義妹と同僚達。
義妹劇物手料理事件から2日たった土曜日の昼過ぎ、俺は台所で料理をしていた。今日は同僚の健太と新藤が宅飲みにやってくる。
新藤達にはよく飲みに誘われているのだが、まだ中学生の義妹がいる為、帰宅が遅くならないよう基本飲み会は断っている。
しかし、俺だって飲みざかりの24歳。たまには飲みに行きたい時もある。ならばと健太が今日の宅飲みを提案してくれた。持つべきものは心の友である。
「ふふ~ふ~んふん♪」
「隙あり!!」
「あ!コラ!」
鼻歌を唄いながら料理を作っていると、桜が唐揚げをつまみ食いしてきた。
「う~ん!美味しい!さすがお義兄ちゃん!」
「お前の分もちゃんとあるんだから、あんまつまみ食いするなよ」
「はぁ~い」
俺はそこそこ料理には自信がある。嫁が生きていた時には二人で当番を決めて料理を作っていたのだが、義妹は嫁より俺の作る料理の方が好きだったらしく、嫁がすねてたくらいである。
「お義兄ちゃん!私が手伝ってあげるよ!」
「いえ、桜さん。大丈夫です。桜さんがいたら邪魔になるとか、料理では無く料理の形をした別の何かが生まれてしまうとか、そういう事は思っていませんよ?本来なら喜んで手伝って頂きたい所です。しかし、今回は私の仕事仲間と飲む酒のつまみを作っているのです。そんな大人の酒のつまみを作るのに、まだ中学生の桜さんの手を煩わせるのは非常に申し訳ない。ですので是非桜さんは自分の為に時間を使ってください。本当にマジでお願い致します」
「懇切丁寧に断られた!?」
流石に今回の料理は荒らされたくないので手伝いは断ったが、いつかは桜にもちゃんと料理を教えてあげようと思っている。
今は女は料理を覚えないといけないという時代でも無いだろうが、いつかは好きな人の為に料理を作りたい、家庭の為に料理を作りたいという気持ちが芽生える時がくるかもしれない。その時の為に料理を教えるのは良いことだろう。
しかし、今は好きな人の為にではなく、養ってくれている義兄の為に料理を作りたいのだ。それは嬉しい事ではあるが、大事な受験を控えてる桜には俺の為に時間を使ってほしくない。桜が高校を合格をして、尚且つその時も料理を作りたいという気持ちがあれば、料理を教えてあげようと思う。
「隙あり!」
「あっ、コラ!」
俺が物思いに耽っていると、桜はまた唐揚げをつまみ食いした。そして、してやったりとでも言いたいような悪い笑みを浮かべ、逃げるように自分の部屋へと入っていった。
「ふぅ~まったく…」
俺はため息をつきながら料理を再開した。ため息はついたものの、自然と口角が上がってくる。こうやって義妹に少し悪戯され、騒がしくなる日々は嫌いではない。寧ろ、義妹がそうやって明るく振る舞ってくれている事に救われている。
料理も出来上がり、時計は午後6時の針を指していた。
ピンポーン!
「は~い」
玄関のチャイムが鳴り、俺は自室から玄関へと向かい扉を開けた。
「せんぱ~い!お邪魔します!」
「酒買ってきたぞ」
「いらっしゃい。さぁ上がって上がって」
幼馴染の健太と後輩の新藤がやってきた。二人は大量の酒を大量に袋へ入れ、両手に持っている。
「すげえ量の酒だな…そんなに飲めるか?」
「ん?今日全部飲まなくてもよくないか?」
健太は今後この家を飲み会の溜まり場にするつもりであった。
「うわぁ~!!スゲエー!」
新藤はテーブルに敷き詰められた料理を見て感激していた。健太には何度か料理を振る舞った事があるが、新藤には初めてである。少し自分の腕を自慢したくて、今日の料理は豪勢に作ってみた。
「これマジで先輩が作ったんスか?義妹ちゃんが作ったんじゃ無しに」
「どうだ?やるだろう?」
家の義妹にこんなの作れるか!という思いは胸にしまい、俺は取り敢えず胸を張った。
「お~い、桜~。ご飯にするぞ~」
「は~い!」
リビングから自室にいる桜に呼び掛け、義妹が部屋からリビングへとやってきた。
今日の義妹は普段の部屋着では無く、お客さんがやってくるという事で少しお洒落をしていた。化粧も少ししており、その姿は何処か死んだ嫁の面影があった。
「綺麗…好きだ…」
「あぁ!?」
隣にいた新藤が、顔を赤くし、義妹に見とれながらとんでもない事を小声で呟いた。いや、確かに嫁に似た義妹は美人の部類に入るが、まだ中学3年生の子供である。それを今年23歳になる社会人が一目惚れするか!?俺の勘違いであってくれ…
距離があった為、新藤の呟きが聞こえなかったのか、桜は何ともない様子で新藤に自己紹介を始めた。
「初めまして。義妹の桜です。義兄がいつもお世話になっております」
義妹は外行き用の挨拶をしながら、ペコリと頭を下げた。義妹は家や友達にはお転婆な自分をみせるが、初対面や目上の人にはしっかりとした対応が出来る、しっかり娘である。
そんな中学生の義妹の挨拶に、今年23歳の社会人一年目の新藤は返事をしようとするが…
「は、はじゅめばして!し、新藤といいまちゅ!先輩をいつもお世話…お世話してましゅ!」
あちゃー!緊張してワケわからなくなっているよー!勘違いであってほしかったけど、本当に一目惚れしちゃっているよ~……
少し引きながら新藤を見つめている俺の様子を、隣で健太が笑いを堪えながら見ていた。そして、健太はそっと俺の肩に手をやり、とんでもない事を言い出した。
「……この場合義弟になるのかな?…プス!」
マジで勘弁してくれ…
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