた。桜はうつむいた顔を俺の方に向け、「公平こうへい……」と俺の名前をボソッと呟いた。

 その顔に生気は全く感じとれず、左頬は何故か赤く腫れていた。何があったんだ?俺の顔を見つめている桜の瞳に、次第に涙がたまっていく。


「公平……。私、お義兄ちゃんを怒らしてしまったの……。嫌われてしまったの……。どうしよう……」


咲太さくた兄ちゃんに?」


 咲太兄ちゃんと喧嘩でもしたのか?まさか、頬が赤くなっているのは、咲太兄ちゃんにぶたれでもしたのか?あの咲太兄ちゃんが、そんな事をするとはあまり考えにくいけど……。


「桜。いつまでもこんな雨の中で、そんな所にずっといる訳にはいかないから、俺の家にとりあえず来い。そして、まず風呂に入れ」


 桜は俺の命令に、コクンと頷いて了承をした。俺と桜は相合傘の形で家へと向かう。

 三分程歩き、俺達は家の前へと到着した。すると、母さんが玄関の扉から、弾丸のように勢いよく、傘をさしながら血相を変えて飛び出してきた。

 それに俺は「ウワッ!」と声を出してビックリする。その声に反応して、母さんが俺の方を見てきた。


「公平……それに…桜ちゃん!?」


 桜を確認した母さんは、桜の方に勢いよく近づき、両肩を掴んで桜を問い詰める。


「桜ちゃん!一体何処に行ってたの!?咲ちゃんから電話があったわよ!皆心配したのよ!」


 どうやら、母さんは桜を探しに行こうとしていたらしい。桜は失踪でもしていたのか?咲太兄ちゃんと喧嘩して?いや、今はそれよりも……。


「母さん。取り敢えず桜を風呂に入れてやってくれよ。凄く体が冷えているんだ。着替えは綾香あやかに連絡して取りに行ってもらうからさ」


「あら、本当!凄く冷たい。桜ちゃん!取り敢えず家の中に入りなさい!」


 母さんはそう言って、反応の薄い桜を強引に家の中に連れていった。本当に桜の身に何があったんだ?桜のあんな顔(・・・・)を見たのは、桜の姉ちゃんが死んだ時以来だ。


「ヘックション!!」


 桜を傘に入れていた俺も、そこそこ雨に濡れており、寒くなって自然とくしゃみが出てきた。取り敢えず、俺も家の中に入ろう。

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